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第三話「岩の戦士と不死鳥」・2

「いってぇ~」


「うぅ……お、重い!」


「ったく、何なんだよこれ!」


 私は上に何かが乗っかっている感覚を感じた。ふと、目を開けると私の上に乱火がうつ伏せ状態で乗っかっていた。しかも、ちゃっかり私の胸に触れていた。


「い、いやあああああっ!!!」


バチンッ!!


「ぶべらッ!」


 思わず私は思い切り乱火の頬をひっぱたいてしまった。


「ご、ごめん。反射的に」


 一応謝りはしたものの、本心から悪いとは思っていない。向こうだって私の胸を触ってきたのだから自業自得のはずだ。


「砕狼、大丈夫?」


「あ、ああ。にしても、さっきの揺れは何だったんだ?」


「何だか、この近くが震源だったように感じたけど」


 砕狼が周囲を見渡しながら状況を確認する。とりあえず私達三人は、司令室の中へと入った。そこには、一人の鎧を着用した男と白衣を着た女性が何か資料的な物をバインダーか何かに留めて持っていた。


「あっ、あなた達は誰ですか? 作業員がどうしてこんなところにいるんです?」


「さ、作業員? あっ、そ……それはその」


 私は一瞬、自分たちが入口にいた敵の服装を着ていたことを忘れていた。そして、そのことを相手に指摘されてハッとなる。この格好のままではあまりにも不審過ぎた。


「なるほど……。てめぇら侵入者か。だったらこの場にいるのも頷けんなぁ。ったく、一般ピーポーが何やってんだ?」


「一般ピーポー? 何それ?」


 謎の言葉に私は鎧の男に質問した。にしても、この男……どことなくファントムに似ている。しかし、本人ではない。声を聴けば分かる。どことなくファントムには特徴的な喋りがあったからだ。


「何だ、てめぇ田舎モンだなぁ。一般人のことだよ一般人! でもまぁ、見た所てめぇらには魔力があるみてぇだから有属性者か?」


「だったら何だっていうの?」


「ふ~ん……まぁいい。有属性者に会うのは久しぶりなんでなぁ! ちょっくら相手してもらえるか?」


「そんなことよりも、あなたでしょ? ここに温泉を作ろうとしている変な奴って!!」


 私はステッキを鎧の男に向けて言った。


「ったく、今時のワケぇやつは常識ってモンがなっちゃねぇな! 人に物向けんじゃねぇよ!!」


 そう言って男は私のステッキを指でピンッ! と弾いた。


「ちょっ!」


「ふん。ああ、そうさ。だが、温泉を作るってぇのはただの建前……。本命は別にあんのよ!」


「ほ、本命?」


 何かを企んでいるかのような口調で言う男に私達三人は興味が沸いた。


「本命って何のことだ?」


「それを教えるわけにはいかねぇなぁ~」


 男は首を振って、本命が何なのかを教えてくれなかった。


「な、なぁ……やめとかないか?」


 乱火が珍しく今日は一歩後ろからの物言いをしてきた。


「何言ってるの?」


「た、確かに。このオーラは尋常じゃねぇ」


 砕狼もだんだんと押され気味になってきていた。


「ちょっと、あなたのために私達はこんなところまで来たのよ? このまま黙って引き下がるわけには行かないわ、伝説の戦士として!!」


 その言葉を聴いたせいか、鎧の男は急に喋り出した。


「てめぇ、何で伝説の戦士を知ってる!?」


「ま、まさか。あなたも伝説の戦士なの?」


 少し期待をこめて私は男に訊いてみた。


「んなわけねぇだろ! オレは伝説の戦士なんかじゃねぇ」


 そう言うと男は、椅子を回転させて体をこちらに向けてきた。


「オレは、鎧一族の最強の四天王の一人だ!」


「よ、鎧一族!? ってことは、あなた……ファントムの仲間なの?」


「へぇ、ファントムを知ってんのか。なるほど、伝説の戦士もあいつに聴いたんだな?」


「だったら何だっていうの?」


 何か都合が悪い事でもあるのかと私は気になり、彼に訊いてみた。


「ふっ、いや。ただ、まだてめぇらは情報を多くは手にしていない。ならば、あの計画に気付くのもまだまだ先のことになるだろうと――な」


 頬杖をついて男は言った。そのことに対して私は疑問を抱いた。“あの計画”とは一体なんのことなのか。ただそれだけが私の脳裏に引っかかった。乱火と砕狼も頭上に疑問符を浮かべているような顔をしている。


