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第十話「濃霧に紛れし少女と冷雨の少女」・1

「あ~あ、だからあれ程油断するなって言ったのに。しょうがねぇ奴だなぁファントムは。まぁ、このくらいの傷で助かったぜ。もしもこいつがあることをしてなかったら今頃こいつは死んでただろうしなぁ!」


「何言ってるんだ? こいつはもう死んでるんじゃ!?」


 ガックリと項垂れたまま動かないファントムを指さして乱火が訊く。


「確かに今は死んでる。だが、死んだことにはならねぇんだよ!」


「どーゆー意味だ?」


 今度は砕狼が怪訝な表情で尋ねる。すると、フェニックスは口の端を吊り上げ言った。


「すぐに分かるさ。てめぇらも同じ様なことだかんな……」


「同じような事?」


 意味有り気な事を口にするフェニックスに私は疑問を抱いた。しかし、そのことに勘付いたのか、慌ててフェニックスは口を閉じた。


「おっと危ねぇ! これ以上はボスやスパイダーに止められてんだ! じゃあな属性戦士。全員揃うのが待ち遠しいぜぇ。その時こそが、あいつがこの世に再び完全復活を果たす時だからな、ハッハッハッハッハ!!!」


 そう言ってフェニックスはファントムを抱え上げおぶると、空間に歪みを作り出しその中へと姿を消した。


「な、待ちやがれッ!!」


 砕狼が逃げようとするフェニックス達を止めようとしたが、私はそんな彼を止めた。


「おい、何で止めんだよ!!」


 大声で私を睨み付ける砕狼。しかし、これにはある理由があった。


「今あいつらを追っても意味が無いわ! 相手は鎧一族。このくらいのことで死ぬような相手じゃないわ。それに、ファントム一人でも相当な傷を負わされる。それが四人も相手なんて無茶だわ! さっきの奴だって今回は仲間を助けに来ただけで帰ってくれたから良かったものの、もしも戦うことになってこのまま二回戦を始めていたとしたらこっちの負けは確実だったわ! 私達はこんなところで終わるわけにはいかないの!! 何としてでも三十一人の伝説の戦士を集めなきゃいけない。だから、今は鎧一族の奴らを倒すことよりも、一刻も早く伝説の戦士全員を集める事に専念しましょう? そのためにもまずは、光蘭の意識が戻るのが先決よ」


 私は、先ほど大量の矢を一気にファントムに向けて放ったと同時に意識を失ってしまった光蘭を一瞥して言った。

 どうやら、力の消費による疲労だろうと思う。ふと、雷落が光蘭を大事そうに抱きしめている姿を見て、私は二人を本当の姉妹の様に感じた。


「どうやら、敵は去ったようですね……」


 雷落達が住む住居跡に身を潜めていた癒宇さんが周囲を見渡して言った。


「伝説の戦士もこれで七人になったのか?」


「そういうことになるわね」


 砕狼のふとした質問に私はコクリと頷き答えた。確かに、ここまでで私は六人の属性戦士を仲間にした。地図に写っている伝説の戦士の点は残り九つ。決して多くはないが、当人を探す間に様々な苦労がありそうだ。


――▽▲▽――


 俺――月牙は、霧霊霜一族の水恋と風の里の風浮を連れて『フォッグ・フォレスト』に訪れていた。

 ここ、フォッグ・フォレストはウォータルト帝国内に位置していて、毎日濃霧に包まれている。それにより、太陽の日差しもろくに当たらない。なので、ここに住んでいる人間は物凄く肌が白いのだとか。無論、この霧が晴れることは決してない。

