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ブレインキラー  作者:
17/80

第二ゲーム 『フラッグ』 その9

 それからの行動は迅速さと慎重さの二つが求められた。

 一刻も早くカードを回収しつつ、トラップだけではなく人による襲撃にも気を付けなければならないのだ。

 これらの行動は純也たちの心に大きな疲労を蓄積させていった。

 その原因の一因となったのは、立ち入り禁止区域だった。

 捜索を続ける純也たちの端末からいきなり警告音が鳴り響いたのだ。マップを表示すると、純也たちのいる最下層のフロアーの一部が赤く点滅を繰り返していた。

 それが意味するところは、立ち入り禁止区域の増加だった。

 点滅が消えて完全に赤く染まったとき、そのエリアーは立ち入り禁止区域となる。

 そして立ち入り禁止区域はゆっくりとその範囲を広げていった。それは十分ごとに範囲を拡大していき、純也たちは慌てて上のフロアーへと上がったのだ。

 そして制限時間が残り二時間を切ったとき、最下層のフロアーの全てが立ち入り禁止区域へと変化した。

 つまり最下層の捜索はもう出来なくなった。

 そして今。

 残り時間は一時間と三十五分を切ったところだった。

 回収したカードは純也が三枚、美耶子が四枚、玲子が五枚、庄之助が五枚。あと三枚のカードを手に入れることが出来れば、とりあえずは全員が試験を受けられることになる。

 しかし純也の推測どおり、いくつかのチェックポイントからはカードが消えていた。誰かが回収しているのだ。

 さらに上のフロアーは多くのプレイヤーが最初に探索したこともあり、残されたカードもほとんどが使用済みのものだった。

 気持ちばかりが空回りする中、とうとう純也たちに次の悲劇が訪れる。

 それは純也たちがチェックポイントとなっている部屋の捜索を終え、部屋から出てきたときだった。

 どこに潜んでいたのか、田嶋が襲い掛かってきた。その手にはどこかで見つけたと思われる鉄パイプが握られている。

 純也は自身めがけて振り下ろされた大振りの一撃をなんとか避け、田嶋を突き飛ばした。


「今だ、みんな!」


 バランスを崩す田嶋に背を向けて、純也たちは通路を走り出した。

 どこに行けば安全か。そんなことは分からない。とにかく田嶋を振り切らなければいけなかった。

 田嶋は追ってきていた。その瞳には鬼気迫るものがある。

 羽山を殺したのは田嶋だろうか?

 しかしそんなことを考えている暇はない。今は一刻も早く逃げなければならないのだ。

 しかし逃げることに集中するあまり、純也たちは失念していた。トラップの存在を。


「あっ!」


 美耶子が走りながら声を上げる。

 それと同時に天井から鉄の柵が落ちてきた。

 道を分断するトラップ。今までは道を迂回すればいいだけの無害なトラップだった。だが今の状況では、また違う意味合いを持ってくる。

 先頭を走っていた純也と玲子はなんとか柵が落ちきるまえに走り抜けることが出来た。

 しかし後ろに続く美耶子と庄之助は間に合わない。

 美耶子のすぐ後ろまで田嶋が迫ってきていた。

 純也はどうすればいいかを考える。しかし何も思い浮かばない。迂回して逃げるには田嶋との距離が近すぎるのだ。


「きゃっ!」


 庄之助が美耶子を突き飛ばす。

 純也は慌てて美耶子を受け止めた。それと同時に柵が完全に下り、庄之助一人が柵の向こうに取り残される形になった。


「お爺ちゃんっ!」


 悲痛な美耶子の叫び。

 庄之助が美耶子を突き飛ばさなければ、美耶子もまた取り残されていたのだ。

 庄之助は笑っていた。いつものように穏やかに。

 そのすぐ後ろでは田嶋が鉄パイプを大きく振り上げていた。


「くっ!」


 純也は美耶子を抱き寄せ、これから起こるであろう光景を見せないように美耶子の目と耳を塞いだ。

 ドツッ――

 言葉では表現しがたい鈍い音が響いた。

 鉄パイプがめり込み、頭蓋骨が陥没する音。その衝撃に目玉が飛び出し、頭からは血が噴き出した。


「うっ!」


 噴水のように噴き上がる血の中で田嶋は笑っていた。それはもう狂気としか思えないような笑みで。

 純也はこみ上げてくる吐き気をなんとか押さえ込み、田嶋を憎悪のこもった視線で睨みつけた。

 田嶋は純也に向かって口元を吊り上げると、庄之助の体を漁って、彼の持っていた端末を取り出した。

 そしてチェックポイントを五つ回収しているのを知り、上機嫌に口笛を吹いてみせた。

 純也は音が鳴るほどに強く奥歯をかみ締め、田嶋を睨みつける。

 今はそれしか出来ない。

 やがて田嶋は通路を引き返し、どこかへと去っていった。


「か、金本さん……」


 玲子は放心しているのか、虚ろな瞳で金本さんの死体を見つめている。

 純也の胸の中では美耶子が声を殺すことなく、泣き続けていた。

 純也は美耶子を抱きしめる腕に力を込め、このゲームを開催した何者かに対する殺意を燃え上がらせていた。


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