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ブレインキラー  作者:
44/80

第三ゲーム 『ロール』 その8

 しかしここで一つの疑問が生じた。

 自分の役職を告げるべきか、否か。自分が【王】であることを明かすメリットとデメリットは何か。

 メリットは相手が信用してくれる材料の一つとなること。デメリットは相手がもし【王】を殺害するといった勝利条件を有した役職のキャラだった場合、身の危険を及ぼすということ。そもそも相手がそれを真実として受け取ってくれるかという問題もある。

 実は【魔物】で、嘘をついているだけだ。そう思われてしまう可能性もある。

 純也は慎重に言葉を選びながら、メールを打ちこんだ。

 メールは画面に表示されるひらがなを入力していくタイプのものだった。文字制限があり、あまりに長い文章は送れない。

 純也は悩んだ末、こう打ちこんだ。


『魔物ではない。情報交換望む』


 結局自分の役職は明かさなかった。明かすときがくれば明かせばいい。そう思った。

 そして送信する。送信完了の文字が表示され、純也は息を呑んで相手の反応を待った。

 少しして、ピピっと端末から音が鳴る。

 画面には、受信完了の文字。

 相手の返信はこうだった、


『こちらも魔物ではない。情報交換望む』


 嘘か本当かは分からない。でも信じるしかない。それはきっと相手も同じなのだから。

 純也はI3へと移動することを決め、東にあるバルブ付の扉の前に立った。相手も西に移動するならば、I3で合流出来る。

 そして純也はバルブを回す。バルブは案外すんなりと回り、扉が開いた。

 扉の向こう側も、ここと同じような作りだった。何もない。あるものといえば、今純也が開けた扉を除いて東と北にある扉ぐらいだろうか。

 純也はI3へと入る。すると開けた扉が勝手に閉まり、再びロックされる。どうやら一ターンでの移動は一マスのみということらしい。

 やがて対面の西のバルブが回り始め、扉が開く。


「おや、あんたは」


 扉の向こうから現れたのは、作業着を着た屈強な体つきをした男性。名前は確か荻野。今までのゲームで一度も行動を共にしたことはない人物だった。


「荻野さん……」


「えっと、あんたは三笠君だったかな」 


 純也は自分の持つ端末にちらりと視線を向けた。端末に変化はない。

 どうやら本当に荻野は【魔物】ではなかったらしい。


「ははは、信用ないなぁ、ワシも」


 純也の視線に気づいた荻野が笑う。


「す、すみません……」


 思わず謝罪する純也に、荻野はニカッと歯を見せて、


「まぁ、ワシもあんたが魔物じゃないかって、ドキドキしてたんだけどな。ここはお互い様ってことにしとこうや」


「は、はい」


 案外いい人なのかもしれない。この人ならば、自分たちと協力して、このゲームにあたってくれそうだ。純也はそう心の中で思う。


「さて、ワシの隣におった奴にもメールを送っておいたぞ。向こうは何でも王女らしいぞ。次のターンでワシらと合流出来るだろう」


 荻野のもたらした意外な情報に、純也を目を見張った。

 【王女】。それは純也の勝利条件の一つにある【王子】と【王女】の殺害に当てはまる人物だ。

 この状況に純也は戦慄した。自分は【王女】を殺害するのか。

 隣の部屋で扉の閉まる音。どうやらI5にいた【王女】はI4へと移動したらしい。

 動揺を悟られまいと平静を装い、純也は別の話題を振ることにした。


「でも、どうして相手が【王女】だって分かったんですか?」


「いや、向こうのメールに書いてあったんだよ。私は【王女】です。貴方は誰ですか、と」


「それで荻野さんは?」


「ワシは【魔物】ではないことを教えて、隣に移動するからそこで合流しようと伝えたさ」


「そうですか」


 やはり荻野も自分の役職は隠していた、さりげなく聞き出そうとしてみたが、それもかわされた。


