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ブレインキラー  作者:
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第三ゲーム 『ロール』 その5

 『王国への門』と呼ばれる場所に着いたのは、妖精のアナウンスを聞いてから20分を少し過ぎたころだった。

 純也たちが部屋に入ると、既にそこには純也たちを除く現生存プレイヤー全員が揃っていた。


「ちっ!」


 純也たちを見た池沢が露骨な舌打ちを見せる。間宮は美耶子たち女性陣へねばつく視線を送り、田嶋は純也を挑戦的な笑みで迎えた。一人、萩野だけは我関せずといった態度で部屋の隅で座り込んでいる。

 純也は部屋に入るとすぐに、周囲へ視線を走らせた。

 まず最初に見たのは、部屋にいるプレイヤーが凶器となりうるものを所持しているかどうかだ。

 しかし、プレイヤー全員は手に何も持っておらず、身にもつけていなかった。しかし、ナイフのようなものなら服の中に隠し持つことは可能だろう。伊月もサバイバルナイフを服の中に隠し、外見では分からないようにしている。だからこそ油断は出来なかった。

 次に純也は部屋の様子を見まわした。

 『王国への門』はだだっ広い空間だった。壁には城壁を意味しているのか、石レンガで組まれた壁のような絵が部屋一面を覆うように描かれている。

 そして部屋の奥には木製の扉が等間隔に九つ設置されている。天上にはスピーカーが一つ取り付けられてあり、そこからゲームの説明が行われるだろうことは予測出来た。


「よぅ、純也ちゃん。遅かったじゃねぇか」


 田嶋が口の端を釣り上げて笑う。


「色々と調べてたからな。それで、俺たちが来るまでにこの部屋で何かあったか?」


 純也は負けじと視線に力を込め、田嶋を見据える。


「いいや、何もないな。だが、これで全員揃ったんだ。何らかのアクションはあるんじゃねぇの?」


 田嶋の言葉を肯定するように、スピーカーにノイズが走る。

 そして、


『ちゃんと時間までに揃ってくれたようですね。それじゃあ第三ゲーム『ロール』の説明を行います』


 スピーカーから先ほどの妖精の声が発せられた。


『ここは王国に入るための門です。ここを抜けると、守衛室があります。そこから先は王国領土となります。王国領土に入ると、勝利条件を満たすまで引き返すことは出来ませんので注意してください。と言っても、ここまで来たあなたなら引き返すようなことはしないですよね』


 スピーカーから発せられる機械音声の妖精はそう言って、おどけたように笑う。しかしそこに感情的な響きはなく、それが逆に不吉な何かを孕んでいるように感じられた。


『門のロックは外しておりますので、好きな扉を選んでもらって結構です。ですが、一度扉を抜けてしまうと選び直しは出来ませんので注意してくださいね』


 純也は目の前にある九つの扉を見る。そこから先が次のゲーム。

 だが、そこでふと頭の隅に引っかかるものがあった。今の状況に何か違和感を感じたのだ。しかしその正体を探ろうとするよりも早く、


『おっと忘れるところでした』


 妖精の声が再び流れる。


『この戦いの勝者には、報酬が用意されています。報酬とは何か? そんなに焦らないでください。今お見せします。この戦いのために私が用意した報酬。それはこちらです』


 妖精がそう言うと同時に、壁の一部が割れ、中からスクリーンが現れる。そこに映し出されているもの、それは――


「っ!」


 誰もが息を呑んだ。スクリーンに映し出されたもの、それは積み上げられた札束の山だった。

 ゲームマネーではない。自分たちがかつて暮らしていた世界の現金。見覚えのある紙幣が数えきれないほどの山を作っている。


『勝者にはこちらの報酬を差し上げます。また勝者が複数人出た場合は山分けとなります。これで説明は終わりです。さぁ、戦いのときは来ました。暴君を倒し、この王国に平和をもたらしましょう』


