第三十九話「大惨事! 第二次神人戦争」・4
「ん!?」
ギリギリでそれを躱すデュオルグス。本来ならば避けることなく七つの秘宝の一つである黄金の防御衣で防御できたのだが、何故か躱さなければならないと何かがそう知らせた。それが何かは分からないが、先程まで自身がいた場所にはクレーターどころか漆黒の穴が口を開けていた。その攻撃の跡と、先ほどの砲撃に見覚えがあったデュオルグスは真上を見上げた。
そこには、一人の黄金の鎧を纏った幼女と六人の鬼の衛兵がいた。そう、神崎妃愛と七力の力を譲渡された王族の五人と帝族の巫女だ。
「くっ! 貴様は何時ぞやの……。我の邪魔をしようとは。これは何の真似だッ!!」
いかつい顔をして頭上の七人を鋭い眼光で睨めつけるデュオルグス。その言葉に妃愛が答えた。
「教えてやろう。帝王オルガルトいや、鬼蜘蛛デュオルグス。貴様はここで妃愛に敗れ、その陰謀を阻止されるのだ」
「なに? フ、ガハハハハハハ! 何を言うかと思えばそのようなこと――ありえんッ! 貴様のような幼女に用はない! ガキはガキらしく帰って母親の乳でも啜っているがいいッ!!」
「妃愛は餓鬼などではない。神族と王族との間に産まれし不死身の王――神王族二代目帝王、神崎妃愛だ。七力も持っている。それに、何よりも妃愛には義理の兄上からの贈り物があるのでな」
その言葉にデュオルグスが瞳を見開いた。目玉が飛び出そうなほど目をかっぴらき、そしてその網膜に焼き付ける。そう、幼女――妃愛が身につけていたのは確かに自分も着ている七つの秘宝だったのだ。だがおかしい。七つの秘宝は世界に一つしか存在しないはず。なのに、それがなぜ。
不思議でならなかった。すると、妃愛が口を開く。
「わからない、という顔だな。教えてやろう。妃愛はレイヴォルによって生み出された人工型だ。母ミーミルと父斬覇との間に産まれ、鈴華を媒介にして生まれた。だから巫女族が持つとされる七力を全て持ち、なおかつ不死身の力を受け継いだためこの齢でも死なん。そして、そこにさらに七つの秘宝が六つある……。これだけあれば、妃愛は最強だ」
妃愛の言葉にデュオルグスは奥歯をギリと噛んだ。そう、全てはレイヴォルを利用するはずが逆に利用されていたのだ。今を思えば最初からいけ好かない男だった。何かを企んでいるのにそれがまるで分からない。謎という名のベールに包まれた不気味な男。それがレイヴォル=カオス=フィグニルトという男だった。そして、そのレイヴォルによって作り出された不死身の幼女が今目の前にいる。七つの秘宝を六つ持って――ん? 六つ? そう、六つ……妃愛は確かにそう言った。その言葉がデュオルグスの思考をさらに歪めた。
「どういうことだ? 六つ……だと? なぜ七つの秘宝が六つしかないのだ!」
「当たり前だ。そなたの持つ七つの秘宝の内、一つだけ本物なのでな。それを返しに来てもらうついでに破壊しにきた」
そう言い切る妃愛にデュオルグスは額にビキビキと青筋を立てまくった。
「巫山戯るなあッ!! では何か? この七つの秘宝の内の六つは偽物――レプリカだというのかッ!? ならば、何故……何故神族を倒すことが出来たッ! 我は確かにこの手で神族を殺したのだぞ!?」
「それは神滅剣の力のおかげだ。七つの秘宝の力のおかげではない。それに、精巧にできてはいるようだからな……。まぁ、所詮は偽物だ。妃愛には勝てん……。さぁ、すぐに終わらせて帰りたいから始めるぞ?」
妃愛はそう言って力を解放する。
「くっ! おのれぇ、フィグニルトォォォォォォ!!! 許さんッ、許さんぞォォォォォ!!」
デュオルグスは自身の身につけている七つの秘宝が偽物だと分かるや否や、それを脱ぎ捨てた。
「このようなゴミ、纏っているだけで虫唾が走るわッ!! こうなれば……まだ力が足りぬが仕方があるまいッ!! ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
突如溢れ出す禍々しいオーラ。それは周囲へ衝撃波となって降り注ぐ。妃愛の小さい体も飛ばされそうになるが、慌ててその場に黄金の疾風双剣を突き立てて耐える。さらに、壁代わりと言わんばかりに六人の偉大なる七冠が立ってリーダーである妃愛を守った。
「そなた達……」
「けっ、勘違いすんじゃねぇぞ妃愛。何も俺らはてめぇのために守ってんじゃねぇからな!」
「フォッフォッフォ、照れるでないファルスター王よ」
「照れてなんかねぇよ、クソジジイ!