「あの計画って何?」


「教えるわけにはいかねぇな。なぜなら、てめぇらはあいつとは違うからだ!」


「またあいつって。あいつって一体誰のことなんだ?」


 乱火が未だに謎に包まれている「あいつ」と呼ばれる人物のことについて訊いた。


「まだ三人しかいないてめぇらには気付くことはできねぇな。せいぜい、必死に人数でも集めるんだな。話はそっからだ。こちらとしても、何としてでもてめぇらには全員揃えてもらわねぇと困るんでな」


 男は三人を見ながら言った。


「一体何のことを言っているんだ?」


「やはり知らねぇようだな。さっきてめぇらは、オレに何故こんなとこで温泉を掘ってんのかって訊いたな? あれはただのカムフラだ。実際の所、オレ達は温泉を掘っているわけじゃねぇ! ドリルで地下のマグマに刺激を与えてんだよ!」


 司令室の窓から火口のある方を見ながら男は言った。


「なぜ、そんなことを?」


「あるものを手に入れるためだ! ……伝説に記された、『七つの秘宝』をなぁ」


 私達三人は驚愕した。


「何だ、その七つの秘宝って?」


 砕狼が興味津々に男に訊いた。


「それをてめぇらに教えるわけにはいかねぇな。だが、もしもこのオレ達の作業の邪魔をするってんなら、例え三十一人全員集まってなかろうとてめぇら伝説の戦士を殺す!!」


 鎧の男はそう言って腰に提げていた剣を抜き取り、切っ先を三人に向けた。


「ちょっと、いきなり危ないじゃない!」


「問答無用ッ!!」


 剣を振り回し、周囲のモニターを破壊していく男。


「このままだと危ないわ! 一度逃げて態勢を立て直そう!」


「んなことさせねぇよ!!」


 男はポケットからリモコンを取り出しスイッチを押した。すると、鉄の扉の前に見るからに頑丈そうなシャッターが下りてきた。


「何だコレ! くそ、俺の炎でも溶かせない!!」


 乱火が悔しそうに下唇を噛み締める。脱出口を探していると、後ろから声がした。


「無駄だ、ここにはそこ以外逃げる場所はない! 諦めろ!!」


 鎧の男がジリジリと三人に近づいてくる。


「まずいぞ! このままだと全員やられるッ!!」


 砕狼が背中をシャッターに押し付けながら言う。


「くっ、仕方ない」


 私はすぐさま荷物からあるものを取り出すとそれを地面に勢いよく投げつけた。これは所謂、発光弾の様なものだ。投げつけると同時に眩い光が発せられ、周囲が真っ白になる。


「これで相手の視界を遮れば――あっ!」


 突然真っ白な光の中から鉄の鎧を着けた男が姿を現し、手から凄まじい衝撃波を放った。


「ぐふぅっ!」


 いきなりのことに私は動揺を隠せなかった。


「ど、どういう……こと? 確かに視界を遮ったはずなのに!!」


 負傷箇所を押さえながら私は相手を睨んだ。


「てめぇが驚くのも無理はねぇ。何せ、本来ならば目くらましをくらって、思うように動けずにうろたえているはずのオレが、ここにいるはずがねぇんだからなぁ! だが、考えが甘ぇな!」


 男のその“甘い”という言葉に地面に手をついていた私は敏感に反応した。


――今のセリフ、ファントムと同じ。――やっぱり私は、敵に対して甘いの?



