第三十五「リベンジ! 滅殺の騎士」・2
「・・・・・・やけに静かだなぁ。まさか、死んじまったか? だとしても死体確認しねぇと、ボスに褒美はもらえねぇよなぁ」
フェニックスは頭をボリボリとかくと、少し高度を下げ未だに晴れることのない濃霧に近づいた。
「チィッ! この濃霧・・・・・・無駄に湿気が濃くていけねぇ。湿気はオレの炎には厄介な存在だ。やっぱし、この火球で・・・・・・いんや、この火球はあの四人にぶつけるって決まってんだ。・・・・・・おいッ! そこにいんだろ、伝説の戦士ィ! 隠れてねぇで出てきやがれ!! 怖気づいたか!」
挑発して相手をおびき出そうと画策したフェニックスだが、相手がそんな単純な罠に引っかかるはずもなく動きはなかった。
「くそ・・・・・・しょうがねぇ、ホントはあのヤロー共にぶつけるつもりだったが、止むを得ねぇ・・・・・・喰らいやがれぇぇえええええッ!!」
炎の腕を振るい、真っ白な濃霧が広がる地上に向かって超巨大火球を炸裂させるフェニックス。
刹那――真っ白な濃霧が凄まじい熱気と吹き荒れる強風によって吹き飛ばされ元の地上が姿を現した。そして、丁度火球がぶつかったすぐ近くに四人の人影を確認した。――伝説の戦士だ。
「惜っしィ! 後もうちょい隣だったかぁ。へっへっへ、命拾いしたなぁ伝説の戦士! だが、次は外さねぇぞぉ? ぬぉおおおおおおおおおおッ!!」
両手に魔剣を握ったまま邪悪なオーラを身に纏い出すフェニックス。その瞳は燃え盛る灼眼に輝いている。だが、そこに再びあの真っ白な濃霧が大量発生した。しかも、量が段違いで少し高度を下げたとはいえ、フェニックスのいる所までその濃霧が上昇してきたのだ。
「な、何だぁッ!? くそッ・・・・・・濃霧がッ!」
その大量の濃霧に含まれる水分と湿気が一気に生成しかけていた火球を濡らして消してしまう。
「く、糞がぁッ! テメェらぁああああああッ!!!」
魔剣を横薙ぎにし、衝撃波で纏わりつく濃霧を振り払いながら真正面に見える僅かな人影に向かって魔王剣を振るう。
ビュゥウンンッ!!
激しい衝撃波を纏ったそれは人影に直撃した――かのように見えたが、そこに人影はなく微かな魔力の気配を感じ取ったフェニックスがそちらに首を回すと、そこには氷雨がニィッと口元に笑みを浮かべている姿があった。
「ば、馬鹿なッ! こんなところまでどうやって――」
「無論、飛んできたのさ。氷の階段を使ってな・・・・・・」
言われて下を見ると、確かに氷雨の足元には階段らしきものがチラリと見えた。その姿を確認してフェニックスがさらに狼狽する。
「だ、だが・・・・・・熱気でいっぱいのこの空間で一体どうやって氷を――ハッ!」
さっきから邪魔くさい濃霧を見て確信するフェニックス。
「・・・・・・そういう、ことだッ!!」
ズビュシュッ!!
「ぐほぁッ!! ぐ・・・・・・く、へへ・・・・・・へっへっへっへ。残念だったなぁ、氷雪系属性戦士ィ! 忘れたか、オレはフェニックス・・・・・・不死鳥、つまり不死身なんだぜぇ? はっはっは――は・・・・・・ァ?」
ガキンッ!!
背中に生やした炎の翼が氷漬けにされる感覚を察知するフェニックス。
「んなッ!」
「おっと・・・・・・もう一回羽根を生やさせはしないッ!! 昏睡に誘え、『永久なる冷凍』!!」
刹那――濃霧から冷気が放出され一気にフェニックスを含めた周囲全てが氷漬けにされた。
「が――ッ・・・・・・う、ごけねぇ!?」
「永遠に睡れ・・・・・・不死身の鳥よ」
氷の階段を下りながらそう呟くと同時にその巨大な氷の山に亀裂が入る。
「や、・・・・・・やめ、待――」
バリィィィィィィンッ!!