「な、なんじゃと~!?」
腕組をしてそっぽを向くファルスター王に対してサフィスト王が返事をする。
一方でデュオルグスはますますその力を増大させていた。合わせて体が変化していく。顔につけていた仮面が砕け、その素顔が晒される。それを見た瞬間七人が驚愕する。
デュオルグス――中身はそうだが、元の体はオルガルト帝である。その顔は凄まじく、顔の皮膚は焼け爛れ、髪の毛もなくやけどの跡が酷かった。確か、以前ゴウスト――神崎斬覇と交戦していた所に巻き込まれてこうなったと言っていたレイヴォルからの知識で妃愛は知っていたが、まさかこれほどまでに酷い姿だったとは。これでは顔を隠したがるのも無理ないことだった。
だが、変化は続く。体がどんどん変色して漆黒の色に染まり、手足が太く大きくなっていく。背中から突き出した八本の足がニョキニョキと伸び、増える手にまとわりついていく。左四本の右四本、そして足の二本の合計十本というありえなさ。その姿はまさに鬼と蜘蛛の融合した姿。瞳も元々の二つの瞳にプラスされて八個真っ赤な瞳が増えている。ギョロっとこちらを見ていてその目力が凄まじい。
「く、これがあのデュオルグスの正体かい?」
「このような姿、想像していなかった!」
「よもやこの俺様がビビらされるとは思ってなかったぜ」
マーリス王女の体を借りて喋るアルドニア。それに続いてメロトス王とツェイク王も驚愕を露わにする。ちなみに、ツェイク王はあのまま車椅子では使い物にならないということで、レイヴォルの発明品で動けるように改造された。おかげで今ではこのようにピンピンとしている。
【ウゥゥゥゥゥ……。貴様らだけはァ、貴様らだけは許さんッ! 死ねェェェェ!!】
デュオルグスはその豪腕な腕を振るって七人に攻撃した。ギリギリのところでそれを躱す七人だが、デュオルグスの腕は八本もある。それをすべて躱すには人数が足りなかった。一本躱すことは出来たものの、残りの七本の腕で七人全員が地面と拳のサンドイッチ状態に陥った。
【グフフフフウゥゥゥ、グフハハハハハァァァ、阿呆なやつらよ。貴様らにこの我を倒すことなど不可能ッ! 無謀な挑戦は諦めろォ、時間を無駄にして意味もないことをして何が良いのだァ? とっとと踵を返して帰れェェェ!! さもなければ、貴様らはここで潰すッ!! 胡麻の様に磨り潰してくれようぞッ! さァ、どうするゥゥゥ? 選択権の時間をあ長く与えるつもりはないぞォ? 我は忙しいのだァ、この溢れる力、これで封印された漆黒の門の扉をこじ開けるッ! その邪魔はさせんッ!!】
口を開くたびにその口から邪悪なオーラが霧となって溢れ出す。それはデュオルグスの体からも滲み出ていて、それが周囲に散漫し始めていた。
【さァ、来いッ! 天使九階級ッ! セイラッ!! 貴様らを我が手で屠るまで我は止まらんぞォ!! ウガァァァァァァァァァッ!!!】
高々と咆哮をあげて、空に向かってその禍々しい霧を放つデュオルグス。それは空の暗雲と混じり、同時に真っ黒な粒を降らせ始めた。
【ギュフフフフゥゥゥ、これは我の一部ゥ、これを浴びた神族はその心を闇に食らいつくされ、魔族へと堕ちるゥ……さぁ、純粋な心を朽ちさせ、そして腐敗させ、我へと手を貸せェェェ! ギュフゥハハハハハハァァァ!!】
【相も変わらず下劣な笑い声ですね……デュオルグス=オビヒリン】
【ギュゥゥ? その声ェ、来たかァ……セイラァァァァァ!! 貴様が、貴様ら天使九階級が来るのを今か今かと待っていたぞォォォォォォ!】
突然天から聞こえてくる声にデュオルグスが見上げると、そこには天の神セイラを含めて八人の天使が来ていた。そう、世界の異変に感づき、天の世界のお偉い方が登場するハメになったのだ。
【全く、そこまでして私達に会いたいとは思いませんでした。ふっ、少しはマシになったかとも思っていたんですが、無理でしたね。しかし、よもや人族にまで手を出すとは……やはり魔族のやることは理解しかねます。でも、こうしてわざわざそちらから出てきたのは好都合でした。肉体を失った今、その姿とはいえ本領は発揮できないでしょう? 今すぐに楽にして抜け殻になったあなたをラクに葬って差し上げます!】
