第三十四話「抹殺の騎士と虐殺の騎士」・1
「さぁ、貴様の力を見せつけてやれゴーズルドン!」
スパイダーが大きな得物に呼びかけながらそれを横凪に振るう。リーチの長いそれは振るうだけで距離を十分に保っている俺達に衝撃波で切りつけてくる。
「くッ! どうする刻暗? あいつはお前が倒すべき相手なんだろ? だったらお前が決めろ!」
俺はさらにスパイダーから距離を取りつつどうしていいか迷っている刻暗に決定権を譲った。
「え? で、でも僕には――」
せっかく選ぶ権利を与えてやったのにビビってモジモジする刻暗。そんなこいつのダメダメさに俺は頭に来て
「お前いい加減自分で決定しろよ! 何でもかんでも判断を他人任せにすんじゃねぇ! 時には自分で選ぶ事を考えろ! いざって時には誰も助けてくれねぇんだぞ!? そんときお前は一体誰に相談すんだ!!」
と叱咤激励した。その言葉にハッとなった刻暗が面をあげる。
「そうか・・・・・・そうだよね、ありがとう月牙くん! 僕、決めたよ!」
そう言ってガッツポーズする刻暗。その表情を見て俺ももう大丈夫だと安堵した。
「ふっ、何をゴチャゴチャと・・・・・・。いずれにせよ貴様ら伝説の戦士はこの吾と、ゴーズルドンによって薙ぎ払われその命を落とすのだ。さぁ、まずは誰からその命を落としたい? 貴様か、それとも貴様かッ!」
少々興奮気味のスパイダー。向こうも後に引けないのは俺達と同じらしい。
武器を構えいよいよ俺たちも動き出そうとするが前方に立っていた刻暗がそれを手で制し止める。
「あんッ? 何のつもりだてめぇ!」
鋼鉄が眉間に皺を寄せて青筋を立て文句を言う。
「すまない・・・・・・。やっぱりこれは僕とスパイダーの戦いだ。それに、どうやらこの奥にも四天王がいるみたいだしね。だから君達は先に進んでくれ! 僕は・・・・・・こいつを倒してから追いかけるッ!」
「ぷ、ぷははははははは! 何言ってんだお前! 女性恐怖症でいっつもビクついてるお前が鎧一族の最強四天王の一人を倒せるのか? 無理に決まってんだろ!」
敵――ではなく、仲間に笑われる刻暗。だが、事実そうだった。刻暗は初対面でスパイダーと戦った時、圧倒的実力差を見せつけられ敗北した。既の所で大事な幼馴染を攫われたのは紛れもない事実だ。
「くッ・・・・・・、確かに僕は弱い。でも、ここで諦めるわけにはいかないんだ!!」
「刻暗・・・・・・」
刻暗の覚悟はその気迫と声量でも分かった。リベンジしたいんだ、俺にもその気持ちはよく分かる。俺だってリベンジしたい相手はいるからな・・・・・・この奥にいる、アイツと。
俺は自分と刻暗を重ねて思わずこんな一言を洩らした。
「・・・・・・分かった」
「――ッ!?」
「ちょっ、本気なの月牙!?」
「そうだ、コイツ一人に敵の討伐が出来んのか? 俺は反対だぜ?」
暗冷が腕組をして俺の判断に反対する。でも、こいつの覚悟は本物だ。だったら成すべき事をどんな事をしてでも成し遂げるだろう。・・・・・・それに――。
「何か秘策があるんだろ、刻暗?」
「よ、よく分かったね。まぁ、一つだけ・・・・・・。あの時はこの力を使う時間を与えられなかったからね。でも、今回は違う! 相手は逃げない、向かってくるだけだ。だったらあれを使うには十分な条件だよ」
こんな自信満々の表情を浮かべている刻暗は初めて見たかもしれない。だが、そのおかげで余計に安心することが出来た。
「分かった。じゃあ、こいつの始末は頼んだぜ?」
「うん! すぐに倒して追いかけるよ!」
「よし、行くぞ!!」
「ち、ちょっと月牙! ホントに大丈夫なの~!?」
俺がとっとと先に進み、斑希がその後をすぐに追いかけ、他のメンバーの一部が心配そうに刻暗を一瞥しながら後を追う。
――△▼△――
「・・・・・・月牙くん、すまない。でも、こいつは――」
「やれやれ、しょうがないな」
「でも、ここで活躍しておかないと僕達まだ何もやってないよ、兄さん?」
「ふたりもやっぱり残ったんだね。僕は結構後に仲間になったから、まだみんなの役にたってなくて戦おうと思ったんだけど・・・・・・」
背後から聞こえる三人の声にサッと首を回してそちらを見やると、そこにいたのは龍竜族の双子龍、聖龍と俊龍、そしてトゥインクル・ギャラクシー天文台で天使九階級と戯れていた星の少年、慧だった。
「君達・・・・・・どうしてここに?」
「決まっておろう、鎖神刻暗よ。我々が伝説の戦士の仲間入ったのはいつだ?」
「え? 結構後半だったかな・・・・・・」
頬をかきながら記憶を遡り結団式のあの時に聴いたメンバーが入った順番の事を思い出す。
「であろう。だからここで活躍しておかねば――」
「僕達はロクな出番もなく、登場終了となってしまうんだ!」
「やっぱり、活躍するなら今でしょ?」
満面の笑みを浮かべる慧はその双眸の中に揺らぐ星の瞳を淡い星色に光らせた。
「でも・・・・・・こいつは」
「おい、貴様ら! 長い間この吾を無視してくれおって! もう生かしてはおけんッ!! ゴーズルドンの錆となるがいいッ!!」
ブゥゥゥゥンッ!!
