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第九話「光に襲い掛かる恐怖」・2

「ど、どうかしたのお婆ちゃん!?」


 いつもとは違う様子の祖母に何かを感じたのだろう。雷落がそう訊いた。


「確か、大昔にそのような伝説を聴いたことがあるのぅ」


「えっ? で、伝説って……お伽話じゃないんですか?」


「お伽話なんぞではない!! この話はあちこちで伝承されておるのじゃ。もしかすると、その伝承がどこかで食い違ってしまいお伽話なんぞになってしもうたのかも分からぬが、間違いなく伝説の戦士はお伽話などではないぞ!! よいか? そうなれば、確実に光属性であるあの子は危険になってしまう」


「光属性? そういえば、その連れて行かれた光蘭って言う子は伝説の戦士の一人なんですか?」


 血相を変えて真剣に話し出すお婆さんに、私達もただならぬ雰囲気を感じていた。


「うむ……。あれはもう随分と前の事、あの子――光蘭はまだ九歳の子供でなぁ。親がいないのじゃ!」


「親がいない?」


「そうじゃ。あの子は――」


 と、その時、突然静まり返る住居跡の中に、冷たい風が吹き込んで来たかと思うと、次の瞬間尋常じゃない魔力が私達の肌を通り過ぎた。


「うっ、こ……この魔力――ま、まさか!?」


 私はその魔力反応に覚えがあり、急いで外に飛び出した。乱火達も何事かと後に続く。

 外に飛び出した私は、ふと空を見上げた。すると、さっきまでモヤがかかっていた周囲の景色が嘘の様に一変し、辺りを綺麗に見渡せる状態に早変わりしていた。そして、聞き覚えのある不気味な声が、私の耳に入ってきた。


「フフフ、久しぶりだな斑希。まさか、あの状態で生きていたとは。さすがはあいつに似てしぶといな」


 そう、それは夢鏡王国とフレムヴァルト帝国の境付近で戦った相手――ファントムだった。

 空間が歪み、ついにファントムがその姿を現した。鎧に包まれたマントを羽織った一人の男。この男こそがファントムだ。以前会った時と変わらない格好をしている。


「まさか、あなただったとはね……」


「フフフ。久しぶりに俺に会えてそんなに嬉しいか、斑希?」


 ポケットに手を突っ込んだファントムは、着用している鎧を太陽の光に反射させ輝かせた。マントが風に揺れ、バタバタと音を出している。その異常な威圧感に、私はなかなか動けずにいた。すると、ファントムが私の後ろにいる乱火達に目を向けた。


「なるほど……。フェニックスの言うとおり、五人くらいの伝説の戦士がいるな。いや、お前も合わせれば六人か、雷落?」


「え、えっ? わ、私?」


 突然のファントムの言葉に、雷落はもちろん私達も驚いた。


「この子が、六人目の伝説の戦士?」


「何だ? 近くにいて気が付かなかったのか? 全く情けない。そのようなことではこいつもお前のことを認めてくれないぞ? なぁ……“光蘭”?」


「こ、光蘭ですって!?」


 雷落がその名前を聴いて慌てて前に進み出る。すると、ファントムの背後から一人の背の低い――これまた金髪の幼女が姿を現した。

 幼女は金色の瞳をしていて、金色の髪の毛を赤いリボンでツインテールに結んでいた。首には少し大きめの首輪を着けていて、目にも光が宿っておらず心がないような感じだった。私にはそれが危険な物だとすぐに分かった。間違いなく今の光蘭は危険な状態になっている。その証拠に、さっきから雷落が光蘭の名前を呼んでも返事がない。


「光蘭!」


 痺れを切らしたのか、雷落は光蘭の元へと駆けて行った。


「だ、ダメ雷落! その子に近づいちゃ――」


 必死に止めようとしたが、時既に遅しだった。


グサッ!!


