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第九話「光に襲い掛かる恐怖」・1

 エレゴグルドボト帝国の一部に広がる住居跡。

 ここには、生き残っているエレゴグルドボト帝国の一部の住人が住居跡に住んでいると言われている『サンダルコ街跡』。

 生き残っているというのは、この場所の近くにある『クロノス秘密研究所』から漂ってくる有毒ガスを吸って大量の人間が死んでしまったからである。また、そのガスは勢いを留めることを知らず、周囲の木々の生態を変化させ人々をどんどん殺した。それにより、この場所にはほとんどの人間が住んでいないのである。無論、クロノスの研究員達に責任問題が問われたが、エレゴグルドボト帝国の王であるオルガルト帝が全てを裏回しして不問にしたせいで、クロノスの研究員は責任を問われることは一切なかった。また、この事を元にクロノスの研究員は、鎧一族との協定を結び、研究所の一つを鎧一族の砦の地下に造ったと言われている。

 そんな住居跡の一つから、一人の老婆が姿を現した。

 老婆は森の中に入って行き、突き当りの川で洗濯をしていた。朝方の冷たい川の水に老婆のしわくちゃの手が震えていた。

 洗濯が終わり、衣服などから余分な水分を落とそうと絞っていると、その手の指先が真っ赤になっていた。すると、ぴゅ~っ! と寒い風が吹いた。


「うぅ、随分と寒いのぅ。全く、近頃は異常気象が続いておっかないのぅ」


 老婆は未だに見えぬ曇り空を眺めながら呟くと、体を震わせながら足早に住居跡に戻って行った。


――▽▲▽――


 サンダルコ街跡近くに、鎧を身に着けた鎧一族の最強四天王の一人――ファントムが姿を現した。


「ここの近くに光属性戦士がいるのか」


 一人で呟いたファントムは、顔から鎧の兜を取り外すと、耳に着けていた機械を操作しメガネの様な物を作り出した。それはレーダーの様な物で顔にかかっており、ファントムの視線から見ると何か座標の様なものが映っていた。

 ファントムが耳に着いている丸い物体に触れると、ピコンと音が鳴って緑色の画面に網目状に白い線が入った映像に、一つの点滅する点が出現した。


「こっちか」


 ファントムはレーダーの反応を頼りに先に進んだ。

 しばらくして住居跡に着くと、ファントムは周りを見渡した。すると、一つの住居に目が行った。


「あそこか」


 レーダーと実際の場所を照らし合わせ、その場所に少しずつ歩み寄って行くファントム。中に入ろうと一歩を踏み出したその時、先程川で洗濯をしていた老婆が姿を現した。老婆は目の前に男が現れてふと顔を上げた。そして、同時にその顔を見て表情を一変した。


「な、……お、お主は!?」


「貴様ではない」


 そう言ってファントムは手を老婆に振りかざすと、その老婆を吹き飛ばし中にズカズカと踏み込んだ。


「イタタタ……あんた、鎧一族だね? こんな所に何の用だい!? まさか、またあたしらを殺しに来たのかい!?」


 老婆はフライパンを両手で強く握りしめ、ファントムに向かって叫んだ。


「俺が用があるのはババアではない、若い娘だ。光属性戦士『明見(あけみ) 光蘭(こうらん)』がここにいるのは間違いないのだ」


「あ、あんた。まさかあの子を!? っく、そうはさせないよっ!!」


 フライパンを高く振り上げた老婆は、ファントムに殴り掛かった。しかし、所詮はただの鉄くずを少しばかり改良しただけの物。特殊加工を施された特別性のアイアン・アーマーの鎧には全く歯が立たなかった。バコンッ!! と音を立てたフライパンは、ファントムの鎧に当たると同時に変形した。


「な、何っ!?」


「ババアは引っ込んでいろ!!」


 罵声を浴びせ、同時に老婆に向けて波動を打ちこむファントム。

 老婆はそのまま波動を打ちこまれて壁に叩きつけられた。


「ぬわぁっ!?」


 背中から全身へと伝わる激痛。そのあまりにもの痛みに老婆は気を失ってしまった。


「ふんっ、最初から邪魔をしなければいいものを……」


 鼻で笑ったファントムは、そのまま気絶している老婆の脇を通り、階段を一段一段上がって行った。その先の二階の廊下で、ファントムは三枚の部屋の扉を見つけた。しかし、レーダー反応ですぐに目的の人物がいる場所を特定し、その扉の前に立った。


