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第二十七話「病貧弱の姫君の契約」・3

「残念だけどそうはいかないわね。この子をあなた達に返すわけにはいかないわ! あいつの計画を潰すためにも、あなた達にこれ以上仲間集めをされるわけにはいかないの!」


 その言葉を聞いて、今までずっと黙っていた人物が声をあげた。


「それはどういうことだ?」


 それは、これまでたくさんの仲間を集めてきた、月に似た金色の髪の毛に瞳を持つ青年――月牙だった。

 月牙は今まで見せなかった様な大人びた雰囲気を醸し出しながらマーリスに質問する。


「仲間を集めるなとはどういうことなのか、説明してもらおうか?」


 相手が王族の人間であるにも関わらず、月牙はまるで同年代の相手に話しかけるかのような口調で尋ねる。


「ふふ、なかなか度胸のある子ね。普通なら王族に対しては敬語で話すのが筋だと思うけど?」


「悪いが、俺にはそういう常識ってやつは通じないんでね」


「ふふっ、面白い子……。でも、そういう恐れを知らずにどんどん突っ込んでくる子は嫌いじゃないわ。逆に敬意を評してしまうくらいよ。だって、あたしにはそんなこと絶対に出来ないもの」


 マーリスは両手を後ろ手に組んで周りを行ったり来たりしながらそう言った。

 その様子を見ていた暗冷はふと思った。病気持ちで肉体的にも弱体化しているはずのマーリスがなぜこんな風に動き回れるのか、と――。

 すると、マーリスを訝しげに見つめる暗冷の視線に気づいたのか、マーリスがこちらに顔を向けニヤリと笑って言った。


「あたしがどうしてこんなにも動けるのか不思議に思ってる……そうでしょ?」


「――ッ!? てめぇ、人の思考まで覗けるのか!?」


「ふふっ、その様子だと、当たったみたいね。でも、安心して? 別に思考を覗けるとかそんな特異な能力は持っていないわ。それに、あたしの体もそろそろ限界なの……そろそろ代わってもらう頃合かしら?」


 ついさっきまで平気そうに振舞っていたマーリスが急に顔色を悪くし始め、だんだんと背が猫背になる。額に手を当て、その具合の悪そうな顔にはうっすらと汗が浮き上がっていた。


「今度は何なんだい!?」


 裏声をあげて悲鳴をあげているのは、未だ女性恐怖症が治らない刻暗だ。どうやらマーリスが訳の分からない事を言っているために不安感を抱いているのかもしれない。しかし、そこまで怯える必要があるのだろうか? まぁ、女性恐怖症なのだから仕方ないと言えば仕方のないことなのだが……。

 と、その時、何やら薄ら寒い魔力が伝説の戦士全員に伝わった。


「な、何!?」


「ひゃっ!?」


 まるで、お化け屋敷で幽霊に化かされた時の様に素っ頓狂な声をあげてその場から飛び退く戦士たち。


「この魔力……マーリスから? だが、おかしい。この魔力は王族の物じゃない! これは――り、龍族!?」


 その魔力の正体を見破った月牙が驚愕して目を見開いた。すると、月牙の言葉から発せられた“龍族”という言葉に水恋が反応した。


「りゅ、龍族って言ったらあの神族の……?」


「ああ。だが、龍族なんて滅多にこっちの世界には現れないはずなんだが……。それに、どうしてその魔力がマーリスから発せられているんだ?」


 月牙の疑問に、お馴染みの不気味な笑い声を出しながら、白衣を身につけたちっちゃな男が現れた。――猛辣だ。


「ヒヒッ、どうやらあの女王は龍族と契約を交わしたようだねぇ」


「何、龍族と!? そんな事が可能なのか?」


 さらに疑問が増える月牙に猛辣は続ける。


「出来ないことはないさ。と言っても、大抵の人間には契約召喚出来るのは冥霊族だけと教えられているからねぇ。本来知るはずがないんだけど、どういうワケかこの女王はそれを知っていた。これは、何かあるねぇ……ヒヒッ! 面白くなってきたよ」


「おもしろがんな」


 と、軽いツッコミを月牙に入れられながら猛辣は後ろに下がった。


【くっくっく……どうやらそちらにも随分と役に立つ情報屋がいるようじゃないかい】


 不気味な笑い声と共に聞こえてきたのはマーリスの声ではなく、聞き覚えのない声だった。しかし、それは明らかにマーリスの口から発せられていた。全員が訝しげに思いながら見ていると、ゆっくりとマーリスがその顔をあげた。すると、その両目の色を見た瞬間、メンバー全員の背筋が凍りついた。先程まで髪の毛と同じような色をしていたマーリスの双眸は、いつの間にか黄金色に光り輝いていたのだ。これが何を意味するのか――伝説の戦士には容易に理解出来た。


