第三十七話「暴走! ゴウスト・シェルの脅威」・2
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「どうだ? 準備の程は」
「完璧だ。もう手はずは整っている。これが神滅剣だ」
レイヴォルは暗闇から現れたオルガルト帝に黄金色に輝く剣を手渡した。それを見てニヤリと不気味な笑みを浮かべるオルガルト帝。そして、ふと気を失っているゴウストを一瞥するとレイヴォルに指示を出した。
「さぁ目覚めろゴウスト・・・・・・いや、神崎斬覇」
「うっ・・・・・・こ、こは?」
「貴様の墓場だ・・・・・・精神支配!!」
オルガルト帝の紅蓮の双眸が光り輝き、それを見た神崎斬覇が意識を失う。これで彼は従順な操り人形となってしまった。そして、オルガルト帝によって七つの秘宝を身に纏わされ、その上神滅剣を握らされた斬覇はその剣先を自身の胸へと突きつけた。
「さぁ、やれ!」
グサッ!
生々しい効果音が木霊し、鮮血が飛び散る。
「ぐふふふ、ぐふははははは! 完璧だ。これで神の力はわしの物となる!」
そう言って手を大きく広げ高笑いしたオルガルト帝は神滅剣を抜き去った。そして神の力を得たオルガルト帝は歓喜してそのまま再びその姿を消した。
「くく・・・・・・馬鹿なジジイだ。頭にウジでも沸いてるのかもしれんな。まぁいい、こちらの準備は整った」
ふと暗闇を見ると、そこから禍々しいオーラを纏う鎧が姿を現す。
「ゴウストその物を作り上げることは不可能であったが、その力を譲渡させたヒューマドロイドを作り上げる事は可能だった。こいつを使って伝説の戦士の実力を図らせてもらおう。そして、あわよくば覚醒もしてもらわねばな・・・・・・」
顎に手をやりふぅむと唸るレイヴォル。すると、伝説の戦士が目を覚ました。
「な、何だこいつは!」
「くそ、こっから出しやがれッ!」
「てめぇは、レイヴォル!!」
各自目覚めるや否や目の前の白衣男に対して敵意をむき出す。
「やれやれ・・・・・・まるで猛獣だなその状態だと。まぁいい、これから本当の猛獣になってもらうのだから・・・・・・」
意味深なことを呟くレイヴォルに首を傾げる一部のメンバー。すると、レイヴォルが指を鳴らし伝説の戦士を開放した。
疑問符を浮かべつつも檻から出てきた伝説の戦士は、各々武器を構えてレイヴォルを睨めつける。
「おいおい、勘弁してくれたまえ。今回の敵は俺ではなく、こいつだ」
そう言って前に進み出させたのは先程のヒューマドロイドだった。
「何だ、そいつ?」
「それよりも、あれ!」
砕狼が変な物を見るような顔をしていると、葡豊があるものを指差した。その方を見ると、そこには磔状態のまま死に絶えているゴウストの姿があった。
「ひ、ひどい!」
光蘭が見るに耐えないと両手で口元を覆う。それを見て、雷落が慌てて義妹の目を手で覆い隠す。
「くっ! あなた達、人として終わってるわ!」
斑希が下唇を噛み締めレイヴォルに言う。すると、やれやれと両手をあげて彼が口を開く。
「俺も本当はこんなことはしたくなかったんだがな。安心しろ、そいつは影武者だ」
「か、影武者?」
「本当のゴウストはもう既に死んでいるんだよ」
『――ッ!?』
レイヴォルの衝撃発言に伝説の戦士全員が驚愕する。
「ああ、貴様らの持つ力は失くなってなどいない。茶番に付き合ってもらっただけだ。あの電撃は魔力を無理やり貴様らに与えるためのものだ」
「何でそんなことを?」
月牙が訝し気にレイヴォルに尋ねる。
「なぁに、ほんのちょっとした感謝の礼だよ」
――くく、本当はこいつらに魔力を与えておかないと覚醒に至らない可能性があると踏んだから与えたのだがな。
と、心の中では本音を呟くレイヴォル。すると、彼の隣にいたヒューマドロイドがフシューと鼻息を荒くした。
「おっと、お前のことを忘れていたな。紹介しよう、俺が開発したヒューマドロイドの『ゴウスト・シェル』だ」
「ゴウスト・・・・・・シェル?」
「さよう、さぁ殺れゴウスト・シェル! 貴様の力、この俺に存分に見せてくれたまえ! くく、ふははははは!!」
そう言ってレイヴォルはその姿を消した。恐らく高みの見物と洒落込むつもりなのだろう。
一方でゴウスト・シェルは機械の様な歪な動きを見せて稼働し始めた。それに対し構える伝説の戦士だが、はっきり言ってどうやって戦っていいのか分からなかった。だが、ここで向こうが先手に出た。
ゴウスト・シェルは凄まじいアクロバティックな動きで手前にいた伝説の戦士を一蹴する。力自慢の砕狼、鋼鉄、彪岩の三人もいとも簡単にやられている。
「くっ、何なんだこの力は!」
「オレ達の力が通じねぇだと?」
「うむ、おれの力も通じん! こいつは相当強いぞ!」
三人が再び構え直しゴウスト・シェルに立ち向かうも、やはり簡単に返り討ちをくらってしまう。すると、三人に気を取られているゴウスト・シェルに向かって後方にいた特殊攻撃組の伝説の戦士が得物に魔力を込め、三人にどくように命じた。彼らが、他の伝説の戦士が構えているのを見ると、すぐさまその場からどいた。同時に、特殊攻撃を一斉に放つ。
ビュゥゥンンッ!!
