第三ゲーム 『ロール』 その15
荻野の行動は純也に衝撃を与えた。
人の良さそうな人だと、そう思っていた。しかし美耶子を襲い、端末を奪った。それだけでなく、伊月や留美をも自分の駒にしようとした。
信じたくなかったが、目の前で起きている現実が事実なのだ。
伊月と留美はG4へと移動し、純也たちと合流することになった。伊月に取り押さえられていた荻野は端末の情報を公開した後、F4へと移動している。他の光点の動きはいまだにない。純也たちの光点の動きに不審なものを感じ、待機を選択したのだろうか。
純也は現状の情報を把握することにした。
全員の情報を照らし合わせ、まとめると以下のようになる。
・プレイヤー;純也
役職 ;【王】
勝利条件 ;【王子】【王女】の殺害
王の証を所持して玉座への到達
スキル ;他人のスキルを無効化し、殺害することが出来る
・プレイヤー;美耶子
役職 ;【王女】
勝利条件 ;【王】【王子】の殺害
王の証を所持して玉座へ到達
スキル ;誰かの死を自身が引き受ける
騎士の命を消費し、指定した対象を殺害する
・プレイヤー;伊月
役職 ;【魔女】
勝利条件 ;【王女】の殺害
【王子】が生存した状態で三十ターンを迎える
スキル ;指定した対象の死を一度だけ無効化する
・プレイヤー;留美
役職 ;【妖精】
勝利条件 ;三人以上の人間の死
スキル ;指定した役職を一度だけ入れ替える
・プレイヤー;美里
役職 ;狩人
勝利条件 ;【魔物】【魔女】の殺害
スキル ;【魔物】を殺害出来る
・プレイヤー;荻野
役職 ;【王子】
勝利条件 ;【王】【王女】の殺害
王の証を所持して玉座へ到達
スキル ;隣接するエリアーの指定した対象を殺害出来る
・プレイヤー;不明
役職 ;【騎士】
勝利条件 ;【王】【王子】の殺害
【王女】の生存
スキル ;なし
・プレイヤー;不明
役職 ;【平民】
勝利条件 ;不明
スキル ;同エリアーになった【魔女】を殺害出来る
・プレイヤー;不明
役職 ;【魔物】
勝利条件 ;不明
スキル ;同エリアーになった対象を殺害する
これらの情報で分かったことは、全ての役職がいずれかの役職の死を勝利条件に設定されているということだ。その中でも王族の死を求めるものが多い。役職の死は自身の死と繋がる。つまりこのゲームに生き残るためには、スキルを使って人を殺すしかない。そのための駆け引きが必要になる。
(ふざけるなっ)
こんな殺し合いをするために、ここまで生き残ってきたわけではない。
しかしどうすれば、誰も死ぬことなくこのゲームをクリアー出来るのか。
思考の海に沈む純也をあざ笑うかのように、光点に変化が起こる。
E4にいた光点が荻野のいるF4へと移動したのだ。
それと同時に、スピーカーに電源が入る音。
『【魔物】と【王子】の同室を確認しました。【魔物】のスキルが発動します』
その放送に誰もが息を呑んだ。
伊月の話では、現在D5にいるのが【魔物】だったはずだ。
それが何故E4にいるのか。E4にいたのは誰だったのか。
ドスンと足元が微かに揺れる。純也は瞠目して、F4へ続く扉を見つめた。
移動し、行動を終了した荻野に【魔物】の牙から逃れる手段はなく、あの扉の向こうでは荻野の首輪が――
『【王子】が死亡しました』
淡々とスピーカーの声は荻野の死を語る。
『全員の行動が終了しました。スキルを使用しますか?』
純也は端末を見る。【王】のスキルを使えば、【魔物】を殺すことが出来る。ならば、使うのか? 使うことで【魔物】の役職にいる人間を殺すのか?
震える手は、しかし端末を操作することなく、力なく垂れ落ちた。
『スキルの使用はなし。七ターン目に入ります。各プレイヤーは行動を開始してください』