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ブレインキラー  作者:
37/80

第三ゲーム 『ロール』 その1

 夢を見ていた気がする――

 意識が覚醒しようとする中、徐々に薄れていく何かを思い返そうとするが、それは泡のように次々と消えていく。

 純也は重い瞼を持ち上げるようにして、ゆっくりと目を開けた。

 まず視界に飛び込んできたのは、真っ白の壁。そして何かを話し合っている男女の姿。


「ここは……」


 どこだ、と言おうとして、純也はハッと目を見張った。


(そうか……夢じゃなかったんだよな……)


 ブレインキラー。誰が何のために行っているのか、自身の命をチップとした謎に包まれた殺人ゲーム。

 純也はまだその悪夢の中にいるのだ。

 立ち上がろうとして、肩に感じる重さに気付く。

 視線を向けると、そこでは純也の肩にもたれかかるような格好で美耶子が安らかな寝息を立てている。

 間近で見る美耶子の姿は儚げで、そして美しかった。それは覚醒途中だった純也の意識を完全に覚醒させるには十分すぎるほどだった。

 美耶子の身体は女性特有の柔らかさがあり、その絹のような髪からは花のようないい匂いがした。

 長いまつげと呼吸のたびに震える唇は、どこか扇情的で純也はごくりと生唾を飲み込んだ。


「もう少し、そのままでいさせてあげるといい」


 美耶子を起こすべきか悩んでいる純也のところに留美がやって来て笑った。


「……俺、どれぐらい眠ってました?」


「ん、ざっと二時間ほどかな」


「二時間も……」


 田嶋のような悪意あるプレイヤーがここに近付かないように見張ろうと、ドアの前で待機していた純也としては知らずに眠っていたことはバツが悪かったが、留美は小さく首を振った。


「そう気を張ってばかりいては、いざというときに動けなくなるよ。取れるところで休憩は取っておいた方がいい」


 留美の言うことはもっともで、純也としては渋々ながら頷くしかない。

 そこでふとあることに気付き、純也は自分の端末を操作した。

 純也が見たのは次のゲームの情報。しかし端末にはフラッグまでのルールしか表示されていなかった。


「まだ次のゲームは始まっていないよ」


 留美が嘆息混じりにそう答えた。


「この部屋に入って、もうすぐ三時間かな。一向に次のゲームが始まる気配はない。これは喜ぶべきなのかな? それとも不安がるべきだろうか?」


「…………どうなんでしょう。少なくとも休憩を取ることが出来たのは大きいと思います」


 少しだけだが深い眠りに落ちたことで、身体の疲れは抜けきっていないが頭はすっきりしている。

 そして純也は考えた。

 この空白の時間は何を意味しているのか。

 プレイヤーへの休憩時間。そうも取れる。だが、


(こうは考えられないか? この空白の時間はプレイヤーの任意に使用出来る時間だと)


 例えば、純也たちのように休息に用いることも出来れば、次のゲームを有利に進めるためにこのフロアーの探索に使うことも出来る。

 田嶋や他のプレイヤーがこの休憩室を訪れた様子はない。ならば彼らはどこで何をしているのか。

 もちろん、休憩室はここだけではない。別の休憩室にいるのかも知れないし、通路を歩き回っているのかもしれない。

 純也は田嶋を警戒している。彼は危険だ。自分の生存のために他人を平気で殺すことが出来る。だから彼の行動には常に目を光らせておきたい。

 だが、警戒すべき相手はもう一人いる。


(羽山さんを殺したのは誰だ?)


 第二ゲームにてロープで絞殺されていた羽山。彼を殺し、端末を奪ったのは誰なのか。


(田嶋ではない。伊月さんに端末を奪われようとしたときの取り乱しようは演技とは思えない。少なくとも田嶋以外に、人殺しがいるということになる)


 それが誰なのかは分からない。ここにいる誰かなのか、それともまだ見ぬ誰かなのか。


「三笠さん」


 呼びかけられ、純也は慌てて自分の思考を打ち切った。

 いつの間にか、留美の隣には美里の姿があった。

 美里は悪戯をしかける子供のような顔で笑うと、恐るべきことを口にした。


「ねぇねぇ、三笠さんは佐古下さんのこと好きなんですか?」


「……えっ?」


 何を言われたのか理解出来ず、純也はあんぐりと口を上げて美里を見上げた。


「さっきみんなと話してたんですよ、二人のこと。お互いに名前で呼び合ってますし、信頼し合っている感じがして、端から見れば恋人同士みたいだなぁって。で、どうなんですか?」


「ちょ、ちょっと……」


 救いを求めるように留美を見るが、彼女は苦笑を浮かべながらも興味はあるのか何も言おうとしない。


「お、俺は……その……」


「その?」


 言葉に詰まる純也に、美里の好奇の目が爛々と輝く。


「俺にとって美耶子さんは……」


 自分でも言葉に出来ない感情に戸惑いながら純也を続きを話そうとして、隣で眠っている美耶子の体が妙に強張っていることに気付いた。


「……もしかして美耶子さん、起きてる?」


 返事はなく、寝息の音が少し大きくなる。


「起きてるよね? 絶対起きてるよね?」


 返事はない。


「まぁまぁ、ここは男らしくズバッと言ってしまいましょうよ!」


「あ、いや、だから俺は……」


「俺は?」


 身を乗り出してくる美里。


 ピッ


 そして朗らかな空気を裂くようにして鳴り響く短い電子音。

 この場にいた全員が言葉を止め、動きを止め、自分の端末を見つめた。


 『第三ゲーム ロール』


 そこに表示されていた文字は、更なる悪夢への招待状だった。


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