「お前……、マーリスじゃないな?」


 月牙が唇を噛み締めながらマーリスの体にいる誰かを睨みつける。


【ご名答……よくわかったねぇ。ああそうさ、あたしの名前はアルドニア=ヴィニッシュ。龍族さ】


「こ、この人がかの有名な龍族のアルドニア=ヴィニッシュさんなのですか!?」


 水恋が驚きの声をあげながら口元に手を運び、アッとなる。近くにいた靄花も信じられないという表情で目をオロオロさせていた。


「そんなに有名なのか?」


 逆に何でそこまで驚くのか理由が分からない月牙にとっては、他数名のメンバーの驚愕する理由が理解出来なかったのだろう。首を傾げながら理由を尋ねた。すると、凛が信じられないと言った顔で月牙に説明口調ながらも強気な態度で言った。


「あんた、ばっかじゃないの? 龍族のアルドニアって言ったらチョー有名中の有名じゃない! ほんと、ペットは常識って物が欠落してるわね!」


「誰がペットだ! てか、そんなに有名なやつがどうしてマーリスと契約を?」


 いまいちその辺りの理由が理解出来ていない月牙が、頭上に疑問符を浮かべながらメンバーに尋ねた。


「確かに……龍族と契約出来るっていうのも、わたし初めて知ったくらいだし」


 未來が未だに大量の魔力を放ち続けているマーリス――もとい、アルドニアを見ながら言った。


【ふっ、教えてほしいかい? 何でこのあたしがこの子と契約を交わしたのか……。それはねぇ、この子の境遇があたしとそっくりだったからだよ】


「境遇がそっくり? それって、つまりはどーゆーこと?」


 首を傾げながら天照があごに人差し指を当てて考え込む。


【まぁ、共通点は幾つかあるけど、その中でも特にそうだったのが二つある。一つはあたしと同じ女の身でありながら強いものに属していたこと。あたしが、男だらけの龍族の中で女としていたように、あの子も男ばかりの王族に一人、女がいた……】


「あれ? でも、りんちゃんも王族だよね? どうして女の子が一人なの?」


 風浮が霧矛におんぶしてもらったまま不思議そうに訊いた。それはメンバーも気になっていたことだった。


【トロピカオーシャスはとっくに滅んでる国だ。そんな国は王族の中に数えられてなかったんだよ】


「くっ! あんた、よくも当人の前でそんな事がベラベラ喋れるわね!! 人の気も知らないくせにっ!!!」


「お、おい! 落ち着けって凛!!」


 アルドニアに自分の治めていた国を酷く言われて気が(たかぶ)ったのだろう。凛は、月牙に取り押さえられて呼吸を乱しつつも、冷静になり後ろに下がった。その様子を見たアルドニアは、少し口元に笑みを浮かべた後、話を続けた。


【そして、もう一つがあたしと同じで孤独の時間を過ごしてきたということだよ】


「こ、孤独の時間?」


 刻暗が柱にしがみついたまま訊いた。どうやら、属性の関係もあるのか時間関係になると多少気になるようだ。例え話している相手が異性だとしても――。


【ああ。あの子は鎧一族と交渉中に、自分の部下を鎧一族の連中に襲われてしまったんだよ。まぁ、当時女ばかりの衛兵や側近がいる王国は珍しかったからねぇ。それで標的になってしまったんだろうね。性的暴行を受けたマーリスの部下は、その後一人残らず(なぶ)り殺しにされたそうだ。可哀想な話だろう? それ以来、あの子は一人ぼっちでこの城にいるんだよ。国もまともに治めることも適わないだろうにね……。今やこの城は自分の家ではなく、巨大な牢獄になってしまったんだよ。マーリス一人を閉じ込めるためのね】


