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ブレインキラー  作者:
32/80

インターバル2 『休息』 その1

 どうすればいいのだろう?

 美耶子はずっと考えていた。

 伊月が広場に姿を見せてから、美耶子たちは黙したまま座り込んでいた。

 伊月は沈痛な面持ちで地面を見つめている。それを気遣うように美里と留美が傍についいているが、彼女たちもどう声をかければいいか迷っているようだった。

 何が起きたかは伊月から既に聞いていた。

 玲子がスタンガンで伊月の身動きを封じ、彼を試験場へと突き飛ばしたという。そこでどんな会話があったのかまでは分からないが、伊月は短く、自分は託されたのだと語った。

 そうしてまた仲間が一人いなくなった。

 気力も尽きかけ、激しい頭痛が頭を襲う。今にも泣き出してしまいそうになる心を、しかし美耶子は必死に押さえ込んでいた。

 自分よりも純也の方がずっと苦しいに決まっている。

 純也はいつもみんなの先頭に立ち、誰よりも頭を働かせて、みんなを死なせないように頑張ってきたのだ。その疲労は美耶子よりも深刻なものだろう。

 それが分かるからこそ、美耶子は弱い姿を見せるわけにはいかなかった。

 だから今、自分が純也に何をしてあげればいいか、それだけを美耶子は考えている。


「あ、あの……」


 美耶子は意を決して、口を開いた。

 美耶子を除く全員はゆっくりとした動作で美耶子へと視線を向ける。


「どこか休めるところを探しませんか? みんな疲れが溜まってるみたいですし、食べ物とかも探さないと……」


「……そうだね。ここで無駄に時間を消費していても始まらない。まだ次のゲームは始まっていないようだし、今の内に休めるところを探そう」


 美耶子の言葉に賛同したのは留美だった。

 二人の提案に反対の声など上がるはずもなく、美耶子たちはマップを頼りに休める場所を探すこととなった。

 広場から通路へと進む。前のフロアーと同じ通路が闇の向こうへと延びている。


「休憩所というのがマップにあるな。そこを目指そうか」


 伊月が先頭を歩き、純也が最後尾を歩く。

 トラップを警戒しながらの行軍は思ったよりも進まず、遅々とした歩みはいつ始まるかも分からない次のゲームへの不安と焦りを煽り始める。

 田嶋たちとは出会うことはなかった。だがもしかしたら休憩所に彼らも集まっているかもしれない。

 何事もなければいいのに、美耶子はそう願わざるを得ない。


「ここみたいだな」


 辿り着いた先には鉄製の扉。

 トラップがないことを確認しながら伊月が扉を開ける。

 扉の向こうは部屋になっているようだった。白を基調とした作りで奥にはキッチンやベッドなどが設置されていた。

 部屋の中には誰もおらず、荒らされた形跡がないことから田嶋たちがここを訪れたことはないと予測出来る。


「わぁ、ベッドがありますよー」


 美里が部屋に入ろうとするのを留美が手で制する。


「ちょっと待ちたまえ。まだ部屋の中にトラップがないと決まったわけではないんだ。まずは部屋の中を調べてみるべきではないかな」


「そうだな。俺と伊月さんで調べてみるよ。みんなは誰か来ないか見張っててくれるかな」


 純也はそう言い、部屋の中へと入っていった。伊月もその後に続く。

 それから二人が部屋を調べた結果、トラップは存在しないことが判明した。


「お、食べ物もあるな」


 純也がキッチンから缶詰を見つける。他にも部屋の隅に置かれたダンボール箱にはたくさんの食料品や調味料、食器などが詰め込まれていた。

 美耶子はシンクの前に立って蛇口をひねってみる。

 蛇口からは透明な水が排水溝へと勢いよく流れ落ちていく。

 次にガス台を点火してみた。ガスも問題なく使えるようだった。


「水もガスも使えます。これなら簡単な調理ぐらい出来そうですね。私、何か作りますよ」


「うん、それならあたしも手伝おう」


 純也から食料を受け取り、美耶子は留美と一緒にキッチンへ立つ。


「美耶子君は料理出来るのかい?」


「はい。といっても簡単なものしか作れませんけれどね。留美さんも?」


「まぁね。記憶というのは不思議なもので、自分に関する情報は一切失っていても日々の生活で培った経験はしっかりと頭に残っているみたいだね」


 慣れた手つきで調理を進めながら、美耶子はチラリと純也を盗み見た。

 純也は扉の前に立ち、誰か来ないか警戒しているようだった。


「美耶子君は、純也君のことが好きなのかな?」


「えっ?」


 思わずフライパンの中身をぶちまけるところだった。

 何を言い出すのかと目を見張る美耶子に、留美はおかしそうに小さく笑った。


「いや、君たちを見ているとどうなのかなと思ってね。お互いに意識し合ってはいるみたいだけど」


「そそそ、そんなこと……」


 頬が赤くなるのを自覚しながら、美耶子はフライパンの中身を紙皿へと移し変える。


「好きとかそういうのじゃなくて、私はただ……」


「ただ?」


「…………もういいじゃないですか! そういう留美さんは、伊月さんのことどう思っているんですか?」


「ふむ、あたしか? あたしは好きだよ」


「えっ……」


 すんなりと返されるとは思わなかった美耶子は言葉を失う。


「まぁこれが恋と呼べるものなのかは分からないけどね。でも君が純也君とずっと行動を共にしてきたように、あたしも伊月君とは行動を共にしていたからね。思うところはあるさ。もちろん、彼女にも」


 そう言って、留美はベッドで寝息を立てている美里へと視線をやる。

 そんな留美を見つめながら、美耶子は羨ましいとそう感じた。

 好き。そうはっきりと口に出来る留美が羨ましい。


「私は……無理です……」


 美耶子の呟きは誰にも聞かれることはなく、空気へと溶けていった。


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