【無駄無駄無駄ァ、貴様らにそのようなことは出来ぬゥゥゥ! それよりも、さァ、我が封印を解けェッ!! 我が体を返すのだァッ!!!】
【セイラ様、やはりあいつには会話を持ちかけても意味ないですよ! 話すだけ時間の無駄です! 早く仕留めましょう!】
そう言うネメエルに、今度はマリアエルも口を開いた。
【おれもネルの考えに賛成だな。第一あいつは脅威だ。あのまま放っておいたら本当に――】
【ウガァァァァァァァッ!!!】
マリアエルの話している最中に言葉を遮り、咆哮をあげたデュオルグス。その耳をつんざかんばかりの声量に堪らず両手で耳を塞ぐ九人の天使。すると、怯んだその隙を狙ってデュオルグスは別の手段に打って出た。
【我を開放する気がないのであればァ、こうする……までだァァァァァァッ!!!】
片足を引き、まるで走るようなポーズを取ったデュオルグスは、そのまま全速力で駆けていき、エレゴグルドボト帝国とウォータルト帝国とリーヒュベスト帝国の三帝国の狭間付近を目標に向かった。
それを目にしたセイラが焦燥感に駆られるように声を張り上げる。
【まずいっ! まさか漆黒の門の場所を知っていたなんて迂闊だったわ! 皆急いでデュオルグスを止めて!】
『り、了解っ!』
セイラの言葉につられて慌てた様子になった八人の天使は、急いでデュオルグスを追いかけ、追いつくと同時にその八本の腕にしがみついて逆方向にグイィィッと引っ張った。
【そ、そっちには行かせません~!】
【あれいも頑張る】
【くっそ~、おれの力でも適わないなんで嘘だろ~!?】
【冗談じゃないわよ、こんな怪物を、あたし達だけでなんて~!】
【うぅ、吾にもう少し力があれば、このような事造作もないことだというのに】
【あ、んっ! てかやばっ、これちょっとデカ過ぎぃ~!】
【ボクもこれはちょっと無理かも~!】
【妾の力を量がしようとは、こやつ……出来る!】
などと、ヴィリアエル、アレイエル、マリアエル、ネメエル、エクリエル、ロドゥエル、ユミナエル、ミリストエルが弱音を吐く。
【おのれェ、邪魔な天使共めがァァァァァァ!! 我の邪魔を……するなァァァアァァァ!!!】
邪魔立てをしてくる八人の天使に怒りを覚えたデュオルグスは、青筋を立てて咆哮をあげた。そのせいで、うるささのあまり耳を塞いでしまった八人の天使が手を放す。同時、再びデュオルグスが動き出し、そのまま猪突猛進で目の前に聳え立つ漆黒の門に体当たりした。
ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!
重量感ある重い効果音が響き渡り、大地を震わせた。木々を薙ぎ倒し、無我夢中で駆けたデュオルグスはタックルを漆黒の門にキメて満足そうに呼吸を乱していた。やりきったという達成感。一体これで何の意味があるのか。そもそも、この漆黒の門とは何なのか。
八人の天使は顔面蒼白になっていた。理由はその扉が何のために存在し、中に何があるのかを知っているからだ。だからこそ、是が非でも止める必要があった。だが、失敗した。
失敗が何を意味するのか、それは嫌でも理解出来た。
【あなた達ぃ~?】
『ひぃっ!?』
八人の天使は、背後から聞こえる何者かの怖気の混じった声音に背筋を凍らせて悲鳴をあげた。ギギギと機械のように首を可能な限り後ろに回すと、顔が笑っているにも関わらず、憤怒のオーラを身に纏っているセイラの姿があった。
【す、すまぬセイラよ。妾達とて一生懸命にやったのじゃ! でも、やつの力は異常じゃ! 既に何人かの神族もやつによって奪われておるようじゃし……】
【ふぅん、言い訳? 言い訳のつもり……それ?】
【ひっ! い、いや……そういうつもりではなくての?】
何とか怒りを鎮めてもらおうとはしているものの、なかなか収まる様子のないセイラ。すると、その二人の間に何かが飛来した。黄金色に光り輝く何か。それを驚きの瞬発力で二人は躱した。すると、その光は勢いを緩めることなく飛来し続け、その先にいる標的――デュオルグスの八本の内の一本に突き刺さった。
刹那――。
ゴッパァァァァァァァンッ!!