 伝説の戦士は全員黙り込んでしまい、この場の空気が一瞬にして重くなってしまった。アルドニアは続ける。


【一方、あたしは龍族の中で女、女と迫害され続けてきたんだ。男ばかりの龍族に女が生まれるのは希なことらしくてね。でも、おかしいと思わないかい? 龍族といえども、どうやって種族を繁栄させるってんだい? あたしはそのことが気になってしょうがなかった。当時まだ幼かったあたしは、そこで唯一あたしのことを認めてくれていた同族に理由を尋ねた。するとあいつは言ったんだ。昔は龍族にも女がいたと。しかし、ある時、龍族を治めるドラゴンが代わってしまって以来、生まれた女や一度子を産んだ女は容赦なく殺されたんだ。それも、一人の女性相手に一人じゃない、大勢でだよ。あたしは驚きで言葉も出なかったよ。同族でありながら恥ずべき種族だと思ったねぇ……あの時は。でも、じゃあどうしてあたしが生きているのか。その理由は簡単だった。あたしは母に守られたんだよ。生まれたばかりのあたしを庇って男共に殺された。そして、次の対象があたしになったと理解した途端、最期の力を振り絞ってあたしを側の谷から落としたんだ。落とされたショックで記憶に欠落が生じていたけど、あの男の話を聞いてようやく全てを思い出すことが出来たってわけさ。それ以来、あたしは龍族の中で唯一の女としている。まぁ、殺されかけたこともあったけど、全部返り討ちにしてやったよ! だから、今はレアな龍族として一目置かれているってわけさ。分かったかい? これがあたしとマーリスの共通点だ】


 長い昔話を終えてひと呼吸するアルドニア。喉が渇いたのか、コップいっぱいの水を美味しそうに飲んでいる。


「……それで終わりか?」


 その重たい空気を吹き飛ばすように一人の声。暗冷だった。眉間にシワを寄せている暗冷は、アルドニアに敵意を向けていた。


【なんだって?】


「それで終わりかって言ったんだ! 同じ境遇? だからどうした! オレはな、青嵐を返してもらいにきたんだ! 昔話を聞きにきたんじゃねぇ!! とっとと青嵐を返しやがれ! お前ら個人の理由だけで他人から物を奪っていいと思ってんのか!? 青嵐はオレのもんだ!!」


 暗冷は自身の胸に親指を突き立てながらそう宣言した。セリフ全てを聞いていたらまぁ、まともな感じに聞こえるが、最後のセリフだけだとまるで恋人宣言しているようにも捉えられた。そのため、女性陣から冷やかしの声が投げかけられた。


「ひゅーひゅー、熱いわねぇ。まさか青嵐って子がそんなに大事な人だなんて思わなかったわ!」


 ニヤニヤと白い歯を見せながら言う凛。


「なるほど、そこまで取り返したい子だったのかい。暗冷、すまなかったね。あたしもそこまでは気が回らなかったよ」


「……なかなか大胆な言葉を言うんだね」


 申し訳なさそうに言う従姉の紫音と、自分ではそんなセリフを言ったら恥ずかしすぎて蒸発してしまうと思っている霧矛。


「せ、拙者には何が何だかよく分からないでござるが、少しドキッとしてしまったでござる」


「うわぁ、人前でそんな恥ずかしいセリフ吐くやつってホントにいやがったんですね」


 鼻から下をマスクで覆っている影明が少し頬を赤らめ、翡翠がありえないと言った表情で若干引き気味に毒づく。


「恥ずかしい限りですわ。私ならばそんな言葉、絶対に胸の内に秘めておきますわね!」


 自慢の髪の毛を手でなびかせながら鼻で笑う靄花。


「ほぇーっ、これが告白ってやつなんだね♪ 勉強になったよ!」


「わたしの占いによれば、二人の仲は良好って出てるよ? よかったね!」


 天照が頭の天族特有の天使の輪を一層光り輝かせながら純白の羽を大きく羽ばたかせ笑顔を浮かべる。未來もお得意の未来予知で暗冷と青嵐の今後の関係を占ってあげる。


「おめでとうございます、暗冷くん。今夜は赤飯ですね!」


 首を傾げながら満面の笑みを向けてくる水恋の幼馴染としてのトドメの一撃をくらった暗冷は、顔を最大限に真っ赤にさせて声を張り上げ叫んだ。


「ち、ちちちっがぁあああああああうううううううっっッ!!!! 何勘違いしてやがんだこのクソアマ共ッ! べ、別にオレはそういう意味で言ったんじゃねぇよ! ただ単にあいつはオレの側近だから自由に使える玩具(おもちゃ)みたいな存在だって言ったんだよ!!」


 無理やり言い訳を作り、女子メンバーに言うがそんな言葉が通じる訳もなく――。


「恥ずかしがらなくてもいいですよ、暗冷くん!」


 と、水恋に温かい目で見つめながら嬉しそうに言った。


「その温かい眼差しでオレを見んじゃねぇええええッ!!!」


 そんなこんなで暗冷はメンバーに小馬鹿にされるのだっ――


【おいこら! 人様――いやまぁ人じゃないけども、あたしを無視するんじゃないよ! ふっ、暗冷……あんたがこの子を大切にしてるってことはよく分かった。返して欲しけりゃあたしを倒すことだね! そうすれば、あんた達をここから出してやるよ】


