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第七話「世界樹と話す少女」・1

 次の日の朝――。

 朝陽が昇り、風の里の森に生えている木々の葉っぱの先には朝露がついていて、朝日の陽ざしに反射して光り輝いていた。


「ふぁ~あ! どうやら、結局次の日まで寝てしまったみたいだな……」


 俺はゆっくりと体を起こし、周囲の様子を確認してそう呟く。吹き飛んだ襖も綺麗に戻っていた。恐らく里の住人が行ったのだろう。隣にはやはり水恋がスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てて寝ている。その寝顔を見て起こす訳にはいかないなと思いつつも、このままではダメだと思う部分もあり、仕方なく水恋の体を揺さぶった。


「おい、水恋起きろ! 朝だぞ?」


「う、う~ん。あっ、月牙さん。おはようございます」


 水恋が片方の手を頭上に大きく上げ、もう片方の手で眠り眼を擦りながら俺に挨拶をする。そんな彼女の髪をよく見てみると、いつもと違って綺麗な青い髪の毛があちこちの方向にはねていた。相当な寝癖。髪が長いとここまでなるのかと思う程凄かった。


――▽▲▽――


 広間に着くと、長老が朝食の並んでいる食卓の椅子に座っていた。


「おはようございます、月牙さん、水恋さん。昨夜は良く眠れましたかな?」


 長老が机に肘をついて考え事をするような姿勢で話しかける。


「はい。おかげさまですごく寝覚めがいいです!」


 元気のよい声で水恋が応える。すると、その声を聴いた長老がふと顔をあげた。

 刹那――長老の細目が見開かれた。


「す、水恋さん! ど、どうなされたのじゃ、その髪は!? 何かあったのですかな?」


 その言葉に水恋が自分の髪の毛を触って気付く。


「あっ!? 寝癖直してくるの忘れてしまいました!! 月牙さん、どうしましょう?」


「いや、そんなの直してくればいい話だろ?」


「あっ、そ……そうですね!」


 ハッとなって、水恋が大浴場の方へと駆けていく。


「朝から賑やかですなぁ」


「そ、そうか?」


 真っ白な顎鬚を撫でながら言う長老に、俺は頭をかきながら言った。傍にいる里の住人も最初は俺の長老に対する馴れ馴れしい言い方に文句を言っていたが、今となってはそれにも慣れてしまったのか、文句を言わなくなってしまっていた。

 と、その時、召使いが風浮を追いかけて走ってきた。


「風浮君! 部屋の中で走ってはいけません!!」


 その忙しそうな動きと疲れきった声に俺は同情し、その召使いに言った。


「大変だな」


 ご飯を噛み締めながら言う俺の言葉に召使いのメガネをかけた男性は、その場に立ち止まり苦笑しながら膝に手をつきながら口を開く。


「ええ。風浮君は元気が良すぎて凄く大変なんですよ」


 膝に手をつき疲れ切った声でそう返す召使いの男性。その間に、風浮は何処かへと行ってしまった。


「実は、その事で月牙さんに折り入ってお話があるんですじゃ」


 突然長老が俺と召使いとの話に割り込んできて真剣な表情で言う。俺はとりあえず話だけでも聞いておこうと思い、体を向きなおして長老と風浮についての話を始めた。


――▽▲▽――


 その頃、水恋は寝癖ではねまくっている髪の毛を何とかして直そうと懸命に水で濡らして整えたりなど様々な努力を行っていた。しかし、努力虚しくどの方法を取っても寝癖は直らなかった。だんだんと水恋はそのことに対して苛立ちを覚えていた。すると、ボンッ!  と誰かが自分の腰からお尻辺りにぶつかるのを感じた。この辺りにぶつかるのだから恐らく小さな子供だろうと思いながら水恋は後ろに振り返った。


「何?」


 そこには、鼻を押さえながら尻餅をついている風浮の姿があった。


「な、何をやっているのですか?」


「ちょっと冒険……」


 鼻を押さえながら言う風浮の言葉に、水恋は首を傾げながらその場にしゃがみこんだ。十歳という幼い少年のその無垢な瞳を見ていると、さっきまでつまらないことで苛立っていた自分が逆に恥ずかしく思えてきた。


「私、そろそろ月牙さんの所に戻らないといけないのですけど、風浮くんも来ますか?」


「うん、いいよ!」


 元気よく頷いた風浮は水恋と手を繋いで長老たちの所へと戻った。


――▽▲▽――


「――ということなんですじゃ」


「なるほどな……。話は概ね分かった。だが――」


 俺は長老の話を腕組みをして聴いていた。しかし、いまいち納得のいっていない俺は、話を続けようとした。しかしそこへコツコツという足音が聞こえてきたため、俺はふと顔を上にあげた。そこには水恋が風浮と手を繋いでこちらに歩いてくる姿があった。


