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十二属性戦士物語【Ⅳ】――初代の戦い――  作者: YossiDragon
第二章:鎧の帝王の陰謀阻止篇
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『Rescue――Princess&Shrinemaiden――』

 あれ? ここは? なんだろうこの感じ・・・・・・。揺れてる? 気分が悪い・・・・・・喉奥が何だか粘っこくて、変な味がする。そういえば、何か怪物に口の中に突っ込まれて・・・・・・あれ、それからどうしたっけ? ダメ、何も思い出せない。

 暗い、怖い。どうして私がこんな目に遭わないといけないの? 私が何をしたの? ただ私は偶然に七力全てを持って産まれて来ただけなのに。それがいけなかったの?

 んっ? か、体が・・・・・・動かない。そ、そんな。どうしよう・・・・・・逃げたい、逃げたいのに。だ、誰か・・・・・・誰か助けて! 助けて、れんちゃん! あっくん! うぅ・・・・・・ぐすっ。


――大丈夫か! しっかりしろ、おい!



 え? だ、誰? 私に話しかけてるの? でも聞いたことがない声・・・・・・。どうして私を? でも、この際誰でもいい助けて! だ、ダメ・・・・・・声が、出ないっ!


――くそ、失神してる。ったく・・・・・・。


 い、いや! 行かないで! お願い! 私を一人にしないで! これ以上こんな所にいたら狂っちゃう! ダメになっちゃう! 助けて! 助けてよぉ!


ガキンッ!


 ・・・・・・え。あれ、体が動く?


ムギュッ。


 あれ? 今度は体がポカポカする? どうして? なんだろ、体が揺れてる。でも、さっき感じた揺れとは違う。これは、背負われてる? おんぶしてもらってるの? この声の人に? てことは、助けてもらった? でも、どうしても声が出ない。


ジャラ。


――この首輪、どうしても取れないんだよな。鎖、垂れてたら邪魔だな。仕方ねぇ鎖の先を持ってと・・・・・・。


ドクンッ。


 い、いやっ。な、何? 胸の辺りがズキズキする。どうして? や、やだ体が熱くなって・・・・・・火照っちゃう。そうか、鎖を持たれてるから・・・・・・ぁ、思い出した。そうだ、私あの男に――オルガルトの部下に攫われてここに連れてこられて、それからいろんな実験された挙句、この首輪を付けられたんだ。この奴隷の首輪を。

 じゃあ、今の私のご主人様は・・・・・・この人、なの?

 ・・・・・・でも、この人なら・・・・・・いい、かも。私を助けてくれた、優しい王子様だもの。ふふ、私・・・・・・今、お姫様みたいな感じなのかな? でも、どうせならおんぶじゃなくてお姫様抱っこがよかった・・・・・・な。

 重たく、ないかな。私・・・・・・あぁ、でも最近何も食べてないからそこまで体重は増えてないかも。ロクな物食べさせてもらってないし。はぁ、何か食べたいなぁ。


――あ、そういや・・・・・・。


トンッ。


 あれ? 急に密着感がなくなった・・・・・・? え、嘘。置いてかれる? や、やめて待って! ごめんなさい、ご主人様! お願い捨てないで! ワガママ言わないからっ! だからお願いっ!!


モグッ。


 へ? お、美味しい・・・・・・。何? 口の中に甘いものが広がる。お、お菓子? いや、違う。何だかこう赤ちゃんが食べる離乳食みたいな。よく分かんない食感。


――顔見る感じだとここ最近何も食べてない顔だったからな・・・・・・顔色も悪いし、服もボロボロで・・・・・・その目のやり場が。


 や、やだ! 私ったら今どんな格好してるの? は、恥ずかしい! も、もうお嫁に行けないっ! でも、今私はこの人の奴隷なんだから結婚なんて出来ない・・・・・・よね。だったらせめてこの人と・・・・・・って、私ったら何を考えてるの?


――さて、とりあえずこれでしばらくは大丈夫だろ。よし、急がないと脱出できなくなっちまう!


 脱出? 今どういう状況なの? でも、おぶられて揺れてるのとは違う揺れも感じる・・・・・・これは地震? ううん、違う。これは爆発? 砦が爆発してるの?

 そういえば、オルガルトがどうしていないの? もしかしてこの人が倒して・・・・・・くれた、とか? いや、それは無理だわ。だってあの男は強すぎるもの・・・・・・。でも、もしそうなら・・・・・・嬉しいな。私の無念を晴らしてくれたんだもの。


――やっぱり、おんぶはやめた方がいいか? それに、さっきから背中越しに胸の感触が・・・・・・。


 きゃあっ! も、もうっ! 人がこんな状態なのに何を考えてるの、この男は! へ、変態だわ! こんな人が次のご主人様だなんてサイアクっ! うぅ・・・・・・でも、何でだろう。この感じ、何か懐かしく感じる。そう、れんちゃんとあっくんと遊んでた時のことを。


ガタンッ!!


