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第三話「岩の戦士と不死鳥」・1

 次の日の朝、鳥の(さえず)りが響き渡り気持ちのいい朝がやってきた。


「う、う~ん! 良く寝たぁ~! あっ、おはよう乱火!!」


 私は腕をピンと伸ばし、既に起きていた乱火に挨拶した。


「ああ、おはよう。ところで、準備は出来たのか?」


 乱火が真剣な表情で斑希に訊いた。


「ええ、昨日よりは大分いいみたい」


 私は布団から出てその場に立ち上がると、上着を取り出して羽織った。バッグに必要な物を詰め込んで準備は完了。最後にお母さんの持っている杖の模倣品を持って私は出発した。お婆さんが私達を見送る中、乱火はお婆さんに向けて大きく手を振った。


「さてと、とりあえずここから一番近い凸凹山へ向かうわ!」


 私は、地図と現在位置を確認しながら乱火に指示した。


「凸凹山か」


 乱火がちょっと心配そうに言う。


「どうかしたの?」


「ああ。実はあの一帯で何かおかしな調査をしているみたいでな、今凸凹山が封鎖されているんだ」


 その説明を聴いて私は考え込んだ。


――もしかすると、ファントム達の仕業かしら。



 しばらくして私達は凸凹山の領域に入った。すると、急に変な臭いがしてきた。


「何だ、この臭いッ!?」


 慌てて鼻を押さえる乱火。それはとてつもなく強い硫黄の臭いだった。


「……この近くに温泉でもあるのかしら? 出来れば、昨日風呂に入ってなかったから入ろう――」


「待て! 何か様子が変だ。こんな所に温泉を作るなんて聞いてない。絶対に何かの罠だって! 逃げた方がいい!!」


 さっきから汗をかいてベタベタする感触を気持ち悪いと思っていた私は、気になって行こうと思ったが、それを乱火に止められる。

 しかし、必死に乱火が止めるのも無視して、私は思わず文句を言ってしまった。


「私は、初めて旅に出た時からまだ一度も風呂に入ってないのよ? 少しくらい疲れを取ったっていいじゃない!」


 そう言って私はふて腐れてしまった。

 私達二人がしばらくの間言い争っていると、「分かった! もしもあの温泉に近づいたらどうなるか、俺が証明してやるッ!」と、乱火が一歩ずつ前へと進み温泉があるらしい場所へと歩いて行った。すると、ボコッと乱火の足元に穴が開き、一瞬にして乱火がその場から姿を消してしまった。


「えっ!? ちょっと、乱火……どこに行ったの?」


 私は驚いて辺りを見渡した。そして乱火が落ちた付近に行くと、足元の大きな穴の底に土や砂にまみれた乱火がいた。


「お~い、ここだ~!!」


 乱火が必死に叫んで私に助けを求めている声が聞こえる。


「全く、しっかりしてよね?」


 バッグの中からロープを取り出した私は穴からロープを垂らした。


「早くそれに掴まって!!」


「分かった!」


 そして、何とか乱火は深い落とし穴の中から出てくることが出来た。


「ったく誰だ、こんなところに落とし穴なんか作ったのは!! だが、これで分かっただろ? あそこに近づかなくて正解だって!!」


 体中についた砂を払い落としながら乱火は言った。

 それから私達は再び歩きだし、今度は落とし穴に落ちないように気を付けながら進んだ。すると、目の前に見知らぬ人物が現れた。作業服を着ており、片手にはスコップ、頭には“安全第一”と書かれたヘルメットを被っている少年だ。年は見た所乱火と同じくらいだ。


「お前達! ここに何をしに来た! ここは今、立ち入り禁止だぞ?」


 少年が注意する。


「いや、その私達この凸凹山に伝説の戦士を探しに来ただけで……」


 私は人差し指で頬をかきながら恐る恐る言った。


「伝説の戦士だと? そんな奴いる訳ないだろ? 第一、いたとしてもとうの昔に滅びている!」


 少年がはっきりと言い切った。


「へッ! 聴いて驚くなよ? 俺達こそがその伝説の戦士だ!!」


 自慢気に言う乱火。すると、爪牙が急に笑い出した。


「お、お前達が? ……ぷっ、あっははははは!! 何かの間違いだろ? あの伝説の戦士がこんな幼い子供だってのか? バカバカしいにも程があるぜ!!」


 大笑いして少年は私達をバカにした。


「んだとぉ~!?」


 乱火はまた怒り出した。


「何だ? やんのか? それに、そこまで言うなら証拠を見せてみろよ! あの伝説の力を……特別な力――神の力って奴をよ!! ……どうした、やっぱり無理なんだろ?」


 少年がぐいぐいと乱火を問い詰める。


「くっ!」


 悔しそうに乱火は舌打ちした。


「分かった」


 私は乱火のその表情に、思わず了承してしまった。


「何ッ!?」


 少年は私の言葉に表情を一変した。


「その代わり、もしも私達が伝説の戦士だったら私達の仲間になって!!」


「何言ってんだよ斑希! ま、まさかあいつも伝説の戦士だってのか?」


 乱火の言葉を聴いていて、私もふと思った。なぜ私は少年に仲間になってと言い出したのだろうか。確かな確信性もないのにこんなことを言うなんて、どうかしているのだろうと私は考えた。