攻撃は見事ゴウスト・シェルに直撃し、モワモワと煙が舞い上がる。しかし、倒れてはいなかった。軽い傷がついた程度で敵はまだピンピンとしている。そもそも機械と生身の人間ではあまりにも差が大きい。これではこちらが不利なのは目に見えていた。
「くそっ、一体どうやったらこいつを倒せんだ?」
暗冷がさっさと先に進みたいのにと歯噛みしながら言う。すると、その隣にいた水恋も同調するように言った。
「そうですね、早くしないと鈴華さんが!」
それを聞いていた月牙が二人に向かって攻撃しているゴウスト・シェルを蹴り飛ばした。吹っ飛んだゴウスト・シェルはすぐに体を捻り上手く着地する。
「へっ、頑丈な体だぜ。おい、水恋、暗冷! お前ら、先に行け!」
「は? 何言ってんだテメェ!」
「そ、そうですよ月牙さん! 皆さんがピンチなのに私達二人だけ私情で先に行くなど・・・・・・」
「四天王の時だって先に行かせただろ? あの時のことを忘れたのか!?」
月牙の言葉に二人が口ごもる。そして、互いに目を見ると意見を合致させたのか頷き合いもう一度月牙の方に向き直った。
「分かりました、私達行きます!」
「ああ、そうしてくれ!」
起き上がったゴウスト・シェルを見て月牙が二人に背を向ける。
「ここまでしてやったんだ。ちゃんと鈴華って子を助けろよ?」
「ふっ、分かってらぁ!」
「すぐに連れ戻して加勢します!」
そう言って二人は駆け出していった。それに気づいたのだろう、ゴウスト・シェルが反応してその場から飛び上がり、水恋と暗冷の目の前に着地し二人を妨害した。
「くっ!」
すぐさまその場に駆けつけようとする月牙だったが、先刻壁に激突した時の傷が酷く即座に行動に移れなかった。すると、代わりに斑希が体に光を纏わせてゴウスト・シェルに突っ込んだ。
「二人の邪魔しないでっ!」
突撃すると同時にゴウスト・シェルの体が地面すれすれを滑空していき、斑希と共に壁に激突する。
「ふ、斑希ぁああああ!」
その場から動けず、せめて声だけを張り上げる月牙。その様子を見て心配そうにして駆け寄ろうとする水恋と暗冷だったが、一歩その場に留まり月牙に言われたことを思い出して奥歯をギリッと噛み締めると申し訳なさそうにして駆け出していった・・・・・・。
こうして現在この広間には四天王と戦っていたメンバーが強制的に連れてこられたことにより二十九人の伝説の戦士が残っている状態になった。
「さてと、そろそろ本気を見せようではないか」
「そうだね、兄さん! さっきは結局僕達の活躍を見せられなかったからね」
そう言って二人が互いの手を握り、もう片方の手を突き出して手のひらをゴウスト・シェルに向ける。
「赤星慧よ、補佐は頼んだぞ?」
「うん!」
慧がその後ろに立ち星の力を二人に向かって注ぐ。すると、二人の周囲の魔力が急激に向上する。そして、龍の目が一層淡く光り輝き八重歯が少し大きくなる。さらに、その腕に龍の衣が生まれ背中から龍の翼が生えた。
「「くらえ、『龍竜の覇者』!!」」
二人の息が合い、同じ台詞を同時に口にする。瞬間、二人の手のひらから飛び出した龍竜の魔力は渦を巻き、ゴウスト・シェルが壁から起き上がった所に追撃するように直撃した。
そこから慌てて離れた斑希は二人に向かって文句を言った。
「ちょっと二人共! 私まで巻き込まれるトコだったんだけど!」
「ははは、すまんな光陽斑希!」
「そんな所にいるからいけないんだよ!」
聖龍と俊龍が言い返すように斑希に言う。すると、煙をあげているゴウスト・シェルから声とは思えない叫び声が聞こえてきた。猛獣の怒り狂う様な声音。
刹那――ゴウスト・シェルは一番近場にいた乱火に向かって猛スピードで地面すれすれを滑空していった。
「乱火、危ないッ!」
従兄の妖燕がそう叫ぶが一足遅かった。ゴウスト・シェルはその禍々しいオーラを渦巻かせ、乱火の首根っこを掴むと少しの抵抗もさせる余裕を与えぬまま、まるで物同然に上空から地面に向かって叩きつけた。
「ガハッ!」
「ら、乱火ッ!」
慌ててその場に駆け寄ろうとする妖燕だが、そこに向かって上空からゴウスト・シェルが飛来する。
「避けろ妖燕ッ!!」
月牙が叫ぶが、やはり遅かった。声に気づく前に敵が標的に手をあげる領域にいるのだ。
ズドォォォォォォンッ!!
