第二十話「氷雪の義兄妹」・1
シュッシュッシュッシュッシュッシュ!!
今、私達は乱火の従兄である炎耀燐妖燕さんの相棒――ヘルファイア=エクスプレスに乗ってウォータルト帝国へと向かっている。ボイラーに石炭を焼べている砕狼がしっかり働いてくれているおかげか、相当早いスピードが出ていることが窓から見える外の景色と体感速度で分かる。
「随分スピード出してますけど、大丈夫ですか?」
それにしてもスピードの出しすぎではないだろうか? と心の中で思った私は、妖燕さんにそう質問した。
しかし、妖燕さんは高らかにガハハ、と笑いながら答えた。
「心配するなお嬢ちゃん。俺の相棒ヘルファイア=エクスプレスは頑丈なんだ!! スピードをどんだけ出そうがへっちゃらだぜ!! おい坊主、もう少しスピードを出せ!! 一気にウォータルト帝国まで一直線だ!! さっさと用を済ませてさっさと帰りてぇかんな!!」
そう言ってボイラーのある場所にいる砕狼に大声で伝える妖燕さん。どうやら、相当ウォータルト帝国――というか、水属性の人間が苦手らしい。まぁ、属性的に考えても仕方がないのかもしれない。ちなみに、このおじさん――もとい妖燕さんは、伝説の戦士の一人であることが今しがた判明した。ウォータルト帝国へ行くことが決まった際に地図を確認して分かった。にしても不思議だ。ことごとくすぐに伝説の戦士を見つけられる。神様のお導きでもあるまいし、どうしてここまで私はツイているのだろうか。逆にこれだけいいことがあると、よほど悲しいことがあるように感じてしまう。まぁ考えすぎだとは思うけれど。
そうこうして、ようやく私達はウォータルト帝国領土内へと入ることに成功した。ちなみにウォータルト帝国に敷かれていない線路は、妖燕さんがヘルファイア=エクスプレスを走らせながら転移魔法で設置しているのだとか・・・・・・。全くもって一体どこにそれだけの力があるのかが、私には理解出来なかった。
キキーッ!! ゴットン!! プシュー!
車輪にブレーキがかかり停止し始める列車。そして、完全に列車が止まると、真っ白な煙が車体から吹き出す。
私達は妖燕さんの後に続いて外に出た。
「さぁ、着いたぞ。ウォータルト帝国だ!」
「わざわざここまですみません。それじゃあ、私達はここからさらに氷属性が主に住むと言う『ウノーファル・ティークル町』に行ってきますので!!」
「あそこは相当気温が低いらしいが、草植系属性である二人は大丈夫なのか?」
少し心配そうに二人に訊く妖燕さん。本当に妖燕さんは仲間思いのいい人だ。メンバーの中でも最年長だけあって私もすごく安心出来て頼りになる人でもある。
「はい、親方さんはここで私達が属性戦士を連れて帰ってくるのを待っていてください」
「葡豊の言う通りでございます。妖燕さんがご心配なさらずとも、わたくし達の力で何とかして見せましょう」
「そうか? ならいいが・・・・・・」
やはり少し心配らしい。その証拠に妖燕さんはどこか浮かない表情を浮かべている。
「そこまで言うなら親方も来いよ!」
じれったくなったのか、乱火が手を大きく振ってこちらに来るように言う。しかし、それを聞いた妖燕さんは後ろに後退した。
「いや、ここを離れるのはいささか不本意だ! 今俺がここを離れれば、相棒が一人ぼっちになってしまうじゃねぇか!! それだけは困るッ!!」
そう言って妖燕さんは首を横に振った。
――あはは、一人ぼっちって人間じゃないんだから・・・・・・。
と私は苦笑いしながら心の中で呟いた。
「まぁ、妖燕もこう言っているのだ!! ここはやつに任せておれ達は先へ進もうではないか!!」
彪岩さんが私の肩を叩きそう言った。その目は間違いなく妖燕さんのことを信じている目だった。そうだ、自分が信じなくてどうするというのだ。妖艶さんは強いに決まってる。確かに炎属性ではあるが、炎でも完全に水に勝てないという訳ではないかもしれない。妖燕さんにその僅かな期待を乗せて、私達はその場から出発してウノーファル・ティークル町へと向かった。
――△▼△――
