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第二話「頭に火を灯す少年」

 フレムヴァルト帝国。その国の国境の端に、一軒の家があった。家の中には、頭に火を灯した少年がせっせと何かを作っている姿があった。


「よし、後もう少しだ! ついに、あの黄金の炒飯が完成する!」


 少年は味付けをし、完成した料理をテーブルまで運ぼうとした。

 と、その時、ドォォォオオオンッ!! という豪快な音を立てて、物凄い地震が起こった。


「うわぁッ!!」


 少年は驚きのあまり手を滑らせ、持っていた黄金の炒飯をついだ皿を下に落としてしまった。


「ああ~ッ!! 俺の黄金の炒飯が!! ちくしょ~一体誰だ、俺の黄金の炒飯を落としたのは!!――あっ、俺か。って、そうじゃない! ったく、この地震はどこで起きたんだ? その原因を突き止めて、弁償させてやる!!」


 少年は訳の分からないことをブツブツ文句を言いながら呟き、ものすごい剣幕で扉を開けて外に出て行った。




「確か、揺れが大きかったからここの辺りだよな……ん? なんだ、あれ」


 少年の目に入ってきたのは、鎧をつけた謎の騎士だった。おまけに、そのすぐ側には地面に突き刺さった無数の刃と同じく、無数の刃に突き刺された少女の姿があった。オレンジ色の髪の毛をしていて、何だか高貴な感じを思わせる雰囲気があった。


「誰だあれ?」


 少年はしばらくその様子を見る事にした。すると、騎士が声を発した。


「……フッ、やはり死んだか」


 騎士は剣を取り出した。少年は一瞬、倒れている少女に突き刺すのかと思って飛び出そうとしたが、騎士はそんなことはせず地面に剣を突き立てただけで、その後その場から姿を消した。


「行ったみたいだな」


 少年は周囲を見渡して先程の騎士がいないことを確認すると、ささっと少女の元へと駆け寄った。


「あ、あの……。もしも~し?」


 返事がない、まるで屍のようだ。

 ゴクリ…。

 少年は息を呑んで頬から冷や汗を流した。


――ま、まさか……本当に死んでるなんてことはないよな? で、でもとりあえず何とかして出血とか止めないと、致死量で死んじゃうよな。仕方ない……。



 心の中で意を決した少年は、自分の体に少女の血が付着するのも構わずに彼女をおんぶしようとする。が、そこで少年はふと少女の腹部に突き刺さっている剣を見て、抱きかかえることに変更すると、自分の家へと早足で帰った。


――▽▲▽――


「にしても、物凄い数の刃だな。しかも、どれも鋭利に尖っている。痛いだろうなぁ~。それにしても何て綺麗な人だ。何であんたところにいたんだ? しかも、あの地面の感じ……恐らく上から落ちてきたんだろうな」


 少年は温かいタオルで少女の体を拭いてあげられる部分だけでも拭いてあげた。十四歳である思春期真っ盛りな少年には、見た感じ自分よりも年上の人を、しかも見知らぬ異性の人の体を拭いてあげるのは少年としても初めてのことだった。そのため何とか理性を働かせ少年は少女の体を丁寧に拭いた。そして、ふと少年は少女の顔を見て思った。


――ま、まさかて……天使じゃないよな? 上から降ってきたとか……。でも、天使ならこんなに綺麗なのも頷けるし……。にしても、生きているのが不思議だ。



 拭ける程度の場所を拭き終わり、少年は少女を自分のベッドに寝かした。そして、少女の額に絞ったタオルを置いた。


――今はとにかく意識を取り戻すのを待とう……。あれ、そう思ったら……なんだか眠く――。



 少年は気づかぬうちにコクリコクリと(こうべ)を垂れて、ついには疲れによって眠ってしまった……。


――▽▲▽――


「……うっ、いっつ~。ここは?」


 私は体中に走る痛みと同時に目を覚ました。腹部の傷を押さえると同時に、私は自分の腹部に包帯が綺麗に巻かれていることに気が付いた。そして、ふと頭を少し上にあげて周囲を見渡そうとすると、すぐ側に少年の姿があった。


