エピローグ
「――という話だ」
雷人がそう口にした。
「そんな……これが初代十二属性戦士が経験した出来事ってこと?」
楓が信じられないという顔で本を見つめる。
「しかも、オドゥルヴィアが初代の時代に産まれただなんて……」
「おまけにそのバルトゥアスってのが曲者だな……。しかも死んでなかった」
照火が腕組みをし、暗夜がううむと唸りその後どうなったのかが不明であるバルトゥアスの今後を予想する。
「凛さん。こんなことがあったから、あの時……何だか可哀想だよ。それに、死んだ斑希が蘇るって言っても……これはさすがに違うと思うし」
「てことは、失敗した……ってこと?」
雫の言葉に従姉の時音が悲しそうな顔になる。
「そーいえば、あのセブンズ・クラウンは闇魔法結社の人と同じだったね」
「うん、クロノスもいた。初代の頃から存在してたんだね。あの組織……」
輝光がふと思い出した事を口にして、それに対して細砂も感じたことを述べる。
「フィーレだけでなく、ルナーにまで子供がいたなんてな……。だが、一体何処にいやがんだ? 初代の時代からこんだけ年月が経ってるんだ、とっくに成人の儀を迎えて不老不死になっているはずだ。だとしたら、どっかにいてもおかしくねぇんじゃねぇか?」
「せやけど、月牙……なんて名前聞いた事あらへんよ? おるっちゅーてもどこにおるんや?」
爪牙の言葉に夢幻が首を少々傾げながら率直な意見を言う。
「俺はやっぱり不思議に思う点と言ったら伝説の戦士が三十一人いることッスね」
「確かに三十一人の中には知っている苗字もあったけど、知らない苗字も結構あったわ。不思議なのは四帝族ね。霧霊霜一族は雫が、嵐一族は暗夜が、鎧一族はラグナロクがいるから顕在しているのは分かるけど、鳳凰一族はない。それも謎よね」
残雪が顎に手を添えて真摯に悩んでいると、義姉である菫もその隣で紙に図をかきながらペンで机をトントンと叩いた。
発覚したことも多いが、その分新たな謎が生まれてしまい、どちらにせよ謎の数が減っていないのだ。
「やっぱり不思議です。フィーレさんは神族で王様は王族ですよね? だとすればその二人の間に産まれた瑠璃さんと麗魅さんは必然的に神王族として産まれるはずです。なのに二人は無属性でその上力も何も持っていませんでした。どういうことなんでしょう? それに、二人の遺伝子を受け継いでいる割には髪の毛の色とかもあまり似ていませんよね?」
葬羅にしては珍しい少し長めの台詞に驚いている戦士。その一部を除いて葬羅の言葉に納得している者もいた。ずっと思っていた疑問の一つでもある。そればかりはこの本を読んでも解決されなかったが、とにかく今はこのモヤモヤを解決したいのと続きが知りたいという欲望に駆られた。すると、ある人物が声をあげた。
「この本に著者はいねぇようだし、続きが気になるところではあるが……とりあえずこの本と禁断の書を持ってハンセムんトコに行こうぜ? そこであいつをとっちめれば何か分かるかもしんねぇ」
荒っぽい口調を抑揚のない声で言った白夜の意見に皆は頷き、椅子を後ろに引いて立ち上がると、アンドロイドとなってしまった斑希を連れて王立魔法図書館を後にした。
「――それで、私の所に持ってきたと……」
ハンセム博士は呆れ果てた顔をしていた。場所は夢鏡城のハンセム研究所。相変わらずの暗闇をコンピュータの光が照らす。その光の一部がハンセム博士のかけているメガネに反射して不気味に妖しく光り輝いていたが、六代目十二属性戦士十四人はそれどころではなかった。
「やいハンセム! この本は一体何なんだよッ! 何で、何で初代十二属性戦士の時代にオドゥルヴィアがいるんだ? それに、鳳凰一族とかはどうなったんだ? 斑希は復活できなかったのか? だからこんな姿になってしまったのか? それから――」
「待て待て! いっぺんに質問するんじゃない! 順序というものがあるだろう! 一つずつ説明するから待ち給え!」
そう言ってハンセム博士はやや興奮気味の十二属性戦士を宥めると、咳払いを一つして説明しだした。
「まずはこの本だが……こればかりは私の失態だった。どこかに失くしていたが、まさかあの場所にあったとは。はぁ、これには著者がないだろう?」
