第三十三話「突貫! 鎧一族の砦」・2
「・・・・・・ッ! オルガルトッ!!」
「よくも、鈴華さんを!」
「お前の企みもここまでだ!」
「覚悟しなさい! あなた達のやってきたことは決して許されないわ!」
暗冷、水恋、俺、そして斑希がオルガルト帝をキッと睨みつける。だが、その視線にも屈せずオルガルト帝はその紅蓮の双眸で俺達を見下している。
「ふん、愚かな人間共だ。貴様らの存在はわしの崇仰なる計画には邪魔な存在だ。利用価値のなくなった後、処分させてもらう」
「利用価値ですって? よくも、よくも私の大事な衛兵をっ!」
目尻に涙を浮かべた凛が必死に怒りを堪えてオルガルト帝に言う。しかし、それでも向こうは何の反応も示さずただ不敵に笑んでいるだけだ。
「だからどうした? 衛兵などわしにはただのゴミにしか見えんな。もしくは、このわしを守るための駒だ。貴様ら人間はいらぬ存在、それがこの世に蔓延っているなど言語道断! だからこのわしが自ら根絶やしにしてくれるわ! だが、最も忌むべきはそんな貴様らを生み出した神族! やつらは許してはおけぬ。封印されたこの恨み・・・・・・晴らさでおくべきか、否ッ! わしは今まで耐えに耐えそして蓄えてきた。あらゆる駒を! 最強の下僕となる駒をな! そして、ついにそれが揃うのだ! 全ての駒が揃いし時、わしの温めに温めてきた計画が発動するのだ! この世界を破滅へと導く殲滅の力。これさえあれば、神族はおろかあらゆる生きとし生ける者が死に絶える! グフフ、グフハハハハ!」
玉座から立ち上がり高らかに笑うオルガルト帝。それを聞いて俺達はさらに黙ってはおけなくなった。
「ふざけるなッ! 生きとし生ける者が死に絶える!? そんな話を聞いたらよけいにお前らを放っておくわけにはいかねぇ! 皆、行くぞッ!」
俺の掛け声で皆が構えて、前方にいる敵へ飛びかかる。その動きに反応した鎧一族最強四天王のファントムら四人が迎え撃とうと動きを見せるが――。
「貴様らは下がっておれ・・・・・・。こやつら小童どもの戯言など――憤ッ!」
刹那――俺達はオルガルト帝の気迫によって弾き飛ばされ、各々壁に叩きつけられた。後方にいたメンバーまでには行き届かず、少々衝撃波を受けるだけで済んだが、叩きつけられた面々は多少傷を受けた。
「くそッ・・・・・・んだよ、この力は!」
暗冷が後一歩というところで鈴華を取り戻しかけたのに、それを阻止されて憤慨する。水恋も悔しそうに下唇を噛み締めていた。
「ガハハハハハ! 愉快愉快。貴様らの様な青二才の餓鬼には、所詮その程度が限界であろう。真の強さとは何か・・・・・・。それは怨恨、憎悪、そして永遠なる力だッ!!」
そう言って構えをとったオルガルト帝。片方の手を前に突き出し、そこに魔力を込める。だが、帝族に属性の力は確認されていない。偶然にも神の力を得た水恋と暗冷は例外だが。現に、鳳凰一族の鈴華は属性を持たない。持っている力は七力だけだ。しかし、その力も気絶している今は使用できないらしい。
そして、負傷を負って逃げられない俺達に向かってオルガルト帝がニタァと白い歯を不気味に光らせ――。
「さらばだ、神の一部を与えられし仮初の伝説の戦士よ・・・・・・」
ズギュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
凄まじい一撃がオルガルト帝の手のひらから放たれ、ビーム状のそれが俺達に向けて一直線に飛来する。
避けるなど到底間に合わない。防御結界を張ろうにも時間が足りない。
刹那――。
「出てよ、ヴァロンッ!!」
とある人物がそう叫び、巨大な猛獣を召喚する。そして、その猛獣は俺達のいる地面を物凄い重圧を乗せて叩きつける。すると、一気に地面に亀裂が入り底が抜ける。同時に俺達の頭上をビームが掠め、俺達はビームに抹消されることなくまるですり抜けるように下層へ落下した。
――△▼△――
大きな衝撃音と波動が周囲を揺らす。その揺れは無論広間にいた者達にも影響を及ぼしていた。が、誰一人としてその揺れに動じることなく、毅然とした態度でぽっかり穴の開いた場所を見ていた。
「チッ、瞬時に獣を召喚したか。悪運の強いやつらよ・・・・・・」
「だが、どちらにせよ殺すつもりはなかったのだろう? でなければ、計画は――」
「分かっておる。やつらは下層へと落ちた。後始末は任せるぞ? 四天王」
オルガルト帝の命令に首肯する四人の騎士。各々どこかへと散り、広間にはオルガルト帝とレイヴォルと鈴華の三人が残った。
「さて、わしは準備がある。貴様は?」
「俺もだ。鈴華は童話の様に救出される姫君として最終地にいてもらおう」
「ふん・・・・・・」
レイヴォルの言葉に鼻を鳴らすオルガルト帝。どうやら、少々気に入らないようである。
――△▼△――
「いったたた・・・・・・。皆、大丈夫か?」
「ええ」
「こっちもだ」