粉々に砕け散った氷の欠片は、キラキラと宝石の様に光りながら地上に降り注いだ。
「・・・・・・やった、やった! 霧矛、私達やったわよ!」
「うん、うんお姉ちゃん!」
「お兄ちゃん、おめでとー! かっこよかったよ!」
「ああ、ありがとう雪」
不死鳥といえど、肉体が木っ端微塵になればもう復活は出来ない。それが氷雨の一番の狙いだった。だからこそ、そのためには大量の湿気と水分が必要だったのである。見事、作戦勝ちということだった。
こうして四人は見事不死鳥と恐れられる虐殺の騎士フェルト=フェニックスに勝利したのである・・・・・・。
――△▼△――
「はぁ、はぁ・・・・・・よぉ。久しぶりだな」
「・・・・・・ああ、そうだな」
俺――塁陰月牙は、スパイダーの所に四人、フェニックスの所に四人の合計八人を残してここまで来ていた。そして、残った二十三人の伝説の戦士の目の前には今最大の敵が待ち構えていた。広間からさらに奥へと繋がる道への入口の壁に寄りかかっているその鎧騎士・・・・・・。物静かすぎて逆に不気味なくらい落ち着いているその男こそ、俺の戦うべき相手にして、リベンジしなければならない相手――滅殺の騎士ロルトス=ファントムである。
何でもコイツはフェニックス同様元冥霊族の者らしく、不死身だという。以前、サンダルコ街跡で光蘭を襲ったこいつを倒したと斑希が言っていたが現に目の前にいる。ということはやはり、こいつも不死身だということだ。
だが、ここで怖気づいていてはいられない。そのためにもまずは――。
「水恋、暗冷・・・・・・。お前たちは先に行け」
「ちょ、何を言っているのですか月牙さん! この男は凛さんの――」
「分かってる。確かにその事もある。だが、それ以前にお前らは大事な幼馴染を助けないといけないだろ?」
「それは・・・・・・」
俺の言葉に顔を俯かせる水恋。俺達の事が心配なのはわかるが、それでもこの二人には先に進んでもらわなければならない。
「暗冷、連れて行ってくれ・・・・・・」
「分かった、おら行くぞ水恋――」
「嫌です!」
『――ッ!?』
腕を掴もうとした暗冷の手を振り払い明らかに拒絶の言葉を口にする水恋。滅多に見ないその行動に、幼馴染である暗冷自身もさすがに困惑していた。すると、それを見ていた青嵐が声をあげる。
「んなっ! 暗冷くんに何するのよ! 大丈夫、暗冷くん?」
「だ、大丈夫だから抱きつくなッ!」
かわいそうに、と頭を撫でてくる青嵐を無理やりどかそうとする暗冷。
その様子を苦笑しながら一瞥した俺は、嘆息しながら水恋に訊いた。
「どうして行かないんだよ! 鈴華って子が待ってんだろ?」
「それでも・・・・・・それでも、私だけ戦わずに先に進むのは嫌なのです!」
「わがまま言うなッ!!」
「・・・・・・え。げ、月牙さん? あ、の・・・・・・」
完全に声が震えていた。目尻に涙も浮かべている。どうやら、怯えさせてしまったようだ。だが、ここでこいつを甘やかすわけにはいかない。それでは、従姉妹である凛と霧矛にした事が無になってしまうからだ。
「いいか、お前は戦ってないと思ってるみたいだが、それは嘘だ! お前はもう戦ってるんだよ。先へ進むという目標と! 目的と戦ってるんだ! 俺達はその手伝いをしてるだけだ。お前の従妹の言葉を忘れたか? あいつらはお前のためにわざわざあの場に残ってフェニックスと戦ってるんだぞ? それはお前を生かすためだ。お前に死んでもらいたくないからだ!」
「私だって凛さんや霧矛さんに死んで欲しくなんかありません! あの子達が死ぬなら私も――」
パシッ!
乾いた音が響き渡る。気づけば俺は彼女を――水恋を、あろうことか四帝族の一人である十五歳の少女の頬を叩いてしまっていた。
「あ・・・・・・わ、悪い。今のはやり過ぎた」
「・・・・・・ぐすっ、どうして・・・・・・なのですか? 私は、死んで欲しくなんかないのです・・・・・・誰ひとりとして死者を」
水恋が言っている事が何なのかそれは分からない。でも、何か事情があるのは分かった。
「ちょっと月牙! 女の子になんてことするの!?」
「わ、悪かったって・・・・・・思わず手が出ちまって」
「最低だな月牙」
「全くだ、坊主・・・・・・女の子は大事にせんといかんぞ?」
斑希に続いて乱火と妖燕が俺を責める。その場に蹲り泣き出してしまった水恋を見て、完全に女子だけでなく男子メンバーからも非難の視線を向けられている。
「ぐ・・・・・・な、なぁ。悪かったって! だから泣き止んでくれよ、な?」
「ぐすっ・・・・・・げ、月牙さん・・・・・・なんか、月牙・・・・・・さん、なんか・・・・・・だ」
「だ?」
「だいっきらいですー!!!」
ドグォッ!!!
「ふごぉッ!!」
「うわぁあああああんっ!」
俺を張り手――ではなく回転のかかったグーパンで殴り飛ばした水恋は、そのまま暗冷をほっぽいて泣き叫びながら駆け出していった。ファントムの真横を通り過ぎて――。
「あ、おい待て水恋ー!」
青嵐を突き飛ばして慌てて水恋の後を追いかける暗冷。
というわけで、フェニックスを無事に倒した凛たち。にしても、氷雨の最後のキメはよかったですね。んで、ファントムとの戦闘の前の会話ですが、月牙がついに水恋に手をあげてしまい、張り手――もといグーパンをお見舞いしてもらうことに。まぁ、当然ですよね。てなわけで、区切り悪いですが次の三部で三十五話は終わりです。