ここは、ウノーファル・ティークル町内にある大きな山『グレイトイクール山』の中でも最も大きい、通称『UTサブミット』と呼ばれる巨大山である。そこには、『氷雪の義兄妹』と呼ばれている少年少女がいる。外気に触れず、殆どを日の光の届かない場所で過ごすため、肌の色が雪のように真っ白だった。片方の少女は口から真っ白で細い棒のような物を出している。どうやら、棒付きキャンディーを舐めているらしい。寒い地域のせいか服装も分厚いものが多く、耳には耳当て、首元にはマフラー、小さな手にはフカフカしてそうな手袋をはめている。こちらはどうやら見たところ妹のようである。
一方には、獣のように鋭い目つきをした黄色い瞳を持つ少年が、お菓子の袋を開けて口いっぱいにお菓子を頬張っている。
「ねぇ、お兄ちゃん。ゆき、お菓子無くなっちゃった・・・・・・」
「ん? お前、口に飴咥えてるだろ? だったら、オレのおやつはいらないだろ・・・・・・」
「え~、ゆきもそれ食べたいのにぃ~」
懇願するかの様に潤んだ瞳でお菓子の袋を手に持った少年を見る少女。人差し指をあごに添えて羨ましそうに兄を見つめている。
「はぁ~、仕方ないな。じゃあ、半分やるよ!」
そう言って少年は、少女に持っていたお菓子の袋の中身の半分を皿についで渡した。
「うわぁ~、ありがとうお兄ちゃん!」
満足げに笑みを浮かべる少女は、小首を傾げて少年にお礼を言った。
「にしても、相変わらずこの山は寒いな・・・・・・」
「仕方ないよ、この辺りは全然日が当たらないんだから。それに、ゆき達の力のせいでもあるんだから」
外の景色を少し悲しげに見つめ少女が言う。
「お前は寂しくないのか?」
「ううん、お兄ちゃんがいるから!」
「ふっ、そうか・・・・・・」
少女の言葉に、フッと鼻で笑って少年は答えた。
――△▼△――
「うぅ~。さ、寒いぃぃっ!!」
細砂が唇を紫色にしてブルブルと体を震わせている。
私達はウォータルト帝国に含まれる小さな町『ウノーファル・ティークル』に訪れている。ここは、体感温度実にマイナス十℃を下回るのだそうだ。そのため、この町に住む人達は大抵物凄く分厚そうな服装になっている。
ちなみに、今現在私達は猛吹雪に見舞われている。そのせいで、なかなか住民が住む場所に辿りつけないのだ。町と言っても住んでいる人は殆どといっていいほど少なく、人口は町の広さの約四分の一ほどしかない。
「二人とも大丈夫ですか?」
私は後ろを歩いている葡豊と癒宇さんを見た。二人は妖燕さんに以前言われていた通り、草植系の属性を持つ人達だ。リーヒュベスト帝国の大木の森出身なので、植物と同様寒すぎるところや熱すぎるところが耐えられない。そのため、この場所は二人には特に地獄に近いのだ。
二人は無理に笑みを浮かべて答えた。
「だ、大丈夫ですよ。わ、私達はへ、平気ですから・・・・・・構わず、進んで・・・・・・く、ください」
「さ、左様で・・・・・・ご、ございます。わたくし達のことは、ご、ご心配には及びませんので・・・・・・」
二人とも体もガクガクブルブルしていて、あまりにもの寒さに話すのもままならない。
「全然大丈夫じゃないですよ! やっぱり二人は妖燕さんと一緒に待っていてもらうべきだったわ」
申し訳なさそうに私はうつむいた。しかし、こんなことをしてここに留まっていては余計に二人に負担をかけてしまうことになる。
「あっ、そうだ! 乱火、あなた火属性でしょ? 二人の間に入って温めてあげてもらえないかしら?」
「おーいいぜ! 任せとけ!!」
そう言ってトン! と自分の胸を叩いた乱火は、葡豊と癒宇さんの間に入り、火属性の魔力を放出し始めた。心なしか少し距離が離れている私のところまで僅かに温かみを感じる。乱火のすぐ近くにいる二人も、先ほどよりも随分と表情が和らいで、いつもの状態に戻り始めていた。
「あ~、あったか~い!」
「確かに、この温かみはたまりませんね。まるで、天国に登ったかのような居心地でございます」
葡豊と癒宇さんの二人が互いに笑みを浮かべている。
「これでしばらくは大丈夫そうね。さぁ、先に進みましょう!」
私は皆の状態を確認し先へ進み始めた。相当気合が入っているのか、前方には砕狼と鋼鉄、そして彪岩さんの従兄弟三人が上半身裸になって何やら騒ぎ立てながら豪快に前に進んでいる。
それを見ながら私は、横を歩いていた雷落と砂唯に訊いた。
「ああいうのを脳筋バカって言うのかしら?」
「全くですね、ああいうのは扱いに困るから困ります!」
「でも、ガロー君何だかとても楽しそう・・・・・・」
