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第八話「鎧一族の皇帝」・2

「んじゃあ、やっぱこの二人は伝説の戦士なのか?」


「ええ、間違いないわ! ここまで説明したんですから、二人とも私達について来ていただけますよね?」


「……分かりました、力を使える事には変わりありません。本当に役に立つのかは分かりませんが、必要だというのであれば力を貸して差し上げましょう! なにせ、困っている人を助けるのがわたしの使命ですから」


 そう言って癒宇さんは目を(つぶ)ってふっと口元に笑みを浮かべると、扉を開けて出て行った。

 

――▽▲▽――


 ここはエレゴグルドボト帝国にある鎧一族の砦。

 その中の暗がりの通路を歩いていく全身に鎧を身に着けた一人の人物がいた。

 その人物は、カチャカチャと鎧の音を立てながら天井付近に大きな蜘蛛の巣が張り巡らされている通路を歩いて行った。

 一番奥に来ると、左右の壁に青白いロウソクの灯が漂い、目の前には大きな扉がある場所に到着した。不気味な淡い炎の光がその人物の鎧を明るく照らす。

 紫色の扉の金具に手をかけ扉を開けたその人物は、黙ったまま中へ入って行った。足元には真っ赤な血の様な色をした絨毯(じゅうたん)が敷かれ、そこを進んでいくと何段もの階段があった。それを上がって行くと、金色に光り輝く椅子にこれまた鎧を身に着けた男が座っていた。


「ぬし……、ここへ何をしに来た?」


 椅子に座っているマントを羽織った男が、目の前に立っている男に向かって訊く。


「ボス、ファントムの報告によりますと、伝説の戦士がついに動き出したようです」


 図太い声で男が片足を床につけて椅子に座っている男に言った。しかし、その男は鼻で笑って言った。


「ふんッ! そんなことは解っている。わしは、ぬしが何故わしの目の前にいるのかと訊いておるのだ!!」


 マント姿の男が片手に持っていた透明のワイングラスに力を込めて粉砕した。パリン! という音と共に、床に真っ赤なワインが血の様に零れた。赤い絨毯にワインが染み込み、不気味な色を醸し出す。


「そう声を荒げないで下さい」


「黙れスパイダー!! ぬしはわしが手に入れた玩具を解放したであろう!! それに、ぬしはわしの王の座を狙っているのも知っておる!! だが、そうはいかぬのだ!!」


 椅子から立ち上がった男は、兜の瞳部分に開いた穴から覗かせる紅蓮の双眸でスパイダーと呼ばれる男を睨み付けた。


「だったら、もうこんなうざったい敬語は使わなくてもいいな」


 スパイダーと呼ばれる男は、さっきまでの敬語を止め普通の言葉で話し始めた。


「オルガルト帝。あんたの言うとおり、俺はあんたの玩具を逃がした。だが、あれは玩具などではない! 人間だ!! それを玩具の様に扱うあんたの態度に耐えられなかっただけだ!!」


「それが気に食わんのだ!!」


 大きな広間に響き渡るオメガの怒声。


「俺はあんたのやり方がどうも気に食わん!! ……何故だ、なぜあいつをあんな姿にしたんだ!!」


「フンッ、そのことか。そんなこと、ぬしが一番よく知っておるだろう? あやつは秘密を知りすぎた。だからこそ当然の仕打ちをしたまでのことだ!! だが、わしとて後悔していないわけではない。あやつは大事な鍵だったからな。失った今となっては、後悔が後を絶たぬ」


 オメガはリラックスしてそう言うと、再び椅子に深く腰掛けた。


「ぬしに面白い物を見せてやろう。これを見れば、ぬしも四族だのなんだのと言っていられなくなるぞ? ふっふっふ……」


 不気味な笑い声を出し何かを企んでいる様子のオメガはスイッチを押した。すると、床に長方形の穴が開き、そこから一人の少女が姿を現した。赤髪に黄色の瞳を持つ少女は、その髪の毛をツインテールに束ねていた。首には謎の首輪を着け、その鎖の先端はいつの間にかオメガの手に握られていた。