「……この子が、助けてくれたの?」


 首を傾げ、辺りを見渡す私。その後私は、疲れにより再び寝てしまった。

次に私が目を覚ましたのは、私を助けてくれたらしい男の子が私の額に冷たい水に浸したタオルを当てた時だった。


「冷たいっ! ……あ、あなたは?」


 私はあまりにもの冷たさに飛び起き、少年に(たず)ねた。


「俺の名前は『炎耀燐(えんようりん) 乱火(らか)』。この家で一人暮らしをしているんだ。ところで、あんたは天使なのか?」


 乱火と名乗る少年は自己紹介に加えて私に変な質問をしてきた。


「天使? ……天使じゃないわ、私の名前は『光陽(こうよう) 斑希(ふれあ)』。この近くの夢鏡国という王国から来たの」


 痛む傷を押さえながら私は彼――乱火に説明した。


「夢鏡って確か、あの崖の上にある国だろ? ってことは、斑希は崖から落ちたんだな、うんうん!」


 納得してくれたのか、乱火は何度も頷きながらさらに続けた。


「斑希が落ちて来た時、地面に亀裂が入ってて斑希自身や地面にもたくさん刃が刺さってたんだぜ?」


 乱火がその時の状況を私に教えてくれた。それを聴いた私は、腹部の傷を見ながらあることを思い出し、乱火に訊いた。


「ね、ねえ乱火。月牙って人を知らない?」


 少し焦った様子で私は乱火に問う。


「げつが? ……知らないな、そんな人は。斑希の知り合いなのか?」


 乱火が救急箱を直しに行きながら私に訊いてきた。


「ええ……まぁ。知り合いっていうか、幼馴染みたいな感じ……かな?」


「ふ~ん、あっ……そういえば俺が駆け付けた時、見た事のない変な鎧の騎士が斑希を見てたが、あれも知り合いなのか?」


 飲み物を持ってきながらそう口にする乱火に、私は驚愕した。


「えっ、鎧の男!?」


「ああ……。何かよく分からないが、何処かに行っちまった」


 私は乱火の説明を聴いて、ますます焦った。


「急がないと――ぐっ!!?」


 ベッドから出て立ち上がろうとした瞬間、私は腹部の痛みに耐え切れず倒れそうになった。それを慌てて乱火が抱き留める。


「ダメだ! まだ傷が癒えてないんだ。しばらくは安静が必要だぞ! そうだ、斑希に婆ちゃんが会いたいって言ってたんだ!! すぐそこだから連れてくる、待ってろよ?」


 そう言うと乱火は私をベッドに座らせ、お婆さんを連れてくると言ってその相手の家へと向かった。


――それにしても、何でファントムが!?



 私は考えている内にまたしても眠ってしまった……。




「――あ……れあ、……斑希!」


「はっ!」


ゴツンッ!!


「いってぇ!!」


「いった~い……」


 私は思わず起きた瞬間に上体を起こそうとして、私のすぐ側で私の名前を呼ぶ乱火と頭を思い切りぶつけてしまった。


「ご、ごめんね?」


「い、いや……大丈夫だ。それよりも連れて来たぜ?」


 そう言うと乱火の隣を通って一人のお婆さんが姿を現した。


「婆ちゃん、こいつがさっき話した斑希だ!」


 乱火がお婆さんに私の事を紹介する。


「あんたが、斑希さんかい?」


 お婆さんが腰に手を回して猫背の姿勢で私に訊いた。


「あ、はい。あの、私に用があると……」


「うむ! 実はのぅ、そなたは恐らく伝説の戦士ではないかとわしは踏んでおるのじゃ」


 単刀直入にそう口にするお婆さん。


「わ、私があの伝説の戦士!?」


 私は驚愕した。まさか、昔からよく聞くあの伝説の戦士が自分のことだとは全く思っていなかったからだ。

 伝説の戦士というのは大昔から存在するという神の力を持った人間の事で、その伝説の戦士は大勢いるとされていた。しかし、その時々によってその数は違うらしく、毎度毎度人数は異なっていたらしい。はっきりとした確証はないものの、目撃証言もいくつか入っていて、その人たちはその伝説の戦士という存在に助けられたそうだ。いつしかその伝説の戦士はお伽話の様になってしまい、誰もがその存在に憧れていた。その人気故に劇までも行われてしまう始末で、“伝説の戦士”というキーワードを聴いて知らないと答える人はいないくらいその存在は有名だった。


