第二十一話「時を刻みし女性恐怖症」・1
俺――塁陰月牙は、たくさんの少女と少しの少年を連れて小国『タルマルーク王国』を訪れていた。黄金の地図で伝説の戦士を確認した所、次に近い場所がここだったからだ。
メンバーは俺、水恋、風浮、靄花、霧矛、凛、猛辣、未來の八人だ。地図で次に属性戦士がいる場所でここが一番近かったためここに来た次第である。
そして、俺達は今タルマルーク王国のある場所へ来ていた。
「水恋、ここは?」
一応ウォータルト帝国の領土内のため、王である水恋に訊いてみる。すると、少し自信なさげに答えた。
「恐らく・・・・・・『時空元の塔』かと・・・・・・」
「時空元の塔?」
初めて聞く言葉に俺は首を傾げる。
「時間・空間・次元の三要素を組み込んだ建物です。と言っても、まだ設計段階で建造されてはいないようですね」
水恋が鼠色がかった布で囲われた場所を見上げながら呟く。
「とりあえず疲れてきたし・・・・・・ここらで休まない?」
腰に手を当てて凛がふと俺に提案する。俺もだんだんと足に疲れを感じてきたところだ。それに、辺りも随分と暗くなってきた。野郎ばかりならば夜でも行動して構わないが、生憎と俺の仲間は何故か少女が多いので、夜はあまり行動出来ない。その上、俺の仲間には自称マッド・サイエンティストである猛辣がいる。まぁ、俺たちもだんだんと認めてきてはいるので自他共に認めると言ったほうがいいかもしれない。
そんな猛辣のことだ。暗くなれば、水恋達に何をしでかすか分かったもんじゃない。何せ、八人中五人が女だ。猛辣もたっぷりよからぬことをするに違いない。
「そうだな。だが、ここで野宿するのか?」
「ヒヒッ、野宿・・・・・・というのもたまにはいいかもしれないねぇ~。私的には大いに構わないよ?」
毎度の如く不気味な笑い声を出して猛辣が了承する。しかし、女性陣が一斉に首を横に振る。
「じ、冗談じゃないよ! わ、わたしは絶対に嫌だからね?」
「わたしもあまりそれは好ましくないな・・・・・・」
今喋った中では一番最年少である霧矛と未來が――おっと、未來は俺と同い年だったな。ついつい外見がそんな感じだったもんだから・・・・・・。
俺は心の中で謝罪して他のメンバーの意見も確認する。その結果、女性陣全員が野宿に反対した。俺は嘆息しつつも仕方のないことだと思った。まぁ、野宿すれば寝ている間に猛辣が何をしでかすか知れたもんじゃないからな。
「でも困ったな・・・・・・。野宿がダメとなると、必然的にどこか寝床を探さないと・・・・・・」
辺りを見渡すも辺りには何もない。あるのは建設予定の時空元の塔のために用意された鼠色っぽい布切れだけ。
「ねぇねぇげっちゃん! 僕思ったんだけど、ここ小国の一つなんだよね? だったら、近くに一般人が住んでるんじゃない?」
身長が低いために顔を上にあげてそう俺に言う風浮。確かにそうだ。何でそんな単純なことに気づかなかったんだろうか。
俺がそう思ったその時、脳天に何か冷たいものが落ちてきたのが分かった。
「冷たっ!! 何だ?」
頭に手を当て上を見上げるが何も見えない。すると、またしても何かが落ちてきた。ポツポツと音を立てて落ちてくるそれ。そう――雨だ。
「まずいっ!! 急げ、住民の住む場所を探すんだ!!」
俺が皆に指示を出すと、水恋が声をあげる。
「皆さんこっちです! 私の記憶が正しければ、タルマルーク王国の人々が住んでいるのはこちらのはずです!!」
いまいち信用性はないが、メンバーの中では一番この辺りに詳しい人物が水恋なので、先陣を切らせて任せることにした。
俺たちはどんどん激しさを増してくる雨の中をどんどん先へと進んでいき、森の中を抜けた。そして、明かりがたくさん灯った開けた場所にやってきた。どうやら無事に人々の住む場所に来れたようだ。
「とりあえず、あの時計店で雨宿りさせてもらいましょう!!」
そう言って水恋が目の前に見える時計店へと駆け出す。俺たちも後に続いた。
ガチャッ!! チリンチリン!!
