第三十八話「融合! アラクネ・オルガルト」・2
「無駄だと言っておろう!」
ブンッ!と神滅剣が横薙ぎに振るわれる。
刹那――衝撃波が走り、空気を切り裂き奥の壁に衝撃波の跡がくっきりと残った。それを見てゴクリと息を呑む二人。躱すのが遅れれば自分達もあれの二の舞だと自身に緊張を走らせる。
「目障りな者共だ! 貴様らの利用価値はもう終わった! 今やただのいらぬ駒に過ぎぬ! ゴミはゴミらしく無に帰すがいいッ!!!」
神滅剣の剣先を二人に向け、照準を合わせると一気に剣戟を魔力に乗せて放つオルガルト帝。二人はそれを何とか躱すが、放たれた剣戟は奥の壁に激突して壁が崩壊した。
バラバラと崩れ落ちる壁。轟音が収まることには壁は瓦礫となって周囲に散乱していた。
「チッ! チョロチョロとッ!」
舌打ちしたオルガルト帝はその場から姿を消した。
「あいつ、どこに――あぐッ!?」
ズドォォォォォォンッ!!
姿を消したオルガルト帝を目で追いかける暗冷。すると、目の前に何かが姿を現しそれに思い切り暗冷はぶつかった。異常に硬い金属の様な物体。見ると、それはオルガルト帝だった。しかし、声を発するまもなく彼は地面に叩きつけられた。その一連の動作が全て一瞬だった。まさに瞬く間もなくである。
目の前で幼馴染が地面に叩きつけられる姿を見て水恋が絶句する。そして、目の前で宙に浮かんだまま不敵な笑みを浮かべているオルガルト帝を見ると沸々と怒りが湧いてきた。
「よ、よくも・・・・・・よくも暗冷君を!」
「貴様は賢いと思っていたのだがな・・・・・・」
そう言うと再びオルガルト帝は姿を消し、瞬時に水恋の背後に回るとムーンサルトキックの要領で後ろ向きに回転し、そのまま飛び蹴りを繰り出し水恋の背中に攻撃した。凄まじい威力で蹴られた水恋は背骨が折れるような激痛を感じながらも防御など出来るはずもなく――。
チュドォォォォォンッ!!
まるでミサイルが墜落したかのような嫌な効果音を立てて地面に突っ込んだ。水恋と暗冷はそれぞれ少し離れた場所に墜落し、彼らの周りには大きなクレーターが出来上がっていた。煙を舞い上がらせ、二人は瀕死の重傷で動けなくなった。
そんな二人を見てオルガルト帝は含み笑いをすると、続けて二人を嘲笑するように高らかに笑い声をあげた。
「聞こえてはいないと思うが、冥土の土産に持っていくがいい。不死身軍団製造計画の話だが、これはな・・・・・・不死身の力を体に秘める巫女族や鳳凰一族の力が必要でな? わかるか? 鳳凰鈴華を誘拐したのはそれが理由だ。こやつらを媒体にして生み出された人造人間は不死身の力を持ち永遠に死ぬことのない永久不滅の肉体を得ることが出来る。そう
思ってこやつを実験台にしたのだ。まさに計画は成功であった。その証拠にこやつは既に一人産み落としている。わしの息子でもあるオドゥルヴィアをな」
刹那――急激な魔力増大を感じるオルガルト帝。
「ん、な・・・・・・何だこの禍々しいオーラは!? な、何が起こっている!?」
あのオルガルト帝をも狼狽させるほどの魔力。発生している場所を見ると、そこには禍々しいオーラを身に纏った暗冷と水恋がいた。
「こ、これはまさか・・・・・・神力の暴走!? ま、まさか・・・・・・そんな馬鹿なッ! くっ、レイヴォルめ・・・・・・力を奪い去ったのではないのかッ!?」
奥歯をギリと噛み締め後ずさるオルガルト帝。すると、ユラリと体を起こした二人が瞬時に姿を消してオルガルト帝に向かって突っ込んだ。
「や、やめろ! き、貴様ら分かっているのか!? わしは偉大なる神になる男! オメガ=アーマー=オルガルトであるぞ!そのわしに攻撃など――」
ブシュゥゥゥゥゥゥッ!!
