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ブレインキラー  作者:
49/80

第三ゲーム 『ロール』 その13

 移動しない荻野。そのことに不審を感じたのは純也だけではない。最も強く不審を抱いたのは、荻野と同エリアーになった美耶子だった。

 美耶子は荻野の後を追いかけるように部屋を移動していた。だがG4へと移動した美耶子はそこにいまだ残っている荻野と出くわした。

 荻野と関わるのは初めてのことで、緊張や怯えがないと言えば嘘になる。しかし純也からは良い人そうだと聞いており、美耶子は荻野自身ではなく、純也の言葉を信じた。

 だから美耶子は不安を押し隠し、笑みを浮かべて、荻野のところへと向かった。


「どうかしたんですか?」


 何か伝言でも預かっているのだろうか。

 荻野はにこやかな笑みを浮かべ、美耶子へと一歩踏み出し、


「え……?」


 そのまま美耶子の腕を掴んだ。


「あ、あの……痛っ」


 荻野の手が腕に食い込む。締め付けられる腕の痛みに、たまらず顔をしかめる。


「嬢ちゃん、ちょっとワシの頼みを聞いてくれんか?」


 荻野はまるで仮面をはめているかのように笑顔を崩すことなく、美耶子の腕を掴むその手にさらに力を込めていく。

 ここに来て、ようやく置き去りにしてきた恐怖が美耶子の心に追いついた。


「いやっ、放してくださいっ!」


 振りほどこうとするが、美耶子の力では荻野を振り払うことなど出来るはずもなく。


「ワシの言うとおりにしてくれれば、何もせんよ。だが、言うことを聞かないと」


 頬に衝撃。美耶子は自由な方の手で自分の頬に手を当てる。

 カッと頬が熱くなったと思えば、次第にそれはじんじんと疼きにも似た痛みを発し始める。


「嬢ちゃんも痛いのは嫌だろ? だからワシの言うとおりにしてくれんか?」


 荻野は相変わらず笑っている。その笑顔に一切の邪気はなく、それが逆に頬に広がる痛みとのギャップとなり、美耶子の思考は混乱する。

 荻野は美耶子に抵抗の意思が消えたことを見て取ると、掴んでいる手の力を少しだけ緩めた。


「まさか嬢ちゃんが王女だったとはなぁ……」


 そう言って、荻野は自分の端末を片手で器用に操作し、表示された画面を美耶子に見せた。


  第三ゲーム ロール


  あなたの役職は【騎士】です。


  詳細 王国に仕える騎士。

     【王女】に好意を寄せており、【王女】の盾となり戦う。

     【王】と【王子】を倒さずして、【王女】の平穏は訪れない。


  スキル 忠誠

      【王女】が指定した役職を自身の命を代償に殺害する


  勝利条件 一 【王】と【王子】の殺害

       一 【王女】の生存

  

  残りターン  二十六



  次へ                                 』


 端末には【騎士】と表示されている。それが荻野の役職だった。


「お、荻野さんが騎士だったのなら、どうして私にこんなこと……」


「こんなこと? 嬢ちゃん、スキルのとこをよぉく見てみなよ」



 荻野の言葉に、美耶子は【騎士】のスキルに目を凝らす。

 忠誠。【王女】の指定した役職を――


「あっ」


 美耶子は思わず息を呑んだ。

 そう、【騎士】の生殺与奪剣は【王女】が持っているのだ。美耶子は勘違いしていた。すべての役職に一つのスキルが用意されているのだと。しかし現実は違った。【騎士】のスキルの発動権は【女王】が有していた。慈愛の精神で他者の死を引き受ける聖女、そして自身の敵を他者の命を持って忠する血塗られた聖女。【王女】には二つの顔があった。

 荻野は美耶子にスキルを使われることを恐れた。だからこうして美耶子を自分の支配下に置こうとしているのだ。


「私、スキルなんて使いませんよっ」


「信用出来るわけないだろう! いざとなったら、使うに決まってる! しょせん、人の命だからなっ!」


「そんな……」


 先ほどの妖精の説明に、被害妄想を肥大化させすぎたのか。荻野は美耶子の言葉に耳を貸そうとしない。


「どうすれば、信じてくれるんですか……?」


 思わず口から出た言葉に、荻野は空いている手を美耶子へと突き出し、


「あんたの端末を渡してもらおうか。そうすれば、あんたはスキルを使えないだろ?」


 と口にした。

 その提案に美耶子は言葉を詰まらせる。

 このゲームにおける端末とは、自分の命そのものだ。それを純也ならまだしも、荻野に預けることに対する強い抵抗感。

 視線を逸らす美耶子に、荻野は舌打ちをし、無理やり美耶子の持つ端末を奪い取った。


「あ……」


 奪われた端末を視線で追いかけるが、既にそれは荻野の手の中だ。

 腕を放され、美耶子は放心するようにその場に崩れ落ちた。



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