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『――spa・service――』

 ここはエレゴグルドボト帝国の鎧一族の砦の付近にある小さな町――ディトゥナーヴ。何の因果かある日突然不思議な力を得た様々な境遇の三十一人は今、全員が一つの目的意思を持ってこの場にいる。

 目的――それは全ての原因の源であり、今回の一連の事件の発端者……オルガルト帝を討ち倒すことだ。しかし、そのためにはやはり英気を養う事も必要だということで、岩石系属性の面々により温泉が作り出されそこで今までの疲れを癒すという提案が持ち上げられた。無論男性陣も女性陣もこの提案には大いに賛成で、即席で作り出した敷居を大きな温泉の湯船の丁度真ん中に作り、仮説の温泉宿を準備した。一応雰囲気を出すために暖簾は作ったものの、ちゃんとした立派な脱衣所があるはずもなく、女性陣は少々抵抗を見せたが斑希の説得の元何とかそれは我慢してもらうことにした。


「うわぁ~すっご~い! 本当に温泉だわ!」


 真っ白なタオルで胸元を隠しながら斑希が目を爛々と輝かせる。他のメンバーも次いで浴場へとやってきて、口々に開口する。


「ホント、即席で作った温泉人工温泉とは言えすごく雰囲気あるじゃない!」


「お姉ちゃん、これ鋼鉄お兄ちゃんが作ったの?」


「ええ、そうよ! あの脳金バカにもこんな取り柄があったのね」


 雷人と光蘭が互いに意見を述べ、さらに他の面々も……。


「まさか、またこうして温泉に入れるなんて思ってもみませんでした」


「こ、これが温泉……なの? ゆき、初めて入るからよく分からない。でも、何だか凄く熱い」


「てゆーか、雪羅ちゃんは温泉に入って大丈夫なのかな? 氷雪系属性なんだから、溶けちゃわないかな~?」


 葡豊が浴槽の縁に正座して湯船のお湯を眺め、雪羅が初めて見る温泉に興味を示しながらも不安そうな表情を浮かべ、顎に人差し指を添え、雪羅のことについて首を傾げる砂唯。


「ふぅー。やはり温泉はいいものですね。何と言いますか、嫌な事を忘れられる様な気がします……」


「お姉ちゃんってば、それだと何だか年寄りみたいよ? 霧矛もそう思うでしょ?」


「え? う、う~ん、私にはよく分からないけど……でも、確かにこの温泉凄く気持ちいい」


「あら、水恋さん。従妹に年寄り呼ばわりされるだなんて、いよいよ持って潮時なんじゃないんですの? この機をきっかけにウォータルト帝国の帝王を辞退なさって私に二代目帝王をさせませんこと?」


 水恋、凛、霧矛の従姉妹三人の会話を聴いていた靄花があいも変わらずのお嬢様口調でそんな提案をする。しかし、はなからそんな話に耳を傾けてすらいない水恋はただただ安らかな笑みを浮かべて少々頬を赤く色づかせて心を休めているようだった。無論、そのリアクションのなさに「し、シカトですの!?」と、靄花が多大なるショックを受けていることを忘れてはならない。


「むむむ……こ、これは見える見えるぞ~! 間違いない、これは私達が何か不穏な物の手によってバラバラにされてしまうということを予感させている。一体、私達はこれからどうなってしまうのか……気になるところね」


 未來が風呂場に水晶玉を浮かべ一人でじっくりとこれから先の未来を占う。


「ほぇ~、ねぇねぇひすいちゃ~ん。わたしってハーフエンジェルだけど、ここにいていいのかなぁ~?」


「何言ってやがるんですか、あなたは。いいに決まってるじゃねぇですか! 少なくともあの男はそう言うに決まってやがるです! それに、私だってあなたにはいてもらわねぇと困るんですよ! そうと分かったらとっとと湯船につかりやがってください!」


「でもでもぉ~、わたしってこの羽根を湯船につけていいのかなぁ~?」


「は? 何言ってやがるんですか! ダメに決まってんですよ! これだから温和な天然天使様は困りやがりますね。ちゃんとその羽根コンパクトに収納できる便利な機能がついてんですから、そうしておいて湯船につかりやがってください!」