「ここだな」


 一言そう呟くと、一呼吸おいて取っ手にも触れずそのままドアを鎧を身に着けた足で蹴破った。

 そこには、ふかふかのベッドに入って気持ちよさそうにスヤスヤと寝ている一人の金髪の幼い少女がいた。年齢的には九歳くらいであろうか……。そんな感じの容姿をしていた。しかし、ファントムはそんな幼女に対して何の感情も持たないのか、そのまま首輪を取り付けようと動いた。

 と、その時、ファントムに一つの通信が入った。


〈ファントム、今すぐ戻れ! 伝説の戦士がこちらに向かってる。そのため、これから作戦会議を開くことになった。至急光属性戦士を連れて砦に戻れ!!〉


 フェニックスからの通信を受けたファントムは、チッと小さく舌打ちした。


「分かった、すぐに戻る……」


 相変わらずの抑揚のない声でファントムは通信を切った。


「そろそろババアが起きる頃だからな、急いで連れて行くか」


 掛け布団を取り払いながらそう呟いたファントムは、寝間着姿の光蘭と思われる幼女を抱きかかえた。しかし、そこにさっきの老婆が飛び込んできた。


「待てぃ、あんたに光蘭は渡さないよっ!!」


「もう手遅れだババア。悔しかったらかかって来い! だが、所詮貴様には無理だ。特別な力を持たぬ貴様にはな……。この娘はしばらく預からせてもらう。ではな、はっはっはっはっはっは!!!」


 光蘭を脇に抱えたファントムは悪役染みた高笑いをすると、もう片方の手を上空に掲げ手から砲撃を放った。

 破壊される天井。同時にファントムは高く飛び上がり、穴が開いた天井から脱出すると何処かへと姿を消した。


「ま、まずいことになってしもうた。ら、雷落に……雷落に連絡しなければっ!!」


 老婆は穴の開いた屋根から空を見上げながらそう言った。


――▽▲▽――


 鎧一族の砦、広間……。

 外の景色とは全く異なり、青空の天井ではなく鉛色の淀んだ天井が広がっている。しかも、外とは違ってとても暗く、こんな場所でテレビでも見ればあっという間に目が悪くなりそうな程だった。

 そこに、三人の鎧姿の男達。すると、一か所の空間が歪み、光蘭を抱きかかえたファントムが姿を現した。


「おう、戻って来たか!」


 フェニックスがファントムの帰りを熱く迎える。


「ああ。それで、伝説の戦士がこちらに向かっているというのは本当か?」


「ああ! ほら、これを見ろ!」


 帯刀していた剣を下しながらファントムがフェニックスに訊ねると、円形型の台に広げられた布に映った地図と五つの光る点をフェニックスが指さした。


「これは?」


「この五つの点が属性戦士だってよ!」


 赤いソファに横になりながらフェニックスが答える。


「なるほど。あいつらがまさかこんなところにまでやってくるとはな。まぁいい、こいつを使うまでだ。あの女もこいつには手を出せない」


 何かを企んでいるのか、ファントムは光蘭をソファーに仰向けに寝かせると、光蘭の細く白い首に首輪を取りつけた。

 刹那――カチッ! という音と共に光蘭が目を覚ました。


「な、何!?」


 光蘭は自分の身に起きていることに訳が分からず、抵抗することが出来ずにそのまま首輪の鍵を着けられてしまった。同時にファントムの腕に楔形の腕輪が出現――抜けない状態になった。


「フフフ、これでお前は俺の物だ」


 ファントムのその不気味な笑い声に、フェニックスは一瞬その後ろ姿がオメガに似ているように感じた。


「さぁ、お前の目的は簡単だ。これから、このエレゴグルドボト帝国のサンダルコ街跡に伝説の戦士が現れる。そいつらを殺すことがお前の目的だ……」


「伝説の……戦士? なにそれ……っていうか、なんでわたしが殺さなきゃいけないの? わたしは絶対にそんなことやりたくないっ!!!」


 光蘭は腕組みをしてそっぽを向いた。


「フンッ! 聞き分けのない小娘だ……。ならば、無理やり言う事を聴かせるまでだ」


 そう言ってファントムは片手を自分の顔の前辺りまで上げると、パチンと指を鳴らした。その瞬間、パチン! という音と共に水色の火花が散り、光蘭の体に向かって膨大な電撃が走った。


ビリッ、バリバリバリバリッ!!!


