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ブレインキラー  作者:
60/80

回想 その2

 兄からの頼みとは、知的ゲームをいくつか考えてほしいというものだった。

 純也の前の前にいる男、兄である拓哉は自分のノートパソコンを開くと、軽快にキーを叩いていく。

 母親譲りの穏やかな瞳。そして父親譲りの頑なとした強い意志。両親の美点を総べて引き継いだ兄の姿は純也にとって、崇敬の対象だった。

 施設での暮らしも兄がいたからこそ頑張ることが出来た。兄がいなければ、自分はとっくの昔に命を落としていたはずだ。

 施設での辛く苦しい生活は純也の心の傷となって、今も残っている。だが、最近になって思うようになった。彼らのような子供を作り出さない世界を作りたい。無意味に消費されていく命を助けたい、と。子供じみた思想だが、それは純也の指標となって、その心に刻まれている。


「今度、事業を立ち上げることになったんだ。年々増加する傾向にある自殺者を救済するための事業。そのためのホームページがこれだ」


 そう言って拓哉が純也に見せてくれたのは、自殺予防幇助の会というサイトだった。そこに書かれてあることは市のホームページなどにあるものと大して変わらない。


「今はまだこれだけなんだが、いつか彼らに生きる気力を取り戻してもらうためのイベントなどを開催したいと思っているんだ。それでいくつか案を考えてみた。その中の一つに皆で協力して行う体験ゲームがある」


「体験ゲーム?」


「ああ、お前が得意としてる知的ゲームのようなものだ。まぁ、遊びのようなものだが、それでもみんなで何かを成し遂げるというのは、それだけで活力になると思わないか? 俺はその知的ゲームをお前に考えてもらいたいと思っている」


「お、俺が!?」


 驚いて、兄の顔を見上げる。拓哉は口元に薄い笑みを浮かべ、


「ああ、お前はそういうのが得意だろう。どうだ、彼らのためにお前がゲームを考えてくれないか」


 自分の考えたゲームで人を楽しませることが出来る。そればかりか、失われていく命を救う手助けの一つになるかもしれない。そう考えるだけで純也の胸は大きく高鳴った。


「分かった。何か考えてみるよ」


「ああ、頼む。そうだな、人数は十人ほどだ。みんなが協力し、ときには対立しながらクリアーを目指すゲームがいいな」


「対立させるの?」


「彼らの精神は、諦観の中にある。だからこそ他人に負けたくないという感情は大きな力となるはずだ。このイベントでは彼らにあらゆる感情を想起してもらい、そして活力を取り戻してもらう。そういうゲームなんだよ、俺が考えているのは」


「分かった。難しいけど、考えてみるよ」


「ああ、任せたぞ」


 純也の言葉に拓哉は頷き、純也の肩を力強く叩いた。

 それからというもの、純也はゲームを創作することに没頭した。

 十人のプレイヤー。まずは制限時間を決めよう。そして共通の目的を与える。

 最初はスタンプラリーのようなものがいいかもしれない。スタンプかカードを集めていき、最後にテストに望む。だがそれではただのスタンプラリーだ。そこに知的ゲームの要素を入れるとなると、何をすればいいのか。

 まず、スタンプ――いや、この場合はカードの方がよさそうだ。集めなければならないカードは先着順にしよう。一つの場所に一枚用意するのだ。そしてルートは時間が経つごとに閉鎖されていき、行動範囲が狭くなる。

 それから――



 ゲームは順調に創作され続けていた。簡単でもなく、難しくもなく。年齢層に縛られない、あらゆる人が楽しめる絶妙な難易度の設定。

 やがて三つのゲームが完成し、純也はそれを拓哉へと説明した。

 拓哉はたまに口を挟みながらも、純也の説明を真摯に聞いてくれる。

 最後に拓哉からいくつかの改善点を聞き、それを調整することで純也の知的ゲームは採用されることになった。


「やはりお前に頼んで良かったよ」


 尊敬する拓哉のその言葉に、純也は照れ笑いを浮かべる。


「それで、だ。俺も一つゲームを考えてみた。純也の考えてくれたゲームの後に、このゲームを追加しようと思うんだが、どう思う?」


 拓哉はそう言って、自身が考えたという第四ゲームの企画書を純也に提示した。


「これらは全て彼らに生きる活力を与えるためのゲームだ。ならば、最後は彼ら自身の判断に委ねたいんだ」


 第四ゲーム『ジャッジ』


 それが拓哉の考えたゲームの名前だった。

 内容は至ってシンプル。勝率は限りなく百パーセントに近い。

 ゲームと呼ぶにはあまりにも適当なその内容は、しかし自殺予防幇助の会の目的と限りなく一致していた。


「いいと思う。うん、悪くないよ」


 拓哉の説明を聞いた純也は素直に賛同の意を示した。

 これは自殺予防のためのイベントだ。ならば、やはり最後はその人自身が生きる意志を見出さなくてはならない。


「そうか、それは良かった」


 そう言って、笑う拓哉はどこか泣いているように純也の目には映った。

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