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ブレインキラー  作者:
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外伝  第五ゲーム 『ラビリンス』 その2

 階段を降りた先は細い通路となっていた。大人が二人肩を並べて歩けるかという広さ。

 通路は暗く、空調がないため空気も淀んでいる。


「幹雄様、どうされますか」


 部下の男が問いかけてくるのを無視し、神原幹雄は黙考する。彼が考えていることは、ゲームのクリアー方法などではなく、拓哉の思考だ。

 おそらくこの迷路に出口はない。拓哉自身が言っていたではないか。


『ええ、貴方を殺すためのゲームです』


 自分を殺すためのゲームなのだとすれば、この迷路の存在こそが罠だ。この迷路に出口はなく、奥へと迷い込めば脱出も叶わず、毒ガスの餌食となろう。

 ゆえに神原幹雄は迷路ではなく、拓哉の思考を読もうとする。奴は本当にここで死のうとしているのか。演技ではないのか。奴しか知らぬ脱出方法があるのではないか。

 だが自分が同じ場にいれば、拓哉も意地を張って死を受け入れるかもしれない。だからこそ、こうして迷路の入り口まで下りてきたのだ。

 当然、入ってきた入口を閉ざされては元も子もない。入口付近には部下を一人待機させている。奴がおかしな真似をすれば、すぐに取り押さえられるようにはしてあった。


「毒ガス、か」


 奴は本当に、ここに集まった面々を殺すつもりなのか。この場にいる観客たちの多くは、日本のみならず世界でも名の知れた者たちだ。彼らが一斉に行方を眩ませたとなれば、そこから来る世界的打撃はどれほどのものか。そしてマスコミもまた騒ぎ出すだろう。

 もしかしたら奴には他に協力者がいるのかもしれない。その協力者がマスコミへここの情報をリークするとすればどうだ。神原拓哉の名が上がれば、それは間違いなく神原グループへの致命傷となる。


(ワシの命だけではなく、ワシが築き上げてきたものすべてを破壊するつもりか)


 憎々しい。だが、それと同じくらいに小気味いい。少し頭の切れるだけの小僧と思っていたが、なかなかに面白い。


「幹雄様?」


 部下が怪訝そうな顔をして、こちらを見つめていた。

 なるほど、どうやら自分は今笑っているらしい。


「奴は自分の命を犠牲にして、ワシを殺すという。ならば、それが成しえぬと分かったときの奴の顔を拝むのも、また一興よな」


 元々そのためにここまでやって来たのだ。少し予定が狂ってしまったが、問題ない。


「幹雄様、私が先の様子を見て参ります」


 じっとこの場に留まっていることに痺れを切らしたか、部下の一人がそう提案してきた。

 神原幹雄はそれに応じない。好きにすればいい。どうせこの迷路に出口など存在しないのだ。


「では、行って参ります」


 左手の壁に手を当てながら、男は通路を奥へと進んでいった。


「では私は逆の方向へ」


 また別の男が右手に手を当てながら、通路を進んでいく。

 壁伝いに迷路を進めば、やがて出口にたどり着くというのは誰の言か。部下の数人が迷宮の探索に赴いて行った。神原幹雄は呼び止めない。行きたい奴は行けばいい。この迷路に出口はない。その程度のことも考えられぬ輩は、部下に必要ない。

 そうしてこの場に残ったのは神原幹雄と二人の男だけになった。

 男たちは何も発することなく、堂と佇んでいる。


「しかし少しばかり暇だな……」


 拓哉がいつ動くか分からぬ状況だ。気は抜けぬが、二時間という時間をこの場所で無作為に過ごすには、いささか退屈すぎる。

 神原幹雄は目を閉じた。闇の向こうから死の気配がひしひしと伝わってくる。奴らは自分を連れ去っていくだろうか。この神原幹雄の命を持って行けるのだろうか。


「つまらぬ」


 自分は何者にも屈せぬ。それは過去も、今も、そして未来も変わらぬ。

 例え死神であったとしても、跪かせてくれよう。


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