――うわぁああああ!


 な、何? 急に妙な浮遊感が・・・・・・え、落ちてる!? や、やだ・・・・・・こんなところで死んじゃうの、私!? い、いやぁああああああ!!


ボスッ!


――ふぅ~、危なかったぁ。大丈夫かな? でも、一応怪我はないみてぇだし・・・・・・。やべ、こんなとこ見られたら斑希に殺されるな。


むにゅん。


 ひやぁあああ! も、もうっ! 人が気絶してる時に何胸鷲掴みにしてるのこの男は! サイテーだわ! うぅっ!


――ん?


 今度は何よ?


――う、嘘だろ・・・・・・? 下着、つけてねぇのか? オルガルトのやつ、趣味最悪だな・・・・・・。


 い、いやぁあああああああ! う、嘘っ! うそうそっ! そんな! 私今ノーブラ、ノーパンなわけ!? 何の冗談よそれ! て、てことは私・・・・・・布越しに胸に触れられてるってこと!? ち、ちょっと待って! ノーパンって事は――。

 や、やだうそうそ! み、見られてないわよね? ああん、もうっ! どうして声は聞こえるのに私の意識は戻らないのよー!!


――いかんいかん、こんなことやってたらまた凛にこの変態発情犬! だとか駄犬だとか言われそうだな。無心になれ俺。


 さっきから誰の名前を言ってるのかしら? 駄犬? 犬? それって、この男も誰かに飼われてるってこと? え、じゃあ私、飼い犬にさらに犬にされるってこと? どこのマトリョーシカよ! しかも犬にいろんな事やらされるなんて嫌ぁ。ああ、悪夢だわ・・・・・・。でも、あのままあの男にいやらしいことされてた方が最悪だったかも。


――あなた、そこで何やってるの?


 え? 誰の声? 第三者? 幼い女の子の声みたいだけど・・・・・・。ううん、見えない。でも、綺麗な声。お姫様みたいな・・・・・・


――そ、その声・・・・・・まさか、ミーミル姫か!?


 ほ、ホントにお姫様!? う、嘘・・・・・・どんな顔なんだろ。それより私、今恥ずかしい状態じゃないでしょうね!? もし、そうだったら・・・・・・。やだ、お姫様にも変なところ見られた。


――不思議なものね。どうしてあなたが私の名前を知っているのかしら?


――あの時突然姿消して迷子になったのかと思ってたが、まさかこんなところに・・・・・・。まさか、お前も奴隷にされてるのか!?


――あら、よくわかったわね。何でも私の遺伝子が必要だったそうよ。


――だった? 何で過去形――ま、まさかもう遺伝子を?


――ええ、随分前に・・・・・・ね。でも、今更どうでもいいわ。それよりも、そこのあなた・・・・・・どこかでお会いしたかしら?


 う~ん、何の話だろう。遺伝子?


――だから森で会ったっつてんだろ? 俺がお前を鎧一族のヤロー共から助けたんだよ!


――え? ま、まさか・・・・・・あなた、あの時のお兄――ごほん、男?


 今明らかにお兄ちゃんって言おうとしてたわね。え、でも・・・・・・血縁関係があるの?


――ああ、そうだよ。それよりも大丈夫か?


――これが大丈夫に見えるかしら? 私は牢に捕まってるの・・・・・・謂わば囚われのお姫様。


――いや、お姫様だろ?


――あら、そうだったわね。それで、助けてくれないのかしら?


 随分と遠まわしなお姫様みたいね。でも、この人なら・・・・・・。


――助けない。


 ええええええええっ!?


――・・・・・・あ、あら。そ、そう、なの・・・・・・そう。・・・・・・ぐす。


 ち、ちょっとちょっと! どうして私は助けてお姫様は助けないのよ! ふつー助けるでしょ!


――素直に助けてって言えばいいんだよ。


――あ、頭をな・・・・・・撫でないでくれる? 私は姫なのよ? 無礼な行為は――


――あっそ。じゃあやめるわ。


――そ、そんな。や、やっぱり・・・・・・。


 ・・・・・・。え、なにこれ。


――やっぱり?