真っ赤な鮮血が飛び散り、吹き飛んでいくオルガルト帝の両腕。水恋と暗冷が互いに彼の右腕と左腕を切り落とし、神滅剣を握れないようにしたのだ。
「ぐぁあああああ! わ、わしの腕がァァァアアア!! お、おのれェェエ!!! き、貴様らぁァアぁああァあ!!」
歯をむき出しにして目を血走らせるオルガルト帝だが、二人は冷静にその場に立っていた。そして武器を収めると振り返ると同時にその禍々しいオーラを消し去った。
「ど、どうなっている? 貴様らは先程まで神力の暴走に飲み込まれて・・・・・・自力で暴走を止めたというのか? そんな馬鹿な・・・・・・一体、何が」
自身の知り得ている知識とかけ離れた現象が起こり頭を抱えるオルガルト帝。しかし、すぐに彼は当初の目的を思い出し邪悪な魔力を放出する。
「くっ、まだこいつ・・・・・・」
「いい加減諦めてください、オルガルト!」
「ふざけるなぁああ! わしは、わしは神に・・・・・・新たなる神になり世界の理を破壊するのだぁあああああ!!」
そう言ってオルガルト帝は両腕からボタボタと真っ赤な血を滴らせながらその場に立ち上がると声が枯れんばかりに声を張り上げ叫んだ。
「アラクネェェェエエエエエ!!!」
その名前を口にした途端、漆黒の天井から不気味な八つの真っ赤な目が光ったかと思うと、ドサッ!とこの広間より少し小さいくらいの巨大な大蜘蛛が姿を現した。
そしてそのアラクネと呼ばれた大蜘蛛が口から触手を伸ばすと、オルガルト帝の体を掴み、自身の頭に乗せた。
「今この時、ここに鬼蜘蛛と大蜘蛛の融合を果たさんッ!!」
両手を高々と真上に掲げオルガルト帝はアラクネと融合した。
「くっ! こいつ、自ら化物とッ!」
「これではもう手遅れです!」
【貴様らだけは・・・・・・貴様らだけは許さぬッ!! このアラクネ・オルガルトで引導を渡してくれる! 死ねぇぇええええ!!】
巨大な八本の脚の内の一本を水恋と暗冷に向かって突き刺してくるアラクネ・オルガルト。しかし、それを何とか躱す水恋と暗冷。
「まずい、このままだとここが崩れちまう! くそ、鈴華だって助けてねぇってのに! こうなったら・・・・・・おい、デカ乳!」
「んなっ! このピンチな状況で何セクハラ発言してるのですか! まったく、暗冷君は全く・・・・・・」
「いいからお前救援呼んでこい! 全員でやりゃあなんとかなる!」
「で、ですが・・・・・・」
さっきまでセクハラ発言をされて顔を真っ赤に紅潮させていた水恋だが、すぐに心配そうな顔になって暗冷の身を案じる。しかし、暗冷は引かない。
「早く――」
と、その時だった。
グサッ!!
二人で会話して敵の動きをよく見ていなかったのが誤算だった。暗冷の背中から腹部にかけて鋭利な爪が貫通していた。アラクネ・オルガルトのものだ。
「ぐほぉッ! だ、だから・・・・・・言っただろ、早く行けって」
「あ、暗冷君!」
慌てて暗冷を抱きしめる水恋。だが――」
「あぷぷッ! ぷはっ、テメェ腹部貫通されてんのにその上窒息死させるつもりか!?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「は、早く・・・・・・行け」
「はい! すぐに戻ってきます!」
そう言って水恋は駆け出していった。
――くそ、死ぬ前にいい思いさせやがって・・・・・・。ふわふわ、だったな・・・・・・けっ、オレとしたことが変な事を口走っちまったぜ。にしても、マジでやばいな。
【クックック、馬鹿な男よ。あの小娘を逃がしたところで貴様が助かる保証などどこにもないぞ?】
「ケッ、今に見てろって。あいつは必ず戻ってくる、仲間を連れてな・・・・・・」
【果たしてそうかな・・・・・・クックック】
そう言ってアラクネ・オルガルトは不気味な声音を響かせて笑った。
――△▼△――
その頃、月牙達はというと、瀕死の重傷を負って動けないメンバーを除いた十三人が葡豊の容態の心配をしていた。現在葡豊は右腕と左足を失った重体。刻暗の力で何とか仮止めの止血をしているが、長くは続かない。その間に癒宇と月牙が相談をしあっていた。