 では、なぜ俺達三人がそんな辺境の場所にいるのか。それには理由がある。

 それは少し前に遡る……。




《月牙さん、何処に行ってるのですか?》


《当ては特にない。第一、伝説の戦士が何処にいるのか分からないんだ。それに、地図もないから現在位置も掴めない》


《そ、それって……道に迷ったということなのでは!?》


 ハッと口元に手を運び驚愕の表情を浮かべる水恋。


《ち、ちげぇよ! ま、迷ってなんかねぇよ!!》


 水恋に図星を言われ、思わず取り乱す俺。


《その様子、ますます怪しいです! 正直に言って下さい!》


《そうだよ、げっちゃん! 嘘はいけないことなんだよ? すーちゃんの言うとおりにしないと!》


《げ、げっちゃん? おい風浮、その“げっちゃん”って誰のことだよ?》


 相変わらずぷかぷか宙に浮かんでいる風浮に対し、俺は謎の名前を言われて疑問を抱き訊いた。


《げっちゃんはげっちゃんのことだよ》


《ま、まさか……俺のことか!?》


《うん!》


 元気よく風浮は縦に頷いた。しかし、俺はイマイチそのニックネームの様な物が気に入らなかった。何だか、子供っぽい感じがしたからだ。


《ま、まぁまぁ落ち着いてください月牙さん! それよりも、こちらの建造物は何なのでしょう?》


《建造物?》


 水恋が立っている方を見ると、確かに謎の建造物が立っていた。金色の銅像が立ち並び、まるで何かを守護しているかのように感じられる。

 近づくと、その建物はさらに神々しく感じた。

 と、その時、俺は体の中から何かの力が溢れてくるのを感じた。同時に水恋が声をあげる。


《ああああっ!》


《ど、どうしたんだよ!?》


《げ、月牙さん! 荷物が光ってます!!》


《何!?》


 言われた通り自分の荷物を確認してみると、母親であるルナーにもらった手袋が光っていた。それを装着すると、物凄いオーラが出現した。また、そのオーラに反応するかのように建造物も一層輝きだした。


《もしかすると――》


 俺はあることを感じ、建造物の丸い部分に触れた。すると、その丸い部分が俺の手を腕の関節辺りまで呑みこんだ。


《ぬおッ!?》


 まさかこんなことが起こるとは想定外だったので、俺は思わず変な声をあげてしまった。奥まで手を伸ばすと、何か硬い物に手が触れた。それを引っ張ると、建造物の一部が動きだし、そこから黄金色に光り輝く地図が出現した。


《こ、これは!?》


《ち、地図?》


 俺と水恋の二人は、互いに顔を見合わせた。

 その一方で、風浮は無邪気に何も知らない無垢な少年の様に声をあげる。


《うわぁ! 綺麗な地図だぁ~!!》


 はしゃぎ声をあげてその場で手をあげて喜ぶ風浮。

 黄金の地図を手に取った俺は、地図に十五個の赤く点滅する点があることに気付いた。しかも、その地図は半分で途切れていた。


《この地図、もしかすると……この点が俺達を指示しているんじゃねぇか?》


《本当ですか?》


 パァと表情を明るくして身を乗り出した水恋は、俺の肩に顎を乗っけるようにして地図を覗き込んだ。


《ここの三つの点。これは恐らく俺達を示してるんだ。そんでもって、この地図通りだと俺達の現在位置はウォータルト帝国のフォッグ・フォレストということになる》


《フォッグ・フォレスト……。通称『濃霧の森』ですか。ですが、どうしてこんなところに? 確か、旅人が危険な目に遭わないようにと標識を立てていたはずなのですが》


《恐らく、何かが原因で壊れたんだろうな》 


 腕組みをしながら俺はそう口にした。そういえば、先程から辺りが霧に包まれ始めている。もしかすると、このままでは本当に迷子になってしまうかもしれない。おまけに、この場所は森の中で人々の住む場所が少ないために、助けを呼ぼうと思ってもそう上手くはいかないのだ。

 と、その時、俺は地図を見てある疑問を抱いた。すぐ近くにもう一つ赤く点滅する点があったのだ。


――この点……。



 心の中である可能性を考えたが、そのことについてはまだ水恋達には伏せておくことにした。すると、水恋がまたしても声をあげた。


《そうですよ! ここがフォッグ・フォレストなら、私の従妹がいます!》


《水恋の従妹?》


《はい! 私の二つ下なのですが、このフォッグ・フォレストに住み着いているのです!ですから、この近くにいるかもしれません!!》


 その話を聴いて俺は地図をもう一度眺めた。この近くには集結した三つの点と少し離れた所に位置する一つの点しかない。しかし、よ~く見るともう少しばかり離れた所に一つの点を見つけた。


《あ、あった! もしかしてこれのことか?》


《は、はい! 恐らくこれです!! この点の人物を追い掛けましょう!!》


《てか、この点の人物が水恋の言う従妹なら、その従妹も伝説の戦士ってことになるな……》


《た、確かに……》


 俺のふとした言葉に、水恋はポンと自分の手を叩いて相槌を打った。

 こうして、俺達三人はフォッグ・フォレストの中を歩き回り、水恋の従妹を捜索し始めたのだった……。




 そして、現在に至る……。

 地図と睨めっこをしていた俺は、赤く点滅する点の位置と現在位置を見比べていた。


バキッ!