『全員の行動が終了しました。スキルを使用しますか?』


 スピーカーから妖精の声。純也はじっとスピーカーを睨みつけた。


『スキルの使用はなし。二ターン目に入ります。各プレイヤーは行動を開始してください』


 そう言い、ぶつりとスピーカーの電源が切れる。

 やはり最初は誰も動こうとはしなかった。そのことに安堵しつつ、純也はMAPを見る。全員が移動したため、光点が大きく動いていた。

 現在の光点は、B3、B5、B8、D8、E2、I3、I4、I8になる。誰もが近くにいる光点と接触を図ろうと動いた結果だろうか。


「おや」


 荻野が不思議そうにMAPを見ている。


「どうかしましたか?」


「おう、ここを見てくれや」


 そう言って、荻野が指差したのはB8とD8、そしてB2とB5の二か所。


「こいつらもワシらと同じく、このターンで合流出来たはずだろ?」


「確かに」


 この四つの光点は合流することなく、互いに同じ方角へ一つ移動しただけだ。何故だろうか。意思の疎通が出来なかった? もしくは役職的に合流が出来なかった?

 となると、このどちらかが【魔物】なのか。


「ところで、あんたの勝利条件って何なんだ?」


 純也はその問いに言葉を詰まらせた。

 言うべきか、言わざるべきか。勝利条件は自分のものしか分からないようになっている。つまり勝利条件を知られたからといって、役職がバレる可能性はないわけだ。しかし、仮に自分が【王子】と【王女】の殺害を勝利条件としていると知られれば、荻野とそして【王女】がどういう動きを取るかは予想もつかない。


「…………」


 思わず口ごもる純也に、荻野は何か察したのか。


「いや、やっぱ何も言わんでいい。ワシに協力出来ることがあれば言ってくれや」


 と返してきた。


「すみません……」


「それよりもワシらはこのターンはどうするよ。待機も行動の一つになるんか?」


 荻野の言葉に反応したのか、ぶつりとスピーカーの電源が入る音がした。


『待機も行動の一つです。待機する場合はどこか適当な扉を開けて、そのまま閉めてください』


 そして沈黙。


「なんや、ワシらの言動は筒抜けかい」


 舌打ちする荻野に、純也も同じ気持ちだった。

 やはり主催者たちがこのゲームをどこかから観戦している。許せないという気持ちと共に、心の奥で何かもやもやした気持ちが沸き起こってくることに気付いた。

 なんだろうか、これは。休憩室で見た不鮮明な夢の残骸か。何故か、純也はこのゲームを自分は知っていたのではないかという気持ちになった。


(バカな。こんなバカげたゲームを何で俺が知っているんだ!)


 すぐに否定する。あり得ない。このような催しを一般市民である純也が知っているはずがないのだ。

 ではなぜ。まるでデジャヴのようなその感覚に、純也は全身の毛が逆立つような思いがした。


「じゃあ、待機でいいか?」


 荻野の提案に、純也は首を振った。


「いえ、近くにいる、えっと……E2の誰かと接触を図りましょう。向こうも同じ気持ちなのだとしたら、このターンはE3へと移動するはずです。だから荻野さんはH3へ北上してください。上手く行けば、南下してきているB3とも接触が図れるかもしれません」


「ん~、なるほど。分かった。そうしよう」


 頷いた荻野の行動は早い。北のバルブを回し、H3へと移動した。

 純也は待機を選択。このターンにやってくるであろう【王女】を待つ。

 不意に妙な胸騒ぎがした。何かとてつもなく嫌なことが起きようとしているような、そんな予感。

 西側のバルブが回る。そしてゆっくりと扉が開かれる。


「あぁ……」


 それは果たしてどちらの声だったのか。片方は絶望を、片方は安堵を滲ませ、互いに息を吐く。

 I3へとやって来た【王女】。それは安堵からか、瞳に涙を浮かべる美耶子だった。


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