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ブレインキラー  作者:
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外伝  エピローグ 『胎動』

 ブレインキラーは終結した。神原幹雄を殺害し、復讐を遂げた拓哉はこれ以上のゲームの拡散を防ぐため、あちこちに手を回すこととなった。

 サイトの閉鎖。施設の破壊。あらゆる証拠を消し、ブレインキラーというゲームが行われていた痕跡を消して回った。

 世間は神原幹雄の失踪という話題で持ちきりになっていた。彼の抜けた穴は非常に大きく、神原グループは広げてきた規模を縮小させることで、企業としての存命を図ったようだ。だがそれも少しずつ力をなくし、やがては他の企業の中に埋没していくことになるだろう。

 拓哉は偽の戸籍を作り、自らの名も変えた。今の拓哉は、神山伸吾と名乗っている。街の片隅で小さな不動産業を営み、生計を立てている三十過ぎの男ということになっていた。書類もすべて偽造し、それが見破られる心配もない。

 何故、 そんな真似をしたのか。いくつか理由があるが、その中でも最も大きなものとして挙げられるのは、区切りだろうか。神原幹雄を殺すために生きてきたのが、神原拓哉だ。そして彼を殺したとき、自分の中でごっそりと何かが削られる感覚を味わった。恐らく、それは神原拓哉として生きてきた全てだ。三笠拓哉に戻るという選択肢もあったが、今更自分が三笠の性を名乗るというのもおこがましい話だろう。拓哉は汚れきってしまった。三笠の名に戻るということは、両親や純也までも汚してしまうような気がした。

 だから、拓哉は別の人間として生きることを選択した。それが神山伸吾だ。

 拓哉はパソコンを操作し、メール画面を開く。

 そこには一通のメール。メールの差出人は玲子からだ。

 玲子とは現在同棲している。神原幹雄の妻ということになっていた。それは悪い気分ではなく、新たな人生を玲子と共に楽しもう。そんな淡い希望さえ抱いてしまった。

 だが、犯した罪は必ず自分に返ってくる。

 拓哉は先日、ネットに流れる奇妙な噂を耳にした。


 『あるサイトが存在し、それを見た者は異世界へと引きずり込まれる。現にもう何人も行方不明になった者がいる』


 というものだ。

 ただの都市伝説だと思っていた拓哉だが、その続きを目にし、思わず目を見張った。


 『そのサイトの名前は妖精の遊戯台というらしい』


 妖精。嫌でもブレインキラーを想起させる名前だった。

 妖精の遊戯台。妖精のゲーム。そしてそれを見た者は行方不明となる。

 拓哉は何か嫌な予感を感じた。ブレインキラーは終わった。地下施設も爆破し、神原幹雄の遺体共々地中へと埋めた。神原グループが衰退した今、ブレインキラーを再び作り上げることなど出来やしない。だからこの噂とブレインキラーとは何の関係性もない。

 試しに拓哉はネットで『妖精の遊戯台』を探してみた。だが、そんなサイトは存在しなかった。

 『自殺予防幇助の会』のように何らかのサイトに仕掛けがあるのかもしれない。だが、もしそうだとして、一体誰が? 何の目的でそんなことをしているのか?

 玲子には『妖精の遊戯台』の調査を頼んでいた。

 そして上がってきた報告書が、このメールだ。

 拓哉はメールをクリックし、中身を開いた。本文には短く『Looking for』と書かれていた。

 訳すると、探すという意味になる。何を探すというのか。玲子がふざけて送ってきたとも思えない。

 ふと見ると、メールには画像が添付されている。

 画像は二枚あった。そのうちの一枚を表示させる。


 『妖精の島』


 そう書かれた、ファンタジーチックな作りのサイトの画像。どこかの森を思い起こさせる木々の風景の中に、デフォルメされた妖精のイラストが描かれていた。いや、それだけではない。よく目を凝らすと、画像の隅には十一桁の数字が並んでいる。

