第三十四話「抹殺の騎士と虐殺の騎士」・3
「まずいッ!!」
「あんなのくらったら――」
「間に合ってくれッ!!」
放たれると同時に刻暗が片眼鏡を外した。
「な、何――」
ズシャァアァア!! バリンッ!!
「ば、馬鹿な――ゴボァッ! う、く・・・・・・死ぬわけにはいか――」
ビシュゥゥウンッ!!
「グホォッ! ゴホッ・・・・・・何故、あのオーラが消え――」
ザシュゥン!!
「グヘァ! ハァ・・・・・・理解出来ん。伝説の戦士は、三十一人で――」
ゴォォォォォッ!!!
「ぐはぁぁああああッ!!」
一瞬、まさにその一言に尽きた。ほんの一瞬目を瞬かせたその次の瞬間には放ったはずのオーラが消失し、目の前から攻撃が相次ぎ、実に四つの攻撃がスパイダーの肉体に雨霰の様に降り注いだのだ。致命的だったのは、第一撃で八魔剣の一振り、魔豪剣ゴーズルドンが砕けてしまったのが誤算だった。
ドシャ。
地面に叩きつけられもう起き上がることも出来ないスパイダーに四人の戦士が近づく。
「ぐふ・・・・・・なるほど、これが伝説の戦士の力。くっ、結局吾が右眼は戻らず終いか・・・・・・む、ね――」
最期まで言葉を発する事が出来ずそのまま息を引き取ったスパイダー。四人はそれを見ながら歓喜することはなかった。結局は倒したものの、本当のこいつの敵は主であるオルガルト帝だったのだから。
――△▼△――
俺達は目の前の敵に苦戦していた。目の前にいるのは虐殺の騎士フェニックスだ。やつは元冥霊族らしく、相棒のファントムと共に契約召喚でオルガルト帝に呼び出され下僕となったらしい。当初は気に入らなかったらしいが、今ではたくさんの強者と戦えるため楽しい人生だと言っている。
そして、やつはフェニックスで不死鳥・・・・・・つまり、不死身だった。そのため俺たちは苦戦を強いられていたのである。おまけにやつは両手に八魔剣の内の二振り、魔帝剣ペルエテオンと魔王剣キントルグスオンを所持しており、その上背中から生やした炎の翼で宙を舞っていた。
「いい加減諦めてオレに殺られろよぉ~! オラオラッ!!」
そう言ってブンブンと魔剣を振り回してくるフェニックス。自由自在に飛び回る分あっちの方に分があった。このままではまずい、くそ・・・・・・。
「そんなことを言っていると、水恋が俺に耳打ちしてきた」
「あのぅ、月牙さん。相手はフェニックス・・・・・・不死鳥であり火の鳥ですよね? でしたら属性は炎のはず。なら、水属性である私が――」
「いやダメだ! そう言ってくれるのはありがたいが、お前はこの先にいる鈴華を助けないといけないだろ?」
「で、ですよね。でも、やっぱり・・・・・・」
相変わらず心優しい水恋は困惑した表情を浮かべて俺に協力しようとしてくれている。でも、やはりこいつには暗冷と一緒に先に進んでもらわないと。
と、その時――。
「お姉ちゃん行って! 私がやるから!」
と、水恋の背中を押したのは従妹である凛だった。まさかこいつが自ら志願するとは思わなかった。
「で、でも・・・・・・凛さんだけでは」
「だったらわたしもやる」
続いてもう一人の従妹である霧矛が手を半分くらいあげて物静かな口調で前に進み出る。
「ほら、可愛い可愛い従姉妹二人がこう言ってるんだ。な、ここはこいつらの意思を汲み取ってくれよ」
「ですが――」
「おい、何やってんだ水恋! 行かねぇなら追いてくぞ!」
俯く水恋に暗冷が文句を言う。地団駄を踏んでさっさと行きたそうな顔をしていた。余程心配なんだろうな。
「水恋・・・・・・」
「お姉ちゃん!」
「おねえちゃん!」
「わ、わかりました! 行ってきます!!」
俺達の言葉に水恋は意を決して先へと進んでいった。すると、それを見送っていた俺の肩を後ろから誰かが叩いてきた。
「ん?」
