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ブレインキラー  作者:
52/80

第三ゲーム 『ロール』 その16

 【王子】の死を放送で聞いた池沢は盛大な舌打ちと共に、D5へと続く扉を睨みつけた。

 池沢が現在いるのはE5だ。F4、G4で何か起こっているらしく、池沢は六ターン目はE5にいる誰かにメールで待機を命じ、自身もまた待機を選択していた。

 池沢は眼鏡の位置を直しながら、自身の端末を操作する。


  第三ゲーム ロール


  あなたの役職は【平民】です。


  詳細 【王】の圧政に苦しむ民。王家に対する憎しみは強い。

     個々の力はないが、集団としての力は大きい。


  スキル 魔女狩り

      【魔女】が同エリアに存在するとき【魔女】を殺害出来る


  勝利条件 一 【魔女】の殺害

       一 【王】と【王子】の殺害

  

  残りターン  二十四



  次へ                                 』


 池沢の役職は【平民】だった。【王子】のように強力な攻撃スキルを有しているわけではなく、【王女】のように盾を有しているわけでもない。池沢は焦った。このままでは、自分は他の役職に殺されるだけではないのか、と。

 ゲーム開始直後、池沢はD9にいた。B9にいる誰かとメールでのやり取りが可能だと気付いた池沢は、相手に自分が【狩人】であると偽りのメールを送った。

 すると、向こうは自分が【魔物】であることを明かし、【狩人】のスキルを使わないことを条件に協力を申し出てきた。

 【魔物】の殺害スキルは非常に強力だ。勝利するために【魔女】【王】【王子】の三人を殺害しなければならない池沢からすれば、【魔物】という存在は非常に便利な駒だった。

 【魔物】の協力を得ることが出来た幸運にほくそえみながら、池沢は今後の戦略を練っていた。

 まずは自身の標的の現在位置を知ることだ。

 池沢は三ターン目にD5にいる光点へメールを送り、その正体を探ろうとした。

 相手は【魔女】だった。自身の標的の一人だ。ここで池沢は考えた。すぐに【魔女】を殺すべきか否か。【魔女】には一度だけ相手のスキルを無効にするスキルがある。自分のスキルを防がれたときのことを考慮しなければならない。

 そして池沢が考え付いた戦略は見事なものだった。まず、相手と協力関係を結ぶ。こちらは【魔物】を従えていることを教え、攻撃の意思がないことを示す。だが突如【魔物】が裏切り、【魔女】を攻撃。そしてこちらを【狩人】と信じ込んでいる【魔女】が自分のエリアーへと避難し、そこを【平民】のスキルで仕留める。そうだ、これがいい。この戦略で行こう。

 頭の中で迅速に必要な行程を思い描き、池沢は戦略を実行に移した。

 【魔女】はこちらを信用したようだ。ではすぐにでもこちらと合流させようと、メールを打っている最中、【魔女】からメールが送られてきた。

 どうやら他のメンバーとも合流するらしく、一度F4へと集まろうと言うのだ。

 ここで拒否をすれば怪しまれる。池沢は了承のメールを送り、【魔女】を殺す機会を慎重に窺うことにした。

 しかし第六ターン。E4にいた光点がF4へと移動し、【魔物】のスキルにより【王子】が殺された。

 これは池沢にとって想定外の事態だった。

 戦略の破綻。池沢は混乱した。

 まさか自分が【魔物】だと信じていたD5が嘘をついていたというのか。相手を利用していたつもりが、相手に利用されていた?

 プライドの塊である池沢にとって、それはとても許容されることではなかった。

 では、どうする。F4にいる【魔物】にメールを送り、また自分を【狩人】と偽って脅すか。

 だが、それは今の状況では得策ではない気がする。G4にいる五つの光点。恐らくは純也たちだろう。

 仲間と群れなければ何も出来ない劣等種。奴らの中に【狩人】がいたらどうだ。自分のように【魔物】を脅し、こちらへけしかけてくるかもしれない。

 手詰まり。どの役職が誰なのか、情報が足りない。唯一はっきりしているのは、F4にいるのが【魔物】であり、【王子】が死んだことだ。

 どう動けばいい。何をすればいい。

 池沢の額にはびっしりと球のような汗が浮かんでいた。

 こんなところで死にたくない。自分はこんなところで死ぬはずがない。

 混迷する思考は意味のないことばかりを浮かび上がらせる。

 そして放送は第七ターンの開始を告げた。

 ピピッ


「…………え?」


 放送が切れるや否や、池沢の端末にメールが届いた。

 相手は【魔物】と偽っていたD5からだった。


『合流しないか?』


 何をいまさら!

 池沢はそう打ち込もうとし、寸でのところでその指を止めた。

 気付いた。気付いてしまった。この状況を打開する方法を。

 D5にいる人物は【魔物】ではない。それは第六ターンで明らかになった。だがこちらはどうだ。こちらが【平民】であることは、まだばれていないのだ。

 向こうは池沢を【狩人】と信じている。そして【魔物】は池沢のニマス以内に存在している。つまりメールで接触を図ることは可能なのだ。だからD5は慌てた。今度こそ【魔物】を従えて、自分に報復に来るかもしれないと。ゆえに友好の意を示すように、メールで合流を示唆してきた。

 思考が澄み渡る。次の取るべき戦略が明確に脳裏に映し出される。

 池沢は眼鏡の位置を直し、口元を釣り上げて笑った。

 まず池沢は【魔物】に脅しのメールを送った。自分は【狩人】で、【魔物】をいつでも殺せること。それが嫌ならば、自分に協力しろ、といった内容のメールだ。

 【魔物】からの返事はすぐにあった。了承。予想通りの返事だ。

 次に、池沢はD5にいる光点へとメールを送る。


『了解した。こっちに合流するといい』


 自分が優勢であることから来る強気。しかし相手はそれを拒否した。【魔物】の位置が近すぎるというのだ。なるほど、怯えてしまうのは仕方ない。


『こちらの指示に従わないのならば協力はしない』


 だがここで譲歩するつもりはなかった。こちらには【魔物】という切り札があるのだから。


『分かった。そちらへ行く』


 了承のメールに、池沢はこれ以上ないという優越感を感じた。誰もが自分の思うがままに動くのだ。このゲームの支配者であるという事実に、池沢は恍惚となった。

 だがいつまでも呆けてはいられない。ここからが重要なのだ。

 【魔物】にF5へと移動するよう指示を出す。これは純也たちの牽制にもなるはずだ。まずはD5を罠にはめ、殺害する。破綻したと思われた当初の戦略はここにきて、再び修復されたのだ。

 だが正確に言えば、このとき池沢は慢心していた。ゲームにばかり頭を取られ、最も警戒しなければならないことを失念していたのだ。

 光点が移動する。D5へと続く扉のバルブが回され、ゆっくりと扉が開いていく。

 さぁ、どんな顔をして出迎えてやろう。

 池沢はD5にいるであろう人物を確認しようと視線を上げ、こちらへ向けられる銃口に気付いた。

 パンッ――

 そんな乾いた銃声が部屋に鳴り響く。


「あ……」


 思考が断絶する寸前、池沢が最期に見たのは、愉悦の笑みを浮かべ、蔑んだ視線を向けてくる田嶋の姿だった。

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