赤黒い血が周辺に撒き散らされる。図体もでかい分、周りへの被害が大きい。
【こ、これはァ……貴様ァァァァァァ!! よくも我の邪魔をォォォォ!!】
低い声音を響かせ二個の鬼の目と、八つの蜘蛛の目で睨めつける先に天使九階級も視線を向ける。そこには、なんとも可愛らしい顔立ちの幼女が物騒な代物を身に纏っている姿があった。それを見て驚愕する天使九階級。
【あ、あれは七つの秘宝!?】
【なんであれをあの子が?】
ネメエルとマリアエルが口々に疑問を口にする。すると、その幼女がこちらに飛んできた。
【そなた達、天族は下がっておれ。ここは妃愛の戦うべき場所……そして、こやつは――デュオルグスは妃愛の倒すべき相手だ】
【妃愛? それがあなたの名前なの?】
【左様、妃愛の名前は神崎妃愛。神王族二代目帝王だ】
その言葉に天使九階級全員が驚愕して言葉を失った。そう、彼女たちは知っている。偉大なる伝説の英雄――神崎王都の名を。だからこそ、彼女の――妃愛の本名を知って驚愕した。何よりも、彼女の着ている鎧がそれを物語っていた。その姿はまさに伝説の英雄の生まれ変わり。あの頃を思い出すかのような思いだった。不死身である彼女たちはそう思っていた。
【では、あなたは神崎王都の妹……と?】
【まぁ、腹違いではあるがな。それよりも、こやつは任せてそなた達はあの天候をどうにかしてくれんか? あのせいで、今戦場では大変なことになっている。頼めんか?】
【え、ええ……わかったわ。それじゃあ、お願いするわね】
【うむ、任せてくれ。それと、妃愛の部下も加勢しているからその分手間が省けると思う】
妃愛がそう言って踵を返す。唸り声をあげ威嚇しているデュオルグスを鋭い視線で睨めつける。
【妃愛……さんでいいのかしら?】
【普通に妃愛で構わん。それよりも、頼んだぞ天使九階級とやら?】
【ええ、行くわよみんな!】
『はいっ!』
セイラの言葉に八人がキリッと眉を釣り上げて真剣な面持ちとなって返事をする。
こうして、この場には妃愛とデュオルグスのみが残った。
【ふっ、デュオルグス……。レイヴォルからの命令で動くというのもいささか不本意ではあるが、確かにそなたは脅威だ。鬼は退治しなければならん。覚悟はよいか?】
【フッ、面白い……。あの男ォ、レイヴォル――いやバルトゥアスと戦うというのも一興であったがァ、貴様の方が面白い戦いが見れそうだァッ! よかろう、このデュオルグス全身全霊を持って貴様を殺してくれるわァァァァァァァ!!!】
八本の腕を掲げ、巨大な魔力球を作り出すデュオルグスと、それに対抗するかのように黄金の疾風双剣を両手に握る妃愛。
二人の戦いの火蓋が切って落とされた。
先手を打ったのは妃愛の方だった。強い剣戟が巨大な体躯を持つデュオルグスの漆黒の肉体に刻み込まれる。
【ウグゥゥゥゥゥゥ! おのれェ、幼女如きがァ、この我に歯向かうなどォ……死ねェェイッ!!】
ブゥンッ!!