 そして二枚目の画像を開く。


「――っ」


 思わず言葉を失った。

 そこには椅子に縛られ、拘束されている玲子の姿が荒い画像で映し出されていた。どこか狭い部屋にいるようだ。辺りは暗く、レンガで組まれた壁が見える。

 合成――ではない。目隠しをされ、口をガムテープで塞がれた玲子の姿。


「どういうことだ……」


 拓哉は反射的に玲子の携帯へ電話を掛けた。

 無情に繰り返されるコール音。苛立ちが積もる。どうして出ない。やはりあの画像は本物なのか。玲子は無事なのか。一体誰がこんなことを。

 手がかりはこの一枚目の画像、『妖精の島』というサイトだけだ。

 拓哉は携帯をかけ続けながら、片手で妖精の島を検索にかける。

 だが、画像にあるようなサイトは見つからない。電話も繋がらない。

 拓哉は拳をデスクに叩きつけた。


「これが、俺への罰だというのか……」


 多くの罪に汚れきった手。この罪はきっと返ってくると思っていた。それが今なのか。だが何故それが自分ではないのだ。どうして玲子なのだ。


「くっ……」


 玲子が何者かに捕まったとして、相手の要求は何なのだ。

 『Looking for』。つまり相手はこちらを見つけてみろと言ってきているのか。

 ならば見つけ出してやる。誰が何のためにこんなことをしたのか分からない。自分の命が欲しいというのならばくれてやろう。だが玲子を失うわけにはいかない。彼女だけは助けなければならない。


「誰かは知らぬが、お前の挑戦、受けてやる」


 一枚目の画像を再度開く。画像下部に記された十一ケタの数字。恐らくこれは携帯電話の番号だ。

 犯人に繋がるのかは分からない。だが、手がかりはこれしかないのだ。拓哉は迷うことなく、その番号をプッシュした。





 時を同じくして、都内の某アパートの一室で、純也は送られてきたメールを見て、目を見張った。

 送信者は『妖精』となっていた。

 妖精、ブレインキラーの進行役。嫌な思い出が蘇り、純也は思わず顔をしかめた。

 消去してしまおう。そう思った。だが何かに導かれるように、純也はメールを選択。開封した。

 本文にはURLが書かれているのみ。URLをクリックしようとし、純也はこのメールに画像が添付されていることに気付いた。画像は二枚あった。

 画像を開く。一枚は『妖精の島』と書かれたサイトの画像だ。深い森の風景の中を妖精が飛び回っているというデザインのそれは、やはりブレインキラーを想起させる。

 そして最後の一枚、それは。


「玲子、さん……?」


 拘束された玲子の画像だ。


「ど、どういうことだ……?」


 困惑する純也は、突然鳴り響いた携帯の音に驚きから思わず腰を浮かせた。


 見知らぬ番号からだった。まるでこちらがメールを読むのを待っていたかのようなタイミング。嫌な予感がする。心臓が高鳴っていた。額にはびっしりと汗が浮かび上がり、呼吸が乱れる。