扉を開けると同時にドアに取り付けられたドアベルが心地よい音色を出す。そして、その音のすぐ後に青年の声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませお客さん。大変だったでしょう? なんせ突然の雨ですからねー。濡れたでしょう、今タオルを持って来ますから」
「あぁ、すいません!」
青年の言葉に水恋がお礼を言う。すると、その声を聞いた青年が急に血相を変えて怯え始めた。
「ひえぇえっ!! じ・・・・・・女性!?」
こんなに怯えるとは何があったのだろうか? もしかすると、水恋の知り合いか? いや、それは違うようだ。その証拠に、水恋は青年を見ても青年の怯えようを訝しげに見るだけでそれ以外の反応を見せない。
――となると、他に考えられる可能性は・・・・・・。
俺がそんなことを考えていると、今度は凛が前に進み出で青年に話しかけた。
「ねぇ、ここってシャワーある? 体中ずぶ濡れで何だか気持ち悪くって・・・・・・」
と、明らかに相手の方が年上なのにタメ口でそんなことを訊く凛。しかし、青年は文句を言うどころか逆に悲鳴を上げた。
「ひぃいっ!! お、奥を曲がって突き当たりですっ!!」
顔面蒼白でマシンガン並のスピードで説明し終えると、青年はカウンターの影に隠れてしまった。
これで確信を得た。間違いない、この青年は女性恐怖症だ。
しばらくして、青年はその場から一人も女の人がいないことを確認すると、ホッと安堵のため息をついてその場にゆっくり立ち上がった。同時に首からぶら下げていた懐中時計が上着の胸ポケットから落ちて揺れる。
青年は左目に縁が銀色の片眼鏡をかけていて、その瞳の色が片眼鏡の方はガーネット、もう片方の瞳は碧眼だった。懐中時計の竜頭は六時の位置にあり、ハンターケースのタイプのために蓋があり、その蓋が開いた状態だった。よく見ると、数字はローマ数字のようだ。蓋のヒンジは十二時の部分にある。銀色の懐中時計に施された装飾はすごく凝っていて、趣がありとても高価な代物のように思えた。
「ん? あぁ・・・・・・これかい? これは父親の形見なんだ。何でも、何かの鍵らしくてね・・・・・・。僕には何に使うのか分からないけど、君は時計に興味があるのかい?」
「えっ、あ・・・・・・いや。そのちょっと・・・・・・」
俺は頭をかきながら青年に答える。すると、青年は笑みを見せて俺に歩み寄ると、懐中時計を間近で見せてくれた。
「どうだい? 素晴らしいだろう? これは機械式でね・・・・・・。ここの竜頭を回してぜんまいを巻くんだ。毎日ないし数日に一度は巻かないといけないから少々面倒かもしれないけど、これならではの「コチコチ音」がとっても心地いいんだ。ところで、自己紹介がまだだったね・・・・・・。僕の名前は『鎖神 刻暗』。ここ、『アンドゥルーク・クロック』で働く者だよ。君達は?」
刻暗が営業スマイルを見せながら俺たちに自己紹介を求める。
「俺は塁陰月牙。こっちは旋斬風浮、そんでこっちが猛毒雲猛辣だ」
と、順に俺は自己紹介を済ませた。
「よろしくー!」
「ヒヒッ、なかなか面白い事情を抱えているようだねぇ~」
風浮が元気よく挨拶し、猛辣が相変わらずの笑みを浮かべて呟く。
――またこいつはよからぬことを考えてんな?