 ゆったりとした口調で喋るハーフエンジェルの天照に、口の悪い特徴的な口調のシスターである翡翠は厳しく指摘し命令すると、少しムスッとした表情で湯船に肩まで浸かった。


「……今ふと思ったんですけど、何かとこの私より胸のデケェ女が多くいやがりますね。これだと並乳であるこの私がいやでも目立ちがやるじゃねぇですか!」


「う~ん、でもぉ……それだと貧乳ちゃんがもっと可哀想だよ~? まだなみちちぃ?なだけマシだよぉ」


 甘ったるい口調で淡々と喋る天照にうぬぬぬと、何やら不満気の翡翠。


「はぁ~。これほどまでに心を休めてリラックス出来たのはいつ依頼かねぇ~」


「そんなに気を張り詰めていたでござるか? それでは体が持たないでござるよ? 変に緊張し続けていると体中がこわばらないでこざるか? 拙者はきちんとプライベートとワークの時とで緊張の度合いを調整してるので、心配ござらんが……」


「うふふ。しおんさんも、たまにはうちみたいにハメを外してみませんか?」


 左肩を右手で揉みほぐしながら気を抜いていき嘆息する紫音に、忍者の影明が体を労わり、側近の青嵐が自分と同じ様な事をしてみないかと提案を持ちかける。しかし、紫音は鼻で笑うとこう言った。


「残念だけど、そのつもりはないねぇ~。それに、あたしは元々暗殺集団のトップだったんだ。そのあたしがこうしてバカみたいに敵のいる場所まで赴いて倒しに行くっていうのが、どうにもこうにも乗り気が起きないんだよ」


「そういうものなんですか?」


「ああ。あんた達はそんな事露程も考えたことないだろう? これが違い……さね」


 紫音がふふっと目を瞑りそう二人に教える。その言葉をあまり理解出来ていない二人は互いに首を傾げて疑問符を浮かべていた。




 一方月牙達男性陣はというと……。


「あぁ~。生き返る……。やっぱ温泉はいいなぁ~」


 と、月牙が男湯の方で肩まで湯に浸かりながら息を吐いた。すると、その隣にいた刻暗が苦笑しながら一言。


「はは、月牙くんは相変わらず年寄りじみてるね」


「そうか?」


 頭をかいて失笑する月牙に刻暗はさらに続ける。


「でも、その方が大人びた雰囲気も出るし、仲間も引っ張っていける気がするな。それに、僕としてはそっちの方が幾分か助かる面もある。全く、奏翠だけでも大変だったのに今では浜海さん達を筆頭によく女性陣に絡まれる様になってしまったよ。僕、この戦いが終わる頃には女性恐怖症のあまりショック死しちゃうかも……」


 などと、オーバーな事を話す刻暗の肩に手を置き月牙が頬をかきながら言った。


「そんなに怯えることなんかないんだって。お前はどうしてそこまであいつらに怯えるんだ。確かに女性恐怖症なら仕方ないかもしれないけどさ、奏翠とは違うんだぜ? もっと、自信を持たねぇと。それに、凛にカウンセリングしてもらってるんだろ? 女性恐怖症克服のための」


