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第八話「鎧一族の皇帝」・1

 どれほど上っただろうか。あまりにも過酷な事に、既に階段の一歩を上がるだけでも相当な体力を消費していた。今日はそこまで暑くはないのだが、私達は凄く大量の汗をかいていた。


「まだ着かないのか~?」


「すっげぇ暑いな……」


 階段を上りながら砕狼や乱火が音をあげる。


「もう少しだから頑張って!」


「せめて、風属性のやつや涼しい感じの属性の奴がいてくれればな」


 乱火がしょうもないことを口にしながら階段をゆっくり上がっていく。


「ほら、冥霊寺の屋根瓦が見えてきたからもう少しだよ!」


 葡豊が、年老いた老人の様に猫背になっている乱火と砕狼の二人を元気づけるように言う。

 そして、それから数分後――。

 ようやく私達四人は冥霊寺の入口に辿りついた。見るからに趣有りそうな木の扉。その扉には、金属の輪っかが取り付けられており、それを使ってノックする仕掛けになっていた。


「ハァハァ、んじゃあ……入るぞ?」


「え、ええ……」


カツンカツン。

 金属の輪っかが木製の戸に打ち付けられる。それが中の人に客人が来たことを伝える。すると、分厚い木製の扉が音を立てながらゆっくりと開いた。そこから見るからに坊さんだなと思わせる坊主頭の人がひょっこりと顔を出した。


「はい、どちら様でしょうか?」


 綺麗な言葉づかいで訊ねるお坊さん。


「すみません、あの……お兄ちゃんに会いたいんですけど」


 葡豊が一歩前に進み出て言った。すると、坊主頭のホウキを持ったお坊さんが、話しかけてくる少女の顔を見るや否や、何かに気付いたのかホウキをその場に置いて誰かを探しに行った。

 しばらくして、さっきの坊さんが一人の青年を連れて戻ってきた。


「お待たせいたしました。わたしに御用がおありだとおっしゃるのはあなた方でしょうか?」


 その青年は、ホウキを持っていた坊さんと同じく坊主頭で、その頭には長い布をターバンの様にグルグルと巻いていた。目の色は葡豊よりも少し濃い色の緑だった。


「お兄ちゃん。実は、話が会って来たの」


「わたしにお話……でございますか?」


「うん。実は、この人達は旅の人で伝説の戦士らしいの。それで、私もその一人らしいんだけど」


 葡豊の話を聴いていた青年は、徐々にその表情を変化させていった。それを見ていた私達は葡豊の説明が終わったところでようやくその場から移動することが出来た。


――▽▲▽――


 葡豊の従兄だというその青年は、従妹の話を聴き終えて私達を寺の中へと招き入れた。

 中に入ると、とても和風な雰囲気が漂っていて不思議な印象を受けた。

 青年は座禅を組んで手を構えると、ス~ッと深呼吸してゆっくり顔をあげて言った。


「自己紹介がまだでございましたね。申し遅れました、わたしはここ、冥霊寺で寺の主を務めております、『大森(おおもり) 癒宇(ゆう)』と申します。先程葡豊からのお話を聴いた所によりますと、あなた方はかの有名な伝説の戦士の方々でいらっしゃるとか」


 その言葉づかいは葡豊よりももっと丁寧だった。


「はい。実は私達、その伝説の戦士を集めているんです」


「と、申しますと?」


 座禅を組んで瞑想していた癒宇がその瞼をゆっくりと開きながら訊いた。その眼差しはまさに真剣そのもので、目つきはまるで悟りを開いている人のようだった。


「実は……私達は今バラバラの状態になっていて、何処にいるのかなどの現在位置が特定出来ていないんです。しかも、仲間を探す旅の最中で敵が襲って来たりもして……」


「ん、敵……でございますか?」


 私の言葉に癒宇さんは特に敏感に反応した。


「鎧一族の、確かファントムっていうんですけど、知ってるんですか?」


「ふ、ファントム!? あの鎧一族の中でも強いと言われている最強四天王の一人でございますか?」


「はい」


 意外と癒宇さんが多くの情報を持っていることに私は少し驚きながら答えた。


「それで、その鎧一族やそれに関係する四族について訊きたいんですけど……、差支えなければ教えてくれませんか?」


「ええ、勿論でございます。どちらにせよ、わたしも幾つかあなた方にご質問したいことがございますので」


 癒宇さんはそう言って一枚の写真を見せてくれた。


「これは?」


「こちらは四族の紋章でございます」


 写真を見てみると、五つの紋章が丸い円形の中にそれぞれ刻まれていた。


「でもこれ、五つありますよ?」


「真ん中の紋章は神王族の物でございます」


「神王族って何だ?」


 興味津々に乱火が身を乗り出して訊く。


「夢鏡王国がありますよね? そこに住む王族と、その上空――『ハルムルクヘヴン』に住む神族との間に生まれた子供のことを言います。神の血を受け継いでいる一族、さらにそこに王族の血も受け継いでいるために神王族と呼ばれているのでございます」