雷落が私の意見に共感する一方で、砂唯は笑みを浮かべて砕狼を後ろから見ていた。
「そうかしら? 私にはとてもそうは見えないけれど。それよりも、光蘭はどう?」
「スヤスヤと気持ちよさそうに眠ってます」
「そう、どうやら雷落の発明品はちゃんと機能しているみたいね!」
なぜこんなにも極寒の地で光蘭が寝ていられるのかには訳がある。それは、クロノスに所属していた雷落の技術力にあった。光蘭のために雷落が発明品を作り出したのだ。それが『体温保持装置』。効果は名前の通りで本来眠っていると体温が下がるところを保っていてくれるのだ。しかし、元々光蘭の体温がそこまで高くはないので、乱火の手を借りて体温を少し上げてもらった。それにより、光蘭はこうして気持ちよく眠れているのだ。
私達も光蘭が寒がって凍死してしまうなんていう悲惨な状況だけは作りたくない。なによりも、光蘭は私達メンバーのムードメーカー的存在だ。光属性というだけあって、場を明るくしてくれる存在でもある。私も気づけば光蘭の可愛さに魅了されてしまっている。
そして、ようやく私達は目的地についた。猛吹雪の中ポツンポツンと明かりを見つけたのだ。恐らく、あそこが住人の住む地域だろう。
「皆、あそこまで走れる?」
「おう、おれ達は大丈夫だ!!」
――訊かなくてもあなた達は見れば分かるわ・・・・・・。
私は苦笑いしながらそう心の中で呟いた。
「癒宇さん達は?」
「何とか大丈夫でございます」
「私も大丈夫です」
「乱火は?」
「あ、ああ・・・・・・平気だ」
乱火は少し辛そうに答えた。恐らく、魔力をずっと放出して力を使っているからだろう。あまり無理をさせる訳にもいかない。
――△▼△――
ここはグレイトイクール山。なぜ私達がここにいるのか。それには理由がある。あれから無事にウノーファル・ティークル町に住む住人に会えたのだが、彼らの中には伝説の戦士はいなかった。こんなことは初めてだった。今までは町や国の住人に出会ったらすぐに伝説の戦士が見つかっていたのに。
すると、とある住民から興味深い話を聞いた。それが『氷雪の義兄妹』というものだった。氷雪の義兄妹というのは生まれながらにして不思議な力を持ち、周囲の気温を急激に下げる義理の兄妹のことを言うらしい。
兄を『氷威 氷雨』、妹を『氷威 雪羅』ということから、二人の頭文字の氷と雪を取って氷雪の義兄妹と呼ばれるようになったのだそうだ。
私は皆の目を見て確信した。恐らく、その氷雪の義兄妹が地図に載っている赤く点滅する二つの点の人物だろう、と。
そうして現在に至るのだ。
グレイトイクール山にやってくると、住民達が言っていた通り氷雪の義兄妹の影響でさらに気温が低くなっていた。
さすがにここまでくると、私も耐えられない。私も少し後ろに下がって乱火の近くを歩く。
その一方で、一向に砕狼達は上を着ようとしない。よほど寒さに強いらしい。もしかすると、彼らの方が雪国出身なのではないかとさえ思えてくる。
頂きに上り、さらに上へと向かう。氷雪の義兄妹は一体どんな暮らしをしているのだろうか。
――もしかすると、食べ物も氷とか雪とか食べているんじゃあ・・・・・・。
一瞬、脳裏にそんな映像が流れ込んでくるが、すぐに頭を振ってその想像を消し去る。
そして、ようやく私達は氷雪の義兄妹が住む場所へとやってきた。住民の話によると、ここはグレイトイクール山の中でも最も大きい山でUTサブミットというらしい。ちなみにUTというのは、ウノーファル・ティークルの略で、あまりにも長すぎるために略称で呼ぶようにしたらしい。そもそもウノーファル・ティークル町も、元々はウノーファル村とティークル村に分かれていて、人口が減ってきたために合併して今の町になったのだとか・・・・・・。
これも先ほどの住民の住む地域で聞いた話である。
コンコン。
私は震える手で扉を叩いた。寒さのあまり手が凍えてしまいそうだ。
「す、すみませーん」
「はぁーい!」
返ってきたのは元気の良い女の子の声だった。声の感じからして恐らく、光蘭と同じくらいの年齢の子だろう。
というわけで、今回のサブタイにもあるとおり義理の兄妹が登場です。お菓子をたっぷり食べるこの二人は、結構食いしん坊なキャラです。
てなわけで、今回はウォータルト帝国のウノーファル・ティークル町からお送りします!