 ぶつりとスピーカーの電源が切れる音。しかしスクリーンに表示された現金の山はそのままこの場に取り残されたままだった。

 スクリーンの現金の山はまるで魔物のように黒いオーラをこちらへ向けている。

 金の誘惑。そして前の部屋で見つけた凶器。これは明らかに主催者側が仕掛けてきた罠だった。

 こちらの分裂を図り、そして殺し合いでもさせるつもりなのか。

 そんな思考を振り払うように、スクリーンから視線を切り、純也は扉を観察し始める。

 一見、どれも同じに見える。恐らく、いまだに役職の説明がないことから、守衛室となる場所で役職を決定するのかもしれない。

 どの扉がいいのか。しかし役職が明らかにされていないこの状況で悩んでいても仕方ない。

 純也は扉の前に立ち、いまだにスクリーンの映像に見入る面々へ向かって、声をかけた。


「みんな、ここは出来る限り協力して、死者を出すことなくこのゲームを乗り切ろう。あいつらはこの映像を見せて、俺たちの分裂を狙っているに違いない。あいつらの思い通りに行動する必要はないんだ。だからみんなで協力して――」


「バカらしい」


 純也の言葉を切り捨てたのは池沢だった。

 神経質そうな彼の性格を表すかのように、池沢はしきりに眼鏡の位置を気にしながら続けた。


「協力? お前が裏切らないなんて保証はどこにもないじゃないか。それになんだ、そんなに女はべらせてよ。ヒーローのつもりかよ。みんなは俺が守る? だから俺の言うとおりにしてくれ? そういうの、僕は大嫌いなんだよっ」


「そ、そういうつもりじゃ――」


「僕は僕で勝手にやらせてもらうよ。ふん、数で群れなきゃ何もできないお前らと僕は違うんだ。僕は一人で十分。足手まといになる奴らなんて必要ないね」


 池沢の言葉に、田嶋が口元を釣り上げるのが分かった。田嶋は今の状況を楽しんでいる。だが、ここで引くわけにはいかない。


「お、落ち着いて考えてくれ。いいか、いまだにこのゲームの詳細ははっきりしていないんだ。今俺たちに必要なのは情報だ。だから協力して、情報を共有することが出来れば、きっとこのゲームだって」


「そういうのがバカらしいって言うんだよ。何でそんな見も知らずの人様のことまで心配しなければいけないのさ。僕はさっさとこのゲームを終わらせて、元の世界に戻るんだっ」


 そう言い、池沢は左から二番目の扉を開けた。


「せいぜいお友達ごっこをしてるといいさ」


 バタンと扉の閉まる音。そしてカチリとロックがかかる。


「まぁ、そういうことだ。残念だったな、純也ちゃん」


 蛇のような笑みを浮かべながら、田嶋は一番右の扉へと入っていく。


「まぁ、そのなんだ。もし向こうで会うことがあったら、よろしくな」


 純也の肩をポンと叩き、荻野もまた自分の選んだ扉へと入っていく。

 間宮もいつしか扉の向こうへと消え、王国の門には純也、美耶子、伊月、留美、美里の五人だけが取り残された。


「どうして……分かってくれないんだよ……」


「純也さん……」


「気にしちゃいけないよ。彼らも半ば意地を張っている部分もあるんだろう。あたしたちから彼らに歩み寄ってあげるしかないよ」


「私に出来ることがあったら、何でも言ってくださいね!」


「お前はお前らしくいればいい。俺たちはお前を信じている」


「みんな……」


 こみあげてくるものをごまかすように、純也は一度深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。

 そして端末を操作し、MAPを表示させた。王国の門から先はどうやらそのまま上のフロアーへと通じているようだ。つまり次のゲームはこの上のフロアーで行われる。

 純也は上階のMAPを表示させようとするが、ピーっという長い電子音の後、端末には『NO DATE』と表示された。

 どうやら端末には次の舞台となるフロアーのMAPは存在していないようだ。仮にMAPデータが存在していたならば、合流地点を決め、今後の戦略を練れたかもしれないのだが。


「そう簡単にはいかない、か」


 ため息と共に、純也は肩をすくめた。


「次のゲームはこの上のフロアーで行われるみたいです。残念ながら、端末にここから先の地図はありません。でもきっとみんなで協力すれば、このゲームも切り抜けられると俺は信じてます」


 純也の言葉に全員が力強く頷いた。

 純也もまた全員の顔を見回し、大きく頷き返す。


「行こう。今度こそ誰も死なずにクリアーするんだ」


 そして純也たちはそれぞれ選んだ扉を抜けた。


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