「それは……分からないけど、女の勘ってやつ?」


「そんなんで大丈夫なのか?」


「いいから下がってて」


 不安そうな表情をとる乱火を下がらせた私は、パワーストーンを取り出しそれを粉々に砕いて力を覚醒させた。

 ちなみにこのパワーストーン、一度使ったらそれっきりというわけではなく、力を使わない際には元のビー玉サイズの形状に戻る。


「はぁああああああああああああああっ!!!」


 私は一気に魔力を溢れさせた。


「あれが伝説の戦士の魔力。すげぇ、俺と同じ力を持ってるんだ」


 後ろの物陰から見ている乱火の声が聞こえる。すると、私の目の前にいた少年が後ずさり始めた。


「これが、神の力……。まさか、本当だったなんて。しかも、俺と――。分かった、お前達は間違いなく伝説の戦士だ。それに確証も得た。これで確実なものとなった。信じるつもりはなかったが、お前達を見て納得出来たぜ」


 急に少年は素直になり、私達の仲間になることを認めた。


「俺の名前は『崖斑(がけぶち) 砕狼(がろう)』。この凸凹山の近くで暮らしてんだ、よろしくな!! 後、今発覚した。俺もお前らと同じ伝説の戦士だ!!」


「えっ?」


『ええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!?』


 私と乱火の二人は互いに顔を見合わせキョトンとなった後、大声で驚きの声をあげた。無理もない、さっきまで「伝説の戦士なんかいない、滅びたんだ」とか何とか言ってた人物が、急に「自分は伝説の戦士」だと言ってきたのだから、驚かない方が逆におかしい。

 砕狼はシャベルを取り出して穴を掘り始めた。とりあえず私は、砕狼が謎の行動を取っている間に元の通常状態に戻った。同時に、私の掌にパワーストーンが姿を現す。そしてそれをポケットの中に直した。

 崖斑砕狼……何でも彼は、元々自分には謎の力が秘められていたらしく、その力をいつ手に入れたのかは詳しくは覚えていないらしい。ただ、彼は穴を掘るのが好きらしくよく落とし穴を作ったりして遊んでいたらしい。

 ちなみに、先程乱火が引っかかった落とし穴も彼――砕狼が作った落とし穴の一つだった。伝説の戦士を信じていなかったのは、周囲に自分と同じ境遇の人物がいなかったために信じてくれる人もおらず、相談する相手もいなかったので自分がおかしいだけだと言って信じないようにしたらしい。強要の様なものだ。私達がもう少し早く砕狼に会っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない――ふと私はそう思った。


「ふぅ、とりあえずこれで三人ね!」


 私は人数が一人増えたことに満足して笑みを浮かべて乱火にそう言った。すると、さっきまで穴を掘っていた乱火が穴の中から這い上がってきた。


「よし、準備完了だ!」


 私達二人は顔を見合わせ砕狼に訊いた。


「準備完了ってなんのことだ?」


「ああ、説明してなかったな。実は、この凸凹山を温泉だらけにしようとしてる変な奴らがいてな。目的はよく分かんねぇが、とりあえず何か企んでいるのは確かだ! そこで二人に頼みがある! 俺に協力してくれないか?」


「でも、温泉をたくさん作ることに何の問題があるの?」


「俺は帝国フレムヴァルトの中でも小国のゴルガルゴストス王国に住んでる身なんだが、水とかはダメなんだ」


 そう言って砕狼は首を左右に振った。


「水が苦手って。まるで吸血鬼みたいね」


 私は冗談半分にそんなことを言って苦笑する。


「とにかく頼むぜ! じゃねぇと、旅にはついていかねぇかんな!!」


「わ、分かった。分かったわよ! 仕方ないけど頼みごとを聴いてあげる。要はその変な奴らっていうのが、何をしているのかを突き止めればいいわけでしょ?」


「まぁ簡単に言えばそういうことだが」


 砕狼は少し不満気に言った。

 とりあえず、せっかく見つけた仲間をここで失うのは手痛い仕打ちだ。お母さんにも聴いたけど、私達は自分達を含めて三十一人の仲間を探さないといけないって言っていた。恐らく、その三十一人の仲間というのは伝説の戦士のことだろう。となれば、確実に砕狼を失うわけにはいかない。