「きゃあああああああああっ!!!」


 光蘭は突然の電撃に油断し、モロにその攻撃をくらった。電撃が止むと、光蘭は小動物の様に体操座りをして、ガクガクと体を震わせ目じりに涙を浮かべた。

 その表情はまさに目の前の男に対して畏怖しているように見えた。


「い、痛いよ……」


「痛いのが嫌なのであれば、俺の言う事を聴け!」


 ファントムは非情な眼差しを光蘭に向けた。しかし、光蘭はなかなか縦に頷かない。

 そこでファントムは、腕についた楔形の鎖をグルグルと回転させながら手のひらに電撃をため込んだ。すると、それを見て光蘭は顔面蒼白となって震えながら声を弱弱しい声を発した。


「わ、分かった、分かったよ! 分かったから、お願いだからその雷を消して……」


 怯えるあまり、震えた声で光蘭はファントムに懇願した。


「ふん、分かればいいんだ」


 ファントムはニヤリと笑みを浮かべると、光蘭を連れてサンダルコ街跡へと瞬間移動した……。


――▽▲▽――


 私――斑希は、黄金の地図を頼りに伝説の戦士を探そうとエレゴグルドボト帝国のサンダルコ街跡に来ていた。


「ここは随分と空気が淀んでいますね」


 私よりも幾つか年上らしい僧の格好をした癒宇さんが、その袖で鼻を押さえながら言った。


「やっぱり、森や草なんかの草植系属性にとってはこの空気はさすがにきついんですか?」


「そうですね。わたしくらいになれば幾らか耐性もつくのですが、まだ幼い子供には相当キツいはずです」


 癒宇さんの答えを聴きながら私は薄汚れた視界に目を細めながら前へと進んだ。


――幼い子供。葡豊は大丈夫かしら? まぁ、幼い子供という訳ではないから大事(だいじ)には至らないと思うけど。



 と、その時、私が考えていた傍から葡豊が倒れた。


「おい、大丈夫か葡豊!?」


 葡豊の少し後ろを歩いていた乱火が慌てて駆け寄る。


「う、うん……少し眩暈(めまい)がしただけ」


「少し休んだ方がいいんじゃねぇか?」


 その様子を見ていた砕狼が私に提案する。


「そうね」


 私は辺りを見回し、何処か休める場所が無いかどうか目で探した。しかし、視界が汚れていてなかなか遠くの方が見えない。すると、モヤのかかった視界の先に荒れ果てた住居を発見した。


「とりあえず、あの住居跡に行きましょう!」


「そうだな」


 乱火は癒宇さんと葡豊を誘導して住居跡に連れて行った。

 住居跡に到着した私は、さっそくその住居跡に入ろうと思った。しかし、そこで見知らぬお婆さんが私達に襲い掛かってきた。


「きぇええええええ!!」


「きゃっ!!」


 慌てて私は後ろに飛びのいてその攻撃を躱した。よく見ると、お婆さんは相当警戒していた。手に握りしめられたフライパンは少し変形していた。だが、それが地面に当たって変形した物ではないということはすぐに分かった。そして私は、ここに既に一度誰かが来たのだということを瞬時に理解した。