「ま、まぁね。でも、一向によくならないんだ。やっぱ、僕はダメなのかも」


 再びネガティブ思考に陥る刻暗に今度は第三者の声。


「こーちゃんは何でもかんでも考えすぎなんだよ。もっとぼくみたいに明るく楽しく振舞っていけばいいんだよ!」


 と温泉に入れた事に嬉々している風浮。両腕をピンと両方向に伸ばして飛行機の様にブイーン、などと言って湯船の中で動き回る。


「こら、風浮! 温泉の時くらいリラックスさせろよ! ったく……ほら、慧と遊んでろよ!」


 月牙は少し離れた所でボ~ッとただ湯船に浸かっている慧を指差して命令した。


「わかったー!」


 ビシッと腕を上にあげて了解のポーズをとった風浮は即座に慧の元へと駆けていった。


「はは、やっぱり月牙くんはお父さんみたいだね」


「な、何言ってんだよ! じょ、冗談はよせって。これはその……幼い時に斑希の面倒を見てやってたからで」


 頬を赤くして照れた月牙はそっぽを向いてゴニョゴニョと小声で呟く。すると、少々気になっていた人物名を耳にして刻暗が表情を一変させ尋ねる。


「ところで月牙くん。一つ質問なんだけど……いいかな?」


「な、何だ?」


 面と向かって質問されることにあまり慣れていないためか、月牙は少し拍子抜けな顔をする。

 刻暗は口を開いて質問を投げかけた。


「光陽斑希さんは、月牙くんにとっての何なんだい?」


「……あっ、はぁ~!? い、いや……何なんだいって言われても、なぁ……お、幼馴染っていうか。まぁ、本当は従兄妹なんだけどよ」


「へぇ~。ってことは、お父さんかお母さんが兄弟なのかい?」


「ああ。俺と斑希の母親同士が姉妹なんだ。あんまり詳しくは知らないんだけどさ、何か俺達に隠してる節があるんだよ」


「隠してる?」


 訝しげに首を傾げる刻暗に月牙は頷き続ける。


「幼い頃にさ、斑希の母親であるフィーレさんがある旅に出てたんだ」


「放浪の旅みたいなものかい?」


「いや、少し違うみたいでさ。……封印の具合がどうとか、あの子を封印するのは本当に正しかったのかしら? とか怪しさむんむんのセリフ言ってて、怪しいだろ?」


 同意を求める様に刻暗に投げかけると刻暗は顎に手をやり首肯した。


「確かに……でも、月牙くんのお母さんは何も言ってないんだよね? だったら心配する事はないんじゃないかな? それに、人には秘密にしたいことの一つや二つ……あるはずだよ。月牙くんにだってあるんじゃないのかい?」


「えっ!? いや、……う~ん。ああ、実は一つ悩みがあって」


 そう悩み相談を持ちかけようとした刹那――。


「おうおう、男二人で何をこそこそ話してるんだ? おじさんも混ぜろ」


「やけに気になる言葉を口にしてたからな……気になる所ではあるよな」


「テメェには色々と嫌なもんを握られてるかんな。ここらでテメェの方の弱みを握っとくってのもアリだよなぁ?」


 妖燕、鋼鉄、暗冷という普段の時とは珍しいメンツで、三人はグルリと月牙を取り囲むように陣取った。


「あ、いや……何でこんなに集まってくんだよ! 暑苦しいだろうが! もっと離れろよ!」


「ほぅ、時を刻む軟弱者とはさっきまで親密に話してたのに、俺達には冷たく接するのか……まさかお前ら――」


 妖しい者を見るような目つきで妖燕がジロジロと月牙と刻暗の二人を見る。


「な、何を勘違いしてんだ! 俺は断じてそっちの気があるんじゃねぇからな! 俺は男なんか好きじゃねぇ! 俺が好きなのは女だッ!!」


 あまりにも追い詰められていたせいだろう、思わず大声でそう暴露する月牙。しかし、叫んだ後になって月牙はハッとなる。温泉で男湯とはいえ、ここは仮に作られた仮説の温泉。つまり、斑希達女性陣がいる女湯とは壁があるもののその境界はあまりにも薄く大声なんかあげれば声が聞こえるのは百も承知だった。

 そのため――。


「い、いやぁあああああ! な、何公共の場で発情してんのよこの駄犬がっ! い、いい? 発情のあまり女湯に入ってこようなんて考えないでよ? 絶対だからね? もしも入ってきてみなさいよ、絶対に殺してやるからっ!!」



 と男湯に聞こえるように大声で返すのは月牙と何故か主従の関係を築いてしまっている凛だった。無論、月牙は従者というか犬としてであるが。


「私からも警告させていただきますわ! もしもこちらに入ってこようものならこの潤木靄花、全力を持ってあなたを殺してさしあげますのでそのつもりでいてくださいましっ!」


「ではシスターであるわたしからも一言……ス~ッ、ふざけんじゃねぇですよ! いくら女の子が好きだからって覗こうとしやがるなんて神の教えに反するですよ! くれぐれもんなことしやがらねぇでください!!」


 凛に続いて靄花と翡翠も文句垂れるが、さすがに後半部分はどうにも誤解を生んでいるので月牙が言い返す。


「おい、こら待て! 俺がいつ覗いたってんだ! そもそも、覗く気なんかさらさらねぇっての!!」


 顔を真っ赤にしてそう叫ぶ月牙。すると、一瞬何やら背筋がゾッとするような悪寒を感じて急に黙り込んだ。


「ど、どうかしたのか?」


 乱火が片眉を吊り上げやや心配そうに話しかける。


「い、いや……一瞬悪寒を感じて」


 それが何なのかは分からない。一つ分かるのはただ不気味だということだけだ。




 事態にようやく収拾がつき、両者はとりあえず互いに温泉内で言い争いを繰り広げても無駄に頭に血を登らせてのぼせてしまうだけだと一旦クールダウンすることにした。


「そんで、話を戻そうか? お前さんは一体どんな悩みを抱えてるってんだ?」


「そうだそうだ、このまま話が展開されることもないまま終わっちまうかと思っちまったぜ」


 妖燕が再びあの話題を蒸し返し、暗冷もそれに便乗して月牙に悩みを話すよう促す。さすがにこれ以上は言い逃れ出来ないと観念した月牙は嘆息して開口した。


「実は……気になるやつがいるんだ」


「ほぅ。誰だ? おじさんに話してみろ」


「その……、……れ」


「あん、何だって? 聞こえねぇよ!」


 耳をそばだてる妖燕と暗冷に月牙は少し声を張ろうと大きく口を開ける。


「ふ、斑希だよ、斑希ッ!」


 しかし、思いのほか声量が出てしまい先程とはいかないものの男性陣全員に聞こえてしまう声を出してしまった。これには月牙も思わず顔をリンゴの様に真っ赤にさせてしまう。しかも――。


