第三ゲーム 『ロール』 その7
ついに始まった第三ゲーム。
今は第一ターンだと言う。つまり端末に表示された残り三十ターンというのが、今回のリミットということだろうか。
いまだに分からないことは多い。このリミットとなるターン数は個別に違う設定になっているのか、それとも全員共通なのか。誰がどの役職についているのか。そしてスキルの意味。
「殺害、か」
嫌な単語だった。少なくともフラッグで何人もの死を見てきた純也からすれば忌むべき言葉だ。
この役割の死がそのままプレイヤーの死に繋がっているのか、それとも別の意味があるのか。少なくとも、殺害の意味が分かるまではスキルは使うべきではないのかもしれない。
「そうだ、スキル」
純也は端末からスキル一覧を表示させた。
『 スキル一覧
【王】 圧政
発動するスキルを一度だけ無効化出来る。
その際、スキル使用者を殺害出来る。
【王子】 謀殺
隣接するエリア内に存在する役職を殺害出来る。
【王女】 聖女
指定した役職の死を自身が引き受ける。
【騎士】 忠誠
【王女】が指定した役職を自身の命を代償に殺害する。
【平民】 魔女狩り
【魔女】が同エリアに存在するとき【魔女】を殺害出来る。
【魔女】 身代わり
指定した役職の死を一度だけ無効化出来る。
【妖精】 悪戯
指定した役職を一度だけ入れ替える。
【狩人】 狩猟
【魔物】を殺害出来る。
【魔物】 悪意の牙
同エリア内にいる役職を殺害する。
』
これがこのゲームに用意された役職とスキルだ。この中で純也が目を付けたのは【魔物】だった。
多くの役職が殺害スキルを持っている。だが、【魔物】だけは他の役職と違う。殺害スキル保有役職は対象を殺害『出来る』のだ。これは選択権があるということだ。だが【魔物】は違う。殺害『する』。つまり選択権はない。
つまり【魔物】以外の役職は殺害するかどうかをプレイヤー自身が決められる。だが【魔物】にはそれがない。同じエリアーにいるだけで殺害される。そこにプレイヤーの意思など必要ないのだ。
「さて、これからどう動く」
まずは他のプレイヤーたちと合流すべきだった。しかし互いの役職が分からないまま合流してもいいのだろうか。もし彼らの中に【魔物】がいたら。
「うだうだ考えていても仕方ないか」
そう言い、純也はMAPを表示する。このフロアーは純也が今いるような正方形の部屋が縦に九つ、横に九つ並び、巨大な正方形の形を作っている。MAPには部屋を分かりやすくするために縦を北から南にA~I、横を西から東へ1~9と振ってある。これに従うと、純也がいるのはIの2ということになる。
「ん?」
そこで純也はある変化に気付いた。今までにはなかった、MAPに他のメンバーの位置が光点として表示されているのだ。その一つ一つの光点が誰なのかは分からない。しかし今、このMAPには全員の位置が表示されている。
どうやら先ほどのカードにはメール機能の他にも拡張機能がついていたらしい。
「いや、それも当たり前か」
互いの位置が分からなければ、このゲームは成り立たない。それと同様にMAPも必要となる。なら、あのカードにはメール、MAP、そしてプレイヤー位置のソフトが入っていたということになる。全てのプレイヤーを同条件にするための措置。恐らくはそういったところだろう。
そしてMAPによると、光点は、A3、A5、B9、D9、E1、I2、I4、I5、I9に表示されている。純也がいるのはI2なので、近くにI4とI5、E1がいるというわけだ。
「まずは接触を図るべきか」
位置的に言えば、I4、I5と接触し、E1と合流するのがいいのかもしれない。だがこの中に【魔物】がいたら?
姿の見えない相手。声も届かない。心の中で疑心という蛇が鎌首をもたげる。
【魔物】――その名前の通り、厄介な役職だった。
「メール、か」
そのためのメールなのかもしれない。コミュニケーションを取るためではなく、相手を知るための。
端末を操作し、メール機能を立ち上げる。
守衛室では条件を満たさないために使用できなかった。
「使える……」
メールは起動していた。しかし送信可能リストに上がっているのは一人だけだ。
I4。つまり二つ右隣にいる誰か。I5に送れないということは、もしかしたらこのメールは自分を中心に二マス以内にしか送れないのかもしれない。
純也はI4にメールを送ることにした。