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ブレインキラー  作者:
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第二ゲーム 『フラッグ』 その18

『 A 出口は赤の扉。Dは嘘つき。

  B 出口は黄の扉。Aは嘘つき。

  C 出口は赤の扉。Eは正直者。

  D 出口は黄の扉。Cは嘘つき。

  E 出口は青の扉。Dは嘘つき。  

                     』


 台座にはそう書かれていた。


「おかしい……」


 純也は思わず眉をひそめた。

 部屋に入る前の留美の言葉を思い出す。


「確率論……いや、でもこれは違う……」


 何が、とは分からない。だが、強烈な違和感が純也の思考を揺さぶった。

 この部屋の中には、一つの真実と一つの嘘、一つの真実か嘘か分からないものがあると石碑には書かれていた。

 『一つの真実』、『一つの嘘』、『一つの真実か嘘か分からないもの』――全部で三つだ。

 だが目の前の台座には全部で五つの文章がある。

 『三つ』に対して『五つ』。明らかに数が合わない。それが違和感の正体だった。

 それともこの文章の中に、『三つ』が隠されているのか?

 文章の中で『三つ』となる要素を抜き出してみる。

 『扉の色』、『アルファベット』、『嘘つきか正直者か』。

 この中に真実と嘘が含まれている?

 分からない。手がかりが少なすぎる。

 かといってじっくり考えるには、十分という時間は短すぎた。

 純也はとりあえず『A』の文章を軸に考えてみた。


『 A 出口は赤の扉。Dは嘘つき。 』


 出口が赤の扉。つまり正解は赤いボタンだという。そして『D』は嘘をついている。『D』では黄の扉が正解、『C』は嘘つきだとされている。つまり『A』を軸に考えれば、『D』はこう言っていることになる。


『 D 出口は黄の扉ではない。Cは嘘つきではない』


 それを踏まえて、『C』を見てみる。


『 C 出口は赤の扉。Eは正直者。 』


 これをそのまま受け取る。すると、『E』はこうなる。


『 E 出口は青の扉。Dは嘘つき。 』


 ここで答えが食い違う。『E』は正解が青い扉と言っている。

 つまり『A』は正しいことを言っていない。


「この考え方でいいのだろうか?」


 分からない。だが、頭にまとわりつく違和感を振り払い、残りの可能性も探ってみることにした。

 その結果、『D』の文章を軸として考えた場合、辻褄が合うことに気付いた。

 『D』を軸とした場合、正解は黄の扉ということになる。そして問題文も『三つ』しか使っていない。


「答えは黄色のボタン?」


 台座の上にある黄色のボタンを見下ろす。

 拳サイズの丸いボタン。この試験をクリアーするには、このボタンを押せばいい。


 本当に?


 残り時間を見る。もうすぐ五分を切ろうとしていた。

 普通に考えれば、黄色のボタン以外に答えはない。

 だが、本当にこれでいいのか?

 これでは、あまりに簡単すぎる。

 純也はどうしても自分の感じる違和感を切り離すことが出来ないでいた。

 純也の勘が叫んでいる。答えは黄色のボタンではない、と。

 しかし、他のどの組み合わせも正しく一致しないのだ。

 だから、答えは黄色しかありえない。


「くっ!」


 黄色のボタンに指が伸びそうになるのを懸命に堪える。


「まだだ……まだ少しだけ時間は残ってる。他の可能性を探すんだ」


 自分に言い聞かせるように呟き、純也は部屋の中を見回した。

 緻密な森の絵が描かれた壁。材質は分からないが、触った感じでは破壊したりは出来なさそうだ。

 天井。空を再現した青い色。そして太陽のような電灯。

 残り時間を示す電光掲示板。そして気味の悪い妖精の声が発せられたスピーカー。

 中央には台座とボタンがある。

 部屋の奥には三つのドア。

 試しにドアが開かないか試してみたが、当然開くはずはなかった。

 残り時間は三分を切った。

 額にびっしりと汗が浮かび上がってくる。

 焦り。本当は正解は黄色いボタンを押すので合っているのではないか? 疑いすぎて、本当の答えから離れていっているのではないか?

 不安が疑念を呼び、思考を揺さぶる。

 ぐるぐると回り始める視界。呼吸が荒い。

 指が自然と黄色のボタンへと伸びる。

 早く、早く押さなければ。


「えっ?」


 だが、ここで純也の頭に何かが引っかかった。


「待て、待つんだ……」


 震える指先をもう片方の手で握り締め、純也は深く息を吐いた。


『何故、ボタンを押さなければいけない?』


 そんな疑問が頭をかすめたのだ。

 台座にはボタンを押せなどとは書かれていない。

 でも、妖精が言ったのだ。

 正解の扉と同じ色のボタンを押せ、と。

 その瞬間、パチリと頭の中で音が鳴った。それはバラバラだったピースが一枚ずつはまっていくような音。

 そして思考の海の中、おぼろげながらもそのピースは一つの像を表し始める。


「は、はは……」


 自然と乾いた笑いが口からこぼれた。

 純也の頭に浮かんだもう一つの答え。

 『一つの真実』、『一つの嘘』、『一つの真実か嘘か分からないもの』。


「ある。確かに『三つ』ある……」


 残り時間は一分を切った。

 ゆっくりと――だが確実に減っていく数字は、純也の命そのもの。

 

 残り時間は十秒を切ろうとしている。

 純也は大きく深呼吸し、そして『答え』を選択した。


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