「ああ」
即答したのは照火だった。早く続きを話せと目で訴えている。
「だから、続きは―――――――ない」
『ええええええええええ!?』
驚愕する十二属性戦士。無理もない、あんな気になる部分で終わらされたのに続きが存在しないとは。
「誰か知っている人はいないのか!?」
雷人も何とかならないかと言わんばかりに必死な表情を浮かべていた。他のメンバーも藁に縋るような表情でハンセム博士を見た。
「む……ぅ、はっきり言って答えたくはないのだが、知っている人物が少なくとも君達の近辺にいる」
ハンセム博士のその遠回りな言い方にむず痒い気分に襲われる十二属性戦士は、早くその人物を答えてほしくて声をあげた。
「もったいぶらないで教えなさいよ、ハンセム博士!」
「そうだ! そんなに俺らの反応を見て楽しいのか!? てめぇ、俺たちはまだ子供なんだぞ? それに、俺たちは記憶を失ってるんだ! 知る権利くらいあるんじゃねぇのか!?」
その言葉にはさすがのハンセム博士も堪えた。それを言われるのは少し痛い。無論十二属性戦士の記憶を消したのには理由があった。だが、答えるにはまだ時が早すぎるとそう感じたハンセム博士は、一度横目でパソコンの画面を一瞥した。
「はぁ、本当に知りたいのか?」
問いにコクリと大きく頷く十四人。
「知る覚悟があるというのであれば教えてやる。だが、一つ聞かせてもらおう。この本……これには封印術が込めてあり、神族の者にしか開けられないはずだが……どうやって開けたのだ? 力任せにこじ開けた――というのはなしだぞ?」
十二属性戦士から受け取った本を動かしながら質問するハンセム博士に、十二属性戦士は一斉にある人物に視線を向けた。その視線の先をハンセム博士が追いかけると、そこには棒立ちしている斑希の姿があった。本に書いてあるのとは明らかに違う無表情。そこには太陽の様な明るさは微塵も感じられなかった。輝きを失っているといっても過言ではないだろう。
「まさか――」
「申し訳ありません、ご主人様。皆さんが困っていらっしゃったようなので、僭越ながら私が開けさせてもらいました」
それを聞いてハンセム博士は眉間に指を添えてしまったという顔をした。そう、斑希はアンドロイドではあるものの、そこには神族の力が通っているのだ。こんな事態を予測していなかったハンセム博士は、思わず神族の力をアンドロイドに付与させてしまっていたのだ。
「はぁ、今日は私の厄日だな……」
そう自嘲すると、ハンセム博士はついに折れて話をすることを決めた。
「分かった教えよう……初代十二属性戦士の続きの話を知っているのは――――私だ」
知っている人物を教えられた十二属性戦士は目を見開いて驚愕した。あまりにもの驚きに絶句する。
「ハンセム博士がどうして?」
不思議そうな顔をする楓に、ハンセム博士はメガネをカチャリと上にあげながら教えた。
「以前フィーレ様やルナー様に言われてな。いつか時が来たる時、伝えるように……な。だが、はっきりいってこれは聞くに耐え兼ねる内容が含まれている。それでもいいのか?」
今一度確認するハンセム博士にコクリと十二属性戦士は頷いた。
「特に怖がりな菫と時音は聞かない方がいいと思うが……そこまでいうのであれば、話してやろう」
こうしてハンセム博士による初代十二属性戦士のその後の話――二代目十二属性戦士の時代の話が語られ始めるのだった……。
というわけで、Ⅲ以来の登場を果たした六代目十二属性戦士。そして、ここでようやくⅣが完結です。いやはや、長かったですね。自分でも書いててここまで長くなるとは思わなかったです。まぁ、初代だけあっていろんなものが詰まっていますからね。
で、最初から最後の四十二話までが全てⅢで見つけた本の内容だったというわけです。
読んでいた十二属性戦士も疑問符だらけですよね。まぁ仕方ないです。
そして、続きが気になる彼らにその続きを教えてくれるのは本ではなく人。しかし、ハンセム博士が知っていようとはさすがの十二属性戦士も思っていなかったようです。
てなわけで、次回は登場人物を載せます。めっさ多いので時間めっさかかることになるかと思います。