「ん? 月牙ー、今呼んだー?」


「よ、呼んでねぇ!」


「そ、そんなに怒らないでもいいじゃない……」


 月牙が少々怒気を含んだ声音で否定したため、怒られたと勘違いした斑希はしょぼんとなって静かに呟いた。


「どうしてくれんだ、斑希を悲しませちまったじゃないか!」


 小声で叫ぶ月牙に各々顔を近づかせた状態で今度は妖燕が言う。


「思いっきり名前を叫んだのは月の坊主……お前さんだろう?」


「そ、そうだけどよ……」


 図星の事を言われて口ごもる月牙。すると、暗冷が一言。


「んで、あの女がどうかしたのか?」


 と、興味津々そうに尋ねた。


「だ、だからあいつが悩みなんだよ……」


「ほほぅ、それはまた随分とまぁ興味深い話でございますね」


 そう言って話に割り込んできたのは妖燕の次に年長者である癒宇だった。相も変わらずの柔和な笑みに月牙が言う。


「興味深いってなんだよ!」


「いえ、わたくしが言いたいのはですね? 従兄妹同士でよもや恋心を抱いておられるのか……と、そういう話をしているのです」


 そのセリフに近場にいた全員が吹き出した。


「おいおい、月の坊主……さすがにそれは冗談だろ? いくらなんでもそりゃあ、お前さん――」


「そ、そうだよ月牙くん! いくら異性の相手とはいえ、従兄妹だよ?」


 妖燕と刻暗が互いに唖然とした表情のまま嘘であってほしいという願いを託して月牙の答えを求める。しかし、月牙から返ってきた答えはまさにそれだった。


「いや、癒宇の言うとおりだ。俺はどうやら……斑希の事が好き……っていうか、気になってるみたいなんだ」


「……ほ、本当なのか?」


「ああ。これ以上、言い訳したって見苦しいだけ……だろ?」


「おいおい、マジかよ! 従兄妹を好きになるってことは、要はオレで言うなら紫音のヤローを好きになるってこったろ? うぇええ、冗談じゃねぇぜ! 正気かテメェ」


 ありえないという目つきで月牙を見る暗冷。その視線は明らかに冷たかった。


「なんだなんだ、随分と辛気臭そうな空気を醸し出しおって! ここは温泉なのだぞ? もっとはっちゃけんか! がははは!」


 と、急に空気をガラリと変えてきたのは岩石系属性の従兄弟三人の内の一人、彪岩である。


「おい、兄貴今はそんな空気じゃねぇ。あっち行こうぜ?」


「お、お? 何なのだ? おれにも分かる様に説明するのだ!」


「それもあっちでな……」


 妙に空気を読んでくれた鋼鉄が従兄の彪岩を連れて行く。場の空気はまた元に戻った。


「それで、その気持ちはいつから何だ?」


 妖燕の質問だ。その問いに月牙は少し俯いてそれから口を開く。


「久しぶりに再開した時だ。前までは妹みたいな感じだったからな。どちらかというと、兄妹的立場で好きだったんだ。でも、ここ最近あの後ろ姿や笑ってる時の顔を見てたら何か胸の奥が熱くなって鼓動が早くなるんだよ。それで、近くにいるだけでやけに意識しちまって……。この間もあいつがこけそうになって俺に抱きついて来た時、思わず顔が赤くなっちまって失神ちまいそうだったくらいだ」