一気に二人の伝説の戦士が倒れた。これでこの場には二十七人の伝説の戦士しか残っていないことになる。だが、その後も凄まじかった。まずゴウスト・シェルに龍竜の覇者を放った龍竜族の二人と慧が、まるで倍返しというように巨大な魔力球をぶつけられたのだ。しかも、避けようにも地面から突き出たゴウスト・シェルの触手状のそれが脚を拘束し動けないようにしていたため逃げられない。確実に当てるつもりでやつは攻撃をしているのだ。
これで二十四人。残った属性戦士はゴクリと息を飲んだ。うかつに攻撃すれば倍返しで殺られる。しかし、攻撃してなくとも攻撃される可能性がある。手の打ち用がなかった。そして、また五人やられた。
青嵐、未來、天照、翡翠、細砂の五人だ。おまけに全員女子。非力な女の子にも容赦ないその攻撃はあまりにも非人道的であり、まさにただの抜け殻としか言い様がなかった。心のない機械の攻撃。しかもそれが元神族の力を再現して作られたとなれば、異常なまでの力も理解出来る。
「くそ・・・・・・」
現在残った伝説の戦士は十九人。もうそろそろ半分以上がやられたことになる。そして、まるで半分にしてやろうと言わんばかりにゴウスト・シェルは禍々しいオーラを二枚の羽の様にして空を飛行し、空を飛べない伝説の戦士に向かって容赦なく攻撃を繰り返した。両手から放たれる魔力弾。それに被弾したのは力自慢の三人組、砕狼、鋼鉄、彪岩と、猛辣、紫音の合計五人だった。これで残り十四人となった。敵の思惑通り――いや考えてなどいないのかもしれないが、伝説の戦士はあっという間に半分以下の人数に激減してしまった。
月牙、斑希、葡豊、癒宇、雷落、光蘭、風浮、氷雨、雪羅、靄花、霧矛、凛、刻暗、影明の十四人は、手足が震えているのが分かった。今にも逃げ出したい、そんな気持ちだ。唯一の年長者である癒宇でさえ笑顔が引きつっている。
と、その時、空中にいたゴウスト・シェルが葡豊に目をつけた。次の標的は彼女らしい。それに気づいた氷雨が舌打ちして靄花に無理やり水を出させると、それを使って氷の槍を作り出し砲撃を放ったゴウスト・シェルに向かって放った。
氷の槍は速度をつけてゴウスト・シェルの肩に直撃した。その痛みに敵は体を捻り、天井に向かってその砲撃をぶつけた。しかし、それがまずかった。天井が砲撃によって崩壊し、落石が葡豊に向かって落下してきたのだ。
というわけで、ゴウストが実は既に死んでいることが判明した今回の話。なぜ死んだのかというと繰り返される実験ですね。それともう一つは、衰弱です。まぁ、外にほぼ出れない状態で拘束され続けていたのですから無理もありません。神族って死なないんじゃとも思うかもしれませんが、それは神滅剣のようにもう一つ神を殺せる物で殺されました。
てなわけで、ゴウストの生まれ変わり的な存在のゴウスト・シェルが出てきました。まぁ、シェルの意味はそのまんま抜け殻です。
そして、一気に二十九人が十四人にまで減らされてしまったわけですが、頭上から降ってくる落石に葡豊はどうするのか!?