「くっ、まさかあの一言だけでここまで誤解を受けた上に辱めを受けるハメになるとは思わなかったぜ。こうなったらてめぇに全責任をなすりつけてやる! てめぇのせいでオレが辱めを受けたんだ! こいつぁ高くツクぜぇええ!!」


 そう言って、暗冷はまだ勝負開始の合図もしていないのに勝手に戦闘を始めてしまった。


――▽▲▽――


 あれからどれくらい時が経っただろうか。俺――塁陰月牙は、未だに戦い続ける暗冷とアルドニアの戦いを、見たくもないのに見せられていた。


「おい、暗冷! まだ決着つかないのか?」


「うっせぇタコ! オレ様の邪魔すんな!! そこで大人しくアホの水恋といちゃいちゃしてろ!!」


 アルドニアの炎攻撃を空中で見事躱しながらそう言う暗冷に、俺は怒りマークを浮かべながら注意した。


「誰がタコだ!! 年上に向かってそんな口聞いていいと思ってんのか!?」


「って、月牙さん! それよりもアホの水恋の方を突っ込んでくださいよぉ~!!」


 と、涙目の水恋。いかん、思わず可愛く見えてしまった。すると、ジト目の凛がこれまたナイスなツッコミをかました。


「それよりも二人とも“いちゃいちゃ”の方をまず突っ込むべきでしょ!!」


 そう言って俺達二人の顔を交互に見る凛。


「あ、ああそういやそうだったな……」


「そ、そうでしたね」


 この俺達二人のちょっと気まずい様子の反応を見て何を思ったのか、凛は目をオロオロさせながら顔を真っ赤にして言った。


「ま、まさかホントーにいちゃいちゃするつもりじゃなかったでしょうね!?」


 さすがにこればかりは俺も全否定した。


「ん、んなわけねぇだろが! 勘違いしてんじゃねぇよ!!」


「そ、そうですよ! あれはただの暗冷くんの言いがかりですよ!」


 俺が激しく否定をしたからか、水恋も激しく言い訳の言葉を述べる。しかし、なぜか否定している時の水恋の顔は少し哀しげだった。

 一方暗冷は、武器の拳銃を使って何発もアルドニアに銃弾を撃ち込んでいた。にしても不思議だ。あれだけの銃弾を受けてなぜ平気そうな顔で飛び続けていられるのか。ちなみに現在、アルドニアはマーリスの姿のままで背中から赤黒い両翼を広げて飛んでいる。あの翼がアルドニアの真の姿の一部なのだろう。両翼はマーリスの体の数倍はあり、中心にいるマーリスが凄く小さな存在に見えてしまう。それほどまでにサイズが大きかった。となると、アルドニアの真の姿は……やめておこう。想像しただけでも身震いものだ。実際、龍族の姿は見たことがない。いや、厳密的に言えば見覚えがないと言った方が正しいかもしれない。というのも、俺はいまいち昔の記憶がはっきりしておらず、曖昧な状態なのだ。そのため、確信めいたことが言えなかった。


【ふふっ、どうした? もう終わりかい? ほれほれ!】


「くそっ! くるくる飛び回りやがって! 降りてきやがれ!! コウモリ野郎が!!」


 暗冷はすっかりアルドニアに翻弄されて無駄に体力を削られるだけの状態にあった。このままでは持久力的にもこちらが負けてしまうことは明白だった。だが、その事を知っていたからとして引き下がる暗冷ではないことも俺達は知っている。ならばここは、暗冷に任せておいたほうが適切だろうと俺達は考えていた。もちろん、暗冷がアルドニアを引きつけている間に青嵐っていう子を助けるという方法も考えていたのだが、それは彼氏――ゴホン、もとい主人である暗冷が許すはずもなく、ものの見事アイデアはゴミ箱行きとなった。

というわけで、バトっているわけですが、暗冷くんの青嵐に対するあの発言はどう考えても。思わず女子メンバーからの黄色い歓声が響く始末。

さらに、マーリスに続いて今回はアルドニアの過去を語りました。またまた長台詞お疲れ様です。しかし、暗冷も頑張りますね。さすがは帝族というところでしょうか。

てなわけで、次の四部めで決着がつきます。

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