第十六話「潜入! ゴルガルゴストス城!!」・2
「大丈夫鋼鉄? 一体何があったの?」
「はぁ……はぁ、すまねぇ……取り乱しちまった。白衣を見た時にもしやとは思っちゃいたが……まさかな――」
「どういうこと? 雷落が何か関係あるの?」
「いや、こいつへの直接的なことじゃねぇ! ……クロノスっつー組織そのものに恨みがあんだ!!」
鋼鉄は地面にドカッと座り、胡坐をかいてそう言った。
「クロノスに何の恨みがあるっていうのよ!!」
「ああ? 恨みなんてありまくりだぜ!! てめぇらの出す工業廃棄物、光化学スモッグ……それら全てが周囲の環境にことごとく影響を及ぼしてること分かってんのか!?」
「そ、それは……もちろん分かってる! 分かってるけど……」
雷落は反論したくてもすることが出来なかった。そこへ、グイグイと鋼鉄が畳み掛ける。
「それだけじゃねぇ!! てめぇらの組織は有属性者の人間を次々と捕縛してはあらゆる研究に使ってんだろが!!」
「え? そ、そんなの私知らないわよ?」
「とぼけんな!! 俺の母親と父親もつれてかれたんだ!! あの身にまとった白衣に着いたバッジ……見間違えるはずねぇ!! あれはてめぇが着けてるそのバッジと同じ代物だった!!」
「どういうこと?」
「私にも何が何だか……」
斑希の質問にも雷落は首を傾げるだけで答えることが出来なかった。見るからに嘘をついているようには見えない、そう思った斑希は鋼鉄の知っているクロノスについて全て訊いてみることにした。
「その……あなたが知っているクロノスについて全部教えてもらえないかしら?」
「ああ、分かった……」
鋼鉄もおとなしく従ってくれた。
何でも鋼鉄が話すには、クロノスと呼ばれる秘密研究組織がゴルガルゴストス王国へ入ってきて勝手に仕事を始めたらしいのだ。
仕事というのは研究という名の非道な物で、様々な植物や動物が犠牲になったのだという。無論、その動物の中には人間も含まれていて、多くの人間がクロノスの面々に連れ去られた。鋼鉄の両親もその一人だったそうだ。
当時幼かった鋼鉄は必死の思いで両親を探したが見つからず、手がかりは自分の両親を助けようと研究員の一人に飛びかかった際に手に入れたクロノスのバッジだった。
あらゆるところを探し、ようやくクロノスの研究所を見つけた。しかし、そう簡単には両親を助け出すことは出来ず、過酷な試練が必要だった。おまけに、武器を持たない自分には勝つことが出来ない。相手は無属性者なので、研究によって生み出された化学兵器で対抗してくると鋼鉄は考えていた。そのためには自分も何か武器を得なければ、というわけで見つけたのが今の相棒――鋼鉄球だったのだ。
そして、鋼鉄球を得た鋼鉄はさらに修行を積み重ね、強力な戦闘能力を身に着けた。
数日後、鋼鉄はクロノスの研究所に堂々と正面から突貫し、研究員達を次々に倒していった。鼓膜を破くかの如くうるさく鳴り続ける警報など気にも留めず、鋼鉄はまさしく鋼鉄の如く突き進み、クロノスの最深部付近へとやってきた。
そこで鋼鉄はとんでもない物を見た。それが、自分の両親を含めた多くの人間が奴隷として働かされていたの姿である。よく見ると、他国の人間もそこにいた。時間をかけて両親を探したが、人間が多いために見つけるのはなかなかに困難だった。
そうこうしていると、白衣を身に纏った十三人の幹部格らしき研究員達がやってきた。彼らは有属性者の中でもやけに強い力を持っている鋼鉄に興味を抱き、彼を拘束しようと試みた。が、鋼鉄の凄まじいパワーの前には無属性者など所詮敵ではなく、圧倒的な力量差を見せつけられた。するとそこへ、一人の少年が姿を現し、手をかざすだけで鋼鉄を地面に跪かせた。その少年は不敵な笑みを浮かべるとこう言い放ったという……。
『人間などただの実験動物にすぎん。お前とて同じことだ。見ろ、あの哀れな姿……まさしく家畜に等しい。くく、あの者達は俺達と同じく無属性だ。だが、その無属性にも力を持った者がいる。それが俺達“クロノス”だ。お前にも見せてやろう、俺達の力を――と思ったが気が変わった。何でも近日皆既日食があるらしくてな? 俺達もそれを見るのを楽しみにしてるんだ。その準備をしなくてはならん。だから、残念だが君にはもう一度訪れてもらうとしよう……金井鋼鉄くん? くく……はっはっはっはっはっはっはっはっは!!!』