 さっきから俺はある不審な点を確認していた。そう、誰かに見られている感じがするのだ。そこで、その人物が誰なのかを確かめるために、俺達は気配を消して霧に紛れた。それのおかげか、その不審人物は俺達を見失ったらしく、辺りをキョロキョロと見回してその場から動き出した。同時に俺もその隙を狙って動き出す。背後からついて来ているその不審人物に、逆に背後から忍び寄る。

 そして、油断しきっていた不審人物の首根っこに獲物をあてがった。鋭い刃が顎と首との間に触れ、少し動こうものなら切れて血が出てきそうな感じだった。


「動くな!」


 ただ一言そう口にする俺。これは謂わば相手に対する警告の様なものだ。


「こ、降参ですわ! ま、まだ……私はこんなところで死にたくはありませんわ!!」


 そのお嬢様の様な口調。この喋り方には聴き覚えがある――そう、ウォータルト帝国の霧霊霜一族の場所で出会った傘と扇子を持った高飛車な少女、潤木靄花だ。しかし、まさかこんな場所でまで出会ってしまうとは。やはり、俺達の後についてくる不審人物とは彼女のことだったのだ。まぁ、大体予想はついていたが。


「あ、靄花さん!?」


「やっぱりお前か……」


「な、何ですの、そのやっぱりって!!?」


 扇子を口元に運んで少し焦った様子の靄花。明らかに焦っているのか、目が先ほどから泳ぎまくっている。


「いい加減素直になれよな? 俺達の後をついてきたんだろ?」


「ち、違いますわ! 私はただ、その……そう! こちらに用があってきたんですの!!」


「えっ? フォッグ・フォレストには滅多に人は訪れないはずですけど……」


「うぐっ!!」


 真顔で水恋に図星をつかれ思わず言葉を失ってしまう靄花。全く、どうしてこう素直になれないのか。俺にはそれが不思議に思えて仕方が無かった。


「そ、その……」


「はぁ~、そろそろ諦めろよ」


 ため息交じりに俺は靄花にそう言った。


「あ、諦めるって何のことですの? 私は何も間違ったことは言っておりませんわ! 私の言う事やる事成すこと、全てが正しいんですのよ? お~ほっほっほ!!」


「ったく、その自信が一体何処から来るのか俺には不思議でならないんだが……」


「な、何ですってぇ~!? あなた、失礼にも程がありますわよ? もう少し自分の立場を(わきま)えてから物をおっしゃりなさいですわ!!」


 俺の顔に向かって、偉そうに閉じた扇を向ける靄花。本当に偉そうな小娘だ。今までどのような教育を受けてきたのかは知らないが、生憎と俺にはそんな物は通用しない。世の中、身分で強さは決まらない――戦力が物を言うのだ。例を挙げるのならば、貧乏でも物凄く強い戦士もいれば、超リッチでも弱弱しい戦士もいるということだ。


「それはこっちのセリフだ! お前、年上に対して何だその口の利き方は!? もう少し常識ってものを学びやがれ!! このバカがッ!!」


「な、ななな! 私が、この私が……ば、バカですってぇええええ!!? どこをどう見ればそのような二文字が出てくるんですの!? 私は天才ですわ! 知を持たないおバカさん達にこの脳みそを分け与えてやりたいくらいですわ!」


