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ブレインキラー  作者:
47/80

第三ゲーム 『ロール』 その11

 今は五ターン目に突入していた。

 純也は四ターン目にE5でE9にいたプレイヤーと合流を果たしていた。

 E9にいたのは美里だった。


「えっと、佐古下さんとは合流出来たんですよね?」


「ああ、今は先に行ってもらってる」


 美耶子に美里と合流出来たことを知らせてやりたかった。しかし美耶子は純也のいる位置からニマス以上離れているため、メールを使うことは出来なかった。


「福山さん、端末見せてもらってもいい?」


 純也がそう言うと、美里は何も疑うことなく、端末を差し出してきた。

 美耶子といい、美里といい、もう少し警戒心を抱いてもいいのではないかと、純也は苦笑しながら、美里の端末を操作した。


  第三ゲーム ロール


  あなたの役職は【狩人】です。


  詳細 森に住む熟練の技を持つ狩人。

     【魔物】に家族を殺され、強い復讐心を抱いている。

     また【魔物】を産みだした【魔女】の討伐なくして、彼に安息はない。

     


  スキル 狩猟

      魔物を殺害出来る


  勝利条件 一 【魔物】の殺害

       一 【魔女】の殺害

  

  残りターン  二十六



  次へ                                 』


 美里の役職は【狩人】だ。勝利条件は【魔物】と【魔女】の討伐。

 【王】である純也とは何の接点もない役職だ。しかし美耶子に嘘をついてしまった手前、美里にも自分が【平民】であるという嘘をつくしかなかった。


「早くみんなとも合流出来るといいですね」


 そう言って、美里は屈託ない笑みを浮かべる。

 確かに情報を集めるためにも、全員で一つどころに集まった方がいいだろう。しかし今回のゲームでは、果たして全員が一つのエリア―に集まるのは正しいことなのだろうか。

 四ターン目終了時の光点の位置はD7、E3、E6、F4、F5、G3、G4、I5となっていた。

 ほぼ全員が中央付近に集まっている形になる。そしていまだにスキルが使われる様子もない。


「そういえば……」


 荻野が待機について質問したとき、スピーカーからその返答があった。今現在の純也たちの状況を向こうが観測しているのならば、こちらから疑問を問いかけることも可能なのではないか。


「おい、聞こえてるんだろ? 一つ聞きたいことがある。スキルの殺害とはどういう意味なんだ?」


 スピーカーに向かって、声を張り上げる。

 返答はない。答えられない質問なのか、もしくは返答する内容を吟味しているのか。


『スキルについて説明します』


 ぶつりとスピーカーに電源が入り、妖精の声がフロアーに響き渡る。


『スキルは行動の一つとして処理されます。つまり移動した後はスキルが使えなくなり、スキルを使うと移動が出来なくなります。またスキルは先に宣告したものから順次処理されます。スキルが使用された場合、私が皆にお知らせしますね』


 つまり【王子】が謀殺を使ったとし、それを聞いてから【魔女】の身代わりが使用された場合、【王子】の謀殺を防ぐことが出来るということになる。だがそうなれば、先にスキルを使用するのは不利ということになる。

 それにスキル使用者はそのターン動くことが出来ない。ならばスキルの範囲外に移動してしまえば、それは不発に終わるのだ。


『あと強力なスキルほど、使用制限を設けてあります。回数制限の書かれていないスキルは使いたい放題です、やりましたね』


 純也はスキル一覧を表示する。スキルの使用回数が設定されていないものは、【王子】の謀殺、【平民】の魔女狩り、【狩人】の狩猟、【魔物】の悪意の牙だ。この中で最も気を付けなければいけないものは、【王子】だろう。


『さて、次は殺害についてです。殺害された役職の人はゲームオーバーです。首輪が爆発してしまいますよ。でも、この戦いに勝つことが出来た人にはご褒美が待っています。なんと、首輪が外れます』


 妖精がそう言うと同時に、スピーカーの向こうでクラッカーやラッパの音が鳴り響く。


「……首輪が?」


 純也は思わず自分の首に触れた。ひんやりとした死の感触。爆弾機能のついた首輪がそこにはあった。

 このゲームに勝てば、首輪が外れる? つまり死ぬ危険性が消える?

 だが純也は強い疑念を抱いた。

 なぜ、ここで首輪を外すのだ。このデスゲームは全部で四つあると端末には書いてあった。今は第三ゲームだ。普通は第四ゲーム終了時に外すのが基本ではないのか。何故、こんな中途半端なところで外す必要性があるのだ。

 その理由が純也には分からない。いや、心の奥で何か疼くような感覚があるのだが、それの正体が分からない。だが朧に浮かんでくる言葉を繋ぎ合わせていくと、自分でも信じられない考えが浮かんできた。

 最後のゲームに首輪は必要ないのだ、と。最後はプレイヤー自身の選択だ。ゆえに首輪は必要ない。それならばこの第三ゲームで首輪を最大限に活用しよう、と。


「っ!」


 純也は頭を振った。何でこんな考えが浮かんでくる。そして何故自分はそれが真実なのだと確信しているのか。

 何かがおかしかった。休憩室で見た夢。純也が忘れている何か。

 無理に思い出そうとすると、シャボン玉が割れるようにそれは消えてしまう。


「くそっ」


 苛立ちを抑えきれず、思わず舌打ちしてしまう。


「み、三笠さん、大丈夫ですか?」


 純也の不審な態度に気付いた美里が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「あ、ああ……大丈夫」


 純也は笑みを返し、浮かんできていた記憶を無理やり掻き消した。

 今はゲームに集中しなければならないのだ。

 そして改めて考え直す。

 死をくくりつけた首輪という枷からの解放。プレイヤーは躍起になってでも勝利を目指すだろう。そしてそこでスキルの説明が入る。役職の死がプレイヤーの死。自身の勝利が自身の命を救う。

 この妖精の説明は毒だった。互いを裏切り、ただ自分の勝利のみを求めろ。そう囁きかえてくる毒だ。だがスキルを使うには戦略が必要になる。ただ使うだけでは、他のスキルに防がれてしまうのだ。だからこそ、殺害スキル保有者はかわせない状況を作り出す必要性が生じる。

 つまり、この第三ゲームは化かし合いのゲームなのだ。そのためのメール。言葉で相手を誘導し、自分の罠に乗せる。

 今になって、ようやく気付いた。フラッグに劣らず、このロールもまた悪質なゲームなのだと。


「私たちはどうしたらいいんでしょうか?」


「とりあえず北上して、情報を集めよう」


 純也は北のバルブを回し、扉を開けた。

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