そう言ってクロノスの偉そうな人物が踵を返して姿を消すと、十三人の研究者達が各々発明器具の様な武器を構え、鋼鉄に襲い掛かってきた。しかし、何とかそれらを全て躱した鋼鉄は、一時退散することにした。
「――これが俺の知ってる全てだ」
「何よそれ……。そ、そんなの嘘よ! クロノスが人間を動物扱いして……あろうことか奴隷として働かせてるなんて!!」
「落ち着いて雷落? ……それで鋼鉄は、クロノスに恨みを抱いているのね?」
「ああ……。そして、気に食わないのはそれだけじゃねぇ!!」
「え? 他にもあるの?」
「ああ、クロノスがゴルガルゴストス王国の王と商業関係を築いてんだ……。元々それが原因の一つでもあってオレらが襲撃に遭うハメになったんだ。あれもこれも、すべては二代目国王の仕業だ!! しかもあいつは、実の父親を自分が王になりたいからという理由で殺しやがったやつだ!!」
「実の父親を!?」
鋼鉄の話を聴いて斑希は驚愕した。
「初代国王は確かに政治のやり方が下手くそで、オレ達の生活も苦しめられた。そして、国の政治を上手く回していく二代目国王のやり方は誰もが期待したんだ。だが、結局はクロノスと協力して同じ結果になっちまった。これじゃあオレ達が納得するはずもねぇ……」
拳で地面を殴りつけ悔しそうな表情を浮かべる鋼鉄を見て、斑希や近くにいる雷落や葡豊、癒宇が暗くなった。
「それで、修行を積んでゴルガルゴストス王国に潜入しようって言ったの?」
「ああ……。利用するみてぇな形になって悪かったな……」
「ううん、気にしないで? 困った時はお互い様よ! それに、あなたのおかげで光蘭も相当強くなったんでしょう?」
両ひざにそれぞれ手を置いて鋼鉄の顔を覗き込む斑希が笑顔でそう言った。すると、それを聞いた鋼鉄が目を見開いて訊いた。
「ど、どーしてそのことを!?」
「私は魔力を感知するのが得意でね―、皆の調子はどうかなーと思って見てみたらそういうことになってたのよ……!」
「そーだったのか……。だったら話は早ぇ、あのキラチビ……オレ達と同じ年齢になった暁には相当な戦闘能力を持った戦士に化けるぞ?」
「キラチビ……って誰の事?」
「ああ? あいつだよ、えーと……」
「もしかして光蘭のこと?」
「ああ、そいつそいつ……」
まるで物のようにそれとなく流す鋼鉄……。
「光蘭に一体何をしたの?」
「特には何もしてねぇ……。基本的な戦術を教えてやってたらいつの間にか急成長を遂げやがってな……。今ではオレを倒すまでに成長しやがった!」
「鋼鉄を倒した!? そ、それは本当なの?」
「ああ……」
腕を大きく回すなどして軽くストレッチしながら鋼鉄が応える。すると、斑希と鋼鉄の会話に割り込むように雷落が声を張り上げて言った。
「そんなことよりも、今の話はホントなの?」
「しつけぇな、ホントだって言ってんだろ!?」
メンドくさそうな表情でそう言い放つ鋼鉄に、雷落はショックを受けている様子だった。表情を暗くし俯きだす雷落を見て斑希が鋼鉄に言った。
「ちょっと、言い過ぎよ! 雷落だって知らなかったんでしょう?」
「はい……。その十三人というのはクロノスの幹部で間違いありません。でも、まさか……レイヴォル博士がそんなことをしていたなんて……」
「レイヴォル博士?」
話の中に出て来た人物の名前に斑希が首を傾げて訊いた。
「私達クロノスのボスにあたる人物で『レイヴォル=カオス=フィグニルト』というのがフルネームです」
「特徴は!?」
身を乗り出して鋼鉄が雷落に問い詰める。
「え、えと……白銀の髪の毛に黄土色の瞳だった……かな?」
首を傾げながらいまいちはっきりしない雷落に鋼鉄が貧乏ゆすりを始め、ついには青筋を立てて怒り出した。
「ちっ、はっきりしやがれぇえええええ!!!」
「うぅ~……そ、そんなこと言われたって私だって滅多に会える人物じゃないんだから、覚えてるわけないでしょ!?」
怒声を上げる鋼鉄にお返しとばかりに言い返す雷落。二人の視線の間にビリビリと火花が散る。
「あはは……二人とも落ち着いて? 冷静に事を対処しましょう? まずは全員のノルマをクリアすることが先決よ! それに、今クロノスは鎧一族と和睦協定を結んでいるから、彼らと対峙することも思慮に入れておかなければならないわ!! そのためにも今は戦力を上げて確実に伝説の戦士を仲間にしていくことを最優先にしましょう!! さあ雷落、あなたはまだ自分のノルマをクリアしていないんでしょう? しっかり鋼鉄に鍛えてもらってね? 私はとりあえず自分の修行に戻るわ。葡豊と癒宇さんもありがとう。修行の邪魔しちゃったかしら?」