 私が唇を噛み締め俯いていると、その隙を狙って男が剣を振り上げ、私に向かってその剣を振り下ろしてきた。完全に油断していた。しかし、間一髪の所で乱火が助けに入る。


「斑希、しっかりしろ! あいつの言葉に惑わされるな!!」


 乱火のその言葉に私は目が覚めた。


「乱火……」


 私は、今目の前で起こっている出来事をしっかりと再確認する。すると、そんな私の肩をポン! と砕狼が優しく叩いた。


「大丈夫だ斑希。お前は一人じゃない、俺達がちゃんとついてる! 自分だけで背負いこもうとするんじゃねぇ! あいつを見ろ、真剣にお前を守ろうとしてる。その気持ちを無駄にしねぇためにも、あいつが時間を稼いでる間に何か脱出の作戦を考えるんだ!!」


 砕狼のその言葉を聴いて、私はふと目の前にいる乱火の背中を見た。その背中は年下のはずの彼を大きく見せていた。


――脱出の作戦。でも、一体どうすれば?



 そんな時、私はふと俯いた際に地面を見た。その地面は鉄板で出来ていたが、素材の強度はそこまで強くなさそうだった。


「これなら」


 私は砕狼に耳打ちで作戦を伝えた。


「分かった、何とかやってみるッ!!」


 説明を聴き終えた砕狼は、顎に手を添え一瞬考えた後、コクリと頷いてシャベルを構えた。

 その一方で、乱火は必死に鎧の男の攻撃に耐えていた。


「くそ、こっちもだんだんと限界が近づいてきた!」


「乱火、私も協力するわ!」


 私は武器を構え、例の作戦を乱火にも伝えるついでに加勢した。


「ハァハァ、……作戦は?」


「今、砕狼が頑張ってる。私達は彼の援護役よ!」


「分かった!」


「何をゴチャゴチャ言ってんだ! てめぇらはこのオレ――『フェルト=フェニックス』様に殺られるって決まってんだ、諦めやがれッ!!」


 フェニックスと名乗る男は、そう言って剣を地面と平行になるように横向きに構え、そこに手を添えると剣に魔力を注ぎ始めた。

 紫色に淡く光る不気味な剣は、光に反射して生き物の様に動いて見える。そう、まるで魔剣のように。

 その時、砕狼から合図があった。


「準備完了だぜ!!」


 その声に私達二人は急いでその場に駆け付けた。


「て、てめぇら……まさか逃げるつもか!? そうはさせねぇぞ!!」


 私達の作戦に気付いたのか、フェニックスがその作戦を阻止しようとしてきた。しかし、それは一足遅かった。ギリギりのところで私達は、砕狼が作り出した丸い暗闇の穴から脱出した。


――▽▲▽――


 基地の司令室から何とか脱出した三人の伝説の戦士。彼らが逃げるのに使用した穴を見ていたフェニックスはチッと舌打ちして椅子に深く腰掛けた。その隣に白衣を着た女性が歩み寄る。


「ふ、フェニックス様。あの――」


「なんだッ!?」


「は、はいっ! あ、あのその……七つの秘宝の反応が出ました。場所は各王国の城内です」


「そうか……分かった。それは回収しておくように作業員に伝えておけ! オレはファントムにやつらの現在の人数を伝えておく。情報交換は必須だかんな! それと、この基地にもう用はねぇ。ありったけの爆薬を仕掛けてトンズラしとけよ?」


 フェニックスは司令室から見える外の景色を眺めながら女性にそう指示した。


「これでようやく場所を見つけた。はぁ、しっかしこっから七つの秘宝をそれぞれの王からぶんどってこなきゃなんねぇのか。先は長ぇな」


 そう言ってフェニックスはシャッターの扉を開けると、解放された鉄の扉を開けて司令室を後にした……。

というわけで鎧一族の一人、フェニックスが行っていた温泉はただのカムフラ。ホントは七つの秘宝を探していたんですね。これが後々重要な物になってきます。そして、何やら伝説の戦士のことを深く知っている様子のこの男。一体、伝説の戦士には何が隠されているのか。さらに、いやはや二話に続いて三話でも乱火は斑希にセクハラですね。倒れた拍子に胸に触れてしまうという。月牙、幼馴染が大変なことになってますよ!

てなわけで、次回はその月牙の方の話をします。恐らく次回はちょっとしたバトル展開になると思われます。

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