インターバル1 『13人のプレイヤー』 その1
無我夢中だった。
減っていく残り時間に、わけの分からない暗号。
とにかく生き残りたい一心で考えた。
おそらく、最初のゲームをクリアー出来たのは奇跡だったのだろう。もう次は無理かもしれない。
そんな不安を抱えながら、ゲームをクリアーした美耶子は通路を道なりに進み、今の場所へと出たのだ。
円状に広がる空間。端末が進むように指示した広間がここなのだろう。
美耶子が広間へ辿り着いたとき、既に十一人の人間が集まっていた。
皆、美耶子と同じゲームをクリアーしてきたのだろう。一様に座り込んだ面々は俯き、憔悴した表情を見せている。
知らない人たちとはいえ、一人ではなくなったことに美耶子は深い安堵感を覚えた。
美耶子は広間にいる全員へと視線を向けた。
そこにいたのは様々な人たち。
美耶子と近い年齢の子もいれば、フリーター風の男もいる。三十代ぐらいのOLの女性もいた。だが美耶子がさらに驚いたのは、七十代ぐらいのお爺さんまでいたことだ。
まさに様々な人たちが集まっていた。
美耶子が広間に足を踏み入れると、俯いていた全員が顔を上げ、美耶子を見つめた。
その異様な出来事に美耶子は短い悲鳴をこぼし、一歩後ずさった。
やがて美耶子への興味をなくしたのか、一同は再び俯く。
どうすればいいのだろうか?
所在なさげに立ち尽くす美耶子。
「お嬢ちゃん、こっちにおいで?」
小さな呼び声。その声は美耶子に向けられていた。
美耶子が声の方へと視線を向けると、広間に集まった面々を見渡したときに美耶子が驚きを覚えた七十代ぐらいのお爺さんが美耶子に向かって手招きをしていた。
頭頂部は見事にはげていて、両サイドには白髪が生えていた。体格はやや小太りで緑のセーターに灰色のズボンをはいている。
人のよさそうな柔和な顔のお爺さんに引き寄せられるかのように、美耶子はお爺さんの隣へと腰を下ろした。
「あ、あの……」
何を話せばいいかも分からず、言葉を詰まらせる美耶子に、お爺さんはニコリと微笑んでみせる。
「無理に話さなくていいよ。お嬢ちゃんもあのゲームをクリアーしてきたんだろう?」
「え、ええ……お爺ちゃんもですか?」
恐る恐る頷く美耶子に、お爺さんはゆっくりと頷いた。
「ああ、ワシもだよ。この歳になっても死にたくないと思うものなんだね、とにかく必死だったよ。お嬢ちゃんも怖い思いをしてきたんだろうな、かわいそうに……」
温かな言葉。美耶子の瞳にぶあっと涙が浮かび、嗚咽をこぼしながら何度も何度も頷いた。
「怖かった……何も思い出せなくて……不安で、怖くて、どうしていいか分からなくて」
「ああ、大変だったな」
お爺さんはニコリと微笑むと、美耶子の頭をそっと撫でた。
その優しい感触に美耶子はますます涙を溢れさせた。
ひとしきり泣いて気持ちも治まった頃、広間にまた新しい人物がやって来た。
自分と同じぐらいの歳の男子学生。
カッターシャツに黒いズボン。短く切った黒い髪と、大きな瞳。
意志の強そうな、それでいてどこか優しそうな雰囲気を持った青年。
あの青年を含めて、今この広場には十三人の人間が集まっていた。
端末には十三人の参加を持って、ゲームを開始すると表示されていた。
つまり最初のゲームで脱落した人はいなかったということになる。
美耶子は無意識に首元へ手をやっていた。
冷たく硬い感触。これが爆弾だというのは本当なのか?
嘘なのかもしれない。時間切れになっても何も起こらず、テレビの人が出てきて「ドッキリ、成功!」と笑うかもしれない。
(……でも、本物かもしれない)
この首輪が本物か偽者か? それを確かめるのは怖くて、美耶子は慌てて首輪から手を離した。
青年は広場を見回したり、ここにいる人たちを眺めたりと、視線をあちこちへ向けている。
美耶子がじっと青年のことを見つめていると、不意に青年と目が合った。
青年がニコリと微笑み、美耶子もつられて微笑み返した。
青年は辺りを気にしながら、美耶子の方へとやって来た。
「えっと、はじめまして、でいいのかな? 俺、三笠純也。法泉高校の二年。君は?」
「あ、わ、私、佐古下美耶子って言います。桜宮高校の一年です」
ぺこりと頭を下げ、美耶子は隣に座るお爺さんへと視線を向けた。
「ワシは金本庄之助という名前らしい。あいにくと自分のことを何一つ思い出せんくてのぅ」
お爺さん、庄之助の言葉に純也は暗い表情を見せる。
「あなたも、ですか。実は俺もなんです。何も思い出せなくて。この端末に自分のデータらしきものがあったから、たぶん俺の名前は三笠純也でいいと思うんだけど…………って、何言ってるんだろ、俺」
苦笑する純也に、美耶子も恐る恐る声を上げた。
「あ、あの、私も、です。記憶がなくて……だから私の名前ももしかしたら違うのかもしれないです……」
思わず三人で顔を見合わせる。
「一体どうなってるんだ?」
純也の言葉に美耶子は首を振って、分からないとだけ答えた。