「いえ、問題ありません!! あっ、斑希さん怪我……」
そう言って葡豊は斑希に近づき、両手で腕を優しくつかんだ。
「あー、さっき興奮している鋼鉄を止めてその際に怪我したのね……」
「わ、ワリィ……」
「ううん、気にしないで? 私だってそういう事になる時はあるもの……」
少し浮かない表情を浮かべる斑希を見て、鋼鉄は少し訝しげに思った。
「……終わりました! どうですか、異常はありません?」
「ええ、大丈夫みたい。ありがとう葡豊」
小首を傾げて柔らかい笑みを葡豊に向ける斑希。その表情に思わずドキッとした葡豊は、慌てた様子で視線を逸らし、踵を返した。
「いえ、じゃあ私も修行に戻りますね!」
「では、わたくしも失礼させていただきます……」
葡豊の後に続くように癒宇も姿を消した。斑希も少し空を見上げてしばし物思いに耽ると、その場を後にした。
――▽▲▽――
時刻はウロボロス星の時刻で午後九時……。
すっかり辺りは暗くなり、森の中のために月明かりも届きにくい。
私達は互いに必要な物を荷物の中に詰め込み準備を整えていた。
ちなみに、既に食事は済ませている。相変わらず乱火の作る料理は大絶賛で、初めてその味を知った鋼鉄も凄く喜んでいた。
全員が鋼鉄の課したノルマを達成し、十分に力を得てそれを互いに戦いの場で見せ合いたくてウズウズしているようだった。もちろんそれは私に至っても同じだ。
「さあ皆、準備はいいわね? 目指すはゴルガルゴストス城よ!!」
『おおー!!』
太陽の杖を振り上げて私が言うと、皆が威勢よく声をあげ目的地に向けて出発した。
――あれから何時間が経過したのかしら……。
私はゴルガルゴストス城の中への潜入に成功はしたものの、一つの問題に差し掛かっていた。それは、二代目国王がいる場所が分からないというものだった。おまけに、入口付近で光蘭がトラップに引っかかってしまい、地下道に落とされてしまっていたのだ。
「はぁ……行けども行けども見えるのは暗闇ばかりで一筋の光もないわ」
「ったく、誰かのせいでこんなことになっちまってよぉ!」
「うぅ……ごめんなさい」
申し訳なさそうに涙目でお辞儀する光蘭は、今にも泣きだしそうだ。
「鋼鉄! いいのよ、悪いのは光蘭じゃないわ。ちゃんとトラップに警戒していなかった私の責任よ。非は私にあるわ!!」
「けっ、とことんお人好しなやつだぜ!! んなことはどーでもいいからさっさと国王に会わせやがれ!!」
「きゃっ!!」
鋼鉄が突然地面を荒々しく揺らしだしたため、雷落が体勢を崩して私に倒れ掛かってきた。
「あっ、すいません!」
「ううん平気よ、あなたは大丈夫?」
「はい!」
手を取り体勢を整えさせると、私は雷落の手を離した。
この場所はどうも足場が悪く、前に進みたくても進みにくい状態にあった。なかなか脱出口が見つからないのも重なって、私は苛立ちが心の中に蓄積されつつある。すると、それに感づいたのか癒宇さんが声を掛けて例の鎮静緑癒をかけてくれた。
「あ、ありがとうございます癒宇さん」
「いいえ、お役に立てて光栄でございます……」
物静かな声で癒宇さんはお辞儀をした。片手には錫杖を持っている。どことなく鈴の音にも似たその音は、癒宇さんの森属性のおかげで心を安らかにしてくれる効果をもたらしてくれていた。
そうこうしていると、ようやく道が開けて来て、地下道の大きな広間らしき場所にやってきた。
周囲を見渡すと、あちこちから水が流れ込んできている辺り、ここが最終ポイントのようだ。広間の真ん中付近を見てみると、ぽっかりと漆黒の穴が開いていて、そこから水が流れ落ちている。あれに落ちたら――と考えるだけで身震いがした私は、ぶるぶると首を激しく左右に振ってその考えを脳内から抹消した。すると、乱火が指をさして私を呼んだ。そちらを見ると、鉄のはしごが上に向かって伸びていた。
「でかしたわ、ありがとう乱火!!」
「おう!!」
乱火は照れくさそうに人差し指で鼻をこすりながら笑顔を浮かべた。
というわけで光蘭の成長っぷりにみんなも驚いています。しかし、改めて見ると、九歳が十七歳のしかも男を倒すって相当ですよね。
そして、ゴルガルゴストス城に潜入すると。また今回鋼鉄のちょっとした過去っぽいものを挟みました。ちなみにここでようやくレイヴォル博士のフルネーム登場です。そう、ⅡにもⅢにも出てるあの人です。もう有名人ですね。




