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自殺者を利用して富を得る。その方向性は定まった。では舞台をどう設定するか。
意外なことに、そこで弟の純也が役に立った。純也は昔から知恵の輪やボードゲームなど知的ゲームを得意としている節があったのだ。彼は趣味の一環として、自分で考えた知的ゲームをネットに掲載していた。かつて拓哉も純也の考えた知的ゲームをやってみたのだが、その難易度の高さに舌を巻いたものだった。
自殺者たちを集め、知的ゲームをさせる。そうすることで誰が勝利するか、敗北するかといったギャンブル性も現れ、より多くの収益を見込めるようになるはずだ。
しかし正直に話したところで、正義感の強い純也の協力は得られないだろう。
そして拓哉が行ったことは、一つのホームページを作ることだった。
自殺予防の会。年々増加しつつある自殺者を救済するためのサイトを作ったのだ。命の大切さを説き、彼らが頼ることの出来る公的機関、または企業の説明を行った。それはどこの市のホームページにもあるような、ありきたりなものだった。
拓哉はこのサイトを純也に見せ、彼らの心を救済するためのセミナーを開催したいと説明した。
それは全員が力を合わせなければクリアー出来ないような知的ゲームが好ましいこと。そしてそれを純也に考えてほしいと告げた。
自分の考えたゲームが多くの人の心を救う。そのことに純也は喜んで協力を申し出てくれた。
血の繋がった実の弟を騙していることに胸が痛まなかったといえば嘘になる。しかしもう始まってしまったのだ。今更止めることなど出来るはずがない。
拓哉は次に、ある山奥に山荘を作った。しかしそれは外見だけのもの。その山荘を入口に、地下に巨大な施設を建築したのだ。ここが自殺遊戯の舞台となる。
純也の考えてきた四つのゲームを元に、拓哉は独自のシステムを構築していった。
まずはホームページの改変だ。サイトの最後に、一つの質問を付け足した。
『貴方はまだ死にたいと思っていますか? はい/いいえ』
‘いいえ’を選択すれば、ブラウザ画面へと戻るように設定してある。そして、仮に‘はい’を選択したとしても、
『それでも希望はあります。諦めてはいけません。
貴方はそれでも死にたいと思っていますか? はい/いいえ』
と書かれたページへと飛ぶだけだ。そしてこれは‘いいえ’を選ぶまで延々と繰り返される。
だが、もしそれでも‘はい’を選び続ける者が現れたらどうだろう。
十回、百回、二百回。いくらこちらが問いかけても、死を選択しようとする者がいたら。
拓哉が求めているのは、そういう人間だった。もう死を選ぶしか道がないと、追い詰められた人間。
そういう人間こそが、この自殺遊戯に参加するにふさわしい。
何百回もの生への否定をしたとき、初めてこの裏のサイトが出現するように設定した。
そのサイトには彼らの自殺を補助するゲームをこちらが用意してあること、このゲームに勝利した者には人生を一からやり直せるだけの大金を手に入れることが出来ることを記している。
自分の命をベットとして、ゲームに参加するか。
このサイトにたどり着いたかつての人間は、全員が参加を表明した。
どうせ死ぬのなら、という諦めの境地か。もしくはここにきて生への渇望を見出したのか。
そんなことは拓哉には関係ない。
こうして第一回ブレインキラーは開催されたのだ。
結論から言えば、これはあまりよろしくない結果に終わった。
第一ゲーム『ロジックキューブ』にて全員が死亡したのだ。元々生への渇望に欠けた者たちだった。
彼らは思考を放棄し、ただ無様に喚き散らしながら死んでいった。これにはさすがの観客も不満を漏らす。早急に手を打つ必要があった。こんなゲームを繰り返しているばかりでは、観客は近い内に消えてしまうだろう。
そこで拓哉は参加者の記憶を操作することにした。彼らに暗示をかけ、記憶の一部を消去したのだ。
これは非常に大きな成果を出した。彼らは地面を這い蹲るようにあがき苦しみ、互いに傷付け合い、死んでいった。
観客は大いに盛り上がり、ブレインキラーは膨大な利益を生み出した。
それからも参加者が滞ることはなかった。彼らは次々と死を求めて、裏サイトへとやってくる。しかし彼らがゲームをクリアーすることはなかった。彼らは自分だけが生き残ることを優先し、他者を攻撃し続けた。それは拓哉が経験したあの施設のリプレイだ。そしてそんな醜い争いを見て、笑う観客たち。
拓哉はどうしてもこのブレインキラーを好きにはなれなかった。むしろ観客たちに嫌悪や憎悪を抱くこともあった。
それからもブレインキラーは繰り返された。開催するたびに観客の数は増し、ついには観客をこちらで選定しなければならなくなるほどまでに膨れ上がった。
利益は回を増すごとに増えていく。だが、人が増えすぎるというのも問題だった。
そんな拓哉の危惧が的中し、ブレインキラーに至る裏サイトの存在が、いつしか都市伝説の一つとして囁かれるようになった。人の口に戸口は立てられない。観客の誰かが漏らしたのだろう。
拡散していく噂。それは偶然にも純也の耳に入ることとなる。