「さっきの可愛い可愛いってどういうこと?」
「いや、あれはその――」
「月牙さん、やっぱりわたし達のこと・・・・・・そんな風に思って」
恥ずかしそうに口元に手を運ぶ霧矛が目を潤ませる。それを見た凛が俺の頭にチョップをキメて怒声をあげた。
「サイッテー! ホントあんたはすぐにそうやって女の子に手を出すのね! この鬼畜! 変態!」
「な、だから違うって!!」
「はぁ・・・・・・私、なんでこんなやつのこと」
「え?」
「うっさい! ・・・・・・何やってんの、あんたも行きなさいよ!」
「は、何言ってんだよ! お前らを置いてなんて行けるわけねぇだろ!」
「お姉ちゃんはああ見えて寂しがり屋だし、暗冷だけに任せておけない! あ、あんたはその・・・・・・頼りに、なるし」
ゴニョゴニョと後半部分で口籠もる凛に俺は首をかしげて言った。
「え、最後何て言った?」
「う、うっさい! 早く行きなさいよこの駄犬っ!」
「わ、分かったよ。その代わり・・・・・・死ぬなよ?」
真剣な面持ちでそう言う俺に頬をかきながらそっぽを向いて凛は口を開く。
「し、死なないわよ。それに・・・・・・ピンチになったらあんたが助けに来るでしょ? 私を守るって約束したんだから」
「お、おう」
「ちょっと月牙! 行くなら早くして!!」
「あ、ああ。今行く!」
他のメンバーの大半が先へと進み、残ったのは数名のみだった。斑希に声をかけられ俺も準備をする。
「凛、霧矛・・・・・・絶対に死ぬなよ!」
もう一度強くそう言い残して俺は後を追った。
――△▼△――
「はぁ、何かゴメンね? あなたまで巻き込んで」
「ううん、気にしないで? それに、わたしも水恋お姉ちゃんや月牙さんに恩返ししたいし」
「そう・・・・・・」
目の前のフェニックスがヒュンヒュン空中を旋回しているのを一瞥しながら凛が笑みを浮かべる。
と、その時――。
「おい」
「ひゃあっ!」
突然後ろから声をかけられて飛び上がる凛。
「な、何よ!」
後ろを振り向くと、そこには見慣れた顔があった。
「オレ達も手伝おう」
「ゆき達に任せて!」
それは氷雪の義兄妹こと氷雨と雪羅だった。
「でも、あんた達は氷属性と雪属性でしょ? 炎属性に対して相性は大丈夫なワケ?」
「心配ない。オレとゆきのコンビは最強だ!」
「うん、お兄ちゃんとなら平気だよ!」
何故かやる気満々の二人。その自身がどこから来るのか凛と霧矛には分からなかった。だが、人数が多いのはありがたい。でも、その性格ゆえに――。
「べ、別に協力してって頼んだ覚えはないけど・・・・・・せっかく残ったんだしあんた達にも手伝ってもらうわ!」
と、ツンとした態度で答えたのだった。
すると、敵がこちらを見て何を思ったのか声をあげた。
「へっへっへ、人数が激減してんじゃん! 何だぁ? オレほっといて先に進んだワケェ~? まぁいいけどさぁ。その代わり、テメェらがオレの相手ちゃんと努めてくれんだろぉなぁ~?」
「もちろんよ! 覚悟なさい! 不死鳥だか何だかしんないけど、私達があんたのその炎・・・・・・鎮火してあげるわ!」
「へっへっへ、オレもなめられたもんだぜぇ~! んじゃま、元冥霊族にして最強四天王の一人、虐殺の騎士の異名を持つこのフェルト=フェニックス様が直々に相手してやんよぉ~!! 光栄に思いやがれぇええええ!!」
自身の名乗りをあげ四人の伝説の戦士に向かって突っ込んでくるフェニックス。
こうして、二人目の最強四天王との戦いが始まったのだった・・・・・・。
というわけで、スパイダーを倒し、フェニックスと戦うことになった伝説の戦士ですが、ここで再び戦士の何人かが残ることに。んでもって、凛のあの台詞あれはもう完全に――。
てなわけで、次回は三十五話でフェニックスと決着をつけてファントムまでやります!