「こっちへ来い、“鈴華”」


 その言葉を聴いた途端、スパイダーは目を見開いた。


「す、鈴華だとッ!? バカな、あの四帝族の一つ鳳凰一族の鈴華が何故ここに?」


「わしが招待したのだよ。と言っても、もうあれから七年は経つがな……ふふふふ」


 オメガはそう言って鎖を強く引き、鈴華を急かした。


「ど、……どうぞ」


 鈴華が恐る恐る震える手でワインの入ったグラスを手渡した。

 その時、スパイダーが鈴華の着けている首輪を見て驚愕した。


「そ、その指輪!?」


「ほぅ、ようやく気が付いたか。その通り、これはぬしらが考案し『クロノス』の『レイヴォル=カオス=フィグニルト』が作り出した心を封印し鎖の先端を持つ持ち主が自由自在に操ることが出来る鎖……『奴隷の首輪(カラー・スレイヴ)』だ!!」


 ワインの入ったグラスをユラユラと揺らしながら少しずつそれを飲むオメガ。顔から兜を外して飲んでいたが、そのワインを見つめる瞳は何かを企んでいるとしか思えない感じがした。


「くッ!! なんて奴だ、七年間もそんなことをすれば心がどうなるか分かっているのか? しかも、相手はまだ十四歳の少女だぞ!?」


「だからなんだと言うのだ? こやつもまた、わしにとってはただの玩具に過ぎぬ。鳳凰一族の鈴華。こやつはただの人間に非ず、巫女族だ……」


「み、巫女族……鳳凰一族の帝王が?」


「そうだ……。まぁ、今回の目的はそればかりではない! 逆に四帝族の内の一人である鈴華がわしらの手の内にあれば、鳳凰一族の者共を操る事も容易(たやす)い。それに、鳳凰一族は武器の丈夫さでも有名であるからな。戦闘用人員としても十分に役立つ! くっくっく」


「き、貴様ぁああああッ!!」


 スパイダーは拳を握りしめ、今にもオメガに殴り掛かりそうな怒気の含まれた表情を浮かべていた。唇を噛み締め、獣の様な目つきを取るスパイダー。


「悔しいか、悔しいか? 悔しかったらわしを殺してみろ!! だが、そうすればぬしもあやつと同様、心を失くしたただの人形へと変えるだけだがな。くっくっく、ふっはっはっはっはっは!!!」


 我慢しきれなくなったスパイダーは、ついにオメガに向かって駆けて行き、重い拳の一発をくらわした。

 鎧を身に着けた拳が老いたオメガの頬に勢いよく直撃した。

 鈍い音が鳴り、ドシャッ! と椅子から落ちてそのまま地面に叩きつけられる音がした後、しばらくの間沈黙の時が過ぎた。


「スパイダー……ぬし、自分の立場が分かっておるのか!?」


「ふん、今日の所はそれぐらいで勘弁してやる! だがな、次にあんたのところに来た時は、身の危険を感じておいた方が身のためだぞ? じゃあな」


 スパイダーは殴った方の手をもう片方の手で擦った後、ポケットに手を突っ込みオメガのいる部屋を後にした。


「おのれェ~、スパイダーめッ!! ……まぁいい。鈴華、この鬱憤(うっぷん)はぬしの体で晴らさせてもらうぞ?」


「……ぁ。い、いや……いやぁあああああああああああああああああああああっ!!!」


 鈴華の悲鳴が薄暗い部屋中に響き渡った……。


――▽▲▽――


 鎧一族の砦広間……。

 青いロウソクの灯りに照らされて淡く光っている部屋に、三人の鎧姿の男がいた。

 壁によりかかっている男と、椅子に座って足を組んでいる男と、赤いソファーに横になっている男。その中の一人、ソファーに横になっている男が椅子に座っている男に話しかけた。


