インターバル1 『13人のプレイヤー』 その2
純也は驚きに目を見張った。
記憶を失っているのは、どうやら自分だけではないというのだ。
隣に座る美耶子、そして庄之助もまた記憶を失っているという。
純也は広間の中にいる人間を見回した。
もしかしたら、この場にいる全員が記憶を失っているのではないか、と。
「何だか、怖い……」
美耶子が膝を抱えて涙声で呟く。
純也は改めて美耶子へと視線を向けた。
紺色のブレザーに赤色のプリーツスカート。背中半ばまでまっすぐ伸びた癖のない黒い髪、人形のように整った顔立ちは深遠のお嬢様をイメージさせる。しかしその顔は今恐怖と不安に揺れ、今にも崩れて消えてしまいそうなほどの脆さを感じさせた。
美耶子の気持ちは純也にも痛いほど分かる。
最初は誘拐されたのかとも思っていたが、ここまで規模が大きくなると、さすがにもっと大きな何かに巻き込まれたのではないかと疑いたくもなるものだ。
いや、巻き込まれているのだ。最初のゲーム。下手をすれば、人が死んでいたかもしれないのだ。そしてそんなゲームがあと三つも残っている。
純也は美耶子にどう声をかければいいか分からず、助けを求めるように庄之助の方を見た。
だが庄之助も静かに首を振り、ただ沈黙を返す。
広間には重苦しい空気が立ち込め始めていた。
目に見えない緊張と不安の渦が純也たちを押しつぶそうとしているかのようだ。
「あー、みんな、ちょっといいか?」
そんなとき、広間の中心に座り込んでいた黒いスーツを着た男が立ち上がった。
全員の視線が男へと向けられる。
男は一斉に向けられた視線に怯むことなく、不敵に笑ってみせた。
明るめの茶色に染めた長い髪、耳にはピアス、スーツの袖からは手の甲にかけて何かの刺青が施されているのが見える。切れ長の瞳に、少しだけ生やした髭。
二十代半ばぐらいであろう男は、全員の顔を見回しながら、ゆっくりと話し始める。
「とりあえず全員で情報交換しないか? といっても、みんな記憶がないんだろ、どうせ? それでも自己紹介ぐらいは出来るよな? 俺の名前は田嶋良介。フリーターだ」
男、田嶋はそう言って軽薄に笑う。
田嶋は明らかに普通の人間とは違って見えた。フリーターと言っていたが、それも本当かどうか怪しい。
純也は田嶋に警戒心を抱きながら、それでも彼の言うことは正しいと納得していた。
今は少しでも情報を集めるべきなのだ。それが無理でもここにいる全員と協力出来る体制を作っておけば、次のゲームが始まったときにお互い協力することが出来るかもしれない。
それは純也だけでなく、この場にいる全員も感じていたようで、お互いの顔をチラチラと見比べながら、田嶋のところへと集まっていく。
だが美耶子はその場を動こうとしなかった。田嶋の独特の雰囲気に当てられてしまったのか、恐怖にすくんでいるようだ。
純也と庄之助も美耶子を置いていくことが出来ず、その場に残る形になる。
いつしか田嶋を中心とした十人のグループと、純也と美耶子、庄之助の三人のグループの二つに分かれていた。
「おい、あんたらもこっちに来いよ」
田嶋が純也たちに向かって声をかける。
純也はそっと美耶子の様子を窺った。
美耶子はきゅっと純也の袖を握っており、その手は微かに震えていた。
「佐古下さん……」
「何か、あの人、嫌な感じがします……」
「お嬢ちゃん、それでもとりあえずあの人のところへ行こう? 今は少しでも情報を集めないと、ね?」
庄之助が諭すように美耶子へ言う。
美耶子はしばし悩む素振りを見せ、小さく頷いた。