 そんなことを考えながら私は砕狼が準備した地下の入口から敵の基地内へと足を踏み入れた。


――▽▲▽――


 ここは、凸凹山の基地内の司令室。そこに、白衣姿の女性と頭以外に鎧を着ている男がいた。

 男は偉そうに足を組み、椅子に座っている。女性はまるで秘書の様にその隣に(はべ)っていた。


「例のブツは?」


「いいえ、まだ見つかっていません!」


「まだ見つかってないのかッ!!」


 そう言って男は女性の首根っこを掴み、宙へ持ち上げた。女性の軽い体が浮かび、脚が地面から離れ宙吊り状態になる。。


「ぐっ――が……! も、申し……わけ、あり……ません!」


「ふんッ!」


ドサッ!!


 鼻で笑い男は首から手を放す。と、同時に女性は地面に体を打ち付けた。


「ゴホゴホッ! で、ですがこの凸凹山の近くにあることは間違いないのです。捜索員全員で探していますので、もうしばらくお待ちください」


「ちッ! ったく、オレはこういうのに時間を割くのは好きじゃねぇんだよ! もういい、下がってろ!」


「は、はい」


 鎧の男は女性を下がらせ再び椅子に座ると、そこから見える外の景色を眺めた。男が見つめる先には、凸凹とした山々が連なっており、まさに名前の由来通りだった。


「……七つの秘宝――か。そんなモン手に入れて、あのジジイは何をするつもりなんだ?」


 そんなことを呟きながら、男は兜を被った。


――▽▲▽――


 私と乱火と砕狼の三人は、見張りの敵を倒し敵が身に着けていた服装に扮して中に侵入することに成功していた。


「何とか入れたな!」


 乱火がテンションを上げて声を張り上げる。その声に私は慌てて「し~っ! 静かにして!ここはもう敵の基地の中なんだから、慎重に行かないと」と注意して敵にばれないようにした。せっかくここまで来たのに、こんなところでバレてしまったら今までの苦労が水の泡になってしまう。それだけはなるべく避けたい。

 私達が罠に警戒しながら先に進んでいると、目の前に光る何かを発見した。近づいてそれが何なのか見てみると、それはとても小さな金色の鍵だった。


「鍵だ……」


 砕狼が鍵を手にしながら口にする。


「それは見たら分かるわよ! そんなことよりも、その鍵は一体どこの鍵なの?」


「さぁな……。そこらへんにいっぱい鍵穴あるから、さしまくって確認してみようぜ?」


 鍵の輪っか部分に人差し指を入れて、クルクルと回しながら砕狼は言った。


「そんな暇ないわよ!」


「だが、どこのドアなのか分かんねぇんだろ? だったら手間はかかるがこっちの方がいいって!!」


 私の言う事も聴かず、砕狼はさっそく扉と鍵穴とを照合した。そして、それを何度も続けていく内にようやく鍵に合う扉を見つけた。大きく分厚い鉄の扉に取り付けられた鍵穴に金色の鍵を差し込み回すと、ガチャッ! と音を立てて鍵が開いた。砕狼が自慢の力を利用して扉を開ける。これほどまでに分厚い扉の上に鍵までかけられていたのだ。奥には何か大切な物が隠されているのだろうと思ったが、案外そうではなかった。扉の奥にあったのは、たくさんの箱に敷き詰められた入浴剤だったのだ。


「これって、入浴剤……よね?」


 私はその入浴剤を手に取って皆に訊いた。


「どうして、こんなにたくさん入浴剤があるの?」


「さぁ」


「ていうか、本当に温泉に入りたいだけなんじゃないのか?」


 入浴剤をじっと見ながら私達は困惑してしまった。しかし、真相は分からない。そこで、その謎を突きとめるためにさらに奥の部屋へと進んだ。幸いにも、先程使った金色の鍵がもう一度別の場所でも使えたので助かった。私達は奥へ奥へと進み、ついに司令室の手前に辿りついた。

 と、その時――。

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!! という大きな地響きと共に大きな揺れが私達を襲った。慌てて何かを掴もうとしたが、生憎そんなものは存在せず私達は揺れのせいでその場に立っていられず倒れてしまった。

というわけで、やってきました凸凹山。そしてさっそく二人目の仲間登場です! さらにふと思ったこと。それは、現在斑希の仲間に女の子がいないことです。

凸凹山で温泉を掘り当てようとしている者の正体はなんと、鎧一族でした。ちなみに隣に侍っている女性。彼女は後々出てくるクロノスの一人です。

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