「そうじゃ、お主からはその気配やオーラを感じる。それぞれが持つと言われる特別な属性……」


 その説明を聴いて私はお婆さんに質問した。


「それぞれって、私以外にもまだ伝説の戦士がいるということですか?」


「うむ! 先程もわしの所に一人の青年が尋ねて来よった。その青年も恐らく、そなたと同じ伝説の戦士じゃろう」


 お婆さんのいきなりの言葉に私は混乱していた。頭の中に在る情報の整理が追い付かない。まさに私の脳内はパニック状態だった。


「ま、まさか……その青年って」


「確か……月牙とか名乗っておったのぅ」


 あごに手を添え、空を見上げながら記憶を振り返るお婆さん。


「そ、そんな……先に行っちゃったなんて」


 私が気を落としてガッカリしていると、お婆さんが優しく励ましてきた。


「まぁ、そう落ち込みなさんな。まだ望みが(つい)えたわけではない。何せ、この乱火もまた伝説の戦士の一人じゃからのぅ」


 またしてもお婆さんの突然の告白に、今度は私だけではなく乱火まで驚かされていた。


「じ、冗談よしてくれよ婆ちゃん! お、俺があの有名な伝説の戦士なわけないじゃん!!」


 冷や汗をかきながら乱火は参ったな~と言った顔で頭をかき、お婆さんの言葉を冗談だと思って認めなかった。


「だ、だって俺はただの普通の民家の子供だし……」


 乱火がそう言って一歩後ろに下がると、お婆さんが急に顔色を変えて申し訳なさそうな表情で乱火を見つめた。


「すまんな、乱火。お前を苦しめたくはなかったんじゃが……」


 お婆さんは悲しそうに乱火に謝った。


「ど、どういうことだよ?」


 少し気になったのか興味津々な顔で訊く乱火。私もその話について少しだけ興味が沸いた。


「あれはまだ、乱火がわしの座っている椅子ぐらいの背の頃じゃった」


 そう言ってお婆さんは、自分の座っている高さ的に普通の、どこにでもあるような椅子についている四つの足を指示した。


「わしらの住むこの国――フレムヴァルトは、四族の一つである鳳凰一族の鈴華様がお治めになっておる。武器や防具など、それらの生産でわしらの財政は潤っており、民も平和に暮らしておった。しかし、今は違う。あれはもう随分前のこと、鈴華様が何者かに誘拐され国を治める者がいなくなってしまってからのことじゃった。人々は貧乏生活になり、多くの者達が互いに喧嘩を始め金の取り合いをした。(すさ)んだフレムヴァルトは壊滅的じゃった。そこで、大人は考えに考えその(のち)誰かを生贄として与え、この国を治めるために鈴華様を取り戻す術を教えてもらおうと考えた。じゃが、考えはそう上手くはいかんかった。神の怒りに触れた我々は、生贄として選ばれた当初まだ幼かった乱火をその場に置き去りにして逃げ出したんじゃ。哀れに思った神が与えて下さったのか、急に暗雲が現れて乱火の上に稲妻が落ちてきおった。皆誰もが乱火は死んだものと考えた。しかし、駆け付けてみるとそこには、頭に火を灯して泣いている乱火がいたのじゃ! その時に乱火の体に元々備わっていた微々たる力が引き出されたのじゃよ! それはまさに幸運の証。即ち、神様に頂いた力『神の力』というわけじゃ! それ以降乱火は神として崇め奉られ、毎日皆に手を合わせてもらった。それがわしがお前にいつかは話さなければならないはずだった真実じゃ」


 長いお婆さんの語りを聴いた私は、ふと乱火の方を向いた。彼は黙ったままだった。


「今まで黙っててすまなかったのぅ、乱火」


 その言葉を聴いたせいか、乱火は急に真剣な面持ちになりお婆さんに言った。


「婆ちゃん、俺決めた! 俺、斑希と一緒にその伝説の戦士っていうのを探しに行ってくる! そして、必ず鈴華様を連れ戻してこのフレムヴァルトを昔の様な平和で豊かな国に戻してみせるぜ!!」