俺達は何とかオルガルト帝による砲撃を避け、逃げ延びることに成功していた。窮地に追い込まれた俺達を間一髪救ってくれたのは、あろうことか彪岩が召喚したヴァロンだった。
「危なかったぜ、サンキュー彪岩」
「うむ、礼には及ばん! おれも必死だったのでな! 少々荒かったかもしれんが、許せ!」
「いんや、お前さんのおかげで俺達も無事に生き残れたんだ。礼を言うぜ」
謙遜する彪岩に、妖燕が首に巻いたタオルで汗を拭きながら言う。
俺達はその場に立ち上がり、怪我をしていないかを再度確認し動き出した。
どうやら俺達は結構下の階に落ちたらしく、上を見上げてもオルガルト帝達の気配は察知出来なかった。もしかすると、向こうも既にどこかに移動してしまったのかもしれない。
「おい、急げよ月牙! 早くしねぇと鈴華が!」
「分かってる! そう慌てるな! 落ち着かねぇといざという時にやられるぞ?」
「うっせぇ!」
「暗冷くん? 心配なのは分かりますが月牙さんの言うことも――」
「だ、誰が心配なんかすっかよ!」
はぁ、また始まってしまった二人の言い争いが。とにかく、先に進まなければ。
視線を目の前の扉に向ける俺。すると、俺の肩を誰かが叩いた。――斑希だ。
「どうした?」
「あ、うん。あのね? 向こうから強い邪気を感じて・・・・・・」
「ま、まさかファントムか!?」
俺は思わずあいつの名前を出した。しかし、斑希は首を静かに横に振り別の人物の名を告げる。
「恐らく、これはスパイダーとかいうやつの気よ」
それを聞いてある人物が激昂する。
「くっ、それは本当かい?」
「え? う、うん・・・・・・」
そう、スパイダーに強い恨みを持つ人物――刻暗だ。こいつは幼馴染である鎖神奏翠がスパイダーに襲われた事を強く後悔してもいるからな。恨むのも無理はない。しかも、あまりにもの恨みのせいで女性恐怖症が――。
「ひぃっ! ご、ごめん・・・・・・僕、つい」
やっぱり治ってはいなかった。
「刻暗、無理はすんなよ? 敵は強い。何なら俺達も――」
「いや、これは僕の戦いだ。ここでけじめをつけないと、奏翠に示しがつかないよ」
相も変わらずこいつはいいやつだ。だが、だからこそ放ってはおけない。
「とにかく、本人か確認しないとな」
「そうだね」
互いに首肯し、扉を開ける。その先にはまたしても大きな広間があった。ホント迷ってしまいそうなくらい似ている。だが、ほぼ一本道で出来ているのでそうそう迷いはしないだろう。そして、その中心には・・・・・・いた。あの大男が。
刻暗を馬鹿にし、奏翠の父親を酷く言ったあの男――スパイダーが。
「くッ、スパイダーッ!!」
「ほぅ、久しぶりだな若造。いや、ここは敬意を払って鎖神刻暗と呼んでやるべきか? んっふっふ、あの小娘は元気か?」
「き、貴様ぁあああッ!!」
「落ち着け、刻暗! 今あいつに近づけば死ぬぞ?」
「放してくれ! 僕は、僕はやつを・・・・・・スパイダーを殺さないといけないんだッ!!」
「いいかげんにしろ!」
「・・・・・・なっ」
「いいか? あいつを見ろ」
俺に怒鳴られて意気消沈したのか、ぼ~っとした顔つきでスパイダーを見る。そしてようやく気づいたのか、ハッとなる。そう、やつの体表には滅びの魔力が渦巻いていた。
「ちっ、やはり厄介だな貴様ら二人は・・・・・・」
「二人?」
「貴様だ、若造。そしてもう一人は――そこにいる小娘だ」
「え、わ・・・・・・私?」
自身を指差してキョトンとなる斑希にスパイダーは続ける。
「分からぬようならば別段構いはせん。だが、ここから先へ進ませるわけにはいかん! ここで成果を上げねば吾の片眼は永久に戻らん! 貴様らにはここで死んでもらうッ!!」
そう言って手を横凪に振るうスパイダー。
刹那――衝撃波が俺と刻暗やその近くにいたメンバーを襲う。それから何かに切りつけられたような痛みが走る。その箇所に触れると赤い血が手に付着した。頬が切れていた。鎌鼬の様なものだろうか。
スパイダーの方に向き直ると、やつはさっきまで所持していなかった異様なデザインをした得物を持っていた。一見、剣のようだが――。
「これは八魔剣の内の一振りよ」
「八魔剣?」
「ふっ、貴様らはここで終わるのだ・・・・・・この八魔剣の一本、魔豪剣『ゴーズルドン』でな。さぁ、覚悟せい! 鎧一族の最強四天王が一人にして元魔神族、ライゴルト=スパイダーの豪力・・・・・・しかとその眼に刻み付けるがいいッ!」
そう叫び俺達に向かって突っ込んでくるスパイダー。
こうして、最強四天王の一人との決死の戦いが始まった・・・・・・。
というわけで、次回三十四話からはバトルしまくりです。そして、ここでようやく八魔剣の話題が。魔神族の中でも最強といわれるバルトゥアスが持っていたとされる八魔剣。それを今は四天王が持っています。まぁ、理由としては――次回語られるかと。
てなわけで、次回三十四話はスパイダーVS伝説の戦士です。