癒宇の属性は森属性。草植系属性である彼は木々の力で癒しをもたらしたりまた、木でいろんな物を作ることが出来る。今回月牙はその力に目をつけた。木で義手と義足は作れないのかと。しばしの思案の結果、癒宇の返事はOKだった。つまり可能だということである。こうなれば問題は解決だ。義手と義足さえあれば葡豊は再び今までの様に生活を送ることが出来る。だが、問題はもう一つ別にあった。その義手と義足の見た目だ。見た目が木だとあまりにも第一印象が悪すぎる。これではあまりにも葡豊が不憫過ぎる。しかし、その事を話すと癒宇は問題ないと口にした。何でも義手と義足にするための木は人間の肌に近い色をしているらしく、見た目もそこまで違和感ないそうだ。
これで今度こそ万事解決と言える。
そして、さっそくそれが実行された。斑希以外の女性属性戦士を後ろに下がらせ、月牙と癒宇と斑希と刻暗で事に取り掛かる。
それから約三十分後、ようやく全ての作業が終わり葡豊が目を覚ました。
「大丈夫か?」
「大丈夫、葡豊?」
「ひぃッ! ぼ、僕はこれで・・・・・・」
「大丈夫でございますか葡豊?」
月牙、斑希、刻暗、癒宇が各々葡豊の身を案じるように声をかける。すると、葡豊は刻暗を除いた三人の顔が自分に近いことに戸惑い身をそらしながら「な、何ですか?」と困惑の表情を浮かべた。
「どうやら無事に完了したようでございますね・・・・・・」
「よかった」
「え? な、何が? ん? あれ、私・・・・・・確か、腕と足が・・・・・・」
「葡豊・・・・・・」
恐らく自分でも右腕と左足がちぎれた事を覚えているのだろう。それが復活していることに彼女自身も驚いているのだ。しかしそれも無理はない。本来失われた物が復活するはずなどないのだから。
そして、一連の説明を従兄の癒宇にされた葡豊は少しショックな顔をしながらもすぐに嬉しそうな顔を浮かべてみんなにお礼を言った。
「皆さん、ありがとうございます。おかげさまで、私もまた戦えます!」
「葡豊・・・・・・別にもう無理して戦わなくていいんだぞ?」
月牙が心配そうに言うと、葡豊は首を振って言った。
「いいえ、そういうわけにはいきません。それに私は回復係ですから・・・・・・。困っている人は助けないと! それよりも、瀕死の皆さんをどうにかしないと」
その一言で大事な問題がもう一つ残っている事を思い出す十四人。周囲を見渡すと大勢の戦士が血反吐を撒き散らして横たわっている姿があった。十四人は急いで残りの十五人を集めて並べていった。
「ダメです・・・・・・皆さん、相当な重傷で私の治癒が効きません!」
「そ、そんな!」
「私もダメでございます・・・・・・。斑希さん、月牙さん、どうにかなりませんか?」
「そう言われてもな・・・・・・。手なんて」
と、腰に手を当て考える月牙。だが、いい案が思いつかない。すると、斑希がふと腰に手を当てた瞬間何か硬いものに当たるのを感じそれを取り出した。それは皆のパワーストーンだった。そう、以前天使九階級の熾天使であるセイラからもらったものだ。
「皆、もしかしたら助かるかもしれない!」
その言葉に皆は歓喜して斑希の元に集まった。パワーストーン。魔力操作が上手く出来ない人間などが使用する代物だ。これを使えば封じ込めていた魔力を彼らに戻せ、完全復活を果たせるはずだと斑希は考えたのだ。その説明になるほどと皆は急いで皆にそれぞれパワーストーンを渡した。
そして、次の瞬間、そのパワーストーンが一斉に光り輝きだしその場にいる伝説の戦士を眩い光が包んだ。
「な、何が起こったんだ・・・・・・?」
と月牙が瞬きをして目を開けると、さっきまで横たわっていた伝説の戦士十五人が上半身を起こして状況確認を行っている姿があった。
というわけで、オルガルト帝によってメッタ打ちにされる二人。すると、二人が軽く神力の暴走になりかけてオルガルト帝を返り討ち。いやはや、さすがは帝族で伝説の戦士。
が、そこでオルガルト帝は巨大な大蜘蛛のアラクネが融合! さらに二人に襲いかかります。そして、腹部貫通される暗冷。てか、ほんとこの人は腹部貫通好きですね。
てなわけで、三部めは力を得た伝説の戦士が暗冷を助けに向かいます。