第二ゲーム 『フラッグ』 その12
「おいおい、勝てないからって逃げるのか?」
田嶋が追ってくる。純也と同様に田嶋も頭に血を上らせているようだった。純也を逃すまいと、必死に追いかけてくる。
(いいぞ、そのまま付いて来い)
目的地まであと少し。マップは頭に叩き込んでいる。どの道を通ればいいかも把握していた。
田嶋との距離が近くなっている。いずれ捕まってしまう。
間に合うのか。そこはもう賭けのようなものだった。
視界の奥、通路が十字路の形に分かれている。
目的の場所だった。
純也は必死に駆けた。田嶋が後ろから手を伸ばしてくる気配があった。
「今だーーーーーっ!」
力の限り叫び、分岐路を走り抜けた。
それと同時に右側の通路から人が飛び出してくる。
伊月だった。
「なっ?」
不意をつかれた田嶋は伊月のタックルをまともに喰らい、吹き飛ばされた。そして左の通路から玲子が飛び出してくる。
その手には小ぶりのスタンガンが握られていた。倉庫の中で見つけたもので、殺傷能力はないがしばらく動けなくするぐらいの出力は出せた。
玲子はスタンガンを田嶋の身体に押し付け、スイッチを入れる。
「がっ!」
ビクンと田嶋の身体が大きく跳ね、ぐったりと動かなくなった。しかし意識はあるらしく、鋭い視線を純也に向けている。
どうやら作戦は上手くいったようだった。
「派手にやられたな」
ボロボロの純也の身体を見て、ふっと笑う伊月に純也も苦笑を返した。
「純也さん!?」
玲子の後ろから出てきた美耶子は純也の痣だらけの身体を見て、絶句した。そして今にも泣き出してしまいそうな顔で純也の頬にそっと触れる。
「あ、あの、大丈夫ですか? えっと、怪我の治療を……」
「いや、これぐらい平気だよ。それよりも早く田嶋からカードを。彼は四枚のカードを持ってました」
伊月が頷き、田嶋の懐を探る。
そして四枚のカードと彼の持っていた二つの端末を抜き出した。
「てめぇ! それは俺のものだ!」
田嶋が吼える。
「黙れ。お前のような奴はここで死んだ方がいい」
冷たく言い放つ伊月に、田嶋はさぁっと顔色を青くさせる。
「お、おい、助けてくれよ? それがないと、俺死んじまう」
「だから死ねと言ってるんだ」
「伊月さん、端末を返してやってください」
純也の言葉に伊月は意外そうに純也へと振り返る。
「確かにこいつは殺したいほど憎いです。でもだからと言って、俺たちが人を殺していい理由にはならない」
「……本当にいいのか?」
「ええ、田嶋に端末を」
伊月は頷き、二つの端末を田嶋の横へと置いた。