「す、水恋。お前、風浮と一緒だったのか……」


 少し意外に思った俺は、少し呆けた顔でそう口にした。すると、水恋はこの場の空気を感じ取ったのだろう、不思議そうな表情を浮かべて俺に訊いてきた。


「ど、どうかしたのですか?」


 質問に答えようと思ったが、その前に長老が声を発した。


「実は昨日、風浮に説教をした結果、旅をして実際に命の尊さを学ぶ方が早いのではないかという結論に至りましてですのぅ。お二人と共に旅をして頂きたいなと思っておりますのじゃ……」


「それは、要するに風浮くんを一緒に連れて行けということですか?」


 長老の話を聴いた水恋が少し眉毛を吊り上げて訊く。その気迫に少したじろいだ様子の長老だったが、黙っていても話が進まないと思ったのか口を開いた。


「そうですじゃ。安心してくだされ。食料はこの風の里ウィロプフロストにある殆どの分は積み込ませていただきましたですじゃ。少し荷は重いかもしれませぬが、役に立つことに変わりはありませぬ。それに、聴いた話ですと仲間は後二十数人はいるのだとか。ですからして、是非この食料を使ってくだされ」


 長老はそう言って合図を出した。すると、風浮の世話をしていた召使いとは別の召使いがやってきて、見るからに重そうな食料を荷車に乗せてやってきた。


「それでは月牙さん、水恋さん。風浮のことは任せましたぞ?」


「は、はい!!」


 大きく返事をする水恋。しかし、俺は未だに納得がいっていない。だが、気づけば俺は既に風浮を連れて水恋と一緒に森の中に入ってしまっている始末――。


「ったく、何で勝手に話を進めんだよッ!!」


「だ、だって……仕方ないではないですか。それに、風浮くんはどちらにせよ伝説の戦士なのですよね? でしたら丁度良かったではないですか!!」


 さすがの俺でも正論には返す言葉がなく、思わず無言になってしまった。 結局俺は、水恋と二人目の仲間である『旋斬(かざきり) 風浮(ふう)』を連れて新たな伝説の戦士を探す旅に出る事になったのだった……。


――▽▲▽――


 そんな中、斑希達はというと、次の伝説の戦士を見つけるのに少しばかり時間がかかっていた。

 目の前には一筋の光も見えない暗闇の森。道の地図がない以上、自分達が今何処にいるのかさえ分からない。せめて地図さえあれば、と誰もが思っていた。すると、ふと最後尾を歩いていた斑希がある事を思い出して立ち止まった。


「ん、どうかしたのか?」


 立ち止まっている斑希に砕狼が頭の後ろで腕を組んだポーズで訊いた。


「ええ。実は、噂の中に伝説の戦士の居場所を書き記した特別な地図があるっていう話があるのを思い出したのよ」


「伝説の戦士の居場所を書き記した地図!?」


 斑希の言葉を聴いた乱火が声をあげる。


「どうかしたの?」


 異様な驚きの声に斑希が乱火に尋ねる。


「いや、そういえばさっきそんな感じの怪しい建物を見かけてな」


「ホント?」


 目を爛々と輝かせて斑希が乱火にその怪しい建物の場所を訊ねた。


「確か――こっちだ!」


 そう言って乱火が斑希の手を引いてその場所に連れて行く。その後ろから砕狼も半ば面倒そうにしながら続いた。

 乱火の言う場所に到着すると、そこには確かに怪しい雰囲気漂う謎の建物があった。地面付近には緑色の青々とした細い(つた)が生え絡みついている。草木は生い茂り、古い感じを醸し出していた。


「ここに何か書いてあるぞ?」


 乱火が斑希の目の前にある一番目につく円形の周りの縁を指さした。


「ちょっといい?」


 斑希がその場所に近づき、顔を近づけてみる。それは、見るからに古そうな古代文字で書かれてあった。


「え、え~っと……」


「読めんのか!?」


「す、少しだけど」


 砕狼が意外そうな顔を浮かべるのを見て少し謙遜したような口調で斑希が応える。そして、頑張ってその文字を解読した斑希は、その内容に気付いて慌てて背負っている荷物をドサッ! と荒々しく落とすと、中身を漁り何かを取り出した。


「何だそれ?」


 斑希が手に持つ謎の荷物に砕狼が興味を示して覗き込む。その質問に、斑希は少し深刻そうな表情を浮かべて口を開いた。


「これは、私のお母さんにいざという時に役に立つからって渡されたの……」


「役に立つ? 何かに使えるってことか?」


 静かに言う斑希の言葉に砕狼が腕組をして唸る。


「多分……ね」


 あくまで憶測に過ぎない話で信憑性はないが、それでも今手元には鍵となるような物はこれしかないので斑希はこれを使おうとしていた。


「斑希のお母さんって何者なんだ?」


 乱火がふとそんな質問を口にする。


「よく分からないわ。でも、何かの使命があるとは言ってたわね……」


「使命、か」


 砕狼が顎に手を添え何かを考える。その間に、斑希は右手にグローブの様な物を装着した。そのグローブの手の甲部分には謎の紋章が刻まれていて、まるでそれは太陽の様だった。そして、斑希は手に魔力を集中させた。同時にその手から太陽の光の如く明るい光が眩い程に出現した。