「なぁ、ファントム。お前に訊きてぇことがあんだけどよ」


「何だ?」


 ファントムが気だるそうに返事をする。


「実は伝説の戦士のことなんだが……」


 少し荒い言葉遣いの男の言葉にファントムが頭を小さく動かした。


「あいつらが……どうかしたのか?」


「ボスの命令であいつらを集めるのを手伝えとか何とか言われてよ。どうすりゃいいと思う?」


「ボスの言うとおりにすればいいのではないか?」


 あっさりとそう返すファントム。


「確かにそうだが、どうもオレはあいつの言葉を信じちゃいけねぇ気がしてな」


 ソファーに横になったままそう呟く男。

 と、その時、突然広間の入口から声がした。


「その通りだフェニックス。あんな奴の言う事など聴かんでいい!」


 その野太い声の持ち主は、先程鎧一族の帝王であるオメガの部屋にいたスパイダーだった。


「スパイダー。今まで何処に行ってたんだ?」


「少し、あのクソジジイと話をしていただけだ。あいつ、ついに四帝族のトップに手を出しやがった」


「どういうことだ?」


 率直な疑問を投げかけるファントム。すると、それに答えるようにスパイダーが口を開いた。


「鳳凰一族の現当主であり、フレムヴァルト帝国の帝王である鳳凰鈴華を奴隷にしてるんだ」


 椅子にドスンと荒々しく座りながらスパイダーは言った。


「本当か」


 ファントムが抑揚のない声で立ち上がり言った。感情はそこまで篭っていないものの、その場に立ち上がるほど、鳳凰鈴華が奴隷にされていることに驚いたようだ。


「ああ。あいつがやりそうなことだ。恐らく、鳳凰一族を操って強力な武器を手に入れようという魂胆だろう。まぁ、鳳凰一族のいるフレムヴァルト帝国は、武器の丈夫さではピカ一の場所だからな」


「ナ~ル。確かにそいつは頷けるなぁ! だが、そんなんでわざわざ鳳凰一族のお嬢さんを手駒にするか? 普通」


 信じられないと言う風に首を振りながら手を振る男。


「それがあのクソジジイのやり方だ」


「まぁ確かに、伝説の戦士が俺達の計画に邪魔なのは確実だ。その中でも一番厄介なのが、光属性。しかも、俺達のすぐそばにいやがる! ……サンダルコ街跡にな。全く、普段の俺達なら速攻消すところだが、生憎そういうわけにもいかない。俺達にとって光属性は天敵とも言える存在。そこでこいつを使う」


 そう言ってスパイダーは懐から何かを取り出した。


「そ、それは!?」


 言葉遣いの荒い男――フェニックスが驚きの声をあげる。

 スパイダーの手に握られていたのは、ついさっき鈴華が首輪に着けていた物と同じ首輪だった……。


「これを光属性戦士に装着させるんだ。そうすれば確実に光属性戦士を倒すことが出来、俺達の邪魔な存在はいなくなる。さて、誰が行く?」


 スパイダーが腕組みをして三人に訊く。


「では、俺が行こう」


 そう言って椅子から立ち上がって前に進み出たのは、斑希や月牙と戦い、斑希を瀕死の重傷にまで追いやった男――ファントムだった。

 ファントムはそばに置いていた五本の剣をそれぞれ腰と背中に帯刀し拳をギュッと握りしめると、スパイダーから首輪を受け取った。


「おぉ、やってくれるのか?」


「別に構わん。それに、丁度暇だったことだしな……」


 マントを羽織り準備を整えたファントムは、首輪を片手に持って踵を返した。


「では行ってくる」


 そう言って他の三人の目の前から姿を消した。


「……んじゃあ、オレはどうすりゃいい?」


「そうだな、フェニックスはゴウストの見張りでもしていろ」


 フェニックスの言葉にスパイダーはふんっと鼻で笑って再び元来た道を戻って行った。


「うぇえ~、マジかよぉ~! ったく、何でよりにもよってこのオレがゴウストの見張りなんだよ。普通こういうのは下っ端の役目だろーが!!」


 頭をかきながらフェニックスは一人で愚痴をこぼし、さっきから壁によりかかったまま無言状態を続けている男を一瞥した。そして、同時にフェニックスは嫌な顔をした。

 どうやら、この男がゴウストという名前らしい……。


「まぁいいや! こいつは心がねぇんだ、ほっといても大丈夫だよなぁ」


 そう言ってフェニックスは顔から兜を脱ぎ側にあるテーブルに置くと、そのまま眠りに就いてしまった……。

というわけで、登場した鎧一族。ここで、最強四天王も全員出してみました。まぁ、若干一名喋っていませんがその理由も一族の人間の台詞をよく見てみるとわかるかもしれません。そして、登場早々にボスは部下からの信用失ってますね。まぁ、これも後後大変なことに繋がるわけですが。

てなわけで、四天王が言っていた通り、次回は光属性戦士が出ます。ちなみに、ちっちゃいです。何故か光属性は初代も六代目も幼女です。理由はわかりません。

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