 刹那――嫌な音が周囲に木霊した。

 ポタポタと土色の地面に真っ赤な血が滴り落ちる。それは、雷落の物だった……。


「そ、そん……な。こ、光……蘭、ど……どうして?」


 光蘭の手に握られていたのは一本の光でできた長剣。それはモロに雷落の背中を貫いていた。

 背中から突き出ている剣先と腹から見える刀身からは、真っ赤な血がどんどん重力に引っ張られて滴となって落ちて行く。


「もうこいつはお前の知っている光蘭ではないのだ。今は、この俺の所有物だ」


「ど、どういう……ことっ!?」


 ファントムの意味不な言葉に、雷落は体をフラつかせながらもしっかりと気を保ちつつ訊いた。


「この小娘に特殊な装置を取りつけたのさ。さっきから気になっていたのではないか? この首輪……」


「あっ!?」


 雷落を含めて私達は光蘭の着けている首輪に注目した。


「その首輪は俺達鎧一族が考案した物でな。まっ、それをお前達クロノスに作り出させたんだがな……」


 その言葉を聴いて、雷落は唇を噛み締め悔しがった。


「てっきりその首輪は、別の動物か何かに使う物と思っていたのに……。まさか、人間に使うだなんて」


「人間も立派な動物ではないか。そうだろう?」


 帯刀している剣に触れながらファントムはそう言った。


「くっ……」


「悔しいか? 悔しいなら、俺にお前の力を見せてみろ!!」


――この言葉。以前私にも言われた……。



 私はファントムの言葉に聞き覚えがあると思い、過去の記憶を振り返った。


「言われなくてもっ!!」


 そんなことを私が考えている内に、雷落が武器を持って動き出した。


「あっ、ダメ雷落!!」


 必死に止めたが、私のその声は雷落には聞こえていないらしく、ファントムの領域に踏み込んでしまった。同時に私は、一瞬ファントムがニヤリと口元に笑みを浮かべたような気がした。

 そして、私が止めに行こうと動き出した時にはもう遅かった。


「あんただけは許さないっ!!」


 決死の覚悟を見せる雷落は、剣を握ると足を強く踏み込み、刺されたとは思えない程の機敏な動きで宙にジャンプした。そして、重力加速度と自分の剣を振り下ろす力を用いて、ファントムに切りかかった。しかし、相手は最強四天王の一人。研究ばかりをしている、しかも少女などに負けるはずもなく、雷落は呆気なく敗北した。

 ヒュンッ! とファントムが剣を振るうと、その剣筋は綺麗に雷落の懐深くを抉り取る。


「ぐうぅっ!!?」


 と悲痛の声をあげた雷落は、血しぶきを噴き出しながら地面にそのまま叩きつけられた。

 結局私は、二度も雷落を救う事が出来なかったのだ。いや、最初に戦った時から私は、一度も誰も救えていないのかもしれない……。


――私は無力だ……。



 そう私は思い、顔を俯かせた。

 雲行きがだんだんと怪しくなり、雷がゴロゴロと鳴り出した。


「俺はここまでにして、後は二人でやり合わせるか……」


 ファントムは雷落にまだ意識があることに気付きとどめを刺そうとしたが、急に考えを改めた。そして、剣を鞘に納めると一歩後ろに下がった。

 私達は敵の様子をしっかりと見届けた。すると、ファントムがフッと鼻で笑い光蘭を一瞥した。


「お前が行け、光蘭」


 ただ一言、光蘭に指示を出すファントム。


「分かった……」


 光蘭はコクリと頷くと、自身が生み出した光の長剣を握った。


「覚悟して」


「や、やめ……て、光蘭。わたしは、あなたと――戦いたくないの……!」


 雷落がゆっくりとその場に立ちあがりながら光蘭を心配そうな眼差しで見つめる。

 が――。


「問答無用!」


 光蘭は雷落の言葉に耳など傾けず、自分の意思で攻撃を開始した。


「フフフ。光属性は敵に回ると厄介だが、味方だと相当な戦力になるな」


 ポケットに手を突っ込んで戦いを見物していたファントムは、ニヤリと笑みを浮かべながら言った。


「くそ! 何とかして止めねぇと!!」


 砕狼が雷落と光蘭のぎこちない戦いを見ながら悔しそうな表情を浮かべる。


「でもどうやって? 相手は雷落にとっては一番戦いにくい相手だし、殺す訳にはいかないわ!」


「そこが恐らく奴の狙いだ。雷落が死んだら、あいつにとっては邪魔者が一人減って好都合。だが、例え光蘭が死んでもあいつらにとっては天敵の属性戦士が一人減って好都合だ。だからこそあいつは、この二人を戦わせたんだ!」