「す、凄い」


 本人自身もその現象には驚いていた。

 そして、斑希が円形の場所に勢いよくバンッ! と手を置いた。すると、円形の部分のみの壁が光り出し、その光の中に右手が右手首まで呑みこまれた。


「おい、大丈夫か?」


 僅かに身長が足りていないため、その分を補うために肩車をしていた砕狼が訊いた。今、砕狼が自分よりも年上である斑希を担いでいる図が展開されている。


「な、何とか――って、ちょ! あんまり動かないでよ! あなたの髪の毛ツンツンしてるんだから……」


「わ、悪い――てか、さっさとやることやってくれよ!! こっちだってキツいんだよ!!」


 肩車をしている砕狼が斑希の足を掴んだままキツそうな表情で言った。


「なっ! それって私が重いって言いたいの!?」


「そ、そんなこと言ってねぇだろうがッ!!」


 と、その時、斑希が呑みこまれた手首を動かすと、ある突起物に指が触れた。


「何かしら?」


 疑問に思った斑希は、それを思いっきり引いた。同時にレバーが飛び出し、それを操作する。すると、砕狼の目線の先にある台らしき部分が回転し始め、黄金色に光り輝く地図が出現した。


「お、黄金の地図?」


 視線を下した斑希が、その地図を見て目を輝かせる。黄金色に光り輝く地図は未だに輝き続けており、永遠にその輝きを失わないように見える。肩車を崩した斑希は、黄金の地図を手に取った。そこには、ウロボロスの大陸の半分と、十六もの赤く点滅する点が記されていた――。


――▽▲▽――


 黄金の地図を手に入れた私と乱火と砕狼の三人は、とりあえずそこに描かれている地図をゆっくりと眺めていた。そこには、自分達の生まれた大陸と赤く点滅する点が記されている。


「この光り輝く点が私達のことかしら?」


「恐らくな。ほら、ここに三つ集まっている点がある」


 砕狼が地図に記された密集している三つの点を指し示す。


「だとすると、私達が今いるこの場所が、地図で言うこの場所ってことになるの?」


 地図を眺めていた私は砕狼にもう一度訊いた。


「そうなるな」


 腕組みをして頷き返答する砕狼。すると、私達二人の会話を黙って聴いていた乱火がふと疑問を口にした。


「なぁ、ところで……これどうして地図が半分しか載ってないんだ?」


 そう言われてみれば乱火の言うとおりだ。地図には、大きな山を境にして大陸の半分が映っていない。リーヒュベスト帝国の半分とフレムヴァルト帝国の半分。ウォータルト帝国に関しては全て写っていない。エレゴグルドボト帝国は一部、サンダルコ街跡が写っていた。これはどういうことだろう。

 そんなことを考えていると、砕狼が口を開いた。


「恐らくもう半分は別の場所にあるんだろーな」


「そうだな」


「そ、そんな……」


 私はガックリと肩を落とした。半分だけでは伝説の戦士全員を探し出すことはできない。そういえば、この地図には赤く点滅する点が十六個しかないのだから、残りの十五人は見つける事ができない。

となると、もう半分の地図はまた別の場所にあるということになる。一体どこにあるのだろうか。

 そんな疑問も出て来た。しかし、これではキリがない。

 私は一度その疑問を払拭しようと頭を左右に振った。同時に私のオレンジ色の髪の毛がつられてなびく。


「とりあえず、今載っている光の点に従って伝説の戦士を探していかねぇか?」


「そうだな。残りのやつらはその内見つかるさ。それに、一気に集めることだって出来やしねぇんだ。まずは一歩一歩確実に仲間にしていこうぜ!!」


 しょんぼりした気分になっている私をフォローするかのように、乱火と砕狼はポジティブな考えを述べた。私もそれを聴いて俄然やる気が出て来た。


「そうね! だとすると、まずはここから一番近い場所にいる伝説の戦士は……ここ、『大木の森』の村ね」


 地図を指さして私は二人に言った。

というわけで、風浮を仲間にした月牙。傍から見るとじじい曰く家族。

まぁ、確かにそう言われればそう見えなくも。

そして、ここで視点は斑希の方にチェンジです。斑希は今、逆ハーレム状態です。なんか、どちらも浮気しているように見えますね。ハハハ。

肩車して黄金の地図ゲットと。十七歳の女の子を十三歳の少年が持ち上げるって結構すごいですよね。まぁ、不可能ではないのかもしれませんが。

実際に試したことないんでわかりません。まぁ、力もちなんで大丈夫でしょう!

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