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ブレインキラー  作者:
64/80

第四ゲーム 『ジャッジ』 その3

 エレベーターから降りてくる留美や美里と合流し、純也は改めて『審判の間』と呼ばれるフロアーを見回した。

 今までの武骨なコンクリートの壁などではなく、華美でいてどこか荘厳な雰囲気を持つ広場が目の前には広がっている。床には真紅の絨毯が敷かれ、広場の奥には木製の扉が『4つ』設置されている。

 明らかにこの広場は教会をイメージして作られていた。

 そうなると、奥の扉は懺悔室か。

 だが、この広場を教会と呼ぶには憚られるものが、この部屋には存在している。

 純也は美耶子たちを倣い、天井へと視線を向ける。天井一面には天使の女性と悪魔の男性が抱き合っている絵が描かれていた。しかしこの絵、抱き合っているという表現は果たして正しいのだろうか。天使の女性も、悪魔の男性も互いに背中に腕を回し、しっかりと抱き合っているように見えるのだが、その表情だ。互いに敵を睨みつけるかのような醜悪な表情。まるで今にも相手の首筋を噛み千切らんばかりの不吉なオーラが、この二人から放たれていた。

 天井の絵画から視線を外し、純也は広場の中を歩き回る。美耶子たちはこの絵の放つ魔の波動に気圧され、三人身を寄せ合うようにして佇んでいた

 第四ゲーム『ジャッジ』。首輪が外れると同時に純也たちの端末は電源が落ち、二度と動くことはなかった。つまりここからは勝利条件どころか、ゲームの内容さえ分からない。

 しかしかつての記憶を取り戻した純也には、このゲームの内容が分かる。この第四ゲームはかつて拓哉が考案したものだ。純也自身もその内容は本人から聞いている。

 勝率は限りなく百に近く、何の危険性も存在しない。

 ……そのはずだ。

 純也を不安にさせるのは、今までのゲームのことだ。基本ルールやトラップなどは純也が考えていたものを基軸にしていたが、首輪の爆弾や武器の設置、記憶操作などは拓哉側が追加したものだろう。

 そうなると、この第四ゲームも純也には予想もしないトラップが潜んでいる可能性があった。


「何だか怖いところですね……」


 近づいてきた美耶子が震える声でそう呟いた。


「今回のゲーム、どうなると思う?」


 まだ目が赤いが、落ち着きを取り戻した留美は何の反応も見せない端末に嘆息し、純也へと視線を向けてくる。


「扉が四つあるから、たぶん俺たちはあの中のどれか一つを選んで入らなければいけないんだと思う」


「ばらばらってことですか?!」


 途端、美里が不安そうに瞳を揺らす。


「大丈夫。このゲームは気をしっかり保っていれば、何の問題もないはずだから」


 純也としては、美里を励ますために何気なく口にした言葉だった。

 しかし留美はおや、と不思議そうな顔をして、


「君はこのゲームの内容を知っているのかい?」


 と尋ねてきた。

 この問いには純也も肝を冷やす。ここで純也が、実はこのゲームに関わっている人間であることをばらすわけにはいかない。今は彼女たちに余計な不安や疑心を与えるわけにはいかないのだ。


「いや、その、首輪も外れてますし、取り乱さずに落ち着いていれば大丈夫って意味で言ったんです」


 純也の言い訳に留美は納得したようで、自分の首元をさすり、失笑する。


「いまだに実感が湧かないよ。目に見えないだけで、まだ首輪がついている感じがする」


 留美の言葉に、思わず純也も苦笑を返す。

 首輪が外れたことで、直接的な死の危険性はなくなった。今までのようにタイムリミットを気にする必要がなくなったのだ。美耶子たちの表情にもどこか明るいものが混じり始めていた。


『やぁ、よくここまで来たね』


 弛緩していた空気を裂くように、どこかに備えられているであろうスピーカーから声が発せられる。

 それはもう嫌というほど耳にし、記憶に刻まれた耳障りな機会音声の声。妖精の声だ。


『罪に穢れ、人間の世界を追われた君たちを僕らは歓迎するよ』


 妖精の発言。それはあまりにも的を射た内容だった。

 このゲームは、自殺志願者によって行われている。社会に自分の居場所を作ることが出来なかった者たち。それは人間社会を追われたと置き換えてもおかしくはない。


『だけど僕らの仲間になるためには、ある儀式をしてもらわないといけないんだ。君たち自身の手で、その身に負った穢れを浄化してほしい』


「誰があなたたちの仲間になんてなるもんかっ」


 美里が歯をむき出しにして怒りをあらわにする。

 美耶子や留美もその心は同じらしく、厳しい表情を天井へと向けている。


『穢れを祓うための道具は奥の部屋に用意してあるよ。ただし、一つの部屋に一人までしか入れないから気を付けてね。またあとで会えるといいな』


 ぷつりと放送の切れる音。

 シンとした広場。純也は美耶子たちを集め、最後になるであろう作戦会議を開く。

 と言っても与えられた情報は限りなくゼロに近く、分かっていることといえば、今回のゲームは個別で挑まなければならないということのみ。


「みんな、何があっても生きる希望は絶対に捨てちゃダメだ。必ずこのゲームをクリアーして、向こうで再会しよう」


 純也に出来るのは仲間を信じ、再会の誓いを再確認することだけ。

 仲間たちはそれに力強く頷きを返す。

 では、最後のゲームに挑もう。

 そして必ず生還を。



 純也たちはそれぞれの扉を開けた。

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