と俺はジト目で猛辣を凝視した。
「あはは・・・・・・。僕もこの短所は直したいところなんだけど、どうもねぇ・・・・・・」
「しっかし、どうしてそんなにも女が怖いんだ?」
俺の質問だ。ここまで女性に対して恐怖心を抱くのには、少なからずも理由があるはずだ。
刻暗は表情を少々陰らせながら答えた。
「お恥ずかしい話だよ。あれは九年前くらいだったかな? 僕には幼馴染がいてね? その幼馴染の名前が『鎖神 奏翠』って言って――」
「鎖神って・・・・・・お前と同じ名字じゃん!!」
「そう・・・・・・彼女――奏翠はとてもいたずら好きで、そして僕と同じく時計が大好きだった。僕は時計の時を刻む音が、彼女はクォーツ式の時計の針が正確に進むのが好きだった。だから、暗黙の中でも時を刻む音が続く――という意味で“刻暗”、翡翠色の水晶を用いた時計の針が奏音――という意味で“奏翠”という名前が付けられたんだ」
「神秘的な名付け話だな・・・・・・。てか、まるで兄妹みたいじゃないか!」
「そう、僕たちはまるで兄妹の様に一緒に生活し一緒に遊んできた。だけど、それも長くは続かなかったんだ」
さらに肩を落として呟く刻暗。
「何があったんだ?」
「ある日のこと。僕たちは些細なことで喧嘩した。そして、僕たちの大切な宝物――『木目の大時計』を壊してしまった」
「何だそれ?」
「おもちゃの名前さ・・・・・・」
――おもちゃかよ! すんげぇ名前だからてっきり木で作られた時計かなんかと思っちまったじゃねぇか!!
と俺は心の中でツッコミながら苦笑した。
「そ、そうなのか・・・・・・。そんで?」
「うん、互いに壊したのはお前だと言い合って口論になり、僕は全責任を奏翠に押し付けて逃げたんだ。それ以来、僕たちは二度と顔を見せることはなくなった。その一週間後、奏翠は病気にかかった。僕は見舞いに行こうと思ったけど、喧嘩したままでどうも気力が入らなかった。さらにその一週間後――奏翠は無事に治った」
――早ッ!! いやいや、てっきり俺はもう少し治るまでに時間がかかって、重病になるのかとでも思ったんだが・・・・・・。
予想の斜め上を行く言葉に俺は驚愕を露わにする。
「そんで?」
「そしたら――」
刹那――突然バンッ!! と扉が開け放たれ、誰かが店内にズカズカと入ってきた。その少女は亜麻色の髪の毛に碧眼をしていて、刻暗とは色違いの金色の懐中時計を首からぶら下げていた。
少女はムッとした表情で俺たちの間を分け行って進んでいき、刻暗の目の前に仁王立ちして腰に手を添えた。
そして、開口一番に――。
「こんの――大嘘吐きっ!! アンタなんか大嫌いっ!! もう顔も見たくないわ!!」
と叫んだ。
「ひぃぃぃいいっ!!? ま、またかい? ま、・・・・・・ままま待ってくれ! こ、これには訳があるんだ!! あのことならちゃんと謝る! だから、許し――」
「問答無用!!」
少女は刻暗の話を最後まで聞かず、左手に力を込め握りこぶしを作ると同時に刻暗に向かってその拳を振るった。
ボガッ!!
「ぶべらっ!!」
ドシャッ!!
