インターバル1 『13人のプレイヤー』 その3
庄之助の説得もあり、美耶子は純也や庄之助と共に田嶋のところへとやって来た。
田嶋は純也と庄之助を一瞥し、その視線を美耶子へと向ける。
途端、口元が蛇のように吊り上がり、舐めるような視線を美耶子の頭から爪先までに向けてくる。
美耶子はこみ上げてくる生理的な嫌悪感に吐き気を覚え、それでも負けるものかと気丈に振舞おうとする。
だが、美耶子と田嶋を遮るように純也が間に入った。美耶子は純也の背中に隠れるような形となる。
田嶋は面白くなさそうに小さく舌打ちすると、美耶子から視線を外す。美耶子は田嶋の視線から逃れたことに安堵の息を吐いた。
「あ、あの、ありがとうございます……」
背中越しに純也に感謝の言葉を告げる美耶子。
純也は気にするなと言うように、美耶子に小さく微笑んでみせた。
「これで全員だよな?」
田嶋は自分を取り囲むようにして集まった面々を見つめながら、声高々に言った。
「じゃあ、自己紹介しようか。俺はさっきしたから、もういいよな。そっちの端から順番に頼むわ」
「え、ええ。あたしは月村玲子。服装を見れば分かると思うけど、OLよ。田嶋さんの言った通り、あたしも記憶がないわ。こんなのでいいかしら?」
そう答えたのは、活発そうな表情に肩までのショートカットの髪をした三十代の女性。エレベーターガールのような制服を着ており、胸元では青いリボンがきっちりと止められている。
「次は僕かな。僕は池沢孝道。右に同じく、記憶がないよ」
次に答えたのは玲子の隣に立っていた太った少年だった。年のころは美耶子と同じぐらいだろう。額縁眼鏡をかけ、神経質そうな顔つきをしている。サバゲーで遊んでいたところを連れてこられたのか、池沢は迷彩柄のアーミーシャツにズボンを着ていた。
「……伊月卓だ。記憶はない」
無愛想に答えたのは、Tシャツにジーンズ姿の青年。鍛え上げられて引き締まった筋肉、短く刈り上げた髪に、どこか荒っぽい感じの顔つき。伊月は言うことだけ言うと、すぐに目を閉じた。これ以上話すつもりはないと、全身で語っているようなものだ。
「あ、私は福山美里って言います! 私立滝嶋中学の二年です! みなさん、よろしくお願いします!」
元気一杯に挨拶し、ぺこりと頭を下げたのは夏物のセーラー服を来た小柄な少女だ。顔つきは幼く、小学生のように見えなくもない。頭の上で一つにまとめた髪が、美里が身動きするたびに尻尾のようにぴょこぴょこと揺れ動いた。
「私は渡辺重雄。渡辺商事の社長だったようだ。みんなと一緒で記憶はないな。まぁ、ここは一つよろしく頼むよ」
茶色のスーツを着た壮年の男が横柄に答える。脂ぎった肌にずっぷりと飛び出たお腹。豊かな髭を生やし、その表情には周りへの虚栄心が見え隠れしている。
「あたしは桃山留美。栄進高校の三年だ。あたしも記憶はないよ」
颯爽と答えたのは、カッターシャツに赤と黒のチェックのスカートという格好の少女だ。背中の半ばまで伸ばしたまっすぐな長い髪が艶々と輝いて見える。少女は淡々とした表情で全員を見回した。
「あ~、ワシは荻野昌平ってんだ。どうやらみんな記憶がないみたいだなぁ。まぁ、よろしく頼むわ」
そう言って、作業着を着た男が豪快に笑う。大工の仕事をしていたのだろうか、作業着から覗く腕は丸太のように太く、どっしりとした頼もしい印象を与える。
「俺は間宮栄作。ぐふふ、可愛い子ばかりじゃねぇか」
集まった女性陣を眺めて野卑た笑みを作る五十過ぎの男。よれよれのシャツにダボダボのズボン。黒ずんだ肌に、濃い無精髭。見るもの全てに不衛生そうな印象を与え、女性陣はみな栄作の視線に嫌悪の態度を露わにする。
「さて、次は私の番かな。私は羽山秀一。どうも小説作家のようだ。まったく覚えていないんだけどね」
爽やかに笑ったのは、四十過ぎの眼鏡をかけた男性。長身で目鼻もはっきりしている。ナイスミドルという言葉が似合いそうな男だ。
「おっと、次はワシかな? ワシは金本庄之助。わけも分からぬ間にこんなとこに連れてこられて、正直混乱しておる。しかしみんなで協力すれば、生きてここから出られると信じておるよ」
にっこりと微笑み、庄之助が言う。
そして全員の視線が美耶子へと向けられる。
「えっと、あの、佐古下美耶子です。みなさん、よろしくお願いします」
美耶子は怖気づきそうになる気持ちをなんとか抑え、震える声で答える。
そして次の視線は純也へと。
「三笠純也って言います。俺も皆と同じで記憶はないです。でも絶対に俺は生きてここから出る! どこかで俺たちを見て笑っている奴らを俺は絶対に許さない!」
その瞳に激しい怒りの炎を燃え上がらせ、純也は言う。
これで十三人全員の自己紹介が終わった。
「さて、自己紹介も終わったところで、次はどうしようかねぇ」
田嶋が首を傾げ、何かを思案する素振りを見せる。
「とりあえず、今俺たちがいる場所を探検してみるってのはどう? もしかしたら出口があるかもしれないし。出られないにしても食べ物とか見つかるかも」
田嶋の言葉に全員が頷く。
と、そのとき。
ぴぴぴっ
短い電子音があちこちで鳴る。それは全員が持つ端末から聞こえてきた。
端末を見つめる全員の顔が強張った。
端末には淡々と文字が表示されていく。
『 ただいまより、第二ゲーム フラッグを開始します 』
そしてこのゲームから本当の悲劇は始まっていくのだった。