第二ゲーム 『フラッグ』 その14
「あ……」
去っていく渡辺を見つめていると、不意にある考えが浮かんできて、気が付いたら美里は声をあげていた。
その声に反応して、全員の視線が一気に集まり、美里は思わずたじろいだ。
「どうかしたのかい?」
美里の隣にいる留美が代表して尋ねてきた。
美里は慌てながらも、なんとか自分の考えをまとめようとする。
「えっと、さっきの人って試験に落ちたんですよね?」
「うん、そうだね」
「なら、試験の内容がどういったものだったのか、聞いておけばよかったなぁって思って」
「いや、それは難しいな」
だが伊月が静かに首を振って否定した。
「どうしてですか?」
小首を傾げ、美里は伊月を見上げる。
「確かに彼は試験の内容を知っているだろう。だが、それを素直に教えてくれるとは思えない」
「うん、あたしもそう思うわ」
玲子も伊月の言葉に大きく頷いてみせる。
「彼は試験に落ちた。だから、もう助からない。そんな人が、まだ生き残れるチャンスがある人に、素直に試験の内容を教えてくれるかしら?」
美里は先ほどの渡辺の行動を思い出した。
彼は自分が生き残るために、純也の端末を奪おうとしたのだ。
そんな彼が素直に教えてくれるはずがなかった。また端末と交換だとか、そういう要求をしてきたに違いない。
「無理、ですか……」
考えてみれば、当たり前のことだった。そんなことも分からない自分が情けなくて、恥ずかしくて、シュンとなる美里の肩に留美はそっと手を置き、励ますように笑ってみせた。
「いや、でも美里君の言うことも一理ある。試験を受ける前に、試験について考えてみようじゃないか」
そう言って、留美は試験場へと続くドアの横を見る。
誰もがそちらへと視線を向ける中、美里は小さな声で留美へと話しかけた。
「あ、あの、ありがとう」
「ん? 何がだい?」
「あ、えっと、自分でもよく分からないけど、お礼言っておかないといけない気がして」
美里の言葉に、留美は小さく口元を綻ばせた。
「ふふ、気にしなくていいよ」
そう言って、長い髪を翻し、留美はドアのところへ向かう。
「格好いいなぁ」
思わず口に出してしまう。
留美はどんなときも落ち着いていて、そして颯爽としている。それにすらっとした手足は長くて、スタイルもいい。おまけに美人だし、優しい。
美里は留美に憧れていた。
(大人の女性って、ああいうのを言うんだろうなぁ。いつか、あたしも留美さんみたいになれるかな?)
そんなことを考えながら、美里も留美の後を追った。