第三ゲーム 『ロール』 その17
眉間を撃ち抜かれ、倒れ伏す池沢。彼の手元から転がり落ちた端末を拾い上げると、田嶋はそのまま端末を操作する。
「平民かよ……やっぱり騙してやがったか」
ゲーム開始前、田嶋は倉庫からこの銃を見つけていた。名前は確かグロック17だ。
手になじみのある感触。記憶は失われているが、端末には田嶋が某巨大暴力団の一員だったことを示唆する記載があった。なるほど、だからこれほどまでに銃が手に馴染むのか。一切無駄のない動きで躊躇なく引き金を引けたのは、過去にも似たような経験を何度もこなしてきたからだろう。
そして池沢の端末を手に入れたことで、田嶋はある事実に気付いた。
そう、それは役職の死はプレイヤーの死と連動するが、逆にプレイヤーの死は役職の死と繋がりはないということだ。現に先ほど田嶋が池沢を殺したにも関わらず、池沢の端末は何の変化を示すこともなく、池沢の首輪もまた無事なままだった。つまり池沢は死んだが、【平民】は生存しているということだ。
「これは使えるな……」
この事実に気付いているのは、恐らくまだ自分だけだろう。
そして誰も池沢――【平民】が死んでいることを知らない。ならばこの状況を利用すればいい。
今の田嶋の役職は【騎士】だった。ゲーム開始時は【王子】だったが、六ターン目に【妖精】のスキルで入れ替えられたのだ。これにより、田嶋は早急に手を打たなければならなくなった。
もし誰かが【王女】のスキルを使えば、自分は死ぬ。それを避けるためにも、速やかに【王女】を殺害しなければならない。
ここに自分と池沢がいることを考えれば、【魔物】は間宮だろう。そうなると、一つのエリアーに固まっている五つの光点は純也たちということになる。そして純也たちの中の誰かが【王女】なのだ。
【騎士】である田嶋はスキルを使えない。そして池沢の【平民】でも【王女】を殺すことは出来ない。そうなると、【王女】を仕留めるには【魔物】の力を借りるしかない。
……普通はそう考えるだろう。だが、田嶋にはスキル以外に強力な武器を所持している。
そう、銃だ。これを使えば、たとえスキルがなくともこのゲームを制圧することが出来る。
「さて、どう動くか」
【魔物】を殺すのはたやすい。しかしそうなると、純也たちにいらぬ懸念を与えることになってしまう。そしてもし向こうに【王女】のスキルを使われてしまえば、自分は終わりだ。
田嶋が取るべき行動は、【魔物】を利用しつつ、純也たちを騙して【王女】を殺害する。
「ここは【魔物】に敵になってもらうか」
池沢が指示を出していたのだろう。【魔物】はF5に移動している。
純也たちは荻野の死体がある部屋を避けるように迂回し、G4からD3へと移動している。どうやら【魔物】の動きを警戒しつつ、こちらに接触を図ろうとしているようだ。
「相変わらずお人よしだな、純也ちゃんは……」
純也のことを思い出すと、田嶋の心には暗い炎が燃え上がる。あんな甘い思想の子供に、自分が負け、そして情けをかけられて生かされた。この屈辱は純也は殺すことでしか晴れぬだろう。
「さぁ、ゲームはここからだぜ」
田嶋はくつくつと暗い笑みを浮かべ、待機を選択した