――な、撫で・・・・・・て。


――え? 何て? 聞こえないなー。ちゃんと聞こえるように頼んでもらわないとなー。


――うぅ・・・・・・何よ! そんなにお姫様虐めて楽しいの!? 分かったわよ、言えばいいのでしょう? いいわ、言ってあげる! ・・・・・・う、その・・・・・・な、撫でてくださいお願いします!


――しょうがないなー、ほらよ。


――あぁ、ふぅん! あ、相変わらず・・・・・・どうしてあなたはこんなにも撫でるのが上手いのかしら?


――まぁ、小さい頃に幼馴染をよく褒めて撫でてやってたからな。その効果かな?


 この男・・・・・・鬼畜にも程があるわ! 何よこれ! お姫様を脅して無理やりあんな台詞言わせるなんて! それに、頭ナデナデが上手い? そんなの別にどうだって・・・・・・どうだって、いい・・・・・・。わ、私も・・・・・・してほしいかも。

 ご主人様に、ナデナデ・・・・・・うふふ。

 や、やだ! 私ったら何考えてるの!? やめやめ! こんなのナシ! 無しよっ!


――動けるか?


――いいえ、捕まってから一度も外に出してもらえなかったの。それでこの通り足の筋肉が衰えちゃって・・・・・・すっかり弱ってしまったわ。でも、背中には先約がいるようね。その子は?


 うそ、私のこと見られてる?


――ああ、あのオルガルトに捕まってた奴隷の巫女さんだ。名前は鈴華っていうんだよ。


 え!? ど、どうして私の名前をこの男が知ってるの!? あ、赤の他人のはずよね? どうして・・・・・・。


――ふうん、あの鳳凰一族の当主様がこんな所に・・・・・・本当にあの男はあなたに似て鬼畜な男ね。


――俺に似てってのはよけいだろ。


――あら、そうかしら? お姫様である私に対してあんな恥ずかしい台詞を吐かせたじゃない。


――誤解を生むような事を言うな! 俺はただお前が元気ないから元気づかせてやろうと・・・・・・。


――あら、そうだったの? それは感謝するわ。でも、ありがとう。少し嬉しかったわ。さて、早く逃げないといけないわね。けど、後ろは取られてるし・・・・・・。


 うう。何だか申し訳ない罪悪感が。でも、そっか・・・・・・。私、お姫様にも知られてるんだ。ん? でも、ミーミル姫って名前・・・・・・どこかで聞いたことがあるような。


――そうね。なら私は前をいただくわ。


――おい、いただくってどういう意味だよ!


――あら、深い意味はないわ。それとも何? そんなことを考えていたの? 変態ね。一応言っておくけれど、私はお姫様でありあなたとは天と地くらいの差があるのよ? 民族と王族という差がね。それに、私はまだ十二歳・・・・・・。その私に手をあげるつもり? ロリコンにも程があるわね、あなた。


――ち、違ぇよ! ったく、ここに誰もいねぇからいいものの、誰かいたらどうすんだ!?


 あれ? 私数えられてないの? まぁ確かに、気絶したままになってるから無理ないけど。


――あら、そう。それよりも早くしないといけないのではなくて? でないと、崩れてしまうわよ? ここにいた研究員たちは私を捕らえたくせにさっさとずらかっちゃったしね。


――お姫様がずらかるとか言うか? 普通そこは逃げるとか・・・・・・。


――あら、ごめんなさい? 私、一度この言葉使ってみたかったのよね。満足だわ。さぁ、急ぎましょう。


 どうやら、お姫様は抱っこして連れて行ってもらうみたい。確か十二歳って言ってたからそこまで重くはないだろうし、大丈夫よね?


――うく、何で無駄に重いんだ?


 あれ? 重かったの?


――ああ、このドレス・・・・・・いろいろ貴金属が使われてて重たいのよ。


――じゃあ、それ取ってくれよ!


――あら、それは私に・・・・・・この高貴なロリロリしいお姫様に全裸になれと言っているのかしら? とんだ鬼畜野郎ね。


 ぶふぅっ! ぬ、脱げ!? 嘘、この男・・・・・・そんなこと遠まわしにさせようとしてるの!?


――うぐっ! よくもまぁ、そんな言葉を覚えてんな・・・・・・。


――ここにいる科学者に色々と言葉を教えてもらってね。その影響かしら。


――クロノス、ロクなことしねぇな。てか、別に脱げなんて言ってねぇよ! 俺は貴金属とかの装飾品を取れって言ってんだよ!


――このドレスには着脱可能な貴金属はないわ。取るなら、この服を脱がないといけないの。


――・・・・・・マジか。


 ど、どうするの? 早く逃げないとやばいんじゃないの? どうするのかしら・・・・・・。


――くそ・・・・・・、そうだ!


