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ブレインキラー  作者:
57/80

???

 広場は熱狂の坩堝と化していた。スクリーンには第三ゲームを終えた四人のプレイヤーの姿が映し出されている。かつて何度も行われてきたこのゲームの中で、三人以上のプレイヤーのクリアーが成されたのは、今回が初めてのことだ。広場に集まった観客たちは次の第四ゲームに向けての賭けで大いに盛り上がっている。誰が生き残るのか。それとも全員ゲームオーバーとなるのか。ベットを叫ぶ声もあれば、ひそひそと密談を交わす声も聞こえてくる。

 三笠拓哉はそんな彼らの様子を睥睨しながら、このゲームについて思いを巡らせていた。

 このゲームはかつて拓哉や純也が経験した暮らしの再現でもあった。すぐ隣に死が寄り添っているかのような日々。暴力と裏切りと死に支配された世界。その再現がこのブレインキラーだ。

 全ての始まりとなったのはいつだっただろうか。

 拓哉と純也は両親を早くに亡くし、施設へと預けられた。そこでの暮らしは地獄だったと、今でも拓哉は思っている。心に傷を持った者同士で傷つけ合う日々。誰もが心の痛みから逃れるために、誰かを傷付けていた。そんな悲しい連鎖。

 それは当然拓哉や純也にも降りかかる。踏みつけられ、殴られ、嗤われる。そしてそのたびに思ったのだ。何故、こんな目に遭わなければならないのかと。

 大人たちは見て見ぬふりを続けている。後になって分かったことだが、この施設は神原幹雄の傘下にあった。神原はこの施設の現状を意図的に作り出し、子供たちに自己的に争わせるよう仕向けた。その生存競争の中を勝ち抜いた者、または神原の目に留まる者を引き抜き、彼は自分の養子にしていたという。

 苛めは日々エスカレートし、中には過度の暴力に耐えきれず死んでしまう子供もいた。その死体は大人たちが淡々と処理していく。暴力と死に包まれた世界。

 ある日、拓哉はあるニュースを目にする。

 年々増加しつつある自殺者に対する議論がそこでは行われていた。画面の向こうでは大人たちが、自分勝手な理論を繰り広げて、盛り上がっている。

 馬鹿らしいと、拓哉は思った。彼らは何も分かっていない。自殺とは、ただ現実から逃げただけなのだ。戦うことを放棄し、安易な逃げ道に走った愚かな行為だ。だが自殺した彼らはまだ幸せなのかもしれない。拓哉のいる施設では死にたくなくても死んでいく子供が大勢いる。死を自分で選べるというのは、それだけで幸せなのだ。

 何故世界はこうも不平等なのか。親がいる。家がある。そんな温室で生きている彼らと、今の自分のこの違いは何なのだろうか。

 拓哉の中で暗い炎が灯ったのは、この瞬間だったのだろう。

 拓哉は施設での暮らしにあがき始めた。受け入れるのではなく、制御する。

 力で抑え込んだのならば、必ずどこかで反発を受ける。それではダメだ。子供たちを制御し、管理する。自分が上に立つ必要はない。上に立つ人間を制御できればそれでいいのだ。

 そうして行動し始めて、どれぐらいの日々が過ぎただろうか。

 いつしか拓哉と純也は神原幹雄に引き取られ、養子となった。

 施設での暮らしの終わり。だが、それで過酷な生存競争が終わったわけではなかった。

 神原は拓哉に大金を預け、これで神原グループを栄えさせる事業を起こせと要求してきた。

 生存競争は終わらない。相手が子供から大人へと変化しただけだ。

 拓哉は悩みに悩んだ。神原は何をしてもいいと言った。つまり普通の事業を起こすだけではダメなのだ。それでは生存競争に勝ち残れない。そして普通の発想しか出来ない者を神原は必要としないだろう。

 与えられた一室で拓哉は両親の写真を手に取った。

 天国に行ったであろう両親は、今の拓哉をどう思っているのだろうか。

 物思いに耽っていると、突然明るい話し声が部屋に響き渡った。

 純也がテレビを点けたのだ。

 テレビでは年々増加する傾向にある自殺者に対する議論が行われている。それは拓哉が子供のころに見たものと何も変わらない内容だった。

 テレビでは自殺した子供がどれだけ可哀そうな現状にあったかを述べ、同情を誘うようなドキュメントを作り、大人たちが偽善という涙をこぼしながらカメラに向かって死んじゃダメだと呼びかけている。

 それを見ていると、拓哉の心の底で沸々とした感情が沸き起こってきた。

 何故、彼らは戦うこともなく、死を選ぶのか。何故、逃げるのか。

 死ぬことを止めはしない。しかし、何故何もせず死ぬのか。公的機関に現状を訴えたのか? 助けを求めたのか? そして加害者と戦ったのか? 死ぬ気でいるのならば、相手の喉仏に食らいつき、相手を殺せばいい。あがくこともせず、死を選ぶ行為は卑怯だ。それは生をないがしろにしている。

 それでも無理だったのならば、自分の死を役立てるべきだ。臓器提供、ドナー。どうせ死ぬのならば、どうして他人を助けようとしない。結局彼らは自分のことしか頭にないのだ。


「ならば……」


 彼らのどうせ消費される命を、こちらが再利用したとして不都合などあろうはずもない。

 彼らはどうせ死にたがりなのだ。ならばその死の舞台をこちらが用意してやろう。そこで犬死によろしく勝手に死ねばいい。こちらはその死に利益を求めよう。


 これがブレインキラーの始まりだった。

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