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ブレインキラー  作者:
10/80

第二ゲーム 『フラッグ』 その2

 通路は狭い。自然と純也と玲子が先頭を歩き、その後ろを美耶子と庄之助がついて行くという形になった。


「そう、三笠君と佐古下さんは高校生なのね」


 場を支配する重い空気を取り払おうとするかのように、玲子は色々なことを純也たちに質問してきた。

 しかし純也と美耶子も自分に関する記憶がないため、端末で見た自分の情報以外のことは何も話すことが出来ず、どこか上っ面だけの乾いた言葉が続く。

 そしてそんな会話がいつまでも続くはずはなく、やがて沈黙が漂い始める。


「月村さんはこのゲームについてどう思います?」


 玲子が話さなくなったからというわけではないが、今まで玲子の質問に返答しかしなかった純也が初めて自分から声をかけた。

 純也はずっとこのゲームについて考えていた。

 一見すると、スタンプラリーのようなものだ。立ち入り禁止区域という危険な要素もあるが、それは迂回すればいいだけの話。

 つまり最初のゲームに比べると、はるかに危険度は下がっているのである。

 だからこそ、何か裏があるのではないかと純也は疑っていた。


「このゲームについて? そうね、チェックポイントを回って、この端末にカードを読み込ませればいいんでしょう? 早い者勝ちみたいな感じはするけど、肝心のチェックポイントがどこにあるか分からないものね」


 玲子は端末を操作して『ソフト』の項目を選択するが、ソフトがインストールされていないため表示することは出来ないという、エラーメッセージが返ってくるだけだった。

 玲子は端末をたたむと、小さく嘆息した。


「たぶん、マップを表示出来るソフトがどこかにあるはずだわ。そうじゃないとチェックポイントはおろか、立ち入り禁止区域がどこなのかも分からないもの。まずはそのソフトを探すところからかしらね」


 玲子の言葉に純也も頷いた。

 純也たちは通路の所々に点在している部屋を調べることにした。

 サビの浮かんだ鉄の扉もあれば、木の扉もある。中は倉庫のようになっているものもあれば、寝室のようにベッドが置いてあるものもあった。


「……何か変です」


 部屋の中を物色する純也たちは、ポツリとこぼした美耶子の呟きに思わず作業の手を止めて美耶子へと振り返った。


「変ってどういうこと?」


 玲子の言葉に美耶子はゆっくりと部屋の中を見回した。


「ずっとおかしいって思ってたんです。この部屋――ううん、今まで見てきた全部の部屋もそうなんですけど、人の住んでいる気配とかは全然しないのに、置いてあるものは全部新しいんです。調度品も手入れがされている感じでしたし」


 美耶子の言葉に純也たちはハッとなった。

 確かに美耶子の言うとおりだった。

 ベッドは埃一つ落ちていないし、途中で見つけた携帯食料や缶詰も真新しいものだった。

 つまり定期的に誰かがこの場所を訪れているのだ。


「もしかしたら、こういうことって何度も行われているのかも……」


「もしそうだとしたら、このパーティを開いてくれた人はどうしようもないゲスね」


 玲子の言うことは最もだった。誰が何の意図でこんなゲームを開いているのかは不明だが、迷走するプレイヤーたちを見て楽しんでいることだけは明らかだ。これを悪趣味と呼ばないで何と呼べるだろうか?


「みんな、これじゃないかな?」


 ダンボール箱の中を漁っていた庄之助が手に一枚の黒いカードを掲げて立ち上がった。

 それはフロッピーディスクのような薄いカードだった。大きさは成人男性の手の平サイズぐらいだろうか。


「ちょっと貸してみて」


 玲子は庄之助からカードを受け取ると、自分の端末の側面部にあるスリットへカードを差し込んだ。

 その光景を見て、純也は自分の端末の側面部にもカードを差し込むスリットがあることに気付いた。どうやらここでソフトをインストールしたり、チェックカードを読み込ませたりするのだろう。

 ピピピっと短い音が鳴り、玲子の端末の画面にインストール中という文字と、進行具合を現すゲージが表示される。

 ピーーっと甲高い音が鳴り、ゲージが消える。そして端末にこの建物の見取り図と思われる地図が表示される。

「どうやらこれがマップのソフトみたいね。みんなもインストールしてみて」

 玲子からカードを受け取り、純也も自分の端末にカードを差し込んでみた。


『このソフトは一枚につき、一人にしか有効ではありません』


 警告音と共に、そんな文字が表示される。


「駄目みたいですね」


 純也はため息と共に首を振り、カードを投げ捨てた。

 純也たちは玲子の端末を覗き込む。


「広いですね……」


 美耶子が呟いた。

 表示されたマップは全部で五層になっていた。一番下の層とその上の層の各地に赤い光点が灯っている。数は全部で六十五個。おそらくこれがチェックポイントの位置なのだろう。

 しかし純也たちの居場所を示す光点は表示されておらず、あくまで地図とチェックポイントが表示されているだけだった。


「ワシらはどこにおるんだろうか?」


「光点が灯っているのは下から二つの部分だけです。そしてルールには最後に二階へ続く階段へ向かうよう指示がありました。つまり二階から上は今回のゲームとは無関係ということです。だから今俺たちがいるのは光点の灯っているフロアーのどこかと言うことになると思います」


 純也の言葉に全員が納得したかのように頷いた。


「おそらく私たちの居場所が表示されるようになるソフトもどこかにあるはずよ。とりあえず私たちの現在位置を調べてみましょう」


 純也たちはマップの中からスタート地点となった広間を探した。

 広間は簡単に見つかり、下から二番目のフロアーの中央部に存在していた。

 そして今まで歩いてきた道順を思い出しながら、純也たちは現在位置を搾り出していく。


「あっ、ここじゃないですか?」


 美耶子が地図上の小さな部屋を指差す。


「うん、たぶんここで合ってると思うわ」


 玲子が頷く。

 純也たちがいるのは広間から北東に少し進んだところにある小部屋だった。


「おっ、ここにチェックポイントがあるぞ?」


 庄之助が小部屋の近くにある赤い光点を指差す。

 純也たちは早速その光点目指して移動を開始した。


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