「……はい」


 純也は深呼吸し、通話ボタンを押した。


『貴様は誰だ。何が目的で玲子を誘拐した』


 静かな声。しかし怒りを孕んだその声には聞き覚えがあった。


「……拓哉、兄さん?」


『…………純也?』


 行方不明となっていた兄からの電話。嫌な予感は消えない。


『お前が……やったのか?』


 拓哉もまた困惑しているような声音だった。


「どういうことだよ? それよりも、メールが届いたんだけど、これは兄さんが?」


『お前のところにもメールが届いていたのか。もう一度聞くが、本当にお前が玲子を攫ったわけではないんだな?』


「俺じゃない。何で俺がそんなことしないといけないんだよっ」


 拓哉はどうやら冷静さを欠いているらしい。それは恐らく自分もだが、まずは状況を整理しなければ。


「どうして俺の携帯が?」


『メールに画像は添付されていたか?』


「ああ、二枚。『妖精の国』って名前のサイトの画像と、拘束された玲子さんの画像が添付されてる」


『その、『妖精の国』が書かれた画像を見ろ』


 一枚目の画像を再表示する。『妖精の国』と書かれた画像。


『そこの画面下部に電話番号が書かれていた。それが犯人の連絡先かと思い、電話をかけてみたんだよ』


「ちょっと待って。そんな番号、どこにも書かれてないよ」


 純也の開いている画像には電話番号どころか、数字の一つも見当たらない。


『どういうことだ……本文には何か書かれていたか?』


「えっと、どこかのURLが書かれてる」


『な、んだと……』


 受話器の向こうで息を呑む音が伝わってくる。


『純也、そのURLを教えてくれないか』


 拓哉の声には真摯さが感じられる。兄にとって、やはり玲子は大切な存在なのだろう。


「ああ、そっちのメールアドレス教えてくれないか。そっちに転送するよ」


 純也は教えられたアドレスに、『妖精』からのメールを転送した。


「兄さん、そっちで何が起きてるんだ。世間では、兄さんも爺も行方不明ってことになってる。今、どこで何をしているんだよ」


『お前には関係のないことだ』


 純也の質問を、拓哉は即座に跳ね返した。そこには何か断固とした意思のようなものを感じる。

 だがそれが気に食わない。あれだけのことをしておいて、関係ないとは何なのだ。カッとなった純也は思いのままに拓哉に向かって叫んだ。


「関係あるだろ! 俺たちは血の繋がった家族じゃないかっ」


 それに拓哉は黙り込む。やがて返ってきた声はひどく弱々しいものだった。


『俺を、まだ家族と思ってくれているのか?』


 その言葉に、純也は迷いもなく、


「当然だろ」


 頷いた。当然、それは拓哉には見えない。だが、拓哉は純也の短い言葉に乗せられた思いを汲み取ったのだろう。ゆっくりと息を吐き出すと、一語一語を絞り出すように続けた。


『……お前の気持ちは嬉しい。だが、これ以上お前を巻き込むわけにはいかない。これは俺への罰なんだ』


「罰?」


『犯してきた罪を償うときが来たのさ』


「それが玲子さんをこんな目に遭わせることなのかよ」


『違うっ! だから、俺は玲子を助けようと手がかりを探しているんだっ』


 返ってきたのは激しい感情が乗せられた声だった。

 拓哉にとって、玲子はそれほどまでに大切な存在なのだ。

 ならば、


「兄さん、俺も協力する。一緒に玲子さんを助けよう」


 純也はそう提案した。

 玲子には騙されもしたが、それでも彼女を本当の悪人だとは思えなかった。その思いは今も心の中に残っている。一緒に過ごした時間は短かったが、純也の中では今でも玲子は大事な仲間の一人なのだ。

 だから助ける。仲間を助けるのは当然のことだ。そしてそれが兄の大事な人なのだとすれば、なおさら。


『馬鹿なことを言うな。さっきも言っただろ。俺はこれ以上お前を巻き込むつもりは』


「馬鹿なことを言ってるのは兄さんだろ。兄さんや玲子さんには全てを話してもらう。俺にはそれを聞く権利があるはずだ。だからそのためにも、俺も兄さんに協力する」


『…………命の保証は出来んぞ』


 拓哉は念を押すように問いかけてくる。

 命を失うことになってもいいのか。自分の命を投げ打ってまで、俺に協力してくれるというのか。


「もちろん、俺だって死にたくないよ。せっかく助かった命なんだ。だから力を合わせよう。協力すれば、きっと誰も死なずに解決出来る」


『……お前は、相変わらずだな』


 受話器の向こうで苦笑する声。


『分かった。俺を助けてくれるか、純也』


「ああ!」


 闇はまだ晴れない。闇はより濃く、深くなっていく。

 それでも挫けない。諦めなければ、活路を見いだせることをブレインキラーで学んだ。

 純也は力強く返事を返した。


ブレインキラー、外伝はここまでとなります。

これにてブレインキラーは完全に終了となるわけですが……どうしてこんな終わり方になったのか、自分でも分かりません(笑)

これじゃあ、まるで第二部があるみたいだ……

というよりも明らかに続きを意識してる終わり方ですよね。

時間はかかるかもしれませんが、いつか書けたらいいな。



ブレインキラーにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

次は戦記物でお会いしましょう!


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