 乱火の意を決した気持ちの言葉を聴いて、お婆さんは涙をボロボロと流した。


「おおっ、よく言ってくれた乱火。斑希さん、乱火のことは任せましたぞ?」


 お婆さんは真剣な目で私を見て言った。


「わ、分かりました。必ず守って見せます!」


 私は心を引き締めて覚悟を決めた。


「それでは、斑希さんの体調がよくなったら旅を始めるとするかのぅ。とりあえず、今晩はここに泊まって行きなされ!」


 杖を突いて立ち上がりながら、お婆さんは私にそう言った。


「いいんですか?」


 申し訳なさそうに言う私に対してお婆さんは「かまわん。どうせわしら二人くらいしかほとんどこの国には人がいないからのぅ」


「ちょ、婆ちゃん! 俺がいるんだけど……」


「乱火なら心配いらん」


「ええッ!? い、いや……一応俺も男なんだけど」


「それに、傷が引いてきたとはいえ、まだ体調がよろしくなさそうじゃからのぅ。今日は乱火の作った手料理でも食べなされ!」


「いや、作るの俺なんだけど!」


「ありがとうございます!!」


「俺の話を聴けえええええッ!!!」


 こうしてお婆さんは一旦家に、私はベッドでまたまた眠りにつき、乱火は台所で料理の準備を渋々行った……。

 私が起きた頃には、既に乱火が作った手料理『黄金の炒飯』が完成していた。


「出来たぞ~! 今回の炒飯はいい出来だ!!」


 乱火が嬉しそうにテーブルに炒飯を運んでくる。お婆さんも先程家にやってきた。そして、食卓を綺麗にして白い布をかぶせ、その上に燭台のロウソクなどを置いて最後に炒飯を盛った皿を乗せた。体力も回復して後はこの炒飯を食べて英気を養うだけだ。


「さて、んじゃあいっただきま~す♪」


 乱火の合図で皆が手を合わせる。そして(かしわ)を一つ打った後、一斉に皆スプーン片手に炒飯を口の中にかきこんだ。私だけじゃなく、乱火とお婆さんの二人もお腹を空かせていたのか、黄金の炒飯はあっという間になくなってしまった。


「ふぅ……満腹満腹。ありがとう乱火、とっても美味しかったわ!!」


 私は乱火に満面の笑みでお礼を言い皿を手渡した。


「いや~。そんなに喜んでくれるとこっちも頑張って作った甲斐があったぜ! 次はもっと美味しい物を作ってやるよ!」


 乱火は自慢気にそう言って台所へ皿を置きに行った。


「さぁ、今晩はもう遅い。今夜はさっさと寝て明日の朝出発するとよいじゃろう」


 お婆さんが私達にそうアドバイスし玄関へと向かった。


「家に帰るんですか?」


「うむ! わしの家を空き家にしとくわけにはいかんからのぅ。まぁ、男女二人が一つ屋根の下というのはアレじゃが、まぁ乱火じゃから大丈夫じゃろう」


「その俺だから大丈夫っていうのが気に食わないんだけど……」


「それじゃあのぅ」


「って無視かよ!」


バタン。

 玄関のドアが閉じられ、私達は二人きりになってしまった。私は月牙以外の男の人とはあまり喋ったことがなかったため、何て言っていいか分からなかった。すると、乱火が口を開いた。


「あ、あのさ……。ベッド一つしかないんだけど……どうする?」


「えっ!?」


 私は考え事をしている最中に乱火に話しかけられビックリしていた。


「あっ、いや。やっぱ何でもない! ごめん、俺床で寝るから……」


「ちょっと待って!」


「えっ?」


「夜は冷えるし、その……二人で寝ようか」


 自分でも何を言っているのかよく分からなかった。ただ、一人では心細かったのかもしれない。


「あ……ああ」


 乱火もゆっくりと頷く。


「じゃあ電気消すぞ? 明日は、は……早いからな。お、おやすみ」


 乱火がスイッチに手を掛ける。カチッ! と音がし、電気が消えた。夜のせいか、暗くなると本当に何も見えなかった。どこに何があり、何処に誰がいるのかさえ分からない。暗闇が苦手な人ではあっという間に気絶してしまいそうなくらい真っ暗だった。


「うん、おやすみ」


 私はそう言って乱火におやすみの挨拶をした。横向きに寝る私。すると、背中に僅かだが(ぬく)もりを感じた。それが乱火の物だということはすぐに分かった。いやむしろ、彼じゃなければこの温もりは誰なんだということになってしまう。私はそんなことを想いながらベッドに潜り込み眠った。

 こうして、旅の開始前夜の夜を迎えた。ただ、私があまりにも何度も何度も寝過ぎたせいでなかなか寝付けなかったことは言うまでもない……。

というわけで、斑希無事でした。しかし、深手負ったのに無事だったって凄いですね。しかも、あんな高いところから落ちて骨も折れてないって……。

頑丈なんですね。そして、そこに現れる救世主。月牙じゃないのが残念でしたが。おまけに別行動になってしまうという。せっかくあったのにもう離れ離れですか。今回斑希の初めての仲間は乱火ということですね。一人目です。これで今のところ三人。残り二十九人。いやはやまだまだ先は長いですね。

しかし問題は夜ですよ。何ですか赤の他人と一緒に寝るって。さて、月牙はどうなっているんでしょうかね。次回はまた斑希の方の話をします。

月牙の方は四話でやります。

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