『……』


 月牙がモジモジしながらそんなことを呟いていると、皆の表情がだんだんと変化し始め終いには哀れな物を見るような目つきになってしまっていた。


「あ、あのな……月の坊主。こういうのも何だけどよ……、結構それ重傷だな」


「僕も、これなら女性恐怖症の方がまだマシだよ。流石に従妹を好きには――」


「お前は激しいアプローチを誰にやられてんだっけかな~?」


 月牙が笑顔を引きつらせながら少々低めの声音で刻暗に迫る。


「そ、それは……奏翠は、べ、別問題だよ。それに、僕は奏翠を好きには……とても」


「おい! それ以上は言ったらダメだろ。あいつの気持ちを考えろ」


「そ、そうだね……ごめんよ。でも、いい加減明らかにしないといけないと思うんだ。それに、奏翠は王族なんだ。僕とは釣り合わないよ」


「お前な……」


 まるで自嘲するかのように苦笑する刻暗に、月牙は嘆息混じりに何かを言おうとした。

 と、その時――。


『きゃぁああああああああああああっ!!!』


 と、突然隣の女湯から悲鳴があがった。その悲鳴にザバッ!とその場に立ち上がる男性陣。


「い、今のはッ!?」


「女湯からだ!」


「お、おい何かあったのか!?」


「げ、月牙……そ、それが、女湯に何だか訳の分からない虫の様な小型の機械が現れて……い、いやあああ!」


「ふ、斑希ーッ!!」


 男湯と女湯を隔てる壁に拳を打ち付け名前を呼ぶ月牙。すると、今度は別の声が。


「げ、月牙さん! すみませんが、そちらのメンバー内に一人いない人がいませんか?」


 その声は水恋の物だった。しかし、ふと思った。月牙達の方に一人いないメンバーがいるのではないかという質問。何故その様な不可思議な質問をするのか、それがいまいち理解出来ない月牙は首を傾げた。だが、一応数えるだけ数えてみようと一人一人顔を見ながら人数を数えていく。すると、確かに一人メンバーがいない。それも一番いなくなってはマズイ人物が……そう、猛毒雲猛辣がいないのだ。


「あ、あんのやろー! 水恋、やっぱしだ。猛辣がいない!」


「やっぱりそうでしたか。あの機械を見てもしやとは思ったのですが……月牙さん。私、思い当たる場所があるので、あの男をちょっとばかし二、三回殺してきます」


「お、おいそれは少し物騒――ってか、死んでる死んでるッ!」


 壁の向こうから邪悪な殺気を感じ取り身震いしつつも、的確に月牙はツッコミをかます。しかし、既に相手からの反応はない。どうやら本当に制裁に向かったようだ。まぁこれも猛辣にはいいお灸となるだろう。とりあえず、男性陣からでは動けないので、月牙達はひとまず温泉からあがって自分の服を着た。

 そろそろあがろうとは思っていたのだが、先刻の月牙の従妹である斑希と、刻暗の従妹である奏翠の話をしている内に出て行くタイミングを失っていたのだ。そこへこの急展開。風呂からあがるには丁度いい言い訳の口実になるのだ。

 男湯から出て暖簾をくぐる男性陣。未だ女湯からは悲鳴が聞こえている。確か虫型の機械だと言っていたな、と月牙が暖簾の向こうにいる女性陣の無事を祈りながら心の中で呟いた。




 その後、約一時間後に水恋が猛辣を地面に引きずって連行してきた。浴衣の襟部分をグイッと掴まれ完全にボコボコにされてしまっている猛辣。


「ひ、ヒヒッ……ま、まさかこの私としたことが水恋にバレてしまうとは……ねぇ。か、んぜんに……油断、していたよ、ヒヒッ――ガクッ」


 余程大ダメージだったのだろう、猛辣は力尽きたかのように頭を垂れてそれ以降喋らなくなった。どうやら気絶してしまったらしい。


「す、水恋。よくこいつの居場所が分かったな」


「ま、まぁ……それほどでも」


 と、水恋は急にコロッとさっきまでの妖しい雰囲気を消して明るいいつもの水恋へと戻っていた。どうも、水恋には表裏があるらしいとこの時月牙は思ったのだった。

 その後、猛辣の持つビデオカメラのメモリーに伝説の戦士の女性陣のあられもない産まれたままの姿が余す所なく激写されているファイルが発見されたため、メモリーは目の前で破棄。猛辣は飲み食いが出来ないほど女性陣にこてんぱんに殴られまくったという……。

 余談ではあるが、メモリーが完全に消されてしまう前に月牙と猛辣が密かに何やら交渉をしていたという目撃証言があがっていたりなかったり……。

というわけで、温泉回でした。まぁ、絵がないんで想像してください。挿絵はそのうち入れます。

で、まぁ次の三十三話でバトルしまくるので気休めに入れたのですが、いやはや書いてて楽しかったですね。で、変態の猛辣をここで使わねばどこで使うのだ! ということで、暴走させました。まあ、案の定制裁をくだされたわけですが。で、最後の部分――交渉していた月牙と猛辣。って、月牙さん、それ完全に手に入れちゃってるでしょ! というツッコミを残し、次回の三十三話は、鎧一族の砦に突貫します! いよいよ最終決戦間近です! 白熱するバトルを書け――るかは分かりませんが、温かい目で見守っていてください! ではまた次回

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