「また、性懲りもなく来おったな!?」


 お婆さんの叫び声を私は必死に(なだ)めた。


「落ち着いてくださいお婆さん! 私達は何も、あなたを襲いに来たわけじゃ――」


「黙れぇいっ!!」


 そう言って私が抵抗するお婆さんの動きを止めようとした瞬間、お婆さんが持っていた木の棒で襲い掛かった。しかし、間一髪の所で砕狼が助けに入り、その攻撃を防いだ。


「っぶねぇな~、大丈夫か?」


「あ、う……うん。ありがとう」


 私は体勢を立て直しつつ、心の中で一瞬ぼ~っとしていた。


「心を落ち着かせてください。わたしたちは旅の者でございます」


 癒宇さんが汗を大量に溢れ出させながら必死に説明した。相当キツいのだと思う。確かに、私もさっきから少しばかり息苦しい。


「……いや、違う。……そなた達は、はっ!? わ、わしは……何と言う事を! そなた達は敵でもなければ旅の者でもない」


「えっ?」


 お婆さんの言葉に私は目を丸くした。


「そなた達も特別な力を持った人間じゃな?」


「ど、どうしてそのことを? しかも、“も”って?」


 もしかすると、敵に関係のある人間かもしれないと思って私は警戒した。しかし、私のその表情に気付いたのか、お婆さんは笑顔を浮かべて言った。


「な~に、心配せずともわしはそなたらの敵というわけではない。わしの孫の魔力とそなたらの魔力が似ておったから、もしやと思っただけじゃ……」


「孫? そのお孫さんは、何か特別な力を持っているんですか?」


 先程の“も”ということが、その孫ということを表していることが分かった私は、そのことをお婆さんに訊ねた。また、さっきから魔力の波動を近くから感じていた。

 これが今話している人の物かもしれないと思ったことも、お婆さんに訊ねたことに絡んでいる。


「一人は本当のわしの孫なんじゃが、もう一人は――」


 お婆さんが最後まで言おうとしたその時、入口から誰かが入ってきた。


「ただいま! はぁ、はぁ……お婆ちゃん、光蘭が連れ去られたって本当なの!?」


 息を乱しながら入って来たのは、一人の少女だった。その少女は額に透明のゴーグルをかけていて、真っ白な白衣を着ていた。髪の毛はショートヘアで、金色の髪の毛をしている。


「お~雷落! ようやく戻って来たか。実は、朝方に鎧一族の男があの子を連れ去って行きおって……!!」


「よ、鎧一族の男!?」


 その言葉に私は異常に反応した。


「なんじゃそなた、鎧一族を知っておるのか?」


「いえ。ただ、ここに来る以前に少し戦った関係でして」


 私は少し俯き気味に言った。その鎧一族に負けた上に瀕死の重傷を負わされたため、私には少し悔しさが残っていた。いつか必ず倒す、その気持ちを持って……。


「ていうか、さっきから思ってたんだけど、誰なのこの人達? この辺りじゃ見かけない人達だけど……?」


 雷落と呼ばれる少女が腰に手を当て私達を一瞥しながらお婆さんに訊く。


「旅の者だそうじゃ……」


 その“旅の者”という言葉を聴いて、私は一つ引っかかった。

 どうしてお婆さんは私達を旅の者ではないと知っておきながら旅の者と雷落に言ったのか。恐らく、それには何かしらの理由があるのだろうと思いながら私はそのまま黙っていた。


「ふ~ん。って、それよりも……もしも光蘭が連れて行かれたんだとしたら、またあの時みたいに殺されてしまうんじゃ!?」


「殺される?」


「それは、あまりいい言葉ではございませんね」


 葡豊と癒宇さんが疲れた体を休めながら言った。


「あら? そういえば、見た所あなた達リーヒュベスト帝国の住人みたいね。ここの空気はあまりあなた達にとってはよくないでしょ? このマスクを顔に着けて? そうすれば、少しは状態がよくなるはずだから」


 そう言って雷落は荷物からマスクを取り出しそれを二人に手渡した。


「ゴホゴホ、ここの空気は……どうしてこれほどにも汚染されているのですか?」


 癒宇さんが咳をしながら相変わらずの丁寧な口調で訊いた。


「この近くに私の働いているクロノス秘密研究所っていうところがあるんだけど、そこから出される排出物が何らかの影響を出してるんだと思うわ。幼い頃からここに住んでる私達にとっては、ここの空気の汚れにはもうすっかり慣れてるんだけど、あなた達みたいな旅人にはとても耐え切れるものじゃないわ。だから、あなた達もこのマスクを着けて?」


 私達はその話を聴いて、急いでそのマスクを装着した。私は、そのマスクを装着しながら光蘭という少女を何とかして助ける事は出来ないかと考えた。


「私達も手伝うわよ?」


 突然の私の言葉に少し戸惑った様子の雷落だったが、すぐに踵を返して背を向けた。


「あなた達には無理よ。何せ、相手はあの四帝族の内の一つである鎧一族。とても歯が立つような相手じゃないわ」


 首を振りながら否定の声をあげる雷落。しかし、その既に気迫だけで諦めて負けを認めているような言葉に私は言った。


「言っておくけど、私達はこれでも特別な力を持つ伝説の戦士なのよ?」


「伝説の戦士じゃと!?」


 私の言葉に驚いたのは、雷落ではなくお婆さんの方だった。

 突然声をあげるお婆さんに雷落も驚いて目を丸くした。

というわけで、日をまたぐことになりましたが更新です。

始まって早々に幼女ではなく老婆が登場です。しかし、元気な婆さんです。

最強四天王の一人であるファントムに向かってフライパンで挑むとは!

まぁ、フライパンで適うはずもなく、ひしゃげてしまいましたが。

そして、登場した幼女の光蘭。さらに、その幼女に向かって電撃を浴びせる

ファントム。鬼畜野郎ですね。

てなわけで、後半はバトルです。

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