 何か思いついたみたいね。あぁ、ホント見えないのが悔しい。


――ドレス脱いでこれ纏え!


――あら、高貴な私にこんなボロ雑巾みたいな布切れを纏えと?


――最初会った時に纏ってたやつだよ!


――よく、覚えていたわね。でもまぁ、仕方ないわ。ところで、ドレスは脱ぐとして・・・・・・下着はどうすればいいのかしら?


――は、はあ!? い、いや・・・・・・それは脱がなくても。


――あら、そう。


 このお姫様、ホントに十二歳? 私よりも大人っぽく見えるんだけど。これも首輪の影響? じゃあ、私にも何かしらの影響が? う~ん、何だろう。


――よし、しっかり掴まってろよ?


――こうかしら?


ギュッ!


――ぐぎゃぁあああ! イッテェエエエ!! てめぇ何しやがる! 肋骨折れるかと思ったわ!


――あら、ごめんなさい? あなたがしっかり掴まれというものだから。力んでしまったわ。


 どうやら随分とやんちゃなお姫様みたいね。口調とは段違い。まぁ、口調は首輪の影響みたいだけど。まぁ、十二歳だから仕方ないわよね。


――それじゃあ改めて、脱出するぞ!


――その、質問いいかしら?


――何だ?


――この体勢結構キツいのだけれど? 何とかならないのかしら?


――無理言うな。鈴華を背負ってるはいいが気絶してるから首に手回して体勢整えてもらえねぇし、ずり落ちないように体支えないといけないんだよ!


――それならば片手だけで十分なのではなくて? それならもう片方の手で私を支えるなどのアシストをするべきでしょう?


――わ、分かったよ。


 何だか私、随分迷惑かけてるみたい・・・・・・。ごめんなさい。


むぎゅっ。


――ひゃんっ! へ、変態ねあなた!


――な、なんでだよ!


――突然ロリっ子お姫様のお尻を揉みしだくだなんて破廉恥行為だわ。私のお父様が見ていたら即刻打ち首よ?


――こ、怖いこと言うな! 第一、体支えろって言ったのお前だろ!?


――あら、誤解だわ。私は体を支えろと言ったのであって、お尻を揉みしだけとは命令していないわ。誤認したのはそっちでしょう?


 このままだとこの二人の会話が延々に続いて脱出失敗でGAMEOVERみたいなオチになりそうなんだけど。いやよ、私。せっかく助けてもらったのに目を覚まして助けてくれた王子様の顔見ないでそのままBADEND直行だなんて。


――んじゃあ、どこならいいんだよ!


――そうね。手を貸しなさい。


――ん。


――ここならいいわ。


 どこだろう。腰・・・・・・かな? それなら私も許容できるし。でも、今の私、お尻に腕が触れてるのよね。けど、文句は言えないわ。せっかく助けてもらったんだもん。捨てられたくないし。


――よし、今度こそ文句ないな? んじゃあ脱出だ!


 再び体が揺れだした。どうやら今度はちゃんと動いてるみたいね。あれ、なんでだろ。何だか安心して気を抜いたせいか、だんだん眠くなってきた。ふわ~ぁ、おやすみなさい、ご主人様・・・・・・zzz


――△▼△――


 俺、塁陰月牙は今現在鎧一族の砦の外に向かって猛ダッシュしている。無論、全力ではない。その理由は――。


「んっ! あんっ!」


「おい、その紛らわしい声出すのやめろ! 気が散る!」


「あら、変な妄想してしまったかしら? でも、あなたが行けないのよ? 動きが激しすぎるから・・・・・・」


「おい、それも誤解を生む!」


「そっ。う~ん、なら運転が荒いと言えばいいかしら? もう少しゆっくり運転してくださる?」


「了解――って出来るかぁああああ! あのな、俺は今逃げてんの! そんな状況でノロノロ歩けるか!」


 と、まぁこのようにさっきから俺に無理難題をふっかける大人びた口調の少女は夢鏡王国の姫君であるミーミルだ。

 随分と見ない間にこんなにも成長してしまったらしい――中身が。

 しかし、時たま不思議な事が起こる。それは・・・・・・。


「ね、ねえ。また、頭撫でてくれないかしら?」


「は?」


「だから、その・・・・・・お兄――あなたに頭を撫でてもらいたいの」


「はぁ、へいへい」


「・・・・・・ふふ、ありがとう」


「どういたしまして」


 面倒くさいと言った口調で返す俺。しかし、ミーミルは心底嬉しそうにその幼い笑顔を振りまく。まるで天使の笑顔だ。どことなく昔の斑希を思い出させる。かと言って俺はロリコンなどではない。

 にしても、このミーミルのたまに頭を撫でてもらいたくなる衝動は一体どういう了見だ? まさか、これが首輪の副作用? ということは、後ろで寝ている鈴華も似たような事に?