鋭い一撃を加えるデュオルグス。その力は凄まじく、一撃が妃愛の小さな体を再び地面に叩きつけた。
「があっ! うくっ、やはり強いな。さすがは最強の鬼神族……鬼蜘蛛デュオルグスとはよく言ったものだ。だが、妃愛はここで諦めるわけにはいかぬ! 鈴華を奪われぬためにもっ!」
そう言って強い目標を持つ妃愛は、二本の剣を腰に提げてある鞘へと収め、代わりに背中に装備していた黄金の光聖槍を手にとった。
【フンッ、剣の次は槍か……。ん? そういえば、我の神滅剣は何処へ……】
ふとそんなことを思い周囲を見渡すデュオルグス。だが、背が高い分地上が遠く、標的である妃愛がこぢんまりとしたアリサイズに見えてしまう。そのため、神滅剣も同様のサイズに見えるために見つけるに見つけられなかった。
「余所見とは余裕だな、デュオルグス!」
シカトされたと思い、ムッとなった妃愛は器用な槍捌きでデュオルグスの背後から追撃した。
と、その時、背後にあるものを見つけた。蠢く不気味な影。それは、まるで大きな蜘蛛のようで、巨大な鬼の背中にへばりつき、操る寄生虫のように見えた。その証拠に八本の蜘蛛の足はそれぞれ八本の鬼の腕へと取り付き、その先端部が食い込んでいる。まさに取り付いているといった感じだ。それを見た妃愛は一つの可能性を見出した。
もしかすると、あの巨大な蜘蛛を殺せば鬼を倒せるのではないか、と。
そして、どちらにするかを決定する前に妃愛は動き出した。というのも、早くしなければ時間がなかったからだ。漆黒の門の扉に隙間が開き、そこから邪悪な闇のオーラが漏れ出し、デュオルグスの体に纏わりつき始めたのだ。恐らく、デュオルグスに手を貸して門の中から出ようとしているのだろう。さすがの妃愛も与えられた知識の中に漆黒の門についての情報はなく、戸惑っていた。このまま門の扉の隙間をほうっておいていいのだろうか。だが、そこから漏れるあのオーラだけは見て見ぬふり出来る代物ではないようだった。
デュオルグスはその闇のオーラをありがたく受け取ると、魔力を込めて口元に魔力波をまとめ始めた。間違いない、砲撃するつもりだと妃愛は悟った。
さらに、そこで再び妃愛にいい考えが思いつく。
「ふふっ、デュオルグスよ。その闇のオーラを纏いし力、利用させてもらうぞ? そなたは自身の力でその身を焦がすがいいっ!」
そう言って妃愛は風に靡く黄金の防御衣を翻し、その端を掴んだ。タイミングを見計らっているのだ。この七つの秘宝の一つ、黄金の防御衣には、攻撃を跳ね返すだけでなく吸収して相手に返すことができるのだ。
【この我の力……ァ、その身で受けるがいいッ!!】
ビュオォォォォォォォォォォンッ!!!
「ふふっ、妃愛の力をみくびるなっ! 鬼蜘蛛がっ!!」
そう言って妃愛は黄金の防御衣を翻した。それにより砲撃は黄金色に光り輝くマントに吸収され、背後に回った妃愛はそれをもう一度翻した。
刹那――、マントから先程の砲撃が放たれ、それは見事デュオルグスの背中にある巨大蜘蛛に直撃した。クリティカルヒットすると同時、怪物は大きな叫び声をあげてのたうち回り、ドロドロと肉体を溶かしてその場に大量の悪臭の煙を舞い上がらせると同時に消えてなくなった。
幼い幼女帝王――神崎妃愛は、見事最強の鬼神族鬼蜘蛛デュオルグス=オビヒリンを倒したのだった……。
というわけで、無事デュオルグスを倒した神崎妃愛。いやはや、登場早々ではあんなにひらがなばかりで台詞が読みにくかったあの子がここまで漢字を使いまくるほどの成長っぷりを見せるとは感涙です。殺された五人の神族の方々もご満悦のことでしょう。
そして、天使九階級が四部めでようやく再登場です。遅い登場ですね。さらに、あのⅢでのセイラが一瞬現れるという。まぁ、それはさておき、
次回は四十話です。きりがいいここで最終回という予定が当初だったのですが、なにぶん四天王とのバトルが長引いてしまったために予定によると四十二話で終わりとなります。それまでお付き合いください。気づけばこれもう合計で言うと百部を超えてるんですよね。今回初です。ちなみにエピローグもちゃんとつけてます。登場人物ものせますよ。キャラ、多いですからね。
てなわけで次回四十話は覚醒したあの人が登場します!伝説の戦士も月牙を交えて登場しますので! では、また次回。