 ファントムを一瞥しながら砕狼は私に説明した。


「それで、どうするんだ?」


 乱火が訊く。


「あの子を操っているのはファントム。そして、さっきから雷落と光蘭が戦っている最中に、何度もあの手首についている楔形の鎖が光っているの。だから、あれを破壊すれば恐らくは――」


 私はあくまでも可能性の話を二人にした。しかし、二人は同時に頷いてこちらを見た。


「やってみる価値はありそうだ!」


「そうだな……」


 そう言って二人は私の意見を肯定した。

 結局、ファントムの身に着けている楔形の鎖を破壊することが決定事項として成されることとなり、私達は武器を構えた。すると、その様子に気づいたファントムがこちらを見てきた。


「何だ、まさかお前が俺の相手をするというのか斑希?」


「そうよ!」


「無駄だと言っているのに聞き分けのない娘だ。仕方がない、来い斑希! 俺が直々に相手をしてやろう!!」


 ファントムはそう言って帯刀している剣ではなく、背中に背負っている鞘から大剣を引き抜き、剣先を私に向けた。


「ゆくぞ!!」


 一気にスピードをつけ、ファントムは私に向かって攻撃を仕掛けてきた。空中に勢いよく飛び上がり剣を振り上げるファントム。


「くっ!!」


 しかし私は、その攻撃をギリギリで何とか躱した。


「まだだ!」


 躱した私のいる方向に一瞬にして移動し私の背後を取ると、すぐに剣を振り下ろした。それによって出来た衝撃波は私の背中を鋭く切り裂いた。


ザシュッ!!


「ぐぅあああっ!!」


 私は背中というなかなか治療しにくい場所をやられ、杖を地面についてその場に膝をついた。ファントムを睨み付け、何とかしてあの鎖を破壊できないものかと画策していたが、なかなかいいアイデアが思い浮かばない。


「くっ!!」


 私は動ける範囲内で何度もファントムに攻撃をくわえ、向こうに攻撃の隙を与えないように努めてはいるが、それでも相手の方が一枚上手らしく、相手そのものにはダメージを一つも与える事が出来ない。


「フフフ。どうした、もうおしまいか? つまらん、全くこれだからお前は。少しはあの二人を見習ったらどうだ?」


 そう言ってファントムは一旦剣をおろし、私に雷落と光蘭の戦いを見せた。そこには、凄まじい光景が広がっていた。


「はぁ、はぁ……お願い光蘭。目を……目を覚まして!」


「フフフ……見ろ、あの血まみれの姿! お前には到底真似出来まい? あの娘は自分がどうなってもいいという覚悟で光蘭の攻撃を受けている。全く、血が繋がった姉妹というわけでもないのにご苦労なことだ」


 ファントムはそう言って二人の戦いを嘲笑うと、瞬時に私の後ろに回り込み私の首根っこを掴んだ。


ガシッ!!


「ぐぅっ!?」


「お前にもその痛みを味あわせてやる……。せいぜい、堪能するがいい!! くらえッ!!!」


ビリッ、バチッ! バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!


「きゃああああああああああああああああああああああっ!!!」


 ファントムの手から流れ出した電撃は、私の体に勢いよく流れ込んで来た。


「うっ、う……ぐっ!」


 電撃を流し終えると、ファントムは私を用無しの物扱いで振り落した。


ドサッ!


 私は体に痺れるような違和感を感じ、手が震えてなかなか地面に落としてしまった杖を拾う事が出来ない。


「くっ!」


 何とかして武器を取ろうと試みた私は、反対の手で必死に杖を取ろうとした。

 刹那――隙だらけの私にむかってファントムが剣を振り上げた。


「ま、まずい……殺られるっ!!?」


 咄嗟に私は逃げ出すことよりも目を瞑ることを優先してしまった。しかしそこへ、ついに乱火が加勢に加わってくれた。


「やめろぉぉぉぉぉお!!」


ガキンッ!!


