第一ゲーム 『ロジックキューブ』 その3
「ロジック、キューブ……?」
表示された言葉に、純也は絶句した。
既にゲームは始まっていたのだ。
端末に表示された残り時間。これがゼロになった瞬間、純也の首輪が爆発し、頭が吹き飛ぶというわけだ。首輪の爆弾が本物ならば。
身近に迫ってきた死の気配に、純也の頭は真っ白になった。
「あ、開けてくれっ! ここから出せっ!」
ドアの取っ手を何度もひねる。しかしガキンという重たい金属の音がするのみでドアが開く気配はない。
部屋の外に人はいないのか?
純也はドアを拳で叩きながら、何度も助けを求めた。しかし、返ってくるのは沈黙のみで、部屋の外に人がいる気配も伝わってこない。
やがて純也は力尽きたかのように、ドアへとしなだれかかった。
「俺、死ぬのか……?」
ぞっと肝が冷える。
こんなどことも知れない場所で孤独に死ぬ。
「そんなのは嫌だ……」
純也の心に言い知れぬ憤怒のようなものが燃え上がった。
きっと純也をこの部屋に放り込んだ何者かは、どこかで今の純也の様子を見て笑っているだろう。
「誰かは分からないけど、お前の思うようにはさせない」
絶対に生きてここから出る!
そう決意し、純也は立ち上がる。
そして改めて部屋の中を見回してみた。
窓はなく、壁はいたるところが鉄筋剥き出しの状態になっている。
天井は高く、設置された蛍光灯がほのかな光を放っている。床は白色のタイル張りになっていて、正方形のタイルがびっしりと隙間なく埋まっていた。
純也は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせると、今の状況について考え始める。
これはゲームだ。つまり攻略手段がある。
そしてこのゲームをクリアーするためには、制限時間内に部屋の謎を解き、部屋から脱出しなければならない。
つまりこの部屋にこのドアを開ける方法があるということだ。
純也はドアを調べてみた。
今まで気付かなかったが、ドアには四列にも及ぶ数字の羅列が書かれていた。
13254872
23947265
56275982
96845231
さらにドアの取っ手の少し下に南京錠が付けられていることに気付いた。しかし南京錠は施錠されており、鍵は見当たらない。
さらに南京錠には一から九までの数字が彫られた四列のダイヤルが付けられていた。
つまりこのドアを開けるには四列のダイヤルを正しい数字に合わせ、なおかつ鍵を差し込まないといけないのだ。
時間を見ると、十七分二十四秒にまで減っていた。
少しでもヒントになるものを探そうと、純也は部屋の中をゆっくりと歩き回ってみる。
部屋の中は正方形の形になっており、それほど広くもなく、壁の端から端まで二十メートルもないだろうことが分かる。
やがて純也は壁に何らかの文字が彫られていることに気付いた。
その文字は四箇所で見つかり、それぞれ違うことが書かれている。
文1
妖精は双子
双子は忌子
弟を殺され
兄は世界を憎む
文2
アリス
鏡の町へと迷い込み
悪戯好きの妖精に出会う
妖精は鏡に細工し
アリスはもうお家に帰れない
ずっと鏡の中
文3
旅の男
闇を照らす光を持つ
妖精の囁き
男は世界の中心で光を落とす
男は道を失い、もう帰れない
文4
墓を暴く女
妖精の囁きに耳を貸さず
見つけた小箱にて
希望の光を手に取る
光を嫌いし妖精
塵と化す
恐らくこれらの文の中にドアを開くヒントが隠されているのだろう。
だが、どこに隠されているというのか。
弟を殺され、世界を憎む妖精はアリスや旅の男、墓を暴く女へ悪戯をする。
だが女は希望の光を見つけ、妖精を塵へと変えてしまった。
普通に解釈するとこうなるわけだが、きっとこれは暗号なのだ。
純也がこの部屋で見つけなければならないものは二つ。
南京錠の番号と、鍵。
つまり数字に関連する何か、鍵に関連する何かをこの文から見つければいい。
なんとなくだが三つ目と四つ目に書かれている『光』とは鍵のことを指しているのではないかと純也は思った。
そうなると、光を嫌う妖精とはこの部屋のことを指すのだろう。
つまり、男が鍵を落とし、その鍵を見つけた女がこの部屋から脱出した。
そう解釈することが出来る。
やはり鍵はこの部屋の中にあるのだ。
だが、どこにあるというのか。
『世界の中心』
それはどこだ?
世界とは自分の今いる場所のことだ。
つまり純也にとって『世界』とはこの部屋のことになる。
その中心、つまり部屋の中央。
純也は床に這い蹲るようにして何かないか探してみる。
「これは……?」
僅かだが部屋の中央部のタイルが盛り上がっていた。
「っ!」
力を込めるとタイルは簡単に外すことが出来た。
タイルを外した床には僅かな空洞が広がっており、中に何か小箱のようなものが置いてあった。
小箱を取り出し、開けるとそこには一本の鍵があった。
解ける。この部屋から脱出出来る。
少しずつ見えてきた生還への光に純也は思わずホッと胸を撫で下ろした。
残り時間 九分五十四秒――