第四ゲーム 『ジャッジ』 その1
全てを思い出した。どうして自分がこんなところにいるのかも。何故このようなゲームが行われているのかも。
「純也さん……?」
ロジックキューブ、フラッグ、ロール――それらはすべて純也が考え出したものだ。つまりここに来るまでに死んで行った『八人』のプレイヤーは純也が殺したも同然だった。
何事かとこちらを見つめてくる美耶子たち。彼女たちとの間に今までは感じなかった距離を感じてしまう。
「何でも、ない」
一気に記憶を流し込まれたショックで、頭がまだ痛いが動けないというほどではない。
立ち上がる。そして思考する。
状況の説明はついた。しかしそれだけだ。やることは変わらない。彼女たちを無事にこのゲームから解放する。その決意は揺るぎはしない。
「次で最後だ。でもその前に俺の話を聞いてほしい」
真実を話したところで、到底信じてはもらえないだろう。だが、それでも出来ることはあった。
美耶子たちは固唾を呑んで、純也の言葉に静かに耳を傾けている。
「こんなときに言うのも変な話かもしれない。でもとても大事なことだと俺は思う」
純也には美耶子たちがどうしてこのゲームに参加することになったのか、その事情は分からない。
だがここで出会い、そして育んだものはきっと何よりも大切なもので。
「このゲームをクリアーしたら、俺たちはどうなるだろう。きっと解放される。でももう会うことはないかもしれない。だから一つ約束をしたいんだ」
ここで経験して感じた尊いものも、醜いものも、それらは全部人間の本質だ。
「このゲームを無事にクリアーすることが出来たら、どこかでまたみんなで会わないか?」
施設での暮らし。純也一人ではとても生きていられなかった過酷な日々。しかし拓哉がいたからこそ、純也は今まで生きて来れた。
人は一人では生きていけない。きっと一人ではここで経験した記憶の重みに押しつぶされてしまう。
支え合う人が必要なのだ。だからこそ再会の約束を。あなたは決して一人ではない。
「ふむ……いいんじゃないかな」
「私も賛成ですよ! ここでお別れなんて寂しいです!」
「私も……またみんなと会えるなら、それは嬉しいです」
みんなが賛同してくれる。
「ありがとう。必ず生きて、ここを出て、また会おう」
純也は留美からメモ帳を受け取ると、そこに端末に書かれていた自分のプロフィールを書き記していった。それを三枚作り、美耶子たちに手渡す。
美耶子たちもそれに倣い、自分の情報を書き込むと、相互に交換し合った。
これは証だ。一人ではない証。
純也はエレベーターのスイッチを押した。
エレベーターの中は狭い。人が二人並べるかどうかという広さだ。四人全員が乗ることは無理そうだったので、二人ずつに分けて乗ることになった。
「俺が最初に乗ります。あと一人、俺と一緒に乗る人は」
「あ……」
留美が背中を押したのだろう。たたらを踏みながら、美耶子がこちらへとやって来る。
「あ、あの……」
「じゃあ、行こうか。美耶子さん」
こくりと頷く美耶子をエレベーターへと誘導し、自分も乗り込む。
見ると、階層を示すボタンには新たな項目が追加されていた。
『審判の間』
それが最後のゲームの舞台。
純也は全員へ視線を向け、
「どんなに苦しい現実が待っていたとしても、約束を忘れないでほしい。俺たちは一人じゃない。きっと乗り越えられるから」
きっと今の彼女たちにはこの言葉の本当の意味が伝わることはないだろう。でもこの約束があれば、きっと。
純也は全員が頷くのを確認すると、『審判の間』のボタンを押した。
ゆっくりと扉が閉じられていく。
美耶子に向けてガッツポーズを向ける美里。その意味が伝わったのか美耶子は顔を赤くして俯き、留美はそんな二人を微笑ましく見守っている。
純也は彼女たちの姿をしっかりと目に焼き付けた。
ここで終わらせない。奴らの思い通りになんてさせない。
そして扉は閉ざされた。