「そんな変な事を言っている時点でまずバカ確定だな」


 俺はすかさず靄花を小馬鹿にした。すると、俺の言葉に顔を真っ赤にした靄花は地団太を踏んで奇声をあげた。


「キィイイイッ! あくまでも例えの話ですわ!! 全く、水恋さん? 何なんですのこの失礼な男は!!」


 と言って水恋に俺のことを訊く靄花。どうやらこいつは記憶力も悪いようだ。


「前にも話しましたよね? 旅の人で塁陰月牙さんです」


 水恋も以前に話したことをもう一度言わされて少し迷惑そうな顔をしている。


「以前どこかでお会いしまして?」


「だ・か・ら! 既に霧霊霜一族の集落で会ってんだって!!」


「へ……?」


「記憶力も悪いなんて猿以下だな……」


 さらに俺は靄花の立場を下げていく。猿以下ともなればそうそうマシな動物はいなくなるだろう。


「なっ!? も、もちろん覚えてますわよ!! あの時の方ですわよね? その節はどうも~」


「絶対覚えてないだろ?」


 俺は鋭い一言を靄花にぶつける。


「そ、そのようなことは……」


 狼狽してしまう靄花。すると、頭の許容量がオーバーしてしまったのだろうか? 靄花の頭からシュ~シュ~と音を立てて白い煙が立ち上り始めた。


「うぉわっ!? お、おい大丈夫か?」


 さすがの俺も頭をオーバーヒートさせるなどの卑劣なことはしない。ギリギリ手前のところで俺は靄花を責めるのをストップした。


「と、とりあえず事情を整理しませんか? どうしてここに靄花さんがいるのか……」


「それは、こいつが俺達の後をついて来たからだろ?」


「では、どうして靄花さんは私達の後をついて来たのでしょう?」


「いや、本人に訊けよ!」


 思わずツッコんでしまう俺。しかし、これは本人に訊くのが一番だろう。わざわざ自分たちで考えて正解を当てていく方が面倒だ。俺的にはこういう面倒な物は手っ取り早く終わらせるに限る。


「次に、靄花さんが伝説の戦士なのかどうかの確認です!」


「いや、それはこの黄金の地図を見れば一目瞭然だろ」


 またもやどうでもよさそうな質問が出たので、すかさず俺はツッコんだ。そして、同時に俺は黄金の地図を眺めた。すると、何ということだろう。地図には俺達以外の点がすぐ近くにある事を指示していた。しかも、それは俺達のすぐ目の前――即ち、丁度靄花がいるところ辺りを指示していたのだ。これから推測されることはただ一つ。潤木靄花――彼女が、俺達と同じく伝説の戦士の一人だということだ。

 にしても、神様もなかなか酷い事をするものだ。まさかこの様なバカな少女に特別な力を与えてしまうとは。これは計算が狂っていたのではないかとさえ俺は思った。しかしあまり言い過ぎると、言葉に出していないとはいえ靄花に悪いと良心が痛み、俺はそこで話を終わらせた。


――ん? そういえば、今思えばこいつは伝説の戦士。だが、まだこのフォッグ・フォレストには赤く点滅する点がもう一つある。恐らくこれがさっき水恋が言っていた従妹の物だと考えると、これは俺、一気に二人も伝説の戦士を仲間にすることに成功するってことなんじゃないのか?



 と、急に俺は心踊らせ始めた。だんだんと込みあがってくる期待感。しかし、現実は期待を持ち上げるだけ持ち上げておいて後で思いっきり落とす。全く持って厳しい世の中だ。


「さっきから何を考えていますの?」


「バカのお前に言っても分かんねぇよ!」


「だ、だから、私はバカなんかじゃありませんわ!!」


「い~やバカなんだって!! だって記憶力悪いじゃん!!」


「それだけでバカだとは決めつけられたくありませんわ!! 記憶力の悪い人だって世の中には腐るほどいます! 私だけがバカだというわけではないじゃありませんの?」


「何も記憶力だけの話をしているんじゃない! 総合的に……お前はバカなんだよ」


「総合的ってどういう意味ですのぉ~!?」


 顔を真っ赤にして頬を膨らませ、プンスカ文句を言う靄花。


――いかん! こいつと喋っているとだんだんとガキの相手をしているように感じてしまう。



 眉間に手を添えて俺は首を横に振った。

というわけで、フェニックスに回収されたファントム。果たして死んだけど死んでいないとは一体。

そして、月牙チームの話。フォッグ・フォレストへとやってきた月牙達。

そこで謎の追跡者の正体――靄花の登場です。いやぁ、しかしお嬢様口調でちょっと馬鹿なキャラってのは喋らせてて楽しいです!

早くここまで挿絵描きたいものです。てなわけで、後半はさらに新キャラが出ます。

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