刻暗はその場にうつ伏せに倒れ臥した。一体、何が起こっているのだろうか? しかも、今の少女の言葉。
“大嘘吐き”とは一体何のことだろうか? もしかすると、この子が――。
「さぁ~て、今日もアンタにはお仕置きが必要のようね! デレデレと顔を真っ赤にして鼻血まで垂らして、いやらしいったらないわ!!」
少女は刻暗を仰向けに変えて腹部の上に馬乗りになると、その胸ぐらを掴んでグイッと引っ張り上げた。
「ひ、ひょひょれは・・・・・・奏翠が、な、殴るから――」
「私に口答えするの? お見舞いにも来てくれなかったアンタが?」
片眉を吊り上げて意味有り気な視線を向ける少女。
「ひゃ、ひゃからアレは・・・・・・」
「言い訳は聞きたくないわ! とにかく、アンタには罰を受けてもらわないとね♪」
口の端を吊り上げ何かを企む少女・・・・・・。
「あ、あれだけは勘弁・・・・・・」
何かを強く拒む刻暗。一体、罰とは何だろうか。
「だ~め、あの時の私の辛さに比べればまだマシな方でしょ?」
微笑を浮かべて刻暗の懇願を拒否する少女は、ゆっくりと刻暗の顔に自分の顔を近づけて――って、え?
「い、嫌――」
次の瞬間――。二人の唇が重なった。
――って、ワッツハプン!? ど、どどどどどうなってんだ!? えっ? いや、罰を受けるんじゃねぇの? あれ、どう見ても罰じゃなくてご褒美だろ!!
と、俺は自分がキスされたワケでもないのに顔を真っ赤に紅潮させてその様子を見ていた。後ろにいる二人も小さな声を洩らす。
「うわぁ・・・・・・あの二人チューしてるよ、げっちゃん!」
「ヒヒッ、これは面白いネタになりそうだ・・・・・・」
二人もどうやら困惑している――いや、猛辣は楽しんでるな。
一方刻暗と少女の二人はというと、少女は刻暗の顔をがっしりと掴んで離さず、刻暗は顔面蒼白となって必死の抵抗を試みていた。あっ、そういえばあいつ、女性恐怖症だったな・・・・・・。なるほどそれで罰・・・・・・。と、俺は今頃納得していた。
――しかし、それだけのためにあそこまでやるか? って、ヤバイ。刻暗がもう完全に白目むいてるよ。もうあれ失神しちまうんじゃねぇの?
と俺が刻暗の心配をしていると、ようやく少女が刻暗の唇から自身の唇を離した。同時に二人の間に透明のよだれが糸を引く・・・・・・。
――って、舌まで入れてたのかよ!? それはちょっとやりすぎじゃねぇか?
と、俺は更なる驚愕を受ける。
「ふぅ~・・・・・・ごちそうさま♪ すっきりしたわ。明日も来るから覚悟しなさいよ? じゃ~ね~」
そう言って少女は口の端から垂れる体液を腕でぬぐい取ると、手を振りこの場を後にした。
なるほど、九年前の過ちが起こって以来、罪滅ぼしとこのような行為を繰り返してたのか。しかも、謝りもせずにお見舞いも行かなかった刻暗は、自分に非があると思い日に日にストレスを溜めていった。そして、やがてそのストレスは徐々に異性への恐怖心へと変わってついには女性恐怖症へ発展したと――そういうわけか。
にしても、幼馴染にも色々いるなぁ~。俺だって斑希にあんなことされたことないってのに、何てうらやま――ってそうじゃない!!
「おい、大丈夫か刻暗?」
俺は内心であまり重傷ではないように思いながらも刻暗に声をかけてやった。
というわけで、ウォータルト帝国のタルマルーク王国へとやってきた月牙たち。これで五つ目の王国ですかね? そして、今回はちょっと名付け親の話ぷらす幼馴染の話をしましたが、結構二十一話は設定深めです。まず、この二人は従兄妹であり幼馴染であるという部分は月牙と斑希と被っていますが、兄妹のようだという部分はそこまで――ん? いやかぶっているかも。
とまあ、それはさておき。問題はその幼馴染の奏翠です。
突然現れたかと思うと、いきなり殴られて馬乗りになられてディープキス。
ナニコレ。おうおう怖い怖い。こりゃ女性恐怖症にならなくも――。