 などと俺は軽く危惧して先へと進む。

 そして、ようやく入口近くまでやってきた。


「ねぇ、少し質問なのだけれど」


「何だ?」


「ここを脱出したら私はどうなるのかしら?」


「は? いや、普通に王国に返すんだよ。第一、確かお前・・・・・・誕生日過ぎてたろ? 十二歳の誕生日」


「ええ、そうね。祝ってもらってはいないけれど」


「おめでとう」


「え?」


「何だよ、祝ってもらってないって、さりげなく祝ってほしいって言ってるようなもんだろ? ったく、遠まわしな言い方しやがって・・・・・・。素直になれよな」


「あ、ありがとう。一応受け取っておくわ」


 面食らったような顔をしてミーミルは顔を俯かせ、声をかけると彼女は俺のお腹に顔を埋めて聞こえないという態度を示した。ううむ、幼い女の子の心情はよくわからん。言葉の意味はよくわかるのだが。声だけ聴くと大人っぽいのだが、顔を見ると明らかに幼女にしか見えない。

 俺は扉を開けて外に出た。生ぬるい風が俺達の髪の毛を揺らす。すると、煙と何かが焦げる様な臭いがした。いや、これは焦げるというより焼ける臭いに近い。まさか――!


「月牙・・・・・・一応先に礼を言っておくわ。ありがとう、助けてくれて」


「お安い御用だ。それよりも、その首輪は?」


「ええ、城に戻って外してもらうわ。けれど、その前にこの臭いの元だけは確認しておきたいわね。嫌な予感がするの」


「そりゃあ奇遇だな、俺もだ」


 ミーミルの言葉に俺は口元に笑みを浮かべた。


「では、連れて行ってもらえるかしら、月の王子?」


「へいへい、分かりましたよワガママお姫様」


 こうして、俺はミーミルを抱っこし鈴鹿をおんぶして出来る限り全力でディトゥナーヴの渓谷を駆けていった。

 そして、崖の上から見下ろしてその場で俺とミーミルは愕然とした。思わずその場に座り込んで狼狽するほどに。

 目の前では信じられない光景が広がっていた。鎧を身に纏った、明らかに人間とは思えない動きをする鎧一族の軍隊と神界からやってきたらしい神々との壮絶なる戦い。そして、間に挟まれるように俺の仲間――伝説の戦士が戦っていた。どうも、押され気味らしい。それに対し、次々に出現する神々の姿。鎧一族の軍隊もやられようとも何度も何度も立ち上がった。脱出前に水恋が言っていた不死身軍団製造計画というのはこれのことらしい。

 特に俺の目を引いたのはあの男だった。そう、紅蓮の双眸を持つ鎧を纏った老人――オルガルトいや、その体を借り、今や自身の物としている最強の鬼神族、鬼蜘蛛デュオルグス=オビヒリン。

 デュオルグスは神族に向かってその猛威を振るっていた。


「何なの、これは」


「これが・・・・・・そうなのか」


 俺はこの時初めて目にしたが、恐らくこれがそうなのだろう。世界を暗黒に飲み込んだ恐ろしく、忌々しい戦い。光闇戦争とはまた別の、人と神との戦い・・・・・・そう、始まってしまったのだ。ついに計画が、デュオルグスの企み通り始まってしまったんだ。


「第二次・・・・・・神人、戦争」


 そう口にした途端、やけに嫌な風が俺とミーミルの頬を舐めた、気がした・・・・・・。

というわけで、最終決戦がもう目の前に迫っています。第二次神人戦争。第一次は初代十二属性戦士の生まれる前に起こっています。そして、それを止めたのが神崎妃愛の腹違いの兄になった神崎王都。小七カ国の王族に七つの秘宝を渡し、封印することを約束させ、神族と人族の戦いを止めた伝説の英雄です。

とまぁ、それは次回に回すとして今回は鈴華がたくさんモノローグで恥じらいまくってくれました。さらに、一話以来の月牙とミーミル姫との絡み。

そんなわけで、月牙は鈴華とミーミルの二人を助け出すことになったわけですが、鈴華の奴隷の首輪の先を持ったことにより月牙が次のご主人様に……。

てなわけで、次回三十九話は妃愛が率いるセブンズ・クラウンが動き出します。また、オルガルト帝が猛威を振るい神族を殺しまくります。

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