 金属同士のぶつかり合う音。


「フッ、やっとお出ましか。だが、今更何人増えようと変わりはしない!」


 ファントムは剣を地面に突きさし、両手を左右に振り上げ構えた。


「お前ら全員に、俺のとっておきの電撃をくらわしてやる!!」


 ニヤリと白い歯を見せて何かを企んでいるかのような笑みを浮かべたファントムは、言葉を発すると同時に手から少量の電撃を放電した。その電撃は尋常じゃない威力を誇っており、周囲の木々をあっという間に燃やし尽くした。

 と、その時、私は炎で自分たちの姿が相手から見えていないことを確認した。そして、これしかもう方法が無いと思った私は、杖を変形させて先の尖った棍の様にすると、一気に炎の中に突っ込んでファントムの元へと猛スピードで移動した。

 その時、私はファントムが電撃を放電するために剣を地面に突きさしていたことを見逃さなかった。炎の中に突っ込んだ私は、予定通りファントムのすぐ目の前に現れた。


「な、何ッ!?」


 さすがのファントムも油断していたのか、剣を地面からすぐに抜くことが出来ず、無防備な体のままで私に切られた。無論、以前の様な(てつ)は踏まない。武器に薄い陽属性の魔力を纏わせて、ファントムの腹部に狙いを定めて杖を突き刺した。

 刹那――パリンッ! と杖の先端が腕の楔を(かす)め、そのままファントムの腹部に突き刺さった。


「ぐぅふぉおがァアアァァアアアアアッ!!!」


 ファントムは反動で後ろに倒れ込んだ。


「ぐはッ!! ぐっ、……ぐぅうう! おのれぇ~斑希、き、貴様ぁぁああッ!! こ、光蘭!雷落は後回しだ!! 先にこの女を殺せぇえええええッ!!!」


 ゆっくりと立ち上がったファントムは、血まみれの姿で私を振るえる手で指さした。すると、煙の中から何かが飛んでくる音がした。

 ヒュンッ! という風が切れる音と共に勢いよくファントムのアイアン・アーマーを貫いたのは、光蘭の放った光の矢だった。その証拠に、煙が晴れると、そこには弓を握った光蘭の姿があった。

 一方、ファントムは放たれた矢の威力によって反動を受け、そのまま傍の木に背中を強く打ちつけた。


「こ、光蘭!? な、何故だ? 何故、この俺の命令を聴かないッ!?」


「あなたの腕、よく見てみなさい?」


 私はしてやったりと言った表情を浮かべてファントムの腕を指さした。私に言われたファントムは、ふと慌てた様子で腕を見てみた。すると、あの楔形の鎖が消えていた。


「し、しまった!! き、貴様……ハナからこれが目的でッ!?」


「当たり前でしょ?」


 えっへんと言った顔で腰に手を添えて、私は上から目線でファントムを見下ろした。


「くそ、俺としたことが油断――した……か!」


 ファントムが掠れた声で言っていると、正気を取り戻した光蘭が歩み寄ってきた。


「な、何の……マネだ!?」


「あなたにやられた仕返し!!」


 そう言って光蘭は光の矢の束を収束すると、至近距離から勢いよくそれを放った。


「や、やめろ……や、やめろぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


ビュンッ!! ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスッ!!!


 深く突き刺さる音と共にファントムの悲鳴は聞こえなくなった。


「や、やった!?」


「や、やったぁああああっ!!!」


 私達は歓喜の声をあげ互いに喜び合った。

 と、その時、突然空間が歪み何者かが現れた。それは、凸凹山で会ったファントムと同じく最強四天王の一人――フェニックスだった……。

というわけで、無事ファントムを倒した斑希達。いやあしかし、四天王の一人を金髪幼女が倒してしまうとは。幼女最強ですね。

ちなみに、光蘭は今後でもどんどん著しい成長を遂げていきます。

また、これで斑希は仲間が七人に増えるわけです。

そして、ファントムを倒したと思いきや、そこに現れるフェニックス。まさかの二戦目か……!?

てなわけで次回は少し斑希の話をして、月牙チームに移ります。

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