表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレインキラー  作者:
31/80

第二ゲーム 『フラッグ』 その23

 試験場を抜けた先には階段があり、そこを登ると初めて全員と出会った広場のようなところに出た。

 試験をクリアーした純也たちはその広場で座り込み、項垂れていた。

 先に試験をクリアーした池沢や荻野、間宮たちの姿は見えない。どこか別のところへ移動したのだろう。

 先ほど試験場から出てきた田嶋もまた、軽薄な笑みで純也を一瞥すると、さっさと広場を後にした。

 今、広場にいるのは純也と美耶子、美里に留美の四人だけだった。 辺りを重い沈黙が包んでいる。

 その場にいた誰もが俯き、唇を噛む。握り締めた拳は真っ白になるほどで、あふれ出しそうになる感情は全身を小さく震わせた。

 第二ゲーム『フラッグ』は終わった。

 現在の生存者は――純也を含めて美耶子、美里、留美、田嶋、池沢、間宮、荻野の8人。

 試験をクリアーした留美から純也は全てを聞いていた。

 まだ試験を受けていないのは伊月と玲子の二人。

 そして制限時間が間に合わず、一人は試験を受けることが出来ないということ。

 つまり伊月か玲子のどちらかが死ぬ。

 その事実は純也の心を絶望に染めた。

 また死んでいく。

 金本が田嶋に殺されたとき、これ以上自分の周りの人を死なせないと決めたはずなのに。

 もっとよく考えていたら。そうすれば全員が生き残れたかもしれないのに。

 そんな思いばかりが頭を過ぎ去っていく。

 だがどれだけ思い苦しもうが、現実は変わらない。

 一人は、必ず死ぬのだ。

 行き場のない感情は、次に目に見えない相手へと向けられる。

 『ブレインキラー』というゲームを開催した誰か。

 誰が考え、何の目的でこんなゲームを行っているのかは分からない。だがこの瞬間、純也はゲームの主催者を憎悪した。殺意さえ抱いた。

 何故、こんな馬鹿げたゲームで人は死ななければならないのか。

 ゲーム。その言葉が気に入らなかった。人の命を、軽々しく弄ぶようなその言葉が。

 きゅっと手に温かなものを触れる。

 見ると、白く細い手が純也の手を包み込んでいた。


「美耶子、さん……」


 純也の目の前には少女の姿。

 紺色のブレザーに赤色のプリーツスカート。背中半ばまでまっすぐ伸びた癖のない黒い髪、人形のように整った顔立ちは深遠のお嬢様をイメージさせるが、今は生気が感じられない。美耶子は憔悴しきっていた。

 それでも純也を気遣い、小さく微笑んでみせる。

 純也は嬉しさと申し訳なさがない交ぜになった複雑な笑みを、美耶子へと返した。

 『ロジックキューブ』からどれだけの時間が流れただろうか。

 休む間もなく思考し続けた脳は深刻な疲労を訴えており、時折意識がかすんだ。

 だがここで休むわけにはいかなかった。まだゲームは終わっていないのだから。


 コツコツと誰かが階段を上がってくる。

 果たして生き残ったのは玲子か伊月か。

 全員の視線が階段へと集まる。

 やがて、姿を見せたのは、


「伊月さん……?」


 沈痛な表情をした伊月卓だった。

 そしてそれはもう一つの答えを示している。

 月村玲子は…………死んだ。


「すまない……」


 伊月は短く、そう呻いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