得物を薙ぎ、衝撃波を飛ばしてくるスパイダー。が、それをサッと躱した四人は武器を構えて相手を睨めつけた。すると、その態度もしくは目つきが気に入らないのか咆哮をあげたスパイダーはこめかみに青筋を幾つも立て、魔豪剣ゴーズルドンを力いっぱいにその場で振り回した。
自身が軸となり猛スピードで回転するスパイダーはその回転数を徐々に上げ、その姿が目に見えないほどになった。また、その回転によって生み出された竜巻が四方八方に放たれ四人の伝説の戦士に向かって攻撃してきた。
「ぐわぁッ!!」
「うくッ!」
「これはッ!」
「うわああッ!!」
四人は各々直撃を避けるものの、若干その攻撃を受けて宙にあげられたかと思うと、重力に引っ張られてそのまま地面に叩きつけられた。
「がははは、やはり弱いな貴様らは。鎖神刻暗一人であったなら、その勝敗はあっという間だったろうな!」
ゴーズルドンの先を地面に突き、刻暗達四人を見下げるスパイダー。すると、彼は何を思ったのかその兜を取り外した。そしてその素顔を見て四人が驚愕する。
「なッ! その顔は・・・・・・」
刻暗が一筋の汗を垂らし、目をオロオロさせる。他の三人も同様の様で閉口してしまっている。
なぜ四人が驚いたのか。それには理由がある。スパイダーの素顔。真っ白な白髪を全て上にまとめあげ、その太い眉と綺麗に蓄え揃えた口髭と少々手入れが行き届いていない顎髭。その年老いた顔つきはまだ確かに理解出来る。問題はその双眸にあった。彼の右目・・・・・・その右目がないのだ。厳密的にはないのではなく、謎の怪物の・・・・・・そう蜘蛛の様に八つのギョロ目がこちらを見ていたのだ。まるで埋め込まれたかのようにその眼は単体で蠢き、彼の目に張り付いていた。
「んっふっふ、見てしまったな。これで貴様らは永遠にこの吾から逃れることは出来ん! その命が尽き果てるまでな!」
「何なんだい、その目は! はっ、そうか・・・・・・。奏翠が言っていた獣の右目とはその事だったのか!」
「ふっ、そうか・・・・・・この瞳でノイローゼにでも陥ったか、あの小娘は?」
ゴーズルドンを隣に刺しておき、腕組をしてマントを翻し愉快そうな表情を浮かべるスパイダー。
「くッ! ふざけるな!」
「ふざけるな・・・・・・だと? ふざけているのは貴様らだ! 民族如きがこの吾、元魔神族のライゴルト=スパイダー様に楯突きおってッ! 許しておけんその態度・・・・・・。この右眼も全ては貴様らのせいに違いない!」
「・・・・・・そもそも、その眼は何なのだ?」
聖龍が腕組をして首を傾げながら疑問を投げかける。すると、その問いにスパイダーは忌々しいといった顔で四人を睨みつけた。
「貴様らのせいだ! これもそれも! あれはかれこれ数百年も前の話になろう・・・・・・」
そう言ってスパイダーは昔話を語りだした。
というわけで、三十四話です。見てわかる通りバトルです。そして、刻暗だけでなく、後半に出てこのまま何の名場面も見せられずお役目ごめんになるのは嫌と、聖龍と俊龍と慧も出てきました。
で、二部では元魔神族だったスパイダーがなぜ四天王となり、右目を失うことになったのかの過去をやります!