「それって、神の子供ってことですか?」


 私は神と人間の間に生まれた子供というのが少し気になった。どんな人なのか、見れるものなら見てみたい――そう思った。


「ええ。まぁ王族の血と言って、神の力を引き継ぐ者とも呼ばれていますね。その力は神には満たないものの、相当な力量なのだとか……。それで、四族についてのお話ですが、まず初めに『フレムヴァルト帝国』を治めているという『鳳凰一族』。ここのトップ、つまり、当主に値するのが、『鳳凰(ほうおう) 鈴華(すずか)』と呼ばれる少女でございます。次に、『ウォータルト帝国』を治めている『霧霊霜一族』。ここの当主が、『霧霊霜(むりょうそう) 水恋(すいれん)』と呼ばれる少女でございます。次に、『リーヒュベスト帝国』を治めている『嵐一族』。ここの当主が、『(あらし) 暗冷(あんれい)』と言う少年でございます。そして……最後が今回の話の要でもある『エレゴグルドボト帝国』を治めている『鎧一族』。そこの当主、それが――『オメガ=アーマー=オルガルト』と言う男です。ちなみに、最近では帝王ではなく、皇帝として名乗っているそうですが」


 癒宇さんの長い話を聴いて私は息を呑んだ。


「その、オメガっていう人はどんな人なんですか?」


「よくは分かりませんが、とてつもない程の強力な技を持っている――との噂です。しかも、部屋からは毎日何かを貪り食うような不気味な音がするのだとか」


「こ、怖い……」


 葡豊は自分の二の腕辺りを両手でそれぞれ掴んで身震いした。恐怖のあまり青冷めている様子から相当怖いということが(うかが)える。


「ところであの……その内の二つの一族なんですけど、霧霊霜一族と嵐一族のトップって伝説の戦士なんですか?」


「分かりませんね。どうしてそう思うのです?」


 癒宇の言葉に、私は一瞬自分でもどうしてこんなことを言ったのだろうと疑問に思った。


「それは――分かりません」


「まぁ、その可能性がないとも言い切れませんね。そもそも、伝説の戦士については論理的に証明されたわけではなく、あくまでも噂話に過ぎないことなのですから、本当かどうかも分からないのです。まぁ、神王族の血も関係あるかもしれませんね。突然で申し訳ないですが、何故わたしと葡豊が伝説の戦士なのか、理由を訊かせてもらってもよろしいですか?」


 伝説の戦士について様々なことを語り残念そうに項垂れていると、癒宇さんは急に話題を転換して私に単刀直入に訊いた。


「理由は簡単です。まず、この黄金の地図の場所とあなた方の居場所が一致していること。そして、もう一つがあなた方に特別な力があるかもと思ったからです!」


「私達に特別な力……でございますか?」


 よく分からないと言った顔で癒宇が首を傾げた。


「例えば、突然力を得たり今までしてきたことに変化が生じたりなど、何かありませんか?」


「そういえば――」


 私の手がかりを探すためのヒント的な物で乱火が何かを思い出した。


「婆ちゃんが言ってたけど、俺が生贄に差し出されて雷が落ちて来た時、皆既日食があったって言ってた!」


「か、皆既日食?」


 突然そんな言葉を聴いて私は少し驚愕した。そして、皆既日食と言う言葉を聴いて私もあることを思い出した。


「あっ、確か……私が初めて力を使えることが出来たのもその時だったわ!」


「確かに、俺もその日に何故か突然力が漲って来て、気が付いたら相当深い穴を掘っていたな~」


 砕狼も記憶を振り返り言う。


「そういえば……」


 三人の初めて力を使った時の記憶を聴いていた葡豊が何かを思い出した。


「ついこの間のことなんだけど、世界樹にいつもの様に水を上げているときに――」




《お前が、いつもわしに水を与えてくれていた人間じゃな?》


《だ、誰?》


《わしの名は『ユグドラシル』。わしはお前と話すことが出来てとても光栄に思うぞ?》




「――って、急に世界樹が私に話しかけてきたの!」


 葡豊の過去の話を聴いて、私は確信を得て一呼吸置くと言った。


「それは間違いなく神の力の影響よ! それっていつのこと?」


「確か、十二月十二日――だったかな?」


 首を傾げていまいちはっきりしない感じで葡豊は答えた。


「ってことは、丁度俺達と同じく突然能力を使えるようになった皆既日食の日だな」


 乱火が何かを考えるかのように顎に手を添えて頷いた。


「思い出しました! 確かその日、わたしにも特別な出来事があったのです!」


「えっ!? それって何ですか?」


 深く考えていた癒宇さんの言葉に私は身を乗り出して訊いた。


「実は、朝起きた時に不思議と手が軽く感じたのでございます。しかも、その日は凄く肩が痛くてふとその手で痛む箇所を押さえたんです。すると、不思議なことに突然痛みがス~ッ! と引いていったのでございます!!」


「それって、痛みを消す――つまり、癒しってことですか!?」


「はい……恐らくは森属性ですね」


 コクリ縦に頷き癒宇さんは答えた。森属性には癒しの力を持つ者が多いとも言われている。近頃は草属性ばかりで森属性がいなかったので、森属性を持つ人に会うのはこれが初めてになるかもしれない。

 そう思うと、不思議と私はだんだん緊張してきてしまった。

というわけで、冥霊寺にやってきた伝説の戦士。そこで新たに出会った葡豊の従兄である癒宇。そして、会話が進み、一気に斑希は二人の伝説の戦士を仲間にしました。これで、斑希は自分を含めて五人の伝説の戦士を仲間にしたわけです。そして、ここで四帝族などの言葉を挟んできました。ちなみにこの四帝族が結構深く絡んでくるわけです。なにせ、その一つが